ボンバーマンとパイン。
その両方としての二重生活。
これはおおよそ無事に済んでいる。
カーネルとの接触以外は問題なく、それ以降も襲われることもない。
撒き餌として働いたぐらいで。
むしろ、パインの姿――外套を被ってだが――の時に此方からアメロッパ軍のナビとの接触を計ったぐらいだ。
キチンと監視をされていると知っていたから逆に見付けるのには苦労がなかった。
「ふぅ~ん……じゃあ、問題はないってことかにゃ~?」
数回逃亡されたが。
両手を上げて近寄ることで接触も出来た。
単純にカーネルとのことを苦情として伝えるため。
あとは、ワタシに接触して来た相手の情報をパインとしても流すため。
カーネルに関しては機密でないハズと言う建前もあって伝えないのは逆に不自然だと言うのもあって。
情報に関しては、パインがアメロッパ寄りであることを伝えるためだ。
ワイリー様にも流していたお陰で、裏取りも取れている情報。
それが功を奏したのか、そのナビとはその後も幾度か接触。
情報を流すことでアメロッパに対して、パインとしての信用を稼ぐことにも成功した。
とはいってもここ最近は世間話しかすることもない。
「はい。安全性が確立されているだけのエリアですので、危険行為さえなければ問題はありません」
「モッチロン! そんなコトしませんにゃ!」
と言うのは建前。
実際は皮を被ったアメロッパ軍としての探りなようだった。
対する此方から流す情報は、事前にワイリー様と相談して組み立てておいたパインのバックストーリーに合わせて答えておいただけだから問題ない。
断片的に、だ。
恐らくアメロッパ軍からは正式に、何者かに作られたものの自力で逃亡した自立型ナビ、ということになっているだろう。
性格も、自信家でナマイキなメスガキっぽいとも。
まあ、それは重要だがそれほど気にすることじゃあない。
それよりも嬉しい事がある。
「なら、何の問題もありません。お越しになるのは?」
「明日の夜にもでも伺わせて頂きますにゃ。ばいにゃ~」
別れながら、外套の中で笑う。
これで大手を振るってスクエアに入ることが出来る。
と。
スクエア。
それは、安全地帯。
通常では、ウイルスの殆んど確実に発生しない区域。
記録にあるロックマンエグゼ。
そのシリーズ中では2と3にしか出なかったか。
そんな場所には普段、ウイルスが出現せずネット商人や掲示板等が配置されていた。
後の作品にはその存在は見当たらなくなってしまったが、恐らく存在自体はしている扱いだったろう。
所謂PETは超小型の安全地帯。
その超拡大版。
様々なナビやプログラムくんその他が集い、出入りしてもその安全性を確立出来るのはそれだけの技術力の証左とも言える。
将来的には別だろうが、現状それ故にか聞こえている数も少ない。
ある種、国の技術の粋を集めて出来上がっている場所なのだから仕方ない。
所属不明のナビが不法侵入してスクエアを破壊した等と言うことにでもなれば電脳世界越しとは言え一種の侵攻侵略行為に等しい。
国家の威信にも関わる。
そのため、そこを襲撃したシャドーマンの実力は推して知るべしと言った所だがともかく。
故に、現在の所わざわざ出入口部に警備のナビが常駐し認証していると言えばその警戒の程は窺えるだろう。
長々となったが、スクエア。
入るには現状、それなりの厳しさがある。
そしてそのスクエアに入る許可を、アメロッパ軍のナビより得られたという事。
接触してきた組織の情報を幾つも流した成果。
それによって軍属でもなく、またワイリー様所有と言う肩書のあるボンバーマンとしても違う、一個存在として正式に認められたことに等しい。
実際、ボンバーマンとしてだが今晩時間があるかとカーネルから聞かれたのでワイリー様と色々と予定があると断っている。
ボンバーマンとパインとが、この時点で完全に別存在として扱われた、と言うのは勿論。
アメロッパに存在を正式に認知されたと言うことだ。
パインに最低限の保障がされたも同然と言える。
アメロッパの定める法律の範囲内でだし、それもまだ殆んど形にもなってない訳だが。
「パイにゃにゃにゃ~んパイにゃんにゃん」
上機嫌に歌の一つでも歌いながら、スクエアへのルートを進む。
外套。
謎の歌。
近くのナビやプログラムくんから心持ち避けられるが、まあ、気にしない。
後ろに大荷物、と言うか自販機なんかを引き摺っているのも目立つ要素の一つ。
だが今回の目的は、パインという存在の周知。
印象付けるための発明品設置な訳だから目立つ分には歓迎だ。
「そこのナビ、止まれ」
スクエアの出入口――バナーに近付いた所、呼び止められる。
警備員。
あからさまに怪しいワタシの姿に、片腕を此方に向けて来ている。
返答次第では、即座にキャノンなりの射撃が行われるだろう。
そういう訳で言われた通りに止まる。
予め。
言われるまでもなく外套を脱いでおく。
パインの姿は既に周知されているのは知っている。
ボンバーマンとして聞いている訳だからだが。
顔を見せれば何処か怯えを見せたが、即座に気を取り直したようにゆっくりと近付いてくる。
大人しくそれを、一応は自販機から離れておく。
自販機を一瞥。
作っておいたポップ広告の山を暫く見詰め、いよいよワタシを見た。
「……名前は?」
「パインです! パイにゃんって呼んで下さいにゃ」
「確認する――」
右腕は此方を向けたまま。
左腕を掲げ、その先に何やらウインドウが浮かぶ。
本日の訪問予定者の一覧だろう。
生憎、何時頃に訪問するかは伝えていなかったからか僅かに時間を要したが、頷いた。
「――確認が出来た。本日の訪問予定は施設の設置でよろしかったでしょうか?」
「間違いありません」
「設置する物はそれらですね?」
「はい」
「分かりました。設置前の確認は内部で行いますので、このままお進み下さい」
「じゃ、お邪魔しますにゃ」
「アメロッパスクエアをごゆっくりお楽しみ下さい、パイニャンさん」
ちゃんと呼ぶのか。
微妙にそれに驚きつつ、監視に戻るナビを思わず見やる。
だが、何時までも見ることでもない。
大人しく、スクエアへのバナーに踏み入った。
「!」
カーネル。
その姿が目に入り、即座に飛びずさる。
思わず。
予め両手を上に挙げていたカーネルが若干渋い顔をしたように見えたが、ほんの一瞬の内に元々の厳つい表情へと戻っていた。
周囲に視線を走らす。
カーネル以外にはそれほど居ない。
何でもない風を装っている、アメロッパ軍のナビが四体ほど居るだけで。
監視と言うほどではない。
そこで初めて、警戒をあからさまに解いたように見せる。
「…………さっっっすがに驚きましたにゃ~? お久し振りにゃ」
「……それはすまない。今回、設置物の確認を行うカーネルだ。よろしく頼む」
「あー。そう言う流れかにゃ? よろしくお願いします」
ペコリ。
と。
頭を下げる。
そして上げる。
揺れる胸にカーネルの視線が僅かに向いた。
やはり気付いている、か。
しかしここまで無防備を晒して斬り掛かって来ないなら、心配する必要は最早ないだろう。
というかキャスケット様がカーネルに襲わせて来る訳もない。
とはいえ、いやはや。
カーネルが居ることを知らなかった。
ワイリー様からの情報を含めてもだ。
流石に焦る。
いそいそと自販機をバナー近くから動かし、視線を向ける。
頷いたカーネルがあっさりと背を向けた。
ワタシが言う事じゃあないが、些か不用心にも思うが口にはすまい。
まだこれと言って設備がないこともあってか比較的バナーに近い場所、と言うかほぼ直線で向かえるエリア端まで案内された。
「この辺りにしてくれ――まずは設置はせず、準備だけだが」
「ん~……随分と良い場所にゃんですけど、良いんですか? お高いでしょ?」
「見ての通り設備も少ない。商売をしたい、と言う者は積極的に入れて良いのではないかと言う意見もある。そして貸し出しは無料だ――まあ、一先ずは、だが」
嘘ではないが、真実でもない。
納得したように頷きながら設備を広げる。
人もといナビの出入りが多い分には活気もあって良いだろう。
だが、まだ早い。
ナビが一般に普及していると言い難い現状、そう言う色気を出すにはまだ早い。
ならば何が目的か。
パインをアメロッパに迎え入れたいのか。
それなら分からないでもない。
国内が多少なり荒れそうな状況だ。
カーネルお墨付きの実力。
最低限、他国に裏切らない程度の立ち位置には置きたい辺りか。
使い方を分かり易く示したポップのパネル広告を配置。
モデルにはワタシとモモさんとを使って作ってあるそれらの中に、自動販売機もセット。
遠めからの見栄えとかも含め、離れて確認。
然程の時間も経たずに全部終わった。
「………………一先ず、こんな所ですにゃ?」
じっ、とワタシの様子を窺っていたカーネルに目を合わせながら口にして、少し離れる。
頷き、ゆっくりと設置した数々に目を向けるカーネル。
その目は鋭い。
何か異常があれば決して見逃さないと言う意志が垣間見える。
ワイリー様謹製のハッキング能力まで利用している様子。
とはいえモチロン、何かしら不審物を付けている訳もなし。
「…………問題ない。だが念のため聞くが、これは?」
「自販機にゃ」
「使い方は?」
「現実世界に似せてありますにゃ。投入口にゼニーを入れて……ボタンを押すだけ!」
一切の躊躇なく、無造作にカーネルがボタンを押した。
だが、出ては来ない。
微かに首を傾げ、視線を向けてくる。
「――――出て来ないが?」
「設置してませんので。あとお金払って下さい」
「そうか。設置を許可する」
設置は一瞬。
ストーンマンの近くに設置したのと同じ手順で済む。
一応軽く押し引きをして勝手に動かないことを確認。
此方は有料設定にしてあるので現実世界のおおよそ十分の一の値段、十ゼニーを入れてボタンを押す。
バナナ。
もう一回買って出てきたソレを、カーネルに半ば押し付けるように手渡した。
「……?」
「そこの広告にもありますけど、手でむいて~……データを所得する要領で、食べる! って訳にゃ」
「ジャンクデータが溜まるのではないか?」
「そこは自動で消去されるプログラムも仕込んでありますにゃ! パイにゃんがまず試してる訳ですから!」
「そうか」
バナナを持っているカーネル。
冷静に考えると違和感が凄い。
だが、気にせずに手元のバナナをそのまま食べ切り、皮は自販機の脇のダストボックスに放り込んでおく。
皮も消えるが、マナーとして。
カーネル自身が手に持ってチェックし、しかもワタシが同じデータを目の前で所得して。
そこまでしてようやく一応の警戒を解いたのか、バナナを口にした。
微かにその表情が動いたが。
「――――――――………………不思議な感覚だ」
「ま、ゆっくり味わってみて下さいにゃん? それじゃ、ばいにゃ~!」
少し虚空を見詰めていただけで、反応はイマイチ。
ちょっと残念に思うが口にはせず、背中を向けて後ろ手を振る。
そのままスクエアを、
「待て」
出る。
直前に呼び止められる。
振り返る。
既に食べ終えたのか、現実世界的に言うと一メートルほど後ろに、見下ろすように居る。
しかし気にしない。
身体ごと向け、目を合わせる。
中。
その頭がゆっくりと下げられた。
「この前は、すまなかった。見た目で怪しく見過ぎていた」
「…………………………いえ。ワタシの態度も非常に良くなかったです。此方こそごめんなさい」
思考が止まる。
それでも、絞り出すように答えながら頭を下げる。
気にしていない。
とまでは行かないが、役割上、仕方のないことだろうに。
「………………まさか、このためだけに?」
「いや。時間があったから、それだけだ」
ないだろ。
思わずボンバーマンとしての言葉が出掛けたのを、喉元で抑える。
何度でも言うがカーネルは現状、最高峰のナビだ。
所有しているキャスケット様もまた、大変お忙しい身の上。
全てにおいて高水準。
比較的戦闘寄りのワタシが、ボンバーマンの姿でそれなりに軍部の仕事を手伝っていることから間違いない。
それなのに。
時間がある、等と言う事態が存在する訳もない。
わざわざこのためだけに時間を作ったのだろう。
勿論、監督もあろうが。
いつ訪れるかも分からないパインに一言、伝える為だけにか。
甘いというか、何と言うか。
「…………次は」
「?」
「次は、来週の今日と同じぐらいに来させて貰えたらと思いますにゃ。売り上げの確認もありますし」
「分かった。伝えておこう」
せめてそれだけ。
そう口にして今度こそ。
スクエアを後にした。