葬儀は恙なく終わった。
一人じゃない。
合同での葬儀となった。
軍が主催としてのだ。
キャスケット様の家族は一人。
親族も居ないではない。
だが、他の被害者と併せての合同での葬儀となった。
どのような経緯でそうなったかは知らないが、まだ子供のバレルが主催になるのは厳しかったからかも知れない。
あるいはアメロッパ軍の何らかの思惑があったのか。
コトがコト。
騒動により注目が集まっていた地域だ。
隠し通せるハズもなく。
ならばいっそ、犠牲者を利用して、と言う流れだろうか。
流石に詳しく分かり得ない部分だが。
ともかく、それが終わるまでの間。
いや、終わる少し前までは、だが。
ワタシの入ったPETを抱えるワイリー様は、沈痛な面持ちのままだった。
老けた。
ワタシから見てもそう見えたし、そう見せるようにもしていたらしい。
実際、知っている周りからすれば相当の変わり様だったのだろう。
あまり表舞台に出ないワイリー様ではあったが、お姿自体を知る者は少なくない。
繋ぎを作り得る貴重な機会でもあったろうに、殆んど誰も、話し掛けてくることはなかった。
キャスケット様が死んだ。
たった一つの事実。
それが、一人の人物を再起不能に叩き込むには十分な出来事だったのだと、参列した面々は理解してしまったらしい。
いやはや全く、全然そんなことはないのだが。
落ち込んでいるのは事実であり、真実だ。
こう言った場にいざ来てしまうと、しんどいのは分からないでもない。
だが。
それによって老い耄れになってしまった訳では微塵もない。
一挙一動。
沈痛な面持ちをしている裏で、この場に姿を見せている人物達をその脳髄に刻み込んでおられるのだ。
悲しんで来ているのか。
何か狙って来ているのか。
仮にもご友人の葬儀の場に来てそれとは、中々どうして思う所もある。
だが、何も言うことはない。
言えることはない。
参列させて頂くのに際して事前に、伺っていた。
キャスケット様の死に最も携わった者へとその胸中の憎悪を晴らさんとしている。
直接的な物言いではなかったが、そう言うコトを。
死からは、立ち直っている。
そう言えば聞こえは良いが、健全な立ち直り方とは思えないのでワタシとしては判断に悩む。
『………………さて、ボンバーマン』
「おウ」
改めて。
葬儀はワイリー様が少々言葉を汚くされる一幕もあったが、一見するだけならば、恙なく終わった。
そうして、同じく参列していた軍関係者に押し出されるようにアメロッパの研究室に戻って来たのが少し前。
憤懣やるかたなし。
隠そうともしないワイリー様と同道する羽目になった方への憐憫を抑え切れない。
口には出せなかったが。
出してコッチに向かれても困るし。
そこで一人になって暫く。
電子錠を掛けられてすぐに湯を沸かし、コーヒーを淹れられたワイリー様と向かい合う、今。
戻るまでに時間もあったお陰でか、流石にその聡明な頭脳を取り戻しておられる。
血走った白目までは未だ戻ってはおられないが。
『お前から見て、怪しいと思うヤツは居たか?』
「イヤ、分からネえよ」
『使えんヤツじゃな……まあ良い。今後の計画について話しておこう――まず、バレルを暫く教育する』
「そうカ」
伝えて来る風でもなく、己に言い聞かせるかのように。
一度言葉を切り、コーヒーを啜られた。
若干眉間に皺を寄せたかと思えば、幾つか角砂糖を放り込まれる。
しかしそれを飲む訳でもなく、スプーンでカチャカチャと音を鳴らしながら視線だけを此方に向けてくる。
ワタシの反応を確かめるような様子だが、出来るのは頷いて見せるだけだ。
それについては、記録から知っていたこと。
キャスケット様への慰めの意味から、と思っていたことではある。
だが、今回の場合は、
「隠れ蓑にデもスるのカ?」
『……それもないではない』
揶揄っぽく伺えば、露骨に渋く、不愉快そうな顔をなされた。
だが全てが全てそういう訳ではない。
そう、前置くように口にされ、カップが置かれる。
自分に出来るキャスケットへの唯一の恩返しは、「バレルを父親よりも優秀な軍人へと育て上げる」ことだけである。
と。
紆余曲折。
長々と言い訳がましい話を聞いていれば、そう言ったことらしい。
普通にそう纏めれば話は早いのに等と思う所が表情にでも出ていたのか、睨まれてしまったが。
それは、知っている。
しかし、知らない。
バレルを教育する傍らアメロッパ軍に探りを入れ、キャスケット様の死を企てた者を見付け出す。
そのような計画を立てていたことなんぞ。
いや、どうだろう。
ワタシが関わったことでその可能性に思い至られたか。
いやないな。
なくはないだろうが、可能性はかなり低い。
ワイリー様ほどのお方。
であれば、ただでさえ不審な情勢下で今回のようなことが起きれば嫌でも察されるハズ。
知らなかっただけで、似たようなことを起こされていた可能性も十二分にある。
まあ。
今回の事件自体、記録にある世界線とでも言うべき物語の中で起きた事柄と完全に一致しているかの保障は微塵もない。
記録にないので。
今、重要な事はバレルを教育すると決定されたこと。
それだけだ。
「……マ、分かっタ。ロボット開発ヨり、バレルを優先すルって訳ダな?」
『そうじゃ。とはいえ全くやらん訳にも行かん。併せて色々と探りを入れる必要もある……追い出されん程度に留めるがな』
目を閉じられ、暫く。
漸く開けられたかと思えばコーヒーから湯気も消えていることに気付かれた様子。
一瞥し、一息に飲み干されるとため息を吐かれた。
考えの整理をされたのだろうか。
だとすれば気になって来る事、と言うよりも心配なのは二つほど。
「……此処のデータはどウする?」
『移す。とはいえ見られてマズいもの以外は残さねばならん』
「ストーンマンは?」
『まだ暫くは病院から離れられまい』
「ダろうな」
意味もなく、ストーンマンの何時も居る方向を見やる。
ストーンマン。
キャスケット様が亡くなられてからも、まるで接触を持てていない。
持てていないが、病院の運営にも半ば組み込まれている状況で、非常に忙しいことになっているとは伝え聞いている。
あの事件後。
軍人その他が幾多も運び込まれてすぐ。
その対応のために動いた結果だと聞いてはいる。
病院なんて場所は軍隊並みに厳しい上下関係があると聞いていただけに、まともにやり合えるのか心配ではあったがその知識量で殴り勝ったようだ。
結果、随分と良いように使われてもいるらしいが。
要するに知恵袋。
というよりかはアドバイザーのような立ち位置のようだ。
未来的な言い方でなら、サポートAIなんてのが近しいか。
一つでも多くの命、叶わぬハズだった何かを拾えているのならば良いコトだが。
ともかく。
本来ならストーンマンが整理するハズのデータ群もワタシの方で整理しなければならない訳だ。
追加で、ワタシ自身の使っているデータやら大量のバグの欠片やら諸々も。
溜め息が出そうになる。
コレは流石に、大手を振ってやれることでもない。
かと言って、簡単に終わらせられることでもない。
ワイリー様もまた同様。
大仕事になるのは確実。
「――――場所ハ?」
『ワシの家に機材は揃っておる。一先ずはそちらに移せ』
「了解」
これに関しては、まあ妥当。
将来的にはともかく、ネットワーク上に保管庫と言えるようなモノがない現状、安全な拠点と言える場所はそこにしかないか。
早々にデータを移動させていかなければならない。
レーザーマンに手助けを頼むのも一考するか。
いや、将来的なネビュラ関連の事柄を考えるに、リーガルがレーザーマンを簡単に貸し出してくれるとも思えないし何か良くないモノを見られても困る。
独力で進めるのが安パイか。
さておき、残りの一つ。
そのリーガルだ。
「デ」
『……なんじゃ?』
「リーガルに言っタか? 戻る間、連絡してタ様子もなカったが」
『………………』
視線を逸らされた。
おいおい。
「ワイリー様?」
『………………リーガルに何と言える? 親友が死んだからその子供を育てる等と…………リーガルもまだ学生じゃし……』
「言ワねえ方がダメだっテ」
『正論を言うんじゃあないっ! 分かってはおるんじゃ、分かっては!』
「……別に切磋琢磨出来ルんじゃねエか?」
『そんな簡単な訳あるか! 第一、リーガルにはワシの技術は教え込んでおるが、バレルに教えるのは軍事の方じゃ……方向性が違う………………話が合うとも思えん…………』
徐に。
椅子から立ち上がられた。
かと思えば、何事かを呟きながら部屋の中を徘徊し始める。
聞こえて来る呟きの内容から察するに、リーガルに対する言い訳でも考えているのだろう。
中身のないカップを持ったままな辺り相当動揺しておられる。
こう見ると、キャスケット様が亡くなられてから十日近く経っているハズなのに、件のバレルを育てると決めたのはかなり衝動的な考えから出たらしい。
しかも本人の確認を取っていない。
あの場に居て。
聞いてしまって。
思わず口から衝いて出たのだろうと言うのは理解出来る。
一先ずリーガルの方。
此方にはワタシから、何度か遣り取りしてる中で受け取っていたアドレスにメールを入れておくとする。
「葬式中、バレルを誰が引き取るか親戚連中が揉めているのを見てワシが育てるとワイリー様が言い出した」。
と。
そんな感じのメールを作成。
送信。
序でに話を合わせられるよう、BCCでワイリー様の方にも送っておく。
内容が内容だけに、これならリーガルでも流石に無下には出来ないハズ。
実際問題。
バレルの事柄は、ワタシが聞き及んだ限りではだが、完全に嘘とも言い難い辺りを押さえているハズだ。
それはそれとして。
「ワイリー様」
『んー……? ああ? なんじゃあ?』
「ワタシは一度、外に出ル。何かアれば連絡しロ」
『ああ………………うん、分かった……分かっておる。分かっておるんじゃが…………』
「じャ」
心ここにあらず。
これは駄目そうだと肩を竦める。
まともに話が出来そうにないワイリー様を残し、データ搬出の下見も兼ねてワタシはその場を後にした。