ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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028:自販機

 

結論から言おう。

勝った。

賭けに、勝った。

 

その後に行われ続けた討議においても、パインをどう扱うべきかが非常に悩ましいものとして挙がった。

しかし、だ。

そもそもの正確な所在の不明。

カーネルをして逃がした実力。

また、アメロッパ内でナビのデリートを行った情報や形跡はない等もあって監視対象程度に収まった。

 

常識的な考えで。

間もなく戦端が開かれる恐れのある中、カーネル含めた優秀なナビ達の犠牲が起こり得るのを許容出来なかったのもある。

デリートにしろ捕獲にしろ。

 

危険なことをしなければ放置。

アメロッパの法律での犯罪行為を、パインは、していないのもあるか。

そしてそれを聞いているワタシが今後もそんなことをするハズがなし。

 

と言うのはまあ、表向き。

実情は少々異なる。

簡単に言えば、ワタシが軍の引き締めか何かのための筋書きだと思っていた内容なのだが。

本当に居たのだ。

裏切り者が。

 

ワタシと交戦を行ったカーネルとキャスケット様。

そこにお呼び出しされ、ワタシが何をしたのか知ってしまわれたワイリー様。

生憎、その時点では情報の共有はされていなかったそうな。

 

まあ、単なる情報収集に動いたワタシが怪しまれる等と、その上まさかカーネルと戦闘する羽目になる等と思われるハズもなく。

事が事だけにどうしたものかと思い悩まれたワイリー様。

だが、一先ずはカーネルやワタシ、その他のデータの保管状況を確認しようと言う事だった。

先延ばしされたそうだ。

 

しかし、それ故に見付かった。

アメロッパ軍の、ナビに関するデータ類。

曰く杜撰ではあったが偽装された跡含めて。

それらがコピーとは言え、抜き出されていた痕跡を、カーネルとワイリー様とが。

 

保管されている場所は当然ながら、ワイリー様の研究室とは別の軍内部。

アメロッパの中でも一部の者でもなければ、触れもしない場所。

そんな所に保管されていたデータを抜き出された痕跡があった。

ワイリー様曰く半ば時間稼ぎ目的でしかなかったにも関わらず、あってしまったのだと。

 

此処から先、詳しくは窺えていない。

しかし聞けた範囲であれば、パインは撒き餌として扱う。

そう言うコトになったのだと言う。

表向きは何処ぞの技術者の元から脱走したナビとして、パインに接触する何某があれば報告するように、と。

つまり極秘任務みたいなものだ。

 

併せて、ワイリー様よりキャスケット様へと一部実情を伝えたとのことも伺った。

何処までお伝えされたのかは知らない。

そして、何処まで広まったのかもまた。

 

しかしワタシと会った際、歯の奥に何かが詰まったような微妙な顔をされていたのだから、まあ大体の予想は出来る。

物の試しに「にゃん」と言ってみた所、お持ちだった書類を台無しにされてしまったのでその予想に間違いはないだろう。

ちなみに滅茶苦茶怒られた。

 

情報が広がった範囲に関しては、恐らくキャスケット様が手元で止めておられる。

同じことをカーネル含めた割と上の方の幾ナビや人に試しても、大した反応は得られなかったからだ。

何をしているか問われ、「パインとカ言うナビがしテたんダから流行ジゃネえのか?」と答えて冷めた目で返されたから間違いない。

極秘任務みたいなものなんだし、知る者が狭ければ狭い程に良いと言う訳か。

 

一先ず。

騒動の顛末はこんな所か。

 

いやはや。

まさか裏切り者が本当に居るとは。

暗号化に伴って、古いワタシのデータはともかくカーネルのデータはそのままコピーしてもそれがグチャグチャになる細工がされているそうだから其方は心配ない。

流石はワイリー様。

笑える。

 

笑える訳ねえだろ馬鹿か。

ワタシのデータはともかくよりにもよってカーネルのデータ盗み出そうとしやがっただと。

小遣い稼ぎのつもりか知らねえがそのデータにどれだけの価値があると思ってやがる。

ブチ殺すぞ。

 

まあ。

実質取れてないみたいだから良しとしよう。

ただでさえキャスケット様のコトで一応の気を張ってるのに余計なコトをしてくれて。

一通りのコトが済んだ暁には徹底的に洗い出す。

だが小物は後だ、後。

 

とにかく。

ワタシのもう一つの姿。

パイン。

その安全は、撒き餌としてだが、一先ず保障されることとなった。

 

いや、本当に助かった。

カーネルにならバラしても良かったかもだけど、自分からバラすのはやっぱり何か違うし。

あくまでも相手の手で暴かれることに意味があるのだ。

でもそれはそれとして、その辺を歩き回るだけで野生のカーネルに遭遇とか悪夢でしかなかったから。

 

 

 

そう言う訳で、大体二ヵ月。

 

 

 

朝昼はボンバーマンの姿で。

ワイリー様のご用意された新エリアの確認。

夜間はパインに外套の姿で。

アメロッパ各地に繋がった旧エリアを探検。

それがルーティンワークとなっている。

 

とはいえ終始歩き回っているだけではモチロンない。

例えばウイルスバスティング。

特に、パインの戦闘スタイルはボンバーマンの方と割と違う。

 

まだまだプログラムを追加修正をする予定はあるが、概ね《プルルンボム》を利用した攪乱。

接近された場合には、試作型《マジカルポテトスマッシャー》による打撃に爆撃。

普通のボムも使うは使うが、ボンバーマンほど素直な戦い方じゃあない。

 

というかあえてボンバーマンの姿と違うデータを利用して戦っている訳だが。

そう言った練習も兼ねた散策。

光正を含めたニホンの技術者による技術指導もあってか最近は然程、強いウイルスが発生していないこともある。

これが現実世界が荒れればバグも起き始めて強いウイルスが出てくるだろうか。

 

「ンー……香リは、良シ」

 

話が逸れた。

二重生活を行っているが、かと言ってその他諸々も相変わらず進めていた。

一つは当然、撒き餌の役割。

 

これが上手く行っていた。

何せ、カーネルと割と本気で戦ったものだから、ワタシがアメロッパ側だと思う輩はまず居ない。

お陰様で何処から情報が漏れ出たのか。

釣れるわ釣れる。

 

別国、反政府組織、犯罪結社、単なる科学者等々と。

下手すれば一組織が釣れてる間にもう一組織も接触しに来る始末。

まあ全部、情報をワイリー様経由で流したのだが。

というか最初の二週間ほどはワイリー様の監視下で行動していたお陰で、接触して来た相手に対してダブルハッキングを仕掛けて情報を吸い出していた。

 

お陰様でキャスケット様含め皆さん大変お忙しかった様子。

一ヶ月ほどの間はちょっと揶揄えたぐらいでそれ以外はまともな会話も出来なかった。

カーネルもまた。

聞いている話では、ワタシとの模擬戦を熱望しているそうだが正直、暫くはご勘弁願いたい。

無理だろうけど。

 

「感触も……まあマあ、カ?」

 

そしてそれに並行して。

パインの経歴の用意。

何者かによって製造されたパインが自主的にその何者から逃れた。

ならば、その何者かとは。

 

そんな疑問が発生した場合の責任を押し付けられるよう、旧エリアの中でも殆んどナビやプログラムくんの通りがない場所を選定。

セキュリティボックスによる封鎖措置や、幾らか昔から使われていない電脳を用意等々と押し付ける準備を順調に進めている。

 

仮に裏切り者が小物過ぎて押し付けられなくとも、そう言う場所が存在していたと分かれば、パインのカバーストーリーとして使い易い。

偽装関連で少々手古摺りはしたが、後半一ヶ月は流石に撒き餌としての効果も薄まったようで釣れず終い。

その暇な時間を使って、アメロッパ軍のナビ達とキチンと平和的な交流をしつつ、既に終わらせている。

 

『何がまあまあなんじゃ、ボンバーマン』

「あア、ワイリー様。食べ物ダ」

 

そして最後の一つ。

ワタシにとって大本命。

食事の再現。

 

ワイリー様の許可もあって、ボンバーマンとしても正式に外に出られるようになって僅か数日。

どこから話を聞き付けて来たのやら。

アメロッパ軍のナビに偽装がされた、光正のナビから接触があった。

 

丁度、ニホンから逃げ出したと言う自立型ナビの情報を求めていた頃。

よりも前。

先に内部の確認を、と進めていた段階。

お陰様で光正のシンパがアメロッパ軍内に居る疑惑がワタシの中に出来るほどの早さだったが、ともかく。

 

単にガワだけよく似せただけのナビ。

だが、性能面は確実に違うと言わざるを得なかった。

声を掛けられて漸くアメロッパのナビじゃあないと気付いたものだから、冷や汗ものだった。

いや、ワタシの性能もかなり上がってるハズなんだが。

本当に、調子に乗って碌な事にならないと改めて実感した次第。

 

ちなみにその後で確認が進められた自立型ナビに関して。

これは、疑われては敵わないと思ったらしいニホンより要請後さっさと送られて来た。

当然フォルテなものだから一目見てコレは違うなと言うことになった。

 

逸れに逸れたが、とにかく。

光正からの贈り物ことパルストランスミッションの味覚、嗅覚、触覚等々に関するデータと元々組み立てていた食品のデータ。

それらを元に調整、自身でも試食を重ねて出来上がったデータの完成品第一号が、

 

『ほぅ……バナナか』

「そうダ」

 

見た目までそっくりに似せた、バナナ。

味に然程の複雑さがなく、香りも良い。

それらを味わうためのデータを取得する上で、顔に近付けるのだから液体よりも固体の方がやり易かったのもある。

口がなくとも、ミステリーデータを取得する感覚でやれば良いのは便利だ。

ボンバーアーマーを着けたままでも食べられる。

 

まあ、データである欠点として、わざわざ口元に寄せなくても取得出来てしまう点が挙げられるだろうか。

やろうと思えばそれこそ、手や文字通り腹で食べるなんてことも出来てしまう。

そんな、食べてる感の薄い姿にもなるのが欠点と言えば欠点か。

 

あと重量プログラムと時間経過での自動消去プログラム。

これらで腹持ち感を再現してもいるが、これは完全に趣味の範囲かも知れない。

 

だが、プログラムであること。

これが最大の利点であった。

現実なら生育する必要があるが、一度このプログラムの大本さえ作ってしまえば後はそれを生み出すシステムさえ用意出来れば幾らでも食べれるのだ。

と、いう訳で、

 

『しかし…………何と言うか』

「ナんだよ」

『自販機……それも飲み物用のじゃろ? そこから見た目は似ておるとはいえ、出てくるのがバナナなのが何とも言えんわい』

 

ボタンを押せば即発生。

システムを用意する上でも、ワタシ個人的に、それほど違和感のない自販機型で用意した。

それも、後々応用が利きそうだからと紙コップに飲み物が入るタイプのヤツ。

試作一機目だが。

 

しげしげと眺めているワイリー様をあえて無視して、残ったバナナの皮を横のゴミ箱に突っ込む。

まあ、此方も自動的に消去されるから完全に必要のない行動なのだが。

もう一回ポチッと。

 

ドゥウィーン。

みたいな独特の電子音を鳴らしながらおおよそ五秒。

出て来たバナナを取り出し、顔に近付ける。

手でも剥けるが自動的に剥け、問題なく、疑似的に食べれる。

 

『………………その音は?』

「自販機ハ音がすんダろ?」

『……完全に無駄な再現じゃな』

 

呆れを隠そうともしない声音で首を振り、モニターから顔を逸らしてしまった。

だが、その前に。

 

「ストーンマンに使ワせて良イか?」

『お前の創ったデータじゃ、好きにせい。だが、遊びは程々にちゃんと休めよ』

 

一言断りを入れておく。

肩を竦め、一息に持ち上げる。

重量的にはプログラムやシステムが詰まっているからかなり重く感じはするがそこはこのワタシ、ボンバーマン。

 

ワイリー様の謹製ボディの前には大した障害にもならず、結構楽々と運べはする。

プライベートエリアから、相変わらずデータを読み漁っているストーンマン。

結構アレなデータもある訳で、守護している自覚があるのか気になる所だが。

気にするだけ無駄か。

 

ワイリー様のご用意されているこのエリア。

外部と繋がってはいるが、ここにワイリー様が気付かれる前にハッキングして入り込んだ上にストーンマンを倒してデータを奪取出来るナビがそう居るハズがない。

 

未来が確かだとするならば。

可能性があるので、ドリルマンぐらいか。

カーネルでも、ハッキングまで踏まえれば流石に厳しいだろう。

プライベートエリアと違ってちょくちょく発生するウイルスは外部からの侵入と言うより空き地に生える雑草みたいなものだから仕方ないとして。

 

「ヨう」

「ゴゴゴ」

 

等と考えつつ、ストーンマンの脇に自販機を降ろす。

微かな音が鳴ったそれに一瞬目を向けてはくるが、大して興味をそそられなかったのかそのままデータへと視線を戻していた。

それはさておきエリアの片隅に設置を開始。

固着させるだけなので十秒と掛からない。

 

「……おめえの協力もアって、まず一つ出来タ」

「ゴ」

「このボタン…………押しゃ出ル。って、チョッと待テ」

 

そう言って立ち去る。

直前に振り返る。

よくよく考えればそもそもストーンマンの手だ。

取り出し口に入る訳がない。

 

少し慌て気味に戻り、部屋を探す。

確か少し前に趣味の一環で作った小道具があったハズだと探すことおおよそ十秒。

見付けたソレを持って戻る。

完全に興味なしと言った様子だが、

 

「すマねえ、待たせタ」

「……ゴ」

「冷テえヤツだナ……ま、見テろ」

 

言いつつ見せびらかすのは、現実世界のパン屋なんかでよく見掛けるらしいトング。

それでカチカチと音を鳴らしながらボタンを押して見せ、電子音が響く。

何となくワタシに視線が向いているのを感じながら、トングを取り出し口に突っ込んで見せ、

 

「…………っシ。こう、取レる」

「……」

「ジゃ、感想聞かセろよ?」

 

半ば強引にトングを握らせ――と言うか《ソード》とかみたく装備させ――もっしゃもっしゃとバナナを食べながら後ろ手を振る。

どこか控えめに、カチンカチンと鳴らされている音に気を良くしながら。

去って行った。

 

 

 

この時。

ワタシは気付いていなかった。

未だ成立して間もなく、娯楽のない電脳世界。

ナビの娯楽等よりもネットワークの発展に力が注がれている、電脳世界。

 

そこに、食事と言う娯楽を用意したことが後々どうなるかなど。

まるで考えてすらいなかったのである。

 

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