「博士ぇ!」
『パインか……どうした?』
「最近ちょぉ~っとワタシのこと、怪しまれてるみたいなのにゃぁ」
『…………はぁ?』
バレルの育成計画。
そう言ったモノを作っておられた手が止まった。
向けられた顔に対してワタシは両手を横に広げるしかない。
難しい話じゃない。
「いえ、簡単な話にゃんですけどぉ。何だか探りを入れるような目で見られる機会が増えてて……ボンバーマンとパインが一緒にいる所を見たことがないから同一存在と疑われてる――とかそんな所にゃんだと思います」
『何言ってんじゃお前』
「ひ、酷い……」
『お前とボンバーマンを同一存在等……関係を怪しむとかじゃないのか? それか、何と言うか……もっと別の何かだとかじゃあないのか?』
疑わしい。
そんな目と共に一瞬、足元から頭頂までサッと眺め見られる。
しかし、ワタシがどうにもジロジロと見られているのは事実である。
それだけは間違い様がない。
普段ならパインの姿に見惚れているだとか色々考えよう。
だが、時期が時期。
それほど能天気に考えてはいられない。
「むむむ! この天才パイにゃんの感覚を信じられにゃいんですか!?」
『根拠に乏しい』
「むぅ~!」
『……まあ。全く信じてない訳ではないぞ?』
「なら良いですけどにゃ! で、す、け、ど、にゃ!」
胡乱。
ではあっても端から否定するではないご様子。
実際問題、当初から疑いの芽は小さくとも確かにあった。
と思う。
それは、パッと見では明らかに姿形何から何まで違うのだから早々に立ち消えていたのだ。
しかし、だ。
時が経つにつれて疑いの芽と言うのは再び芽吹き、育つ物。
今回の場合、パインがウラインターネットからチップを取ってきていることが要因。
だけじゃあない。
その前。
セレナードも参加していたフォルテとの戦いの折、ボンバーマンとして使用した《プルルンボム》。
そちらの方も原因の一つと思われる。
幾らDr.ワイリーが天才とはいえ、あのような特殊なボムを簡単に真似出来るモノなのか。
元々、何処かしら繋がっていたのではないか。
そんな疑惑が出てきた気配。
大正解である。
だがそれはそれとして、ワイリー様を舐め過ぎだと思うけど。
『…………で』
「はい?」
『無論、何か考えがあってワシに相談しに来ておるんじゃろ?』
言ってみろと無言で促してこられるが。
考えてなかった。
と言えば嘘になる。
「――モッチロンです! パイにゃんは天才! ジーニアスですから!」
『……まあ、言ってみい』
「外見をコピー出来て成り代われるネットナビ――そう言うの、ワイリー様は作れませんか?」
『ふん。一口に外見をコピーと言っても、パターンが色々あると思うが?』
口にしながら姿勢を動かされ、体を向けられた。
少しは此方に意識を傾ける雰囲気が出て来た。
とは言ってもだ。
さて、ワイリー様の気を引けそうなアイデアは、そう簡単に出せそうにもない。
記録から引っ張るぐらいでしか。
「そうですね……姿形が文字通り変わるタイプだとか、映像とかホログラム的な物でそう見せるタイプ……とか?」
『大別すればその二つぐらいじゃろうな。で、どちらが良いと思う?』
「ん~……複合型ですかにゃ。大雑把な形を真似れて、細かい所はホログラムで誤魔化せるようにするのが楽なんじゃにゃいかと思いますにゃ」
姿を真似られるナビ。
それを考えて思い浮かべるのはまず二体。
デザートマンとコピーマン。
どちらも姿を完全に変えられるのが利点だと思う。
だけども。
デザートマンは自身が砂状の特殊なナビであるからこその能力。
コピーマンはコピー能力があってもウラランキング三位だったことを考慮すると完璧ではない。
容量の面で問題か、あるいは別の部分か。
姿を完全に真似られる能力があるとしても限界があるだろう。
半固体か液体に近い体。
あるいは、コピーに特化した能力。
等と。
そう言った意味で判断に悩む存在が、シェードマン。
遊園地でさり気なく完璧な擬態をして見せているあの存在。
ダークロイドとかいう特殊な出自故の能力なのか、シェードマン固有の能力なのかが全く分からない。
ワタシ個人で言えば。
小さな蝙蝠の姿が本体で、闇で身体を作っているのではないかと疑ってもいるが。
厄介の極みみたいな存在だから会いたくないので恐らく永遠に闇の中だろう。
ともかく。
現実世界で単純に真似るなら、本物との相違点が殆んどなければ案外騙せはする。
でも電脳世界。
記録が取れる此方の世界では、小さな違いでも察せられる原因に成り得る。
しかしどちらで真似るにしろ、完璧にしようとすれば、身体か能力かへ大幅にスペックを割かれ残りに制約を受けることになるだろう。
それなら身体をある程度、体型を変えられる程度に留め、能力で補助出来れば。
そしてその能力がバトルにも利用出来るようにすれば。
更には空いた容量を利用して戦闘に耐えられるように出来、かつ姿を真似られるネットナビに出来る。
ホログラムに関して言うと、将来的にはアメロッパ城で利用されているから技術の源流自体は現実世界にないことはないハズ。
流用を期待できる。
それに近かろう能力の応用例を挙げるなら、ビデオマン。
読み取った相手を空間上に映し出して攻撃に転用出来る能力。
これらを組み合わせられれば、大抵のナビにでも違和感なく成り代われ、かつ容量を大きく取ろうとそれ以外にも多用出来る。
だろう。
全てはワイリー様が判断されることだけど。
『ホログラムは分からんでもなかったが……粒子か液体に近いネットナビとは……』
「どうかにゃ? 天才的なアイデアにゃ! ま、パイにゃん的には机上の空論って感じにゃんですけども」
『それなりに面白いアイデアではあろう。空論と言うほどではないが、片手間では流石に無理か…………ともかく、ワシがそう言うナビを作って何の得がある?』
「にゃにゃ……!」
それを言われると痛い。
ある程度は変化する肉体と、攻撃に転用も出来るホログラム能力。
空いた容量はバトルの補助。
中々良いと思える。
現在のワイリー様に、そんなネットナビを作る利点が何一つないことを除けば。
そもそも、ボンバーマンとパイン。
この関係について疑われても別段、ワイリー様には直接の損はない。
実際、関係性を疑われた所でアメロッパの上層部はパインをボンバーマンの改造ナビぐらいには思っているだろうからそう掘ってくるとは思えない。
下手な掘方をすれば、データの流出という特大の墓穴を更に広げるだけだ。
ボンバーマンとパインとしても、動きに注意は必要になろうが決定的ではない。
ワタシが将来を見据え、二つの存在どちらにも成れるようにしてるだけだ。
体力云々の話も別に、バレて問題あるかで言えば一応はないと言える。
要するに、ワタシの方から出せるメリットがこれと言ってない。
精々が間諜として利用出来るのではないか、という位。
決定打には成り得ない。
『…………………まあ良い』
と。
頭を捻っていたワタシに、しばし顎を擦っておられたワイリー様から声が掛かる。
ワイリー様はワイリー様で何か考えていたのか何度か頷いていた。
一旦悩むのを止め、様子を伺う。
半ば無意識の言葉だったのか、ワタシの視線に気付いてから少しして、口を開かれた。
『ワシに何かさせたいのなら、ワシからの依頼を受けよ』
「そんなこと言わにゃくとも、ご命令とあればやりますけど?」
『……良いから、受けろ。交換条件と言うヤツじゃ、良いな?』
「そう仰るんなら受けますけど。どんなご依頼ですかにゃ?」
その問い掛けに、答えはない。
ただ指を動かされたかと思えば、すぐ傍にデータが表示された。
何気なくそれを見、固まる。
古惚けた写真データ。
ワイリー様がわざわざ取り込んでいたのだろう。
何時でも、見れるようにと。
『 、 』
魅かれるように。
その写真に近付く。
電脳世界だからか、ワタシの顔程はあろうサイズの写真データ。
そこに写っている女性。
一緒に写っているのは、若かりし頃のワイリー様だろうか。
『 ? 、 ?』
電脳世界の外。
ましてや昔の話。
ワタシが知るハズがない。
だが。
ワタシは。
ワタシは。
この女性のことを知っている。
『 、 ? ボンバーマン? パイン?』
名を呼ばれた。
それに気付き、意識が戻る。
咄嗟に伺えば、怪訝そうな顔をされている。
何度か呼ばれていたのだろうか。
分からない。
分からないが、
「ごめんなさい、ちょ~~~っと、見惚れちゃって。にゃ?」
『…………フンッ! まあ良い。もう一度言うからよく聞け』
「はい」
『お前にする依頼はただ一つ。お前の知識と経験を以って、その写真に写っている女の姿形を電脳世界に再現せよ』
「――よろしいのですか?」
思わず聞き返した。
それを、ワタシに頼んでも良いのか。
頼んで下さるのか。
と。
答えはない。
ただ鼻を鳴らされたかと思えば、幾つかの写真データが追加されただけ。
それ以上は言葉を重ねず。
頭を下げる。
『……一先ずの期限は四週間とする。その時までに一度、ワシに見せるように』
以上。
そう言い切られ、映し出されていた姿が消えた。
消えた跡を暫く眺め。
後に残った写真データ。
そちらに視線を移す。
見間違えるはずがない。
直接、見たことがない。
しかし、見覚えがある。
様々な角度の女性の写真。
それは、
「――――――」
アイリス。
後にそう呼ばれる、ネットナビの顔をしていた。
ダークロイドの擬態能力は、漫画版では恐らく共通でしょうが、ゲーム版では不明です。
ワイリー博士が自身の親友のネットナビから抜き取った、自分の『優しさ』と言えるモノ。
ソレを入れる女性型ナビが、ただの人型であるだろうか?
と言った事柄に対する私なりの解釈となります。