限界まで出力の上げられた剣。
泡沫と爆煙の中、僅かに崩れた姿勢。
不明瞭。
しかしパインへと放っていたマントから位置と体勢を割り出し。
振るわれた緑の極光が、その姿へとめり込む。
至近。
胸元。
抵抗がないようにそのまま真横へと振り抜かれる。
刹那。
微かながら確かな破砕音。
殆んど同時に発せられた二つの閃光。
僅かに眩んだかと思った次の瞬間、派手な音と共に映像がブレる。
時間にして十秒にも満たない。
だが激しく暴れ動き、しかも今まで耳にした記憶のないカーネルの悲鳴が混じったソレが緩やかに、やがて止まった。
床に突かれた手が映り。
慌てたように視線が上げられた時には既に遅く。
彼方。
黄色いナビの姿が消えて行くところだった。
死ぬかと。
いや、デリートされたかと思った。
実際、映像を見ていた中で、斬り裂かれた胸元。
ナビマークの辺りを、無意識に撫でていた。
知っているのと味わうのは違う。
分かってはいた。
そのハズだが、死を感じたのは間違いない。
ヒットポイントを数字に表せば、それが半分未満になったのは本当に久し振りだった。
《アンダーシャツ》もあったから、もう一回はまだ耐えれたとして。
正直、危なかった。
だが結論だけを言えば、
「――――戦闘映像は以上だ。最後の一撃に対してはこのように、何らかの手段で反撃され、逃亡を許した」
ワタシは逃亡に成功した。
《プルルンボム》にも構わず突っ込んできたカーネル。
その、《アスパイアブレイク》を諸に受けたものの。
というか、至近距離で受けたからこそ。
肉を切らせて骨を断つを体現したソレ。
奥の手が通った。
そして《プルルンボム》の泡と煙のお陰で、奥の手自体は完全に晒さずに済んだ。
まあ、見る者が見れば何となくどんなモノか察しそうな内容ではあったが。
とにかく結果だけ見れば、中々悪くはなかったと言える。
バトルそのものが完全に無駄だったと言うことを除けば、だが。
いやまあ。
ワイリー様の下さった超高性能ボディに浮かれた結果、滅茶苦茶痛い目を見た訳だ。
やっぱりワタシ程度が調子乗るのは良くなかった。
それを差し引いた上でも。
カーネル怖過ぎ。
次からは《ブラインド》も持ち歩くようにする。
というかもう持ってる。
ちなみにこの映像の時に受けた傷は、記念に残しておくとワイリー様にお伝えしてあった。
その方が恰好良さ気だとお伝えしたら凄く微妙な顔をされてしまった。
格好良いと思うんだが。
横一文字の傷って割と。
あと正直、戒めとして。
「――完全にハ映ってネえが、逃げタ方法は?」
「《エスケープ》の連続使用だ。一撃でかなりの体力を奪われ、確認に意識を割かれた隙を突かれた」
「かナり?」
「並のナビであれば、一撃でデリートしてもおかしくはない威力だった」
カーネルをしてそう言うなら性能面に問題はなし。
元々、ブルースだとかが相手になってしまった場合の備えだったのだが。
まあやってしまったモノは仕方ない。
そもそもカーネルなら大丈夫だろうと想定して使った訳だし。
もう一つの奥の手も、大凡同じぐらいの威力はキチンと出るだろうと希望的な観測をしておくとして。
「……ソの、何らカの手段っテのは? 所感で構わネえ」
「恐らくはボム系統。しかし詳細は見ての通り、泡の所為で確認出来ていない」
濁した。
となればやはり、薄々と察しは付いてるのだろう。
確たるモノじゃないからと黙ったか。
「なるほどナ――とハ言ってモ警戒するホどか? おめえ、最初かラ倒す気ナら出来タろ?」
「……結果が全てだ。オレはヤツ――パインと名乗るナビを逃した」
肩を竦めておく。
それを言われると申し訳ない。
「デ? ワタシの意見が聞きタい、ト?」
「いや、違う」
思わず首を傾げる。
だったら何のためにお呼ばれしたのか。
関係ない、という扱いなら今日の所は休んでおきたい。
精神的に疲れた。
全面的にワタシの所為だが。
アメロッパ軍として大きく取り扱われているのは分かる。
分かってはいるが、表向きはワタシには関係ない訳だし。
「パインは、試作型と言う《マジカルポテトスマッシャー》含めボムを多用する――つまりはボンバーマン、殆んどお前と同じバトルスタイルだった」
「マあ…………ボムを使っテる以上、大筋近いノは認めるゼ?」
「その通りだ」
「すルと、おめえ――いヤ、おめえはどう考えてんダ」
しかし。
ワタシを疑っている、という雰囲気ではない。
情報共有のため。
そしてある種、ボムの専門家のような立ち位置としての意見を求められていると感じられる。
しかしそれだけでもない。
故にこそ探りを入れる。
僅かに視線をずらし、恐らく秘匿回線なりでキャスケット様に伺い立てをしているのだろう。
暫く固まったかと思えば、目を閉じて頷き、重々しくその口を開いた。
「ボンバーマン。そして、Dr.ワイリーにお伺いする」
「……ワイリー様」
『――うむ。なんじゃ?』
仮のPET。
プラグアウトとか使ったことのないそれと今は繋がってこそいたが、見えるようにしていなかったワイリー様の姿を写す。
僅かなどよめき。
こうしてお姿を見せるのは珍しいのだ。
「不躾ながら、ボンバーマンのデータを何者かに売り払った、等と言うことはありませんか?」
『ない。有り得ない』
思わず口を開く前。
間髪入れず。
至極当然のことのようにワイリー様が答えられた。
頷くカーネルを見る限り、分かっていてもあえて聞いたか。
予めキャスケット様からワイリー様にお伺いがあったんだろう。
実際、呼び出されておられた。
一切淀みなく答えた姿を回りの奴等に周知するためか。
そして。
恐らくワタシが詳細を知らないだけで、ある程度は決められた台本通りに話を進めようとしている。
気になるのは、カーネルの方はその詳細まで把握しているかだが先程、固まった様子から察するに詳しく聞いていないか。
「であれば――ここ数ヵ月近く、外に出ていなかったと言うのが確かなのであれば…………」
「なニを言いテえ?」
その口が、言い淀んだ。
「全身をスキャンされるような機会はあったか?」
「ねエな」
「間違いないか?」
「ねエよ。ワタシがそんナ間抜けに見えるカ?」
苛立ちをわざと声に混ぜて突っ込むと、目と口を一度閉じ。
そして確りとした意志の元に全てを開いた。
「――――アメロッパ軍内部に、我等のデータを利用、あるいは売り払った者が居る可能性がある」
沈黙。
ぞうっとする程のソレがその場を支配する。
身動ぎ一つすることすら憚られる。
そんな中でも唯一動き回っている視線が、カーネルへと集中する。
「現在、一般的な戦闘ナビは大別して近接型と狙撃型の二種。少数派としてはオレのようなソード系統、諸君等の大半のようにバスター系統を扱うナビだ」
これらは要するに即効性。
着剣着弾によるウイルスバスティングを即座に確認出来る。
有用性。
機能のフィードバックが楽なのもあるか。
まあ、「諸君等」とカーネルが口にしたように安全性を取る狙撃型が一番多いだろう。
閑話休題。
「ボムを蹴る投げると言う攻撃行動自体が、扱いの面でマニアックな所為だろう、一握り。問題は性能面――恐らくボンバーマンを超えていた」
これに関しては何も言えない。
実際問題つい最近、性能面は確実に向上している。
もしかすれば変わっているワタシを察しているナビも居るかも知れない。
しかし殆んどはそれを知らない。
思わず、ワイリー様を見やる。
まあ既にお姿は隠されているが、パインについての知見を求められた際に色々として下さった様子。
その中で、ワタシのこと以外にも何かあったのか少しの間、頭を抱えておられたが。
まあどちらにしろ本当に、随分とご迷惑をお掛けしてしまった。
「カーネル。おめえのはドうだ?」
「……幸い、オレ自身はお前と同じくDr.ワイリーによって厳重なプロテクトや暗号化が施されている。データを取り出すことは不可能だろう――あくまでも完全には、だがな」
「なルほど」
「ボンバーマンのデータの他、オレのデータの一部を利用するナビの計画は以前からある――Dr.ワイリーが情報漏洩の危険性があると拒否されているが。諸君等の持つ戦闘データを基に更なる開発もモチロン行われている」
ワタシの性能を据え置きと考えた場合どうなるか。
大凡の筋書きは読めた。
この機に軍の引き締めを狙うつもりか。
正確な意図は読めないが恐らくは。
口にするまでもないが、あえて言う。
「――居るナ、裏切リ者が」
微かな緊張感。
張り詰めた空気。
その上で、
「ダが……」
「だが?」
「そうなルと、パインってナビの動きが不自然ダ」
ワタシ自身は安全圏に移させて貰う。
不自然。
その言葉に訝し気な、あるいは気付いたような表情を浮かべる面々。
カーネルは、気付いていた側のようだ。
ゆっくりと頷いて見せる。
「そうだ――動きに何かしらの意図が見られない」
その通り。
よくぞ気付いてくれた、カーネル。
アメロッパ軍からデータを盗用しているなら、普通はバレないよう隠す。
だが逆に自信があるならば、夜間ではなく昼間にでも堂々と動くだろう。
しかしそのどちらでもなく、夜間にだが動いていた。
少なくとも、怪しいとの噂が立つ程度には。
隠れようとしているのに、目立っている。
行動が何処か中途半端なのだ。
まあ。
まさか調査しているだけでカーネルほどの大物が出てくると思ってなかったワタシのミスでしかないのだが。
「カーネル様!」
「発言を許す」
「まさかとも思いますがそのナビ、完全な自立型ナビだったのではないでしょうか?」
カーネルの視線が僅かに宙を泳ぐ。
何かを確かめようとする動き。
キャスケット様に指示を仰ごうとして辞めたか。
どよめき。
しかし、納得が行ったかのような声が挙がり始めた。
「自立型なら命じられた以外の動きは問題なく出来る」
「しかし……なぜエリアの探索を?」
「ああ、軍のデータを取れるなら必要はないはず……」
「いや待て。確か映像の中で独りで十分と言っていた――逃げ出したのか?」
「そんなこと前代未聞では?」
「いや、ニホンの優秀なナビが逃げ出したと言う噂を聞いた覚えがあるぞ」
「それは噂だろぉ?」
「だが自立型ナビが逃げたと言う噂は確かにある。醜聞として隠されているのだろうが」
「またニホンか」
「……理論上は確かに可能だろう。実際するかどうかは、しかし……」
「しかし実際問題……それでもカーネル様の名は軍事機密。知っている者は少数の筈」
「ちょっト良いカ?」
良い具合の流れ。
その中、確認しておくべきことを浚っておかないといけない。
「は、はい! なんでしょうか?」
「カーネル自体、軍機ダと?」
「え、ええ、はい。その通りです」
「ワタシは軍属じゃネえが、プログラムくんが世間話しテた中で名前出してルの聞いたコと何度かアる」
嘘である。
だが、空気が凍り付いた。
耳を欹てていたらしい幾体ものナビが此方を向いた。
慌てた風を装いつつ、口を開く。
「アー……プロトの事件の後からダ! インターネット各地の修繕にプログラムくん派遣しタろ! ソの頃ダった!」
「……緊急で修繕用のプログラムくんを大量生産していた頃!」
「――当時のプログラムくんの機密データの取り扱いについてオペレーターがデータベースで確認を取るそうです。私も離れます、失礼」
「いや。機密保持関連の不具合の可能性も否めん」
「あの頃はカーネルもかなり表に出ていた……一部、他国に知られているように」
「そもそも、少なかったとは言え一般のプログラムくんが目にしてもおかしくはない。プロトの所為で駆けずり回っていたしなぁ」
「なら一応、名前と性能について知っていてもおかしくはない、か……?」
美味い流れだ。
「…………私見で良イか?」
視線が集まり、沈黙の流れる。
その中で促されるまま、堂々と口を開く。
「……言ってみてくれ」
「パイン、っツうナビは監視に留めルのが良イ……いヤ、現実的ダと思ウ」