今年もお楽しみ頂ければ幸いです。
資格を得た。
かと言って、ワタシのやることに変わりはない。
先行きが殆んど確定はしただけなのだ。
金はある。
手続きをするための、現実世界の手もある。
であれば。
会社を設立、あるいは買収する。
それは良い。
しかし、完了するまではまだ少し掛かる。
準備や調査関連が。
なら、やれることはその間に済ませようと言う話になる。
『…………まあ、問題ないだろう』
「ありがとうございま~す!」
宿題として出されていた、何かしら作ってみろと言われていたプログラムくん。
その動作を確認したリーガル先生は鷹揚に頷いた。
文字や数字の認識。
それらを所定の箇所に入力。
そう言った機能を組み込んだプログラムくんは無事、完成。
もっと複雑な仕組みのプログラムくんも製造した。
定期的にエリアを巡回して巡るプログラムくん。
エリア補修を自動で出来るようなプログラムくん。
ウイルス発見で警報を鳴らし逃げるプログラムくん。
様々だ。
アメロッパに対しても売りに出せそうなプログラムくんも中には居る。
会社が出来るまでは売り込みに行くつもりはないが。
ともかく、色々なプログラムくんを問題なく組み上げられるだけの知識と技術を得ることは出来た。
ともなれば。
「と、言うことは?」
『……ククク。随分と生き急ぐんだな……良いだろう』
「わーい! 先生、大好きにゃ~!」
見えて来る先は分かり易い。
文字通り、諸手を上げて喜んで見せる。
我ながら大袈裟に見えるかも知れないが、内実は見た目通り。
いよいよ以て、踏み込める訳だ。
前世。
少なくとも、記録にある中。
人類が踏み入ることの適わなかった領域。
『――ネットナビについてと、その製造方法について踏み込んでいこう』
そこまで至った。
一通りの準備を整え。
と言っても、ネットナビにまで組み上がっていない疑似人格プログラムの基データが置かれているだけだが。
さて、と。
一息ついた様子の先生がコーヒーカップから口を離した。
『――まずは初めに、基本的な所から行こう。プログラムくんとネットナビ、この決定的な違いは何だ?』
「疑似人格プログラムの有無では?」
『正解ではあるが、正確ではないな』
「と、言いますと?」
『疑似人格プログラムの有無以前に、ある種の決定的な違いがある。疑似人格プログラムに由来する違いだから間違いじゃあないが』
「それが何か、ですかにゃ?」
頷いた先生が一息にカップの中身を飲み干し、席を立った。
戻って来るまでに考えろ。
そう言うことなのだろう。
プログラムくん。
ネットナビ。
その違いについて。
「対ウイルス性能?」
つまりは戦闘能力。
しかしこれは、決定的とは言えない。
極論、戦闘能力を持つプログラムくんを作れば良い。
それこそ『ファルザー』も言ってしまえばプログラムくんみたいなものな訳だし。
「移動の自由さ?」
自在にネットワークを移動出来るかどうか。
これも違う。
個別の電脳から外のネットワークに出たプログラムくん達は、ワタシの持つ記録の中に散見している。
「姿かたち?」
外見をある程度は自由に出来る点か。
いいや、外装等と言う些細な違いを先生は言わないだろう。
それにそもそも、やろうと思えば変えようは幾らでもある。
であるならば何か。
「…………」
プログラムくんと、ネットナビ。
その決定的に違う点とは何か。
普段、見ている彼等かあるいは彼女等か。
その在り様を思い浮かべ、違いを探る。
幾つか浮かぶ中。
何かが軋む音で思考の底から戻る。
湯気立つカップを持って戻って来た先生に対し、口を開く。
「汎用性」
微かに。
コーヒーを啜る音だけが響く。
言外に続けろと言うような様子に、内心で頷く。
「プログラムくんは与えられた仕事は出来るにゃ。そうプログラムされてさえ居れば――インターネットのルートの修復。エリアのパトロール。専用に組み上げれば、ウイルスとの戦闘も適う」
『…………』
「でも基本的に、それしか出来ない――けど、ネットナビはその限りではないにゃ。やろうと思えば大体、何でもできる」
正解か、不正解か。
若干緊張するワタシを他所に、カップを離した口元に笑みを浮かべた。
何ともなしに安心する。
いやはや、こう、質問に対して正解を答えられるかと言う時は妙な緊張をしてしまう。
そんなワタシの様子が透けて見えていたのだろう。
小さく笑いながら、
『少し、AIと言う概念の話をする』
カップをソーサーに置く乾いた音。
それが、やけに響いて聞こえた。
『……人工知能の略称だが、AIは根本的に二種類が存在する。
分かり易く言えば、そうだな。
パイン。
お前の言い方を少し借りれば、ウイルスと戦闘「が」出来るAIと戦闘「も」出来るAIの二種類。
戦闘が出来る方は云わば、特化型AI。
それしか出来ないAIだ。
定められた……プログラムされた仕事に対しては人間と同等かそれ以上の仕事が出来るが、それ以外は出来ない。
まあ、イかれればその限りではないだろうがな?
基本的に、お前が最初に挙げた例で言えば。
ルートの修理は出来るが、その原因の一つであるウイルス何ぞの外敵を排除出来ない。
いや、そもそもしようとも思えないのが特化型のAIだろう。
戦闘も出来る方は云わば、汎用型AI。
それも出来るAIだ。
プログラムされ、定められた仕事を人間同然に熟し、それ以外の仕事や行動も同様に出来る。
基本的には命じられたことの優先順位を元に様々な行動が出来る。
先程のルート修理の例を出せば。
ルートの補修の他に、その原因であるウイルスの排除も考え、可否の判断をし、選択し、行動出来る。
それが汎用型のAIだ。
先程までの話に戻るが、プログラムくんとネットナビ。
その違いの大きな所はこの違いだ。
プログラムくんは――ANI――特化型のAIであり、ネットナビは――AGI――汎用型のAIである、と考えれば分かり易いか』
「何か質問は?」と。
そこまでを一息で言葉にした先生がコーヒーを口にした。
こちらもこちらで、口元に指を当てる。
前世。
と思しき記録。
その中にも今、挙げられた言葉は存在する。
ANIとAGI。
しかし間違いでなければ、
「ANIとAGIじゃあ、隔絶してませんかにゃ?」
間に存在する差。
それが、隔絶と言う言葉で言い表しても良いだろう程に開いている。
開き切っている。
そう言って良い。
小さく先生の眉が動いた。
その質問が想定外だったとでも言うように動かし、少し。
間を置き、口を開く。
『その通りだ。親父や光正博士、その他であっても領域としてはANI――プログラムくんまでだ。それでも五十年近く先を行った技術と言われていたが、それでもまだ力不足になる機械が現れた』
「……パーソナルターミナル。PETですか?」
『よく分かったな? 親父と光正博士他の技術を以って作られたソレは性能が良かった。良過ぎた。極々一部の人間でもなければその機能を持て余すほどの高性能――いや、多機能と言った方が正しいか』
「どちらも……いえ、違いますね」
『そうだ。高性能ではなく多機能故に、どれほど優秀なプログラムくんであってもPETを扱い切れない。極一部の人間でもなければ持て余すだけの代物――になるハズだったのだが、それを覆された』
「…………光祐一朗」
『そうだ。アレが隔絶した差をまるでないかのように踏み越えた』
そうだろう。
それだけの差が間違いなくある。
現実世界の、機械で例えてみよう。
特化型AI。
それを印刷機としよう。
毎日毎日、新聞を刷る大型の印刷機と。
そして、汎用型AI。
AGIはその大型の印刷機にプラスして。
印刷前に文章の校正に誤字脱字の確認、刷った新聞を畳んで、おまけに折り込みチラシの挿入までして、序でのように届け先まで分かっていれば配達まで一手に引き受ける。
盛っているように思うかも知れない。
しかし。
それぐらい、隔絶した差が存在しているハズなのだ。
それを一っ跳びに踏み越えたのが、
「――――疑似人格プログラムがですかにゃ」
思わず出した言葉を、先生は頷いた。
『――人間のような多様性をプログラムで再現出来たことで、多機能なPETを不十分な人間でも十分に扱える領域に届いた訳だ』
「パイにゃん並みに天才ですね」
『ハハハ! ほざきおる――ネットナビはPETの技術を鑑みても、更に五十年は行っていると言われるような代物だぞ。笑えて来るな?』
「親父達と併せれば軽く百年先だ」なんて。
軽く言う先生の言葉は何処か白々しい。
と言うよりも。
改めて口にすれば、笑いしか出ないと言うようなものか。
ワイリー様のロボット工学の知識が創り出した機器。
光正の電子工学により出来上がったインターネット。
この二つによって積み重なった基礎がなければ、そもそも産まれるハズのなかった技術。
未だ八十年代なのに。
恐らくは二千数十年辺りの技術レベルまで、二人が結果的に執り行ったのだろう世界の技術レベルを格段に上げたパワーレベリング。
早過ぎた、あるいは行き過ぎた、歪な発展によって届いた一角。
それが、疑似人格プログラム。
光正のみでは届かず。
ワイリー様だけでも至れない。
その二人が居て初めて、見える境地。
そこに踏み入った光祐一朗。
仮に。
十数年後ならばともかく、十数年前に産まれていればこうはならなかったろう。
ただ優秀な技術者として科学省の何処かしらの部署に勤めていたのではないか。
そこで仕事をし、少なくとも、これほど早くに生み出せなかったのではないか。
そう想像させる。
そう、想起させてしまう。
時代がそう在るべしとして生み出したと言われても驚かない、まさに時代の寵児。
時代に選ばれた天才。
等と考えはしても、疑似人格プログラムに問題がない訳ではなさそうでもある。
AGI、汎用型AI、一つの完成形。
あるいはこう称するべきか。
一つの完了形、と。
疑似人格プログラム。
人間の人格を模したプログラム。
故に、人間の類型に到れども、人間を超過することは出来ないとも見える。
電脳世界の存在だから、電脳世界では現実世界の人間以上のコトは出来るだろう。
しかし、そこまで。
人間のハイエンドが出来る範囲を超えられるとは思えない。
具体的には、ワイリー様とか光正とか祐一朗とか。
あくまでも記録から鑑みてのことであるから、「だろう」の域を出ない予測だが。
話が逸れたが、まあ、ともかくとして。
お可哀想に。
ワイリー博士のご子息と言うことで、相応の成果を期待されているのだろうことも、見る機会はないが、苦労が偲ばれる。
いやしかし。
あくまでも将来的に言えばの話にはなるが。
人間の心なんて目に見えないモノを、データ化した上にダークチップなんて物に変換出来るのだ。
ソフトウェアであればワイリー様以上の才能と言うのも強ち嘘ではあるまい。
リーガルも。
いや先生も、考えれば考えるほど中々に頭おかしい。
むしろ技術的には遥かに先ではあろうとも目途が立つだろう物と、立つかすら怪しい物と言う意味で、余計におかしさが際立つ。
『……なんだ?』
「でも先生も、ネットナビについて疑似人格プログラムも解体出来るぐらい理解してるんですよね?」
『そうでもなければ先生などと呼ばせはしない』
「いやぁ~、だったら先生も大概おかしい分類に入りますにゃ。普通に訳分かんにゃいじゃないですかにゃ?」
『………………聞かなかったことにしてやる』
目を僅かに細めたかと思えば。
やがて、白けたように鼻を鳴らされてしまった。
いやはや、未来を知っているからではあるが。
それにしたって酷い対応である。
とりあえず「えー」なんて口先だけで文句を言いつつ、
「それでこの、疑似人格プログラムにゃんですけど」
好い加減、話を元に戻したい。
用意されているソレを見やる。
口を僅かに開き、沈黙。
しかし間をおいて首を振った先生が気を取り直したように言葉を出した。
『………………なんだ?』
「プログラムくんと比べてどの位、難しいんでしょうかにゃ?」
『格段に』
「でしょうにゃ~」
『だがパイン、お前が作ろうとしているのは一先ずの所、通常のネットナビだろう?』
「……それ以外があるような言い方ですね?」
『あるぞ』
「あるの?」
『完全な自立型ネットナビだ――お前のような、な』
「なん……あぁー、そう言う感じ?」
一瞬浮かんだ疑念。
しかしそれは簡単に解ける。
分かって当然。
そんな表情の先生が、口では指示せず言うように促してくる。
「要するにアレにゃ? 命令しなくとも勝手に優先順位を考えて行動出来る、って訳かにゃ?」
『正解だ。親父はポンポン簡単に作っていたようだが、普通の技術者なら一体作るのにどれだけ掛かるやら……』
「そう言う先生も、そんな時間掛けずに作れそうですけどにゃー」
お手上げです、と言わんばかりに両手を広げる。
レーザーマンについて、ワタシことパインは知らないことになっている。
純粋に「先生なら作れるでしょうけど」と言う意味でだ。
『表向きは、作っていないことにしている』
「……じゃあ、実はもう作っておられる?」
『気が向いたら会わせてやる。そうだな……通常のネットナビを作れるようになってからだ』
「は~い、パイにゃん頑張りまーす!」
本気か。
「教えてやる」ならまだしも、「会わせてやる」と言うのは既に作っていることを暗示している。
別のナビで誤魔化すつもりか。
いや。
ボンバーマンとしてそれなりに知っているが、そんな様子は微塵もない。
ワイリー様からもそう言った話は聞かないし。
なら、本気か。
此処であったことは秘密。
そう言うことになってるけども、レーザーマンの持ち主がバレれば後々動き辛くなるだろうに。
もしや。
ハッと考え到る。
その段階まで至れないと思われてるのか。
その段階に至ったらデリートされるのか。
小難しい顔で疑似人格プログラム――ネットナビの説明を始めた先生の言に耳を傾けながら、一割程度を周囲の警戒や今後の指針に割いていた。