詳しい話は後日となった。
弁護士に相談するらしい。
中々な大事になりそうだ。
そうでしょうと言う感覚。
まあ、考えても仕方ない。
入っていたゼフラム社のパソコンから直接、電脳世界に戻りながら顎を擦る。
「あ、邪魔にゃ」
屯していたウイルス達にボムを蹴り込みながら考える。
とは言っても、大した考えじゃあない。
どう報告したものか。
それだけだ。
いきなり話のままワイリー様にお伝えしても困惑されるだけだろう。
要点だけ纏めて報告するのが良いと思われる。
そのメールの文面をどうするか、だ。
実の所、数日前からワイリー様は居られないのだ。
バレルを鍛えるためにとアイリスも連れて何処ぞに行っている、らしい。
教えて下さらなかったのは信頼なのか。
扱いが雑なのか。
判断に悩むが、考えても仕方がない。
とりあえずは時間が取られないよう、文章で簡潔な報告を送らないと等と思いながら電脳世界を歩く。
後ろから、誰かが追って来ている感覚はない。
ないが、絶対とも言えない以上は警戒して然るべき。
そう言う考えでゼフラム社の電脳を出てから歩き回っているが。
「………………心配なさそうにゃ」
立ち止まり、振り返る。
目に留まるようなネットナビは見当たらない。
口にしつつも一応の警戒を強めて十数秒。
居ない。
そう確認を持ててから、プラグアウトを敢行した。
「ふぅ……」
一つ、息を吐く。
ワイリー様宅の、ワタシ用に繋げられたままのPET。
一瞬で移動出来るのは便利だが、追跡されると面倒だからその辺り配慮する必要あるのだけ難点か。
まあ、この時代。
痕跡を追跡出来るような性能のネットナビが然う然う居るとも思えないが。
例外なんてものは何時出てもおかしくはない。
自分自身を納得させながら、PETに用意してあるボンバーアーマーを身に纏ってボンバーマンへと姿を戻す。
そうして、ワイリー様宅の電子機器へと移動した。
そして。
其処にソレは居た。
番兵のように相変わらず立ち尽くすストーンマン。
其処から少し離れた端。
あたかも置物のように佇む存在。
ワタシがそれを言い表す言葉はコレしかない。
コピーロイド。
あるいは、マネキンか。
そうとしか言えない存在が其処にある。
いや、居る。
パインの時と同じほどの丈しかないソレは、戻ったワタシに気付いた様子でゆっくりと首を垂れた。
「――お帰りなさいませ」
「やめロって言っタろ?」
「しかし」
「確かにワイリー様に頼んダ面もアるが、それダけだ……命じラれたなら別ダが」
手を横に振りながら近付く。
表情は読めない。
その人形に表情も何もないから当然な訳だが。
目の前に居るのはコピーロイドじゃあない。
「何度デも言うが、命ジられてネえダろ、フェイクマン?」
「…………」
そう。
その名を呼んだ。
フェイクマン。
それがそのナビの名だ。
呼ぶとほぼ同時にその姿が歪み、ボンバーマンと同じにしか見えない姿に膨らむように変わる。
変身能力。
それこそが、ワイリー様がフェイクマンをお作りになった理由であり、ワタシに畏まる理由の一つ。
である様子。
簡単な話。
ワタシがワイリー様にこう言う能力を持つナビをお願いしなければ、フェイクマンは生まれて来なかった。
だからかワタシを敬っている。
何せ、ワタシのために作られた訳だから。
「しかしボンバーマン様」
「様はいらネえって、弟妹」
表情は読めない。
それでも、ヘの字に曲げていそうな雰囲気は分かる。
思わずガックリと肩を落とし、ついでに首も垂れる。
生まれた理由は確かにその通りだ。
実際、居るなら役に立って貰いたい。
だがそれはそれとして。
ワタシはどこまで行っても先に作られたネットナビに過ぎない。
そこに特別な意味が込められている訳でもない。
ほぼ間違いなく込められているのは、カーネルとアイリスの二体ぐらいなものだ。
敬われても正直、困る。
何せコッチは生まれからして特別な訳じゃない。
と言うかむしろ。
明確な目的意識を持って作られた分、特別感ではワタシよりも上のハズなのだ。
むしろ協力して貰ってるだけ、敬うべきなのは此方側な訳で。
「……とにカく辞メろ」
「分かりました、ボンバーマン」
少し強めに指を突き付けながら言うと、あっさりと敬称を取り払った。
今だけだ。
明日にもなれば、また元に戻っていることだろう。
まあこれに関しては気長に対応していくしかない。
どっちが先に折れるかだ。
それよりも目下。
少し前の事。
「デ。実際入れ替ワってどうダ?」
「ん~、パイにゃんは別に大したコトないって感じですかにゃん?」
瞬き、とまでは流石に行かないが結構な早さで。
ボンバーマンからパインの姿に変わったフェイクマンが人差し指を下唇に当てて考えるような仕草を見せているがさておき。
ワタシとフェイクマンが入れ替わっていた時の話だ。
ゼフラム社のPETで移動していた際。
万が一の時、ワタシと連絡を取れないような時でも問題ないか確認の意味もあって入れ替わっていたのだ。
その結果については、少なくともゼフラム社の人間から違和感を持たれた様子はなかったから成功と言えるだろう。
入れ替わったフェイクマン自身がどうだったか。
ワタシとしてはそこが気になっての質問だったのだが。
笑顔を見せている姿からは、どうも心情を読み取り難い。
まあ。
問題なかったと当ナビ自身が言ってる訳だ。
無理に掘り下げることでもなし。
「…………マ、そんナら良かっタ」
「おやおや~……パイにゃんに何が頼みたいことでもあるんですかにゃん?」
「ズバリ正解ダな」
「なーんでも言って下さいにゃ! パイにゃんはそのために居るんですからにゃん!」
「近々、ボンバーマンかパインの姿でお互い……スクエア辺りダな。ソの辺で会ってる姿を周りに見せテぇ」
「喜んで対応させて頂きますにゃん!」
コイツ。
もしや語尾に「にゃん」とか付けておけばパインになれるとか思ってないか。
観察するような眼を思わず向けてしまうと、小さく首を傾げた。
まあ、それはおいておこう。
見た目さえそっくりで言動が近ければ露骨には怪しまれないだろうし。
そもそも時々、同一ナビじゃないと証明が出来れば良い位の考えでしかない。
そんなことよりも、だ。
「アと、元々の姿あんダろ?」
「これ?」
「それダが――流石にソレは無機質過ギて目立つ。プライベート用の姿も用意しタらどうダ?」
「…………プライベート?」
そう答えると訝し気な雰囲気を醸し出した。
訝し気。
と言うのは本当に雰囲気でしかない。
元々の姿。
マネキンのような。
コピーロイドのような。
口も表情もないそこから感情を読み取るのは流石に至難。
実際問題、付き合いもまだそれほど経ってない。
アイリスをお披露目されたワイリー様が割とすぐ、フラッと顔を見せられたかと思えば見せてきたのがこのフェイクマン。
大きいのを小さくするより、小さいのを大きくする方が楽だから元々のボディは小さいそうだ。
とりあえず流石はワイリー様、天才であられる。
と言うのは置いておいて。
本ナビ自身、ワタシの言うことを聞くよう命じられているためなのか何でもかんでも指示を待つタイプだから扱いに悩む。
一応、自立型ナビらしいから自主的な行動も可能なハズだが。
そこは恐らく、設計段階の思想が原因なのだろう。
等と当たりを付けている。
「外見をコピー出来て、成り代われるナビ」
言ってしまえば、影武者。
そう言うナビを用意して欲しいと言ったのだ。
その通り、ワタシに対して従順なナビを作って下さったのだろう。
お願いしたのは実際、ワタシだ。
注文した側で言えば百点満点と言うしかない。
言うしかないのだが、流石にちょっと。
作られた存在。
と言うのは勿論分かってはいる。
だが、それを踏まえた上でも何でも言うことを聞いてくれるだけの存在と言うのは、些か重い。
特にその中に感情が、プログラムされたモノとは言え、備えられているとなると尚更に。
「…………マあ、なんダ。ワタシの代わりをシない時はズっと突っ立っテるのかって話ダよ」
「命令とあらば」
「んナ命令するつもりネえから言ってんダ」
半ば突き放すように言えば、完全に黙り込んだ。
命令なら待機もする。
逆説的に、命令でもなければ待機し続ける気は流石にないと言う事。
まだ生み出されてから期間は経ってないだろうが、アイリスほどわざわざ無感情に作られた訳ではないと言うのは見て取れる。
フェイクマンがそんな自身の心持ちを理解しているかは別として。
全く影武者をしてくれないのは困るが、影武者でしかないのもまた困る。
「ムしろ積極的に他所と話すぐラいが良い」
両手を左右に開き、そんなことを言う。
主に、他者を相手する必要がある時。
幾らネットナビとしてプログラミングされているとは言っても、他を相手するような事柄は、予め答えのある事柄と違う。
影武者だけしているようじゃあ、そんな経験が積めるハズもなし。
人間やネットナビ等と話をする経験は積み重なっていて損はなかろう。
「ですが」
と。
何事か答え掛けた続きを片手で押し留める。
「今すぐじゃネえよ。命令以外ジゃ、一月後ぐラいからっテ考えな」
言うだけ言い置いて、押し黙ってしまったフェイクマンに背中を向ける。
まだワイリー様がエリアを用意してないため、本当に子供サイズのマネキンみたく突っ立ってるのが現状だ。
戻って来られたら一言ぐらい進言しておくべきか。
そんなことを、プライベートエリアに戻す寸前まで此方を見続けていたフェイクマンを感じて考えていた。
「………………」
等と。
散々フェイクマンの好きにさせるようなことを言ったが、所詮はワタシ自身の為。
そこは間違いなかった。
フェイクマン。
ワイリー様より、好きに使って良いとお墨付きを頂いた自立型ナビ。
何でも言うことを聞く、感情を持つ存在。
それを聞いておいて好きに使えるハズがない。
感情を持つと言うことは、いつ感情のまま振舞うかも分からないのだ。
ワタシに恨み辛みを重ねるようなことがあれば、それが何時しか牙を剥くだろう。
フェイクマンを自由にさせるのは、つまりガス抜き。
「……後ろカら刺さレるのは怖ぇかラな」
いや、違う。
プライベートエリアの半ばで思わず口にしながら、振り返る。
ワタシは、ワタシ自身を信用していないのだ。
好きに使える存在を傍らに置いて。
果たして、それに慣れないで居られるか。
当然のこととして使えるモノと扱わないで居られるか。
好きに使える存在に使い慣れ、何時しかそこにある感情も心情も全てを無視して振舞うような存在に成り果てはしないか。
しても良いことは、しても許されることには成り得ない。
一度敷居を越えてしまえば知らず知らずに転げ落ちて行くだろう。
出来る先へと容易く進み。
やれる行為をただ行って。
善悪の狭間をも通り越し。
やって、良いと許されるの狭間にある境界を忘れ、何も理解すらせず無遠慮に踏み躙る
そんな、悍ましい怪物に。
成っているのではないか。
それがただただ恐ろしい。
そう成り得るだけの能力が恐らくワタシには備わっているだろうコトが、恐ろしくてならない。
だからこそ思うのだ。
倫理は忘れないようにしなければと。
それが例え。
仮初のモノでしかないにしても。