ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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042:アイリス

 

『よくやった』

 

アイリスが完成した。

六日。

あと、半日の休息。

 

ほぼ半日シャットダウンしてデータを整理した後。

最終確認を済ませ、かなり早めだったが確認をお願いしたワイリー様にその翌の夜。

伝えられた言葉がそれだった。

 

予定の日取りまでまだ二週間ほどはある。

にも関わらず、適当な仕事かも疑われるようなことがなかったのは幸いだ。

もしや見ておられたのか。

そんな考えがチラと過ぎったが、それならお声掛けの一つもあっただろう。

 

というか、この部屋もといエリア。

アメロッパ軍部から場所を移したからと言うのもあって、やや片付けが適当だ。

見られる心配が殆んどない。

そんなこともあって、エリア端に色々と並んでいる。

 

前までは流石にアメロッパ軍人に見られる可能性もなくはなかったから、圧縮して保存していた。

しかし、ここはワイリー様のご自宅。

ハッキング対策も当然、厳重に行われている。

下手な政府機関よりもよっぽど堅牢だ。

ワタシや、今はストーンマンも居るし。

 

そういう訳で。

まず見られる心配がないからと皆さん、端に並んで頂いている。

お陰で気になったらすぐ修正出来るから、一回一回解凍と圧縮をする必要がなくて楽。

まあ、それは良い。

それよりも。

 

「………………」

「………………」

「………………」

「………………」

 

ストーンマンが戻ってきていた。

病院もとい地域の方も、一先ずの落ち着きが見られるようになったからと。

また元通り、ワイリー様の所でデータの防衛を勤めることになっている。

 

それに伴ってカーネル。

アチラにも時間が出来た。

一応、バレルの持ちナビ。

この機会に交流を深める他、久し振りにワタシとも模擬戦をするということで、だ。

 

いやはや。

最近はちょっと顔を合わせるぐらいしかなかったから大分久し振りだ。

キャスケット様が亡くなられてからどれぐらい経ったやら。

 

流石に半年は経ってないが、「優しさ」と「電子機器やプログラムの制御能力」を抜かれてからずっとになる。

ウイルスバスティングをしている所すら見れてない。

故に、手合わせはかなり久し振りになる。

しかもかなり気合の入った様子で怖かったのだが。

だが、問題は、

 

「………………ゴゴ」

「……あー…………」

「……………………」

「……………………」

 

横目を向けて来るストーンマン。

それに曖昧に返しながら、目の前の光景を見る。

明らかに、カーネルが動揺している。

そんな非常に珍しい光景がそこにあった。

 

さもありなん。

目の前の少女。

人間がそのまま電脳世界に迷い込んだと言っても違和感ないだろう出来。

 

我ながら良い仕事をした。

まあ正直、製作後半は曖昧だったから何とも言えない。

ただ完成したと思った後は達成感と合わさってハイテンションのまま床を転がってすぐシャットダウンした覚えしかないのだ。

 

しかし改めて見ても、素晴らしい出来だと思う。

一見するだけじゃ、と言わずどれだけ見ても不気味の谷を完全に乗り越えている少女。

人間が目の前に居る。

だけじゃあ、ないだろう。

 

あくまでも想像だが、カーネルは察知しているのだと思う。

目の前の少女。

彼女の中に、己の「優しさ」があることに。

 

伸ばしてしまっている手が引っ込められ、また伸びる。

まるでソレを求めているように。

どれだけの時間が過ぎたか。

伸ばしたり引っ込めたり、踏み込んだり後ずさったり。

無感情的にその様を見ているだけだった少女の元に、カーネルの手が遂に届く。

 

『やめよ』

 

かに見えた瞬間、声が響いた。

弾けるように、触れるかに思われた手が離れ、同時に狭まっていた距離が再び開く。

見てたんだったら趣味が悪い。

 

呆けたように少女はその声の元へと向き。

ワタシとストーンマンは軽く頭を下げる。

暫く、己の伸ばしていた手を見詰めていたカーネルも、思い出したかのように慌てて頭を下げた。

その様子に満足されたのか、ワイリー様が口を開かれた。

 

『カーネル』

「――ハッ」

『薄々察しているとは思うが、そこに居るネットナビ・アイリスはお前の持っていた電子機器やプログラムの制御能力を代わりに宿しておる』

「…………」

『故に惹かれたのだろうが――万が一お前とアイリスとが元に……合体するような事態があれば、二度と再生出来んよう全てのデータを残さず自爆し崩壊するようプログラムを組み込んである。バックアップも無意味じゃ』

「……!」

 

驚いた様子でカーネルの顔が少女、アイリスへと向けられた。

だが、アイリスは変わらない。

相変わらず何処か呆けたような表情のまま、ただワイリー様を見詰めている。

意味を理解できていないのか。

 

違う。

「優しさ」のプログラムを所持していながら、自我がないのだ。

まあ実際は薄いだけなのだが。

傍から見ると、ないとしか思えまい。

記録からの予測。

知っているからこその予測を、観察して確信に変えているワタシでもなければ。

 

何せ己の完全な生死に関わる事柄を口にされ、まるで反応を見せない姿。

軍属として、ナビのデリートされる様を見ていない訳ではないカーネルには中々衝撃的だったようだ。

愕然とした様子でアイリスを、それからワタシ達へと目を向け、最後にまたワイリー様に視線を戻した。

 

冷酷。

そうとしか見えない瞳で見詰め返すワイリー様。

凍土のように乾いたその目を遂に耐え兼ねたか。

視線を逸らしたかと思えば、バナーへと駆け去っていく。

 

その後ろ姿をアイリスが眺めているが、それよりも。

カーネルを微妙に表情を歪めて見送る様。

やっぱり捨て切れてないんじゃあないかな、ワイリー様。

沸き上がった疑念を一先ず断ち切り、消えて行くカーネルを見送った。

 

「……………………デ、ワイリー様?」

『何じゃ?』

「何ダって、わザわざオ披露目を?」

 

見送って暫く。

ストーンマンもアイリスも、口数が多い訳じゃあない。

そうなると必然、ワタシが進行役をしなければならない訳で。

仕方なく、お伺いする。

 

別にアイリス。

言葉の通り、わざわざワタシ達にお披露目する必要はない。

「電子機器の制御能力」等のプログラムを持っている。

電脳世界に居るワタシ達からすれば、「だからどうした」、という話なのだ。

 

『お前達の新しい兄妹じゃ。顔合わせ位はしておくべきじゃろう』

「ア、そう言ウ? ワタシはボンバーマンで、コッチがストーンマン、ヨろしく」

「……ゴゴゴ」

「……アイリス。です」

『………………』

「………………」

「………………」

「………………」

 

喋ろう。

誰か。

 

「…………エー、あー、アイリス?」

「……はい」

「ご趣味ハ?」

「……ないです」

「ソうか……」

「…………」

「…………アー、だったらストー逃げてんジゃねぇストーンマン!!!」

「!!! ゴ、ゴゴゴ!」

「明ラかにサっきより離れテんじゃねえカ! そレで逃げテないは通用しねえヨ!」

 

ワタワタとドデカい腕を振り回しているストーンマン。

しかし、隙あらば逃げようとしているのは最早明らか。

流石に厳しいぞ、アイリスと二人っきりは。

主に気まずさで。

 

何か丁度良く、ストーンマンの足を止めれる物はないか。

思わず周囲を見渡すが、当然そんな物はない。

ストーンマンに詰め寄ってるワタシを不思議そうに見詰めるアイリスだけだ。

いや、アイリス。

 

「丁度良イ!」

「きゃっ!」

「ゴ!?」

 

所謂お姫様抱っこで抱え上げてやるとアイリスでも流石に驚いたのか小さく悲鳴を上げたが無視。

勢いのままストーンマンの上に飛び乗る。

いきなり乗られて動揺している隙に、そのボディの上端に座らせ、ワタシも座る。

 

「こレで逃げれねえナぁ!」

「…………!」

 

驚愕。

自身の四角いボディを椅子替わりにされたのが余程衝撃的だったのか、カタカタと小刻みに震えているが知らない。

強めに側面を踵で叩いてアイリスが落ちかねないことを暗に示すと、漸く大人しくなった。

 

暫く。

座ってしまっているストーンマンを見、困惑した様子でワタシを、と交互に見て来るアイリスだが知らない。

此方も何を話せば良いのか分からないのだ。

カーネルと模擬戦するために取っておいた四十分近い時間がまだ残っている。

 

とりあえず、そのまま後ろに倒れ、視界も閉じる。

抗議するような若干の揺れも黙殺。

すぐに大人しくなり。

静寂。

 

やがてポツポツと。

始まったストーンマンとアイリスの会話、もといストーンマンによる自販機の批評に耳を傾けることにした。

 

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