俯瞰する。
映し出された光景を。
俯瞰しながら、笑う。
巡回のスタッフマンが抜かれた。
見回るプログラムくんが欺かれた。
ファイアウォールが通り抜けられた。
痕跡から正規のルートが導き出された。
並ぶセキュリティーキーが解き暴かれた。
方々に散在しているネットナビが見逃した。
次々と突破されて行く。
半ば納得しながら見詰めている中、不意に背後から息を飲む音が聞こえた。
視線を僅かに向ける。
「は、把握出来てた二番目の侵入ナビの記録を越えました……!」
「やるではないか!」
「なるほどにゃん」
「ケッ! だがそれもココまでだな!」
セイジャがそう口にした瞬間。
鳴り響くけたたましい警報。
全体のおおよそ三割の道程。
スタッフマンや懐柔したネットナビ達が一斉に行動を開始する。
侵入に気付かれた。
そうと察したらしいその侵入者は今までの隠密行動をかなぐり捨て、走り出した。
最速。
最短のルートを進まんと。
だが。
『 !』
映像越し。
一番近くに居たスタッフマンが遂に接触。
《ラビリング》が射ち放たれたが軽やかに避け。
無視して進む。
足を止めない。
その事実にスタッフマンが逡巡を見せたが、一瞬。
即座に投擲するのはボム。
《アイスキューブ》を参考に造り上げた、《フリーズボム》。
行く先目掛けて放り投げられたソレを無視するのは流石に叶わず侵入者が足を止めた。
一瞬にして爆発し、氷塊を作り上げたソレへと背を向ける。
その次の手を確認しようとするかのように振り返り。
離れて、ただ銃先を向けるだけのスタッフマンが目に入ったのだろう。
硬直。
だが、それは悪手だ。
時間は侵入者の味方ではない。
スタッフマン達の味方なのだ。
時間にして二十秒ほどか。
ようやく先に向かう判断を下したらしい侵入者に付かず離れず。
《ラビリング》や《フリーズボム》での妨害に努めるスタッフマンを引き離すことは出来ず。
四方八方から押し寄せて来るスタッフマン達に呑まれるように。
遂には捕らえられたのだった。
「いや~、どっちもお見事だったにゃ!」
「…………」
【照れる】
九十度の角度で頭を下げる侵入者、ワイリー様謹製の、緑を基調としたネットナビ。
それを尻目に胸を張るスタッフマン代表。
両方に惜しみなく拍手を送りながら、ワタシは素直に、その結果に驚いていた。
思いの外、深くまで潜られたが。
思いの外、対応が出来ていた。
自身の性能を過信して、単独で接敵するかと思っていたスタッフマンは順当に味方の到着を待ってから確実に仕留めるように動けていた。
侵入の方ももっと力押しするかと思っていたが、自身の性能に過信することなくひたすら堅実に足を進めて行き侵入の記録が更新された。
オペレーターを抜きにして、だ。
これだけ動けていれば、及第点は十分に与えられるだろう。
問題は、
「で、にゃぁ」
「うっ……」
「まだ頑張れます! チャンスを下さい!」
「………………」
様々な反応を見せる、その他のナビ達。
懐柔したナビ達の反応が非常に悪い。
二つの意味で。
手を合わせて命乞いされている始末。
確かに、色々あった。
ナビ達の懐柔に際し、無謀にもワタシに挑み掛かって来たナビを踏み砕いたりもあった。
まあ所謂、見せしめのように。
逆らうことの愚かしさを教え込むため、少々過激にやった自覚はある。
けれども、ここまで怖がられる謂れはないと思う。
言っても此処に居るナビ達は全員、不法侵入の犯罪者だし。
「ん~…………皆さ~ん?」
「「「はい!」」」
「強くなりたいですかにゃ~?」
「「「はい!!!」」」
「ワタシの改造、受け入れてくれますかにゃ~?」
「「「っはい!!!」」」
僅かに怯んだ気配はあったけど、肯定で返って来たからヨシ。
ご安全に。
等と考えつつ、別に非道な改造をするつもりは微塵もない。
手を加えるのは主にボディ。
ワイリー様謹製ナビのプログラムで、流用出来そうな部分を利用して機能向上を計るだけ。
これはスタッフマン達も同様、一部を流用しアップデートしたい所であるし。
あと、スタッフマン達みたく例の『ココロ・プログラム』部分を更新するぐらいの予定である。
直接弄れはするけど、あんまり弄るつもりはない。
精々、ワタシを優先順位の五番目ぐらいに配置しているぐらいだ。
というか流石に。
非道な改造してそれが外に漏れたりしたら、パインの立場が危ない。
生憎ながら殆どの皆さんには、そんな考えはないようだけれど。
一分一秒でも生き延びれるなら何でもしてやるという覚悟が見える。
流石に重い。
ちなみにだが、ワタシは『ココロ・プログラム』を入れてはいない。
心とか読みたくないわ。
「何故」と問い掛けて来たワイリー様に正直に答えたら凄く微妙な表情をされてしまったけれども。
そこは譲れない。
アイリスとカーネルは知らないが、ストーンマンも断っているし。
「じゃ、ちょっと出るにゃ。明日にも本当に希望ナビが居ればチェックしてスケジュールの準備よろしくにゃん?」
【アイアイマム】
閑話休題。
一先ず、空気を変える意味でも。
「行くにゃ」と一声掛けて歩を進める。
すぐさまワタシの後ろに着いて歩いてくる、謹製ナビ。
時間を歩きながら確認すれば、十分に余裕はある。
早めに行って、準備すれば良いだろう。
序でに周りからは見えないよう映像記録を見返しつつ、カタログスペックに修正する作業も併せて進める。
ワイリー様からこの謹製ナビを受け取ったのは二日前の夜。
チェックに一日を費やして、一通りのスペック確認を進めて最終の詰めがさっき。
十日前にはもう、ゼフラム社の人間にネットナビを売り込む約束を取り付けていたから割合と急なスケジューリング。
我ながら無茶をしているとは思うけれども、
「つくづく素晴らしい出来にゃ!」
「はい。流石はパイン様です」
後ろから追従してくる言葉は軽く流す。
一先ず『MMM』の顧問にもメールで連絡。
殆んど間を置かず、返信が返って来た。
了解の返事。
あの子もPETの扱いに慣れた様子。
それは上々。
しかし、『ドルプロ』の案件とでも言うべき内容なのにアドバイスをくれるのは非常に感謝である。
そうこう色々ながら作業を進めながら行けば、体感そう掛からずにゼフラム社の前まで来ていた。
電脳世界の、だけれど。
警備のナビ達に挨拶を済ませ、奥へと進んでいく。
「あなたはこれから、ゼフラム社のナビになる予定にゃ――予定にゃんだけど」
「はい」
「何か質問は?」
「ありません」
時間にはまだ早い。
既に、ほぼほぼ決定事項ではあろう事柄について尋ねても。
返ってくるのは淡泊な返事。
アイリスとはまた違う。
本当に、何の感情らしきモノを感じ取れない。
作られたばかりで経験がないからか。
アイリスと違ってカーネルと言う前身がないからか。
どちらにしろ、だ。
少なくとも現状このナビは、物としか思えない。
心、此処に在らず。
ただ返事をするだけの物体としか。
半ば無意識に、ため息をついた。
ネットナビ。
根本的に言えばワタシとも同じハズなのに、こうも違いを感じるのは何故か。
いやあるいは。
違うことを感じようとして、売り払うことへの罪悪感を減らそうとしている疑似人格プログラムの所作か。
それとも何か。
『ココロ・プログラム』。
人間と直接的に接する機会がないから、それがまるで働いていないからこそか。
まあ、今更。
既に売り払うことは決定事項。
それがこの、ゼフラム社であるかそれ以外になるか程度の差異でしかない。
どうにも鬱々としてくる思考を断ち切るように、ワタシを呼ぶ声に返事をした。
「――――此方が謹製のネットナビ。仮称『ワールドワイド』、縮めて『WW』あるいは『W2』と呼ばせて頂きますにゃ」
ワールドワイド。
即ち、世界的。
そう言った意味を込めたことにしたネットナビ。
しかしそれよりも、ワタシが説明を始める前に配った簡易スペック表。
この場に居る皆の意識はそちらに割かれているようだった。
当然だろう。
ゼフラム社。
その、所有しているか開発されているネットナビであろうとも、この『W2』を超えるナビは存在しない。
調べるのは容易かった。
何せ、わざわざワタシの会社にまで最新のネットナビを送り込んで来てくれていたのだ。
そのスペックを確認すれば良いだけのとても簡単な作業であったし、そのネットナビのデータとフェイクマンとを併せればゼフラム社内のデータも見放題。
勿論、隠密に済ませて貰ったからその事実すら知らない様子だけど。
「――――単独処理」
数百のデータ群からなるゴミ山。
スキャニングさせ、全く同じボール状のデータを五つばかり引っ張り出させる。
「――――並行処理」
向かい合ってそのボールを投げ合う
最中、数式の処理と出た結果を文章に起こさせる。
「――――瞬発性能」
唐突にボールに《ミニボム》を混ぜる。
投げ付けたソレに対して特に何を言うでもなく平然と避け、背後のゴミ山を吹き飛ばした。
終了の合図を送る。
「此処ではお見せ出来ませんけれど、その他諸々」
ウイルス含めた戦闘。
企業としての量産性。
後々を考えた拡張性。
その他諸々。
将来的にネットナビで何が重要になるかは生憎、ワタシには分からないのでワイリー様にお任せしたけれども。
基本的な要素は押さえているようには見えたので問題ないハズ。
「――――いかがだったでしょうか?」
言いながら、手を合わせるように叩く。
ざわめいていた部屋の中が一瞬で静まり返った様子だった。
視線が交錯している。
質問はあるだろうか。
変わらない笑みを浮かべながら居並ぶ方々を見回す。
いや、しかし。
多い。
ワタシがネットナビを持って行くと言っただけなのに三十人ぐらい居る。
ネットナビ技術室の面々は予想で来ていたけれども。
ご挨拶はしたことはあった社長から専務、取締役の方々のおおよそ七割程。
その他挨拶したことはないけど上の役職の方らしいとは知っている方まで。
十日前とは言っても急な話だから十人居れば良い方ぐらいに考えてたのに。
多い多い。
そんなにネットナビの作ったネットナビが気になるか。
気になるだろうな。
今後の主力にしようとしている商品だ。
文字通り、会社の帰趨を握る意味もあるだろうし。
『……質問を良いかな?』
「社長さんから! モチロン構いませんよ?」
『このW2のスペック表……いや、疑っている訳ではないのだが、これが真実だとはどうしても分からないのだ。生憎、私は技術者ではないからね?』
狸め。
表情は、僅かに困ったようなモノにする。
社長でありながら全く知らない訳がないだろうに。
まあ、しかし、そんなことは噯にも出さず、
「あー…………そうかも知れませんね」
『だから……何だね? 少し時間を……そう調べる時間を! 貰えると嬉しいんだが……』
「ええモチロン大丈夫にゃ! ……と、失礼しました。一週間で良いですか?」
『大丈夫かね?』
視線が技術室の方々に向く。
がくがくと首を振っていた。
それこそ赤ベコみたいに。
「ただ、コピーの防止だとかブラックボックス化はさせて頂いてますにゃ」
『それもだね、聞きたいんだけど』
スッと取締役の一人が手を上げ言葉を差し込んで来た。
目を向けると、笑った表情で言う。
『仮に買い取ったとして、そう言うのはどこまで公開してくれるんだろうね?』
「全部です」
『全部か……なんだって?』
「モチロン全部、見れるようにします。そうしないと、作って販売出来ないでしょう?」
『…………そうだね。うん、確かにそうだね――分かった。ありがとう』
「他にご質問があれば」
見回して、次の質問に備える。
次々と飛んで来る質問に答え。
流し。
考え。
返し。
頷き。
時間はあっと言う間に過ぎて行く。
そんな中、
『すみませんが! バトルをさせて見てもよろしいでしょうか!』
「バトル?」
『今開発の途中ですが弊社ではネットナビ同士を戦わせるステージを用意しています』
『キミ』
『すみません部長! ですが流石に許可なく戦わせる訳にもいかないでしょう?』
「ネットナビ同士を戦わせるってことですか?」
ネットバトル。
フェイクマンのお陰で知らないではなかったけども、実用化に漕ぎ付けているとまでは知らなかった。
今回のコトに関係ない領分だったから。
帰ったら資料を見返してみるとして。
『ご安心を! デリートするレベルのダメージを受けても、ログアウトと弊社では呼んでいる特殊なプラグアウトが発生して完全にデリートされることはありません』
「そこではなく、何でネットナビ同士を?」
『それは……大型のウイルスが発生した場合に備えてです!』
微かに言い淀んだ。
それに若干の不信感を抱きつつ、帰ったら手に入れている企画書を探せば良いことと捨て置く。
今、重要な事じゃあない。
重要なのは、
「なるほどにゃ――とりあえず、ルールは?」
『HPは不公平がないよう100にさせて頂き、バトルチップは同じ物を五枚。ナビに所持させた状態で始めます』
「種類に希望は?」
『《ソード》一枚、《ショックウェーブ》一枚、《キャノン》二枚、《リカバリー50》一枚でいかがでしょう』
「大丈夫にゃ」
なるほど。
《ソード》は、ダメージ80。
《ショックウェーブ》は60。
《キャノン》はどちらも40。
勝敗を決するのは《ソード》になるだろうけれども、《ショックウェーブ》も油断はできない。
《キャノン》が追加で当たればデリート――ではなくログアウトが発生してしまう訳だから。
そうなると、《リカバリー50》の回復量が生きてくる。
《キャノン》ですぐ使うと無駄が発生するが、《ショックウェーブ》でログアウト圏内。
最初に《ショックウェーブ》を受けた際に使えば《ソード》でのログアウトからはギリギリ逃げられる。
最終的にはバスターの打ち合いが起こる想定なのだろうけれど、
『それではご案内します! ――コロッセオへ!』
なんか名前からして目的が透けて見える。
ともかく。
この後、普通に勝った。
まあ当然の結果でした。
本日はもう一話、閑話を投稿致します。