即座に下がる。
距離を詰めようと姿勢を低くしたカーネル。
対し、見せ付けるようにボムを生み出す。
それもボンバーマンの時に使って来たモノじゃない。
新作。
ワイリー様とストーンマン以外には初めて見せる代物だ。
露骨な警戒。
キックの態勢にまで入ってようやく距離を取る判断を下したカーネルを尻目に、
「――?」
キックを空かし。
困惑するのを他所に、踵で蹴り飛ばす。
後ろへと。
カーネルが判断に要したのは一秒にも満たない時間だけだった。
「……! 退避しろ! 応援を呼べ!」
「あ、流石におマヌケさんでも分かりますかにゃ?」
ワタシの言葉を無視して距離を詰めて。
来ようとする前にボムを生み出し軽く蹴り出す。
軽く、で十分。
そういうボムだ。
遥か後方でボムが爆発する音を他所に、通路の端に向け、生み出したボムをその傍から蹴り飛ばす。
そのボムは、転落防止用の見えない壁に当たっても止まらずその勢いのまま跳ね返る。
斜め。
左右からカーネルに押し寄せるように。
「水属性か! 初めて見る……!」
「当然にゃ、ワタシの開発したボムですからね~?」
蹴ればその勢いが止まることなく、壁に当たろうと跳ね返るその特性。
動きとしては、まだ実物を見たことはないが、壁に当たるまで進む《ヨーヨー》や《エアホッケー》等の軌道が一番近いだろうか。
真っすぐに蹴ればただただ愚直に、まっすぐに。
斜めに蹴れば《エアホッケー》のように斜めに。
水属性故の滑りから、蹴った勢いを一切殺さず、爆発するその時までも滑り続ける。
「開発だと?!」
「くふ! そう! この天才パイにゃんの開発したボム!」
火属性のウイルスやナビに対して強気に出れるようにと開発したボム。
名称、
「《プルルンボム》! ボムと言えば無か火属性と言う固定観念を取り払う、全く新しいボムにゃ!」
「――大した技術力だ。だが!」
まあ、ボンバーマンにあったボムそのまま。
斜めに跳ね返ってくるからと言ってもだ。
入射角から反射角の予測なんぞ容易。
お遊びにもならない。
そう予想していた通り、五個と掛からずその動きを読み切ったカーネルが《ソード》を掲げる。
瞬間、床から現れる《カーネルアーミー》達。
その銃口が向いたのに合わせて脇に避ければ、それらの弾丸が通り過ぎて行く。
だが、床に引っ込むより前に跳ね返った《プルルンボム》がそれぞれに接触。
泡の爆発と共に消え去った。
試されたか。
「接触でも爆発するタイプ。アーミーで消せるなら――問題ない!」
「それはどうかにゃ、おバカさ~ん?」
今度も《プルルンボム》。
と言うか今回、それしか使うつもりはない。
怪訝な顔をしながらも一気に距離を詰めて来るカーネルの速度。
即座にその速さを計算に盛り込み、蹴る。
軽く、浮き上げるように。
ボムはその身を揺すりながら
落ちていくソレから僅かに進路を変えることで躱そうとしているカーネル。
続いて生み出しておいたボムも蹴り、
「――無駄だと」
「おマヌケさ~ん!」
「言っ……!」
着地したプルルンボムが、カーネルの進路に向かって跳ねていた。
咄嗟に身を捩るように避けたが、次のボムもまた跳ね、その眼前へと迫る。
振るわれる《ソード》。
しかし斬り払われた《プルルンボム》が爆発と共に撒き散らした泡までは如何ともし難く、カーネルを包み込むように襲いダメージを与えていた。
単なる火であれば、火を斬り払う、等の荒業で何とかされそうな気もしたが。
流石に水を、泡を全て払い落とすようなことは出来ないか。
勉強になる。
「まだまだ沢山ありますにゃ、おバカさ~ん」
「くっ――!」
避けた所にまたもう一個。
他所へと跳んで行くソレをそう判断してしまって意識をずらしていたカーネルに、ドンドン生み出した《プルルンボム》を蹴り込んでいく。
浮かせたり、滑らせたり、様々なパターンを織り込んで近付けられないようにと。
荒れ狂う《プルルンボム》の群れ。
「ランダム軌道!」
「大正解、です! ご褒美の、爆弾の雨にゃあ!」
ランダム。
だった。
と言うのが正解だ。
ワイリー様の用意して下さったハイスペックボディ。
そのお陰で最初の一回二回ぐらいなら蹴る強さや床の状態からどう跳ねるか予想が出来るようになっている。
それ以上の予測も出来るが、流石に現実的もとい電脳的に計算時間も考慮すると意味はないからやらないが。
忌まわしそうに。
しかし、冷静に下がって距離を置いたカーネル。
《カーネルキャノン》や呼び出したアーミーが次々と弾丸でそれらを処理していく。
爆発の泡に巻き込めば連鎖して爆発する。
プルルンボム同士が接触して起きた大爆発を見てそれに気付かれてからはどうにも早い。
一度に複数蹴り込んでいるのに処理されるスピードとどっこいどっこい。
こうなってくると逃げるが勝ちか。
蹴り込みつつ、少しずつ距離を空ける。
「逃げる気か?」
「にゃっ! ……生憎、あなたみたいなのに分からせられる趣味はありませんにゃ!」
《カーネルアーミー》の弾丸が掠めた。
ボムだけでなく、目敏く此方の動きを見ていたらしい。
予想はしていたが、流石。
だが、遠距離で此方にまで攻撃を届かせる手段は限られる。
アーミーの方は呼び出す手間が。
キャノンの方は軌道の読めない《プルルンボム》が。
それぞれ邪魔をしてどうにもならないだろう。
幸い、応援はまだまだ来そうにない。
軽い挑発。
だからと言ってどうにかなるものではないのは、カーネル自身が一番よく分かっているハズ。
こう言う一切寄せ付けないバトルスタイルが、カーネルを相手にするなら理想的なのだ。
突っ込んで来ようにも十数、あるいは数十のボムの中を抜けるのはデリートの危機もある訳だ。
そういうことで、逃げさせてもらう。
「――覚悟を決めよう」
「決めなくていいにゃ!」
思わず素で返してしまった。
だが、気にする様子もなく、
「行くぞ!」
構えた。
右腕を脇に添える。
居合のような構え。
訝しみ、計算。
「さよならですにゃ~!」
即座に背を向け走る。
頬が引き攣るのを感じる。
プルルンボムの軌道。
それらを読み切れば、
「――《スクリーンディバイド》!」
一瞬。
幾つかの爆発音。
そして連鎖する轟音。
空中、地上、それらの《プルルンボム》。
その軌道。
爆発範囲。
全てを読み切った上での一閃。
それのみで斬り払ったのだ。
自身の道を阻む全てがなくなるように。
多少のダメージは覚悟の上で。
怪物め。
賞賛を込めて内心呟きつつ、
「来ないで下さーい! にゃっ!?」
振り向き。
《プルルンボム》を生成。
した刹那、爆発。
速過ぎる。
そんな近くには、
「っ」
爆風と泡に遮られた視界の中。
奥に見えたカーネル。
その横で、引っ込んでいくアーミー。
突っ込んで来ると予想していたのに。
それを読まれた。
構え、迫り来る姿を睨み、しかし、
「……ほう」
「頭と足以外をバトルで使うことになるなんて……想定の範囲外ですよっ……!」
《ソード》の側面を跳ね上げる。
予めでっち上げておいた武器。
「杖……いや、手榴弾」
「試作型《マジカルポテトマッシャー》、にゃん!」
手榴弾付き杖。
即座にそれを胴体へと突き出す。
しかし柔らかくその攻撃が流される。
薙がれる。
咄嗟に《プルルンボム》を眼前に生み出すことでその手を止め、距離を置く。
「逃がさん」
一瞬の溜め。
距離を取る前にソレが放たれる。
一閃。
稲光の如く。
飛ぶ斬撃が文字通り退路を断つ。
マズい。
流石にマズい。
笑みだけは浮かべたままボムを生み出しつつ下がるが、あっさりと《スクリーンディバイド》で安全圏から処理。
その距離をあっさりと詰められる。
やはり性能が違う。
特に接近戦では。
ワイリー様のハイスペックボディと《プルルンボム》、あとは正直一番の部分として幾度も遣り合った経験で何とか避けれている。
だが。
通常の《ソード》と、飛ぶ斬撃《スクリーンディバイド》。
柔軟織り交ざった連撃が、その対処にのみに時間を割かせる。
本気でマズい。
人間なら、全身から脂汗が流れ始めているだろうぐらいマズい。
「ちょ~っとしつこ過ぎませんかにゃ~?」
「…………」
大振り。
床に叩き込んだ《ポテトスマッシャー》の爆撃も、予見していたように距離を置かれる。
下がり掛け、しかし足を止めた。
背後と左右を、逆V字の斬撃。
《スクリーンディバイド》が通り過ぎる。
流石に顔が引き攣る。
冷や汗もの。
しかし、併せてカーネルの動きも止まった。
「……最後に聞く――投降しろ。悪いようにはしない」
「誰かに縛られるつもりはないかにゃ~」
「――――ならば」
ゆっくりと。
剣が消える。
代わりにその手がマントを掴んだ。
「デリートされても文句はないな?」
鋭い眼光。
必殺の意志。
底冷えするような威圧感。
嵐のように激しくはない。
湖のように、澄んでいる。
ただ、沈められるような。
必殺の意志が底に見える。
「――にゃは」
笑みで返しながら、現状受けているダメージを試算。
その上で、アレを受けてデリートされるか否か。
結論は。
されない。
しかし半分以上は一撃で消し飛ばされるのは間違いないし、並みのナビであればそのデータが消し飛ばされる威力。
脅しではあっても、過言では一切ない。
ならば此方も使うか、奥の手を。
「そうか……」
カーネルの握るマントに皺が深くなる。
強く握り締められたソレを眺めながらも内心、申し訳なく思う。
万が一の、というか並みのナビであれば文字通り一撃でデリートし得る一撃を放つ前の、警告。
なるほど。
これは、優しい。
未来のカーネルであれば、容赦なく突然使って来ていておかしくないだろうことを考えれば。
「…………」
「――――」
一挙一動。
マントを握る手。
その動きを見定める。
当たれば流石のカーネルとて怯んではくれるだろうと思いたい、奥の手。
だが十日と経たず奥の手を完全に晒すのは流石に勘弁願いたい。
食らわせたらすぐ逃げないと。
せめて完全にバレないようにはしたい。
種が割れれば、もう二度目は通らない。
将来、敵対する可能性が微かでもある以上。
まあ、これで逃げ損ねたら流石にバラすが。
「…………」
「――――」
ゆっくりと。
足をずり下げる。
時間を置くなら逃げる。
そう印象付けてある。
故に、
「……!」
来る。
マントを握る手が。
動いた。
刹那。
マントから飛び出した何か。
光。
輪。
怖気に身を捩り、
「にゃ、あ゛っ?!」
勝手に声が漏れている。
掠めた。
いや当たった。
痺れ。
《ラビリング》。
ならばキャスケット様が居たのか。
ずっと見て。
そう思い到っても既に遅い。
「恨んでくれて構わん――」
二秒。
掛からない謝罪の言葉。
しかし今は一日に勝る時間。
言葉の終わりと共に舞うマント。
足元に《プルルンボム》を生み出し。
間に合え。
半ば祈りながらソレに《マジカルポテトスマッシャー》を振り下ろし。
最中。
目の前をマントが完全に覆い隠し。
「――《アスパイアブレイク》!」
緑の閃光を感じた。