一区切り。
色々と出来た。
いや、本当に色々とだ。
ゼフラム社からの招待に始まり会社設立、自社用ネットナビとしてスタッフマン達の製造。
次いでシステムへの侵入を試みていたネットナビ達への説得と懐柔、あとちょっと改造。
その他、交流だとか色々。
諸々で数ヵ月。
ワタシ、戦闘用ナビじゃなかったかな。
なのに何でここまで働いているのかと思う位には。
しかし、それらは間違いなく無駄ではない。
と思いたい。
『ボンバーマン』
「…………あいヨ」
プライベートエリアで動かしていた手を止める。
今日の所はバグについて色々と確認を進めていた。
疑似人格プログラムを入れていない、動作確認用のネットナビ擬きで色々と実験していた所だ。
パプルの、ボディ自体にノイズを発生させる矢の機能等を確認用に。
だがワイリー様の呼び出しより優先すべきことではない。
一旦その機能を停止させ、顔を向ける。
手を止める間にも隔離処置を進めて居られたワイリー様が丁度、ソレを終えていた。
夜半。
である。
ここ最近は会社にパインとして顔を出す機会が多かったため、特に。
あまり見られたくない研究やら一日で終わらないレベルのネットナビ製造なんぞ。
現実世界が暗くなってからが主。
自動的に、こう言った話し合いもまた、そのようになっていた。
「どうしタ?」
『お前の方は進展はあったか?』
「ないナ。そっチは?」
『そうか……此方もない』
間髪入れず答える。
そして、こう言う時にする話は決まっている。
キャスケット様。
あの方を、間接的とはいえ、殺した輩の調査。
だが、それは現状、停滞していた。
アメロッパは無能の集まりではない。
既に事件に関与したらしい者達や組織を幾つも、表や裏で捕らえ、場合によっては抵抗されたからと殺してもいる。
ひっそりと。
大国。
集団の利点。
存分に生かした動きの早さは流石。
舌を巻く他ないだろう。
実際、ワタシやワイリー様であっても収集し切れていなかったと思しき情報を確りと確保していたとか。
その辺り、ワイリー様はご自身の権限の内でコッソリと拝見したらしい。
改めて、流石。
その一言であったし、ワイリー様も唸る程だ。
だが、足りない。
求めているモノ。
根底。
まず間違いなく存在している、情報を流しただろうアメロッパ軍の何者か。
それだけがどうしても、手に入っていない。
あるいは。
掴んでいても、電子化が成されていないのか。
そこが、非合法的に情報を盗んだ此方との違いか。
候補は既に片手で数えられる程度に絞れてはいた。
電脳世界でワタシが当初駆け回り手に入れた情報。
現実世界でワイリー様が伝手や技術で集めた情報。
それぞれで調べ、それぞれで挙げた候補を重ねた結果だ。
しかし、それまで。
事件から時間も経てば入る情報も減って来る。
まあ、分かり切っていたことではあるのだが、
「つっテも、まだバレルの教育があんダろ?」
『そうじゃな……まだ暫くは詰め込んでいく。が』
「リーガルの方も、ダろ?」
『……リーガル?』
「おウ――そう言エば、まタ、ドンブラー湖行ったんダって? 何度目ダっけ? 今度は、リーガルも連れテったらシいが」
若干の疑問符。
分かってなさそうだとは思いつつ、内心の溜め息を表に出さないよう努める。
努めながら、そう言えばとでも言うように話題をずらした。
『ああ……お前が連れてってやれと言っておったからな。だがまあ、全くグチグチと……』
「ま、マ、良いジゃねえか! リーガルの教育になっタろ?」
『教育? アイツには既に十分……いや、そうじゃな。考えてない訳ではない――だが、優先順位を間違えるな!』
しかし残念。
逸れた思考を戻すように微かに声を荒げられた姿に、急いで頭を下げる。
組んだ腕を人差し指で叩いている様。
先程まで落ち付いておられたが一気に、明らかに苛立っておられる。
目を閉じられたのは僅か。
不機嫌そうな瞳が、少しは落ち着いたようだが。
しかしぎょろりとワタシを見据え、口を開かれた。
『例の――プロジェクトの件はどうじゃ?』
「ソッチもサっぱりダ」
『フン! やはりそう易々とは食い付かんか……』
舌打ちが聞こえる。
とは言え、これに関しては頭を下げたまま肩を竦めるしかない。
ワタシも努力はしているのだ。
若干、明後日の方向に行ってる気がしないでもないが。
努力自体にはワイリー様もご理解して下さっているようで、改めて小さくため息を吐かれた。
プロジェクト。
それは、アメロッパが進めているらしいと言うプロジェクト。
ワイリー様でも小耳に挟んだ、と言う程度。
ボンバーマンとしては耳に入ってすらいない。
『Project・OS』。
あるいは『OS計画』。
ОSと言えば単純に、オペレーティングシステム。
パソコン等を動かすためも根幹システムのことだが、当然違う。
耳に入っても誤解される単語に偽装されているが何でも、ネットナビに関する計画らしい。
らしい。
と言うのはお聞きしたワイリー様ご自身、それ以上を知ることが出来なかったからだ。
国家機密。
軍事機密を超えた内容とされるそのプロジェクトの概要を、ワイリー様は聞いても答えては貰えなかったのだと。
ただ、そこから調べた数少ない情報として。
派閥の関係から反対の立ち位置に居られたキャスケット様がお亡くなりになられてより活発化した、らしい。
派閥。
ワイリー様の庇護者とでも言うべき立ち位置だったため、ロボットの派閥に。
故にこそか。
対していたのは、ネットワークあるいはネットナビの派閥。
キャスケット様がロボット閥に組み込まれ、しかもその先鋒のように扱われていたとは。
しかしそうであっても、ロボット閥の方とも折り合いが悪かった様子。
まあ、簡単な理由だ。
ロボット閥で成果を挙げておられた理由が、ネットナビであれば。
それでも。
せめてワイリー様に相談でもして下さっていればとも思うが。
今更、何とも皮肉な話だ。
ともかく。
何かしら、軍の上はともかく、下の方に情報網をお持ちなのだろう。
それをお知りになられたらしいワイリー様から、ワタシにそのプロジェクトを調べるよう言い渡されたのはある意味で当然の流れである。
ストーンマンとフェイクマンと違って、パインとして他者と交流出来るから。
だからこそ、ネットナビの大手であるゼフラム社に近付いていた訳だ。
ネットナビ製造のノウハウがあるゼフラム社に。
しかし懐に入れたが故にその内情を調べても、政府に人が引き抜かれた様子がなかった。
現状のネットナビ最大手にも拘らず、だ。
そうなってしまうと、関係を深めて情報を漁るしかない。
なのでその一環として、一先ずは知名度の向上を計っていたのが最近の話だ。
正直、何某かの手も打てずにいる。
無論、こんな迂遠な行動を取らなくともワイリー様が本気で対応されればその限りではない。
ハッキングもお手の物。
だがコトがコト。
何かの拍子にバレれば立場どころか、最悪は国家反逆罪、お命を失うことに繋がりかねない。
それに別段、怪しい情報がそのプロジェクトだけと言う訳でもない。
幾つかある内の一つ。
その域を出ないのだ。
その程度のモノに何もかもを賭けるには、些か以上に気が早過ぎる。
少なくとも、まだその時ではない。
仮に、その時が来るのならば、リーガルが卒業した後。
リーガルだけでも国外に逃してから。
と言うのが共通認識である。
「しっカしまァ、ネットナビの話なのにワイリー様を入れネぇっテのが解せねェ!」
『いや、そうでもない』
「……ハぁ?」
『何処まで行こうとワシは外部の人間じゃ。アメロッパの人間ではない』
「外かラ人間、呼び込んドいてか?」
『そうじゃ』
「ソう言うモノか?」
『そう言うもんじゃ。それにワシの専門はあくまでもロボットじゃ』
渋い顔で頷いて居られるワイリー様の表情には険しさも見える。
何か、そう何か。
忌々しい思い出の一つや二つが引っ掛かっているような。
恐らくは足を引っ張られたか何かか。
まあ、また何かしらの地雷だろう。
無理に掘り起こすものじゃあない。
飛び火は勘弁願う。
それよりも今、ワタシが気にすべきはプロジェクト。
ワイリー様が呼び寄せられないのは、アメロッパ自身で行うことに意味があると考えているからだろう。
ネットナビに関する何かを。
それが何か。
「……ワタシが堂々と入るノは?」
『無理がある』
「ストーンマンの一体……は駄目カ」
『駄目じゃろう』
「ワイリー様が奥に入ル時、アイリスに調べサせるのはどうダ?」
『自主性に乏しい。残念ながら難しいな』
「フェイクマンで侵入ハ?」
『カーネルが居る。流石に厳しいじゃろうて』
「だろウな」
ワイリー様が警戒しているのはカーネルだけのようだが。
同じ電脳世界に居るワタシ目線、別にそれだけでもない。
意外と目敏いナビも案外居る。
微妙な挙動、それこそ腕の上げ下げが普段より小さかったからと言う程度、の違いから発生している些細なバグに気付いたりだとか。
決して油断出来るものではない。
口に出しただけだ。
案外、出してみるだけでも意外な思考の回り方をし始める時もある。
そう例えば、最後に挙げた、フェイクマン。
基本的に動きのなかったヤツだったが、最近そうでもなくなった。
ワタシの助言を聞いてみようと言う気になっていたらしい。
少し前から姿を変え、ネットワークエリアの警邏を行っているのだ。
と言うか、見た。
自主的に。
しかもその見た目が面白い。
何処で情報を仕入れて来たのやら。
なんと、警察官を模した姿で、だ。
右腕の肘から先に取り付けられる、リボルバー式の砲をワイリー様から頂いたらしい。
六発ごとに装填が必要らしいが、コレが中々侮れない威力だ。
頭に作った黄色い星のマークも青を基調とした姿で実に映えていた。
おまけにその時、話し掛けたワタシに名乗ったその自称と言えば、
「――――ポリスマン……?」
警察官を模した、姿。
そう。
警察。
『……どうした、ボンバーマン?』
「いヤ…………」
ふと。
思いを馳せる。
過去を巡る。
今を思う。
まだだ。
確かに。
まさか。
そう言うことなのか。
だとすれば。
アメロッパの人間だけで主導したいのも納得はいく。
何せワイリー様は仰られていたように、二ホンの科学省で研究者をしていた。
プライドが許さなかった。
あるいは、関わらせたくないのだ。
二ホンの、科学者に。
光正博士に、祐一朗。
インターネット工学のみならず、ネットナビ。
逸脱した技術力を持った個人を有するニホン。
対するアメロッパの技術が、そんな小国に劣っている訳がない。
何て絵空事を証明するための計画が『Project・OS』だとするならば。
欲するハズだ。
恐らく、アメロッパの進めようとしていることが予想通りならば。
勝手にフォルテやカーネルみたいなナビを作るつもりと考えていたが、違う。
勘違いしていた。
カーネルが居るからこそ、分かっていると思っていたが。
ネットナビを、その優位を根本的に、数で捉えているとしたならば。
作ろうとしているのは恐らく、唯一無二のネットナビではない。
であるならば、大手にも声を掛けているハズ。
踏み込むべきか。
ゼフラム社に。
売り込むべきか。
幸いにしてパインは、名誉アメロッパナビなのだから。
「………………ワイリー様」
『なんじゃ?』
「十秒ばかシ、目、閉じてクれ」
『うん? ……うむ』
本当に閉じて下さったワイリー様を横目に、脱ぐ。
ボンバーアーマーを。
大きな意味はない。
心持ちの問題である。
瞼を開かれたワイリー様がワタシに胡乱な目で見て来るが、何か言うよりも前に手を合わす。
「ねえねえ博士ぇ~? パイにゃん、お願いがあるにゃ!」
『…………まあ、言うだけ言ってみぃ』
「ネットナビを作って欲しいにゃ!」
『ネットナビ?』
そう。
「普通で、汎用的で、面白みがなく、単純で、外連味もなくて、小難しい構造じゃなく、機能性に優れて、十年先でも通用するような、これと言った特徴のない、量産性と拡張性に富んだ! そう言うナビを!」
『……要するに量産し易く高機能なナビを、か? 何を言い出すかと思えば…………』
「あと一番重要な事! ワイリー様が作ったって光正に思われないことにゃ!」
『………………それで何をするつもりじゃ?』
「ゼフラム社に売り込むにゃん」
『ゼフラム社ァ? 引き抜かれた様子もなかったんじゃろうに……何故、今更あの…………――――』
片眉を吊り上げ、ワタシを見ていた。
その、もう片方の眉もまた、ゆっくりと持ち上がって行く。
組まれていた腕が解かれ、口元に当てられる。
閉じられていない瞳が虚を見据えながらも目まぐるしく動き回り、その卓越した頭脳の中の情報を整理しておられるのだろう。
何も映さず、ただ眼が動いていた中。
不意にその動きを止めた。
真っ直ぐにワタシを捉えて、止まった。
『――――なるほど、ボンバーマン』
「パイにゃんにゃん!!!」
『……パイン。お前の考えは大凡読めた――その考えが当たっていれば、ワシの想定を下回っていることになるがな』
「流石は天才博士にゃ! パイにゃんは負けますけどにゃん!」
『だがなぜ、お前が作らぬ?』
「パイにゃんが創る子達は癖が強いので」
目と手でバッテン。
それに固まり、しかし得心入った様子でワイリー様が頷かれた。
実際、その通り。
ワタシの現状作ったナビは。
プラカードで会話するスタッフマン。
ハイリスクハイリターンのアウルム。
堕天使がモデルの弓矢使いのパプル。
その他諸々多種多様。
一言で言おう。
癖が強い。
あまりにも。
現状で特に多いのがボンバーマンの中でも癖があろうボンバーガールの子達を模しているナビ達。
当然と言えば当然の結果だ。
そんなワタシが単純に高性能なネットナビを作れるかと言えば。
まあ、作れはする。
自信はある。
しかし恐らく、時間が掛かる。
主にモチベーションの問題で。
面倒臭い仕事をイヤイヤやっても無駄に時間が掛かる。
いや、必要な事とは分かるのだが。
それはそれ。
これはこれ、と言う風に。
その点、ワイリー様なら仕事だからと割り切ってやって下さりもするだろう。
「その点、博士にゃらついさっき言った条件のナビなんてお茶の子さいさいでしょう?」
『…………さて。可能か不可能かで言えば可能じゃ』
「流石にゃ!」
『じゃが』
「にゃ?」
『パイン。お前はそれを許容出来るのか? お前の作っていないモノが、お前のモノとして扱われることを』
意外にも。
ワタシのことを心配して下さっている。
主にプライド面を、だが。
確かにワイリー様。
このお方は、光正との競争に敗れ傷心された。
ある意味ではそれが世界崩壊への一歩となったであろうことは疑いようもない。
製造主としての心。
それを甚く傷付けられることに配慮されての言葉なのだろう。
だが、
「――むしろ博士は大丈夫にゃ?」
ワタシとして心配になるのは、そちらだ。
ワイリー様の技術を利用だけする。
今回のお願いを言葉で言い表せば、それに尽きる。
ワタシ、パインの名の元にワイリー様のお作りになったネットナビをゼフラム社に売り込む。
そしてそれは恐らく、ゼフラム社は自社開発のように謳って販売する流れとなるだろう。
それこそが目的なのだが。
それを、飲み込んで下さい。
言外にそうお願いしているのだ。
心に傷が付くのはむしろ、ワイリー様の方に違いあるまいに。
『……勿論じゃ。本気で取り組みはするが全力を注ぐつもりはない!』
「ならワタシも大丈夫にゃ。それに表向き、ゼフラム社が作ったことなるハズにゃ。それに」
『それに?』
「ネットナビにはネットナビが作れない。でしょ?」
ワタシが知らなかった理論を、ゼフラム社は知っているだろう。
しかし果たして、国の人間はどれだけ知っているか。
知っていても、どれだけ理解しているか。
そしてその理解の不足を、ゼフラム社は利用出来ると考える。
「……きっとワタシの裏側に居る存在を考察して、交友のある博士のことを思い浮かべるハズにゃ。そうなればゼフラム社は表向きはワタシから、でも実際は博士の助力を得られるなんて考えるでしょうにゃあ?」
『……筋道は通っておる』
「そうなれば、何処もゼフラム社に追い付けやしない――まあ適当な時にでも、ワタシがネットナビを弄れることは示しますけど、ね?」
沈黙。
それは僅か。
口をへの字に曲げたワイリー様が捻り出すように、
『来週の同じ時間に』
と。
口にしたが最後。
繋がっていたモニターが切断された。
しばし。
切られた、モニターのあった場所を見詰める。
映像は戻らない。
そうとは分かってはいるが、何ともなしに。
時間があるのか、ないのか。
動き出したのか、ないのか。
それも分からない。
それすらも分からない。
実際これが、ワイリー様の目標に役に立つのかもまた分からない。
だが、動きを止める訳にもまた行かない。
止まればきっと、ワイリー様に置いて行かれてしまう。
それはいけない。
それは良くない。
知らず、降ろしていた腕を伸ばす。
「博士――」
ボンバーアーマーに触れ、
「――ワタシは、最期まデ付き合うゼ」
作業へと戻った。
何時ものように。