ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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047:勉強

 

実に困った。

幸い、リーガルの愚痴は然程だった。

同じ話が何回も転がったが、それだけ。

空が白むだろう時間までは流石に持たず、勝手に突っ伏したぐらいだ。

 

その後は知らない。

ワタシとしてもウラインターネットの探索やらも続けている訳だし、パインとして色々と準備に取り掛かる必要もある。

と言うことで放っぽっといた。

 

そう。

困ったこと。

それは、パインについてだ。

 

「お邪魔しますにゃ~」

「ごゆっくりどうぞ」

 

軽く挨拶を交わし、スクエアに踏み入る。

すぐ目に入る、相変わらず自販機の列に若干呆れつつ周囲を見渡す。

フリをする。

 

既にパインの感知圏内に入っているのでポーズだけ。

そうして、スクエア内でも目に付き辛い場所。

自販機とほぼ対極に位置する端で何やら話し込んでいるボンバーマンへと近寄った。

 

「やっほ~にゃん」

「ン? あァ、パイン……っテことは」

「いえ、約束の時間まではまだ十分はあるにゃ! ごゆっくり!」

「そウか。なら少し離レてろ」

「はいにゃ」

 

恐らくは商談。

離れていても捉えることの出来る、チップに関する話を聞いていない風を装いながら耳を澄ます。

聞いてみればやはりそう言った話。

あのチップが欲しいだの、独占の契約をしたいだのと。

 

まあこの手のは、将来的に言えば転売ヤー。

対処法についても既に教えてある。

ある分は売り、ない物を売る約束はしない。

それだけで良い。

 

何でそれだけで良いかと聞かれれば簡単だ。

ネットワーク内という、ウイルスの蔓延している世界。

そんな中で他を鑑みない、そのようなことをして平穏に生き延びれると思わないことだ。

 

簡単に言えば。

ワタシ達ぐらいの強さがなければ怨みを買うようなことをしてやっていける訳もなし。

その内、見なくなるんじゃあないかな。

暫くの間は粘っていたそのナビ、あるいはオペレーターか、だが十分も経って近付いたワタシのことに気付くと足早に去って行った。

 

「良かったのかにゃ?」

「別に。ニホン風に言エば、ない袖は振れネえっテな――行クぞ」

「はいにゃ~」

 

堂々と。

ボンバーマンに並んでスクエアから出て行く。

出てすぐに居た守衛のナビにも軽く挨拶を交わし、進むこと暫く。

周囲からの視線もなくなり、ウイルスも幾らかデリートしてから、口を開いた。

 

「――で、どうだったかにゃ?」

「仰っていた通りです。供給を絞り、チップの値段を釣り上げようと考えたのでしょう」

「聞いてた限りにゃと、《インビジブル》系統……んー…………商人の連合でも出来始めたかにゃ?」

「……絞ろうとするチップが違うのですか?」

「十人二十人……単純に同じような考えの存在が居れば狙うモノが被るハズにゃ」

「ワイリー様、いえ本当の所、ストーンマンでしたか? それが欲しがっているチップを掲示して来るナビも極少数ですが居りました。もう一つの方は残念ながら……」

「そこは予定通り! ってヤツにゃ。あの場所に入り込めるナビが少数でも出て来てるってことにゃ」

 

ウラインターネット。

その浅層。

パララ&リモコゴローと言う名のウイルスが居る。

 

中空に存在して落雷を落とす、昔の音楽家みたく横パーマした顔姿のパララ。

それを地上から制御している一本角のようなアンテナが特徴的なリモコゴロー。

二体で一体とでも言うべき、中々に珍しい類のウイルスだ。

 

それから手に入る《リモコゴロー》と言うチップ。

データ化したリモコゴローを設置し、同じくデータ化したパララで自動攻撃をしていく。

強さとしては当たれば強い類のチップなので、ハッキリ言って弱い。

ゲーム的な三と三の九マスからなるような空間しか動けないのであれば、使い方次第では弱くはなかったかも知れない。

 

だが、現実もとい電脳はそうではない。

自由に動き回れて、しかも攻撃が遅い《リモコゴロー》と言うチップ。

現状、攻撃力が高いだけで役に立たないチップと言っても良いだろう。

 

とは言ってもこれは、ネットナビ同士のバトルを想定しているワタシの視点。

一般的なウイルスを相手にすると考えるなら。

一撃で大抵のウイルスをデリート出来る《リモコゴロー》を設置する訳だ。

単純な自動迎撃装置として見るなら、弱い訳ではない。

 

まあそれでも正直。

ある程度は割り切った使い方に限定される。

活用するなら戦術から組む必要がある類のチップと言って差し支えはないだろう。

 

「《リモコゴロー》の方はパインの売っている価格より二千ゼニーまでなら上乗せして買う、と言うことで良かったですね?」

「ええ、そこは問題ないにゃ。何体か、金策がてらなのかワタシで買ってボンバーマンに売る、なんてコトしてるけど断る方が不自然にゃ」

「……構わないのなら良いですが」

 

口にしながら肩を竦め。

思い出したようにボムでウイルスをデリートするボンバーマン姿のフェイクマンを笑いながら見やる。

真似とは言え、ウイルスバスティングをする姿は中々堂に入っていた。

 

バトルセンスがある。

とでも言い換えようか。

この分なら、使いたい武器でも出来ればそちらもそちらで相応に使えるようにもなるだろう。

 

「――《リモローソク》はそもそも見付かってすらいない様子です」

「ワタシでも真面目に探しに行かないと見付けられないですから仕方にゃい」

 

ウラインターネット。

その浅層よりも少し奥。

此方はキャンデービルと言うウイルス。

 

炎を纏った顔のお化けとでも称そうか。

火の玉を吐くだけでなく、自身を回復させる蝋燭を背後に携えたウイルス。

ワタシには《プルルンボム》があるから弱点を突けて容易い相手だが、そうでなければ比較的高い攻撃力と回復を備えた厄介な存在だ。

 

そんなウイルスから手に入る《リモローソク》。

蠟燭を設置して、その火が灯っている限りは体力を回復してくれる。

継続的に回復をし続けてくれる、中々に利便性のあるチップである。

 

まあ、攻撃力と使い易さに注目されている現状。

仮に売りに出しても需要は凄く薄い。

手に入り易い分には助かりますけど。

 

ともかくそのチップデータを抽出して、尻尾を付けようと考えていた。

導火線とも言う。

元々のガール達にあるソレを、今のワタシは被弾面積が増えるだけだから、実は付けていないのだ。

なので《リモローソク》のデータを充分用意出来れば、尻尾の火がリジェネ効果になるとの目論見である。

まあこれは、フレイムマンの蝋燭で思い付いたアイデアなのだが。

 

「さて…………そろそろダ」

「よろしくにゃん?」

「任セな」

 

さて。

そんなこんなで、さもエスコートでもされているように付いて歩いている。

本日のワタシの立ち位置は、客だ。

依頼したのはパインの方ではあるが、詳しい話を聞こうと言うことで案内されている客。

気楽な立場でもあった。

 

「此処が、ワイリー様の場所ダ」

「お邪魔しますにゃ」

 

普段は自分で開けるセキュリティキューブを抜けた先。

我が家にさも初めて来たように見渡しながら、白々しく口にする。

思わずと言う風に鼻で笑ったフェイクマンを軽く目で咎め、そのまま視線を中空へと移した。

 

既に、見て居られるだろう。

その予想は当たっていた。

ほんの数秒。

視線を向けてそれだけ経つと、中空が歪みモニターが出現する。

 

当然ながら居られるのはワイリー様だ。

手指を組み、顎を引いた姿は如何にも老獪で、鋭い瞳は相変わらず全てを見通すようである。

凄く悪役の博士っぽい。

となれば。

 

「お初にお目に掛かります、ワイリー博士。天才と名高き貴方にお会い出来たこと、光栄に思います」

 

恭しく礼をする。

それは、嘲るような声で払われた。

 

『ハッ! ボンバーマンからワシに会いたがっているナビが居ると聞いてはおったが……随分と猫を被るのが下手じゃな、ええ?』

「そんな……」

『普通に話せ! 貴様が普段どう話してるか知らんとでも思ったか!?』

「…………じゃ、遠慮なくそうさせて頂きますにゃ。それで良いんですよね~?」

 

肯定するように鼻を鳴らされたことで、一先ずの、初対面の応対を終わらせる。

 

『それで? このワシに学びたいことがある、と聞いた訳だが……何を知りたい? いや、学びたいのだ?』

「にゃにゃ? 余計なお話はお嫌いでしたかにゃ? ――あ、はいごめんなさいにゃ。まあ単刀直入に言えば」

 

一瞬だけ溜め。

言う。

 

「ネットナビの作り方を教えて頂きたいにゃ」

 

僅かに。

ワイリー様のモニター越しに息を飲む音が聞こえた。

しかし当然、既に話を通しておいたワイリー様ではない。

興味深そうな面持ちで、軽く片眉を吊り上げて見せただけだ。

 

やはり、リーガル。

彼が居る。

ちゃんと演技を通しておいて正解だった。

 

『…………ネットナビ、か』

 

組まれていた手を解き、何か考えているかのようにその顎を撫で擦り始めた。

「はい」とだけ口にして頷く。

僅かな間。

 

『それは、公開されている疑似人格プログラムをただ入れるのではなく、か?』

「モチロンにゃ。目指すのはレディメイドじゃなく、フルオーダー」

『――ネットナビであるお前が、そう言ったネットナビを作ろうとする。その意味を分かっているのか?』

「何か問題でも?」

 

冷めた言葉に、さらりと返す。

鋭さの増した眼光がワタシを射抜く。

とは言ってもこれは既にワイリー様にも話を通していたことだ。

いや、本題はこの話ではなかったが。

 

ともかく既に話をし、教えて頂ける方向に決まっている事柄。

別にそんな問題視されることじゃないでしょう。

幾度となく確認され、その度に考えあってのことだとお伝えした。

何故か随分と納得して頂くまでに時間を要した。

機械が機械を造るのなんて、有り触れた話なのに。

 

が、ともかく。

緊張感に満ちた空間を醸し出しながら、既に決まっている承諾の言葉を待つ。

ゆっくりと。

椅子の背凭れを軋ませ、顔を横に向けられた。

 

『…………リーガル!』

『フン……』

 

脇から姿を現し、椅子の背凭れに片手を置き、此方へと視線をやるリーガル。

目端を吊り上げて、睨むようにワイリー様を見る。

聞いていない。

そんな不満を表すように。

 

『ネットナビの作り方は、お前から教えてやれ』

『…………』

「えぇ~! ワイリーさんが教えてくれないんですかぁ?」

 

振り返っているそこにそう、声を出す。

これに関しては聞いてない。

正直な所、ワタシとしてはリーガルでも文句はない。

上澄みと言って良いだけの知識を備えていることはレーザーマンで知っているしその構築プログラムからしてもワタシが把握出来る範囲だけで言っても内心、驚嘆に値するほどだ。

 

だが初対面のパインからすれば、どうか。

高名なワイリー博士を頼って来たのに、何処の誰とも知れない輩を紹介されるとなれば。

殆んど反射的に声に出していた。

明らかに気分を害している。

口の中に苦さが感じられる気持ちだが、

 

「ワタシはワイリーさんを頼って来たんですけどにゃ~?」

 

止めることこそ、妙な話だ。

唇を尖らせながら不満を零して見せる。

鬱陶しそうに目を細めて此方を見るワイリー様。

同じような目をしているリーガル。

 

しかし、その中の色は対照的だ。

ワイリー様はワタシの演技に呆れ気味だが、リーガルの半ばまで閉じた瞼の隙間からは煌々と輝くような憤怒の念が見える。

あまりに怖い。

 

だが素知らぬフリ。

と言うよりもワイリー様にしか目が行ってないような雰囲気を出しておく。

人間だったら既に冷や汗をかいていそうな所だが無視し、ビシッと音が出そうな具合に指を向けた。

 

「な~んでワイリーさんじゃにゃいんです? 理由くらい聞かせて下さいにゃ!」

『貴様……! 誰に対してそんな口を……ッ?!』

 

我ながら中々な言い草。

それに対し、遂に業を煮やしたリーガルが椅子の後ろから身を押し出し。

止まった。

ワイリー様の出された腕に遮られて。

 

驚いたようにその顔を覗くリーガルの瞳に写っているのは、ワタシから見えるものと同様。

酷く呆れたような表情。

他の表情なら想像出来たのだろう。

だが喜怒哀楽のどれでもない、呆れ。

その事実に虚を衝かれた様子のリーガルを置いて、その口が開かれた。

 

『何故、ワシじゃないと聞きたい訳か?』

「え……えぇ、はい」

『簡単な話じゃ。コトをソフトウェアにのみ限定すれば、ワシよりもリーガルの方に才能がある』

 

ワイリー様には。

見えていないのだろう。

ワタシを確りと見詰めそう口にされた横で、目を見開いているリーガルのことが。

 

『経験で、ワシの方がまだまだ上じゃが』等と誤魔化すように口にされて小さく笑い。

漸く視線をリーガルに向けた時には既に取り繕われた後。

これは是非とも、後々に記録データをワイリー様にお渡ししなければならないか。

そんな悪巧みを考えている頭脳とは裏腹に、口は動く。

 

「リーガルさんの方が……ですかにゃ?」

『ワシはリーガルに経験を積ませたい。お前は学びたい。それで、まだ何か不満か?』

「い……いいえ~、そう言うことだったらにゃぁんにも不満なんてありません!」

『リーガル』

『……なんだ?』

『後はパインと話せ。ボンバーマン! リーガルのコンピュータまで案内してやれ!』

「了解」

 

今まで隅で、影のように大人しくしていたフェイクマンが形ばかりの敬礼し、そのまま下ろす流れで示される先。

示されるまでもないのだが。

釣られるように手先の方向にあるショートカットに顔を向け、

 

「…………ありがとうございます」

 

向かう前。

一度、深々とワイリー様に対して頭を下げる。

目端で、鬱陶しそうに、しかし口元に小さく笑みを浮かべるワイリー様のお姿がモニターと共に消えたのを確認。

フェイクマンにも頭を下げ、ショートカットへと歩を進めた。

 

移動は一瞬。

何もない。

特徴と言えるようなものがこれと言って見当たらないエリア。

ショートカットは移動した後でもキチンと機能しているのを念のため確認。

問題ないことを理解した。

 

リーガルのコンピューターの電脳に入れた訳だが。

警戒が過ぎた。

とはまだ思ってはいない。

 

リーガルも、本当にワタシことパインを始末しようと頭の片隅にでも思っていればすぐに取り掛かる程にマヌケではなかろう。

少なくとも現段階で始末されれば、ボンバーマンの方が疑われ、紐づいてワイリー様が疑われる訳だ。

されるとすれば、疑わしくなくなった頃。

それまでに、リーガルからパインに、何かしらの情が芽生えるようにするのが理想。

 

我ながら中々に下種の思考だと嘯きながらも周囲の探索を続ける。

それほど広くない場所。

所々、恐らくはレーザーマンの製造のために使っていたと思しき、データやプログラムが見受けられる。

興味のままにそれらを眺めている中、不意にモニターが接続されたことを察知した。

 

『待たせたか?』

「いえいえ~」

 

何事もないかのように振り返る。

モニター越しにワタシに目を向けているリーガルが見える。

表情から読み取れるような事柄は、ない。

 

『それでは』

「少し!」

 

口を開き掛けた所を遮り、

 

「――良いでしょうか?」

 

有無を言わさず問う。

僅かに目を細め、顎を軽く動かした。

それに対してワタシは、口ではなく、行動で示す。

 

測る。

モニターの位置、良し。

そこまでの距離、良し。

心構え、良し。

なれば。

 

軽く走り勢いを付け。

跳躍。

緩やかな曲線をイメージした通りに描き。

自身の丈三つ四つは通り過ぎた頂点。

 

そこからの下降。

最中に身を動かし。

形を整え、

 

「すみませんでしたー!!!」

 

勢いで床を滑り、土下座を敢行した。

絶句。

とはこのことか。

 

モニターから一切の反応はないが、それでも体勢を整えたまま、身動ぎ一つもしない。

例えここにウイルスが現れたとしても、デリートされる寸前までは崩すつもりはない。

じっ、と。

ただ声を待つ。

リーガルから掛けられるのを、ただ。

 

『………………何のつもりだ?』

 

どれだけ経ったか。

冷たい声音が響いてくる。

 

「ニホンでは、謝意を示す時はこのようにすると伺いました」

『……だったら、何故だ?』

「何も知らず調子に乗ったことを言ってしまいました」

『だから謝る、と?』

「その通りです」

 

沈黙。

再びのそれ。

しかし、今度は先程よりも短かった。

ため息。

と言うよりも、息を吐いた。

そんな印象の音が聞こえ、

 

『――頭を上げろ』

「よろしいですか?」

『構わん。先程の無礼は許してやる』

「はい! 先生!」

『………………先生?』

 

僅かに思考が止まったのか。

怪訝そうな表情をしているリーガルを見上げ、頷く。

 

「はい! 教えて頂ける訳ですから、先生でしょう?」

『…………なるほど。まあ、そうなるか』

「はい!」

『……分かった。まあ、なんだ……好きに呼べ。口調は崩して構わん』

「じゃ、そうさせて貰うにゃ」

『……さて――それでは幾つか質問する。パイン、貴様がネットナビに対してどの程度の知識があるかの確認だ。誤魔化すなよ?』

「もちろんにゃ! 天才パイにゃん、学びにおいて妥協するつもりはありません!」

『ハッ! まあ良い……それではまず――――』

 

そうして。

メモを取り始めたリーガルからの質問に答え始めた。

土下座はしたまま。

 

一先ず、即行の無礼討ちの可能性がなくなったことには安堵しつつ。

しかし「先程の」。

つまりそれ以前の。

パインが、ボンバーマンのデータを流用していると思われている点にはまだ思う所がありそうだ。

なんて益体のないことを考えながら。

 

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