ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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057:顧問

 

プルーンの助言。

その結果は上々。

ビジターに話し掛ければ済んだ。

序でに助言も得られた。

 

ワタシ自身やスタッフマン達で表にまで連れ帰る中で入り心地を聞けば、「どこそこが甘い」だとか「あそこのセキュリティは凄い」だとか。

いやはや本当に。

ビジター。

訪問者。

その仮称に偽りはなかった。

我ながら呆れてしまう所だが。

 

『――――いかがでしょうか、パインさん?』

「………………」

 

さておき。

内面と外見を切り離す。

表情を微笑のままに固定する。

ナビであるからこそ出来る荒業。

 

それを以って行っていた現実逃避も、いよいよ時間の限界となった。

ゼフラム社。

そちらへのナビ『ワールドワイド』こと『W2』の販売。

早々に掲示された金額は、

 

『五年の分割払いで、換算すれば三十億ゼニー。不足ですか?』

 

お馬鹿。

札束で殴り付けるとはこのことか。

流石に優秀なハズの頭脳が一発で機能停止に追い込まれた。

 

もうちょっと、こう。

踏むべきでしょう。

段階とか。

 

「…………何を元にその額を?」

『現在のアメロッパの人口はご存知でしょうか? お答えしますと、まあ二億を超えています』

「二億」

『その上でパソコンの普及率はまだ十パーセントなく、PETやネットナビと言えば更に低い。家庭単位でも数パーセントないくらいでしょうか』

 

仮に、四人家族を一家庭と考えたとして。

五千万家庭。

内の数パーセントを仮に一として。

それでもざっと五十万家庭。

四百人に一人が持っている程度の数か。

 

『今のネットナビ産業はそんな僅かなシェアを奪い合う、群雄割拠の有様です。なぜそうなっているかはお分かりでしょう?』

「……将来性があるから」

『その通り! 今は一桁に過ぎない普及率も、十年二十年もすれば五十パーセントを超えて来る。超える時が来る! その段階で競り合っているようではあまりに遅い!』

 

興奮した様子で言葉を重ねる彼。

その言葉に耳を傾ければ。

まあ要するに。

今、ライバルに差を付けてしまえれば後々のシェアを独占出来る。

 

そのために使えるのがネットナビ『W2』。

他社に売られると困るから大金を出す。

ただし五年契約で。

あと流石に『W2』にだけその額は出せないから顧問契約もして下さい。

 

という事。

要約だけど。

様々な言葉を使って言い募ってくる彼の言葉に頷きつつ、内心で渋面を作る。

それを見ても、高いとは思うが。

 

「にゃるほどにゃるほど……『W2』を開発の足掛かりにしたい訳ですかにゃ」

『……その通りです。残念ながら我が社では現状、あのレベルのナビを作れはしません』

 

知っていることだが、そこをハッキリ言ってしまうのかと若干驚きつつ試算する。

パソコン。

その値段だけで言っても一台が安くても十万前後。

PETとそれを十全に扱うため内蔵されるネットナビは併せて、もっと高い。

造るための原価だとかを見繕うとしても。

 

五年で三十億ゼニー。

一年で、六億ゼニー。

将来数十年を考えるならともかく、目先を見るだけなら間違いなくマイナスにしかならないだろうに。

仮にシェアの大部分を確保できたとしても、だ。

 

折角繋がっている会社。

もっと言えば、あちらからわざわざ繋がりを作ろうとして来ている会社。

況してや色々と恩のある会社。

 

「顧問契約も承知しましたにゃ。技術顧問と言うことで……常駐するのは難しいですけど」

『ええ、ええ! 我が社に空いている部屋があります! そちらをオフィスとして貸し出させて頂きましょう!』

「ただ、不満があるとするなら」

『……何でしょうか?』

「高過ぎるにゃ」

 

万が一でも潰れられると困る。

そうでなくとも、株主とか面倒だろう。

ワタシは非公開だから関係ないけど。

 

「将来的なシェアの獲得を見込んでの金額と言われると納得できますにゃ。けど、株主は納得しにゃいでしょうにゃ?」

『……そうなるでしょう』

「それで大恩ある社長さんが入れ替わるようになるのは遠慮したいにゃ――でも、高く買って頂いてるモノを安くし過ぎるのもゼフラム社への侮辱に等しいとして…………」

『では、如何ほどを?』

「せめて五年契約で六億ゼニーではいかがですかにゃ? 年で一億二千万ゼニーになる計算にゃ」

『……此方としては、安く買わせて頂く分には問題ありません。ですが、本当によろしいのか?』

「構いませんにゃ」

 

何処か不審の色を宿した眼。

ゼフラム社としては、逃すことの出来ないビジネスチャンスなのだとは分かっている。

熱心な物言いのお陰で分かった、と称すべきなのだろうが。

 

それをあまり安くされれば、まあ都合が良過ぎると思うか。

それでも月に一千万ゼニーと考えれば中々高い筈なのだが。

さっきまで、この五倍だからぶっ飛んでいるけれども。

将来性を見込んで安いと思われているなら上々。

 

そもそもの話。

ワイリー様と話していた中で出たのは、五千万ゼニー。

総額で。

しかも夢があると笑ってしてたのがその額な訳なので。

つくづくワタシもワイリー様も、モノの価値を分かっていなかったことになる。

いやむしろ、ワイリー様の技術を甘く見過ぎていたのだろう。

 

「……でも、一つ条件を付けさせて貰いたいにゃ」

『……聞くだけ聞きましょう』

「残りのゼニーは是非とも、電脳世界の発展に役立つよう使って欲しいにゃ」

『否やもないですが、なぜ?』

「パイにゃんは電脳世界の存在ですので! 電脳世界を広げて下されば、それはワタシ達の世界が広がるってことです!」

『ご自身でやれば良いのでは?』

 

訝し気に。

そう口にする姿に小さく微笑む。

残念ながら。

主役はワタシ達じゃあない。

世界を広げられるのは、ネットナビじゃあない。

 

「パイにゃんはどれほど人に似ていても所詮はネットナビにゃ。それで広げようとしても、人間の皆さんにとって良いモノと限らないでしょ?」

『良いモノ――指先一つで細やかな幸福を享受できる世界、ですね?』

「ご存知でしたか」

『もちろんです』

「ならお分かりにもなるでしょう? 人間の幸福は、根本的に人間じゃないと分からない。ネットナビに出来るのは、どこまで行ってもその手伝いまでですにゃ」

 

神妙を装って頷きながら言えば、漸くその眼から疑いの色が薄れた。

まだ、ある。

 

「――なればこそ、ゼフラム社には今後も絶対に残り続けて頂きたいのですにゃ。人のため、ひいては、ワタシのためにも」

『……報酬金で、ゼフラム社が揺らぐと危惧されましたか?』

「まあ……全くないとは言いません。ですが改めて聞きますが、株主の方にはどう説明されるおつもりで? ご自身の責任とされるんですか?」

『…………』

 

押し黙るような、沈黙。

つまりは肯定か。

 

「後から株主の所為でなかったことにされても困ります。お互いに――いかがかにゃ?」

『……いいでしょう! 分かりました。我々人類にとっても、ネットナビにとっても、便利な電脳世界で有り続けられるよう我がゼフラム社は今後も投資を惜しまないでしょう!』

 

一つ、拍手。

手を叩く音が軽やかに響いた。

それに合わせて漸くその眼から疑惑の念が消えた。

 

安く済む理由が分かった。

その上で、パインに紐を付けられる。

顧問契約を結ぶ五年間は確実に。

次いでオフィスも貸し出せば、殆んど身内の扱いと周囲からは思われることだろう。

 

そうなれば、ゼフラム社としては技術流出の恐れも低くなる。

ワタシとしてもいよいよ、後ろ盾が確りとする。

もっと言えば、技術的な面でワタシの有用性が知られることは目的の面で非常に有り難い。

 

話は終わった。

相手方の思惑を他人事のように考えつつ徐に、耳元で指を鳴らす。

その行動自体に意味はない。

 

ただ、少しすれば会議室の扉がノックされる。

社長が応え、入って来たのはまず二人。

色々として下さっている弁護士さんと、ワタシの『MMM』の顧問さん。

 

「契約は弁護士さんと顧問さんのお二人に代理でサインをお願いするにゃ」

『ええ、予定通りに。ただ少し内容を改めなければなりません』

 

そう互いに口にしながら視線を扉に戻せば、続いて入ってくるゼフラム社の方々。

内の一人が社長に手招きされ、何事かを囁かれた。

すぐさまに出て行き、戻って来た時に持っていたのは書類の原紙が数枚か。

手慣れた様子で受け取りサラサラとその紙に書き込まれること暫し。

 

ワタシの前に差し出されたが、PETに居る所為で見え辛い。

思った時には顧問が手に取っており、見え易いようにと差し出された。

ざっと見た感じ、内容に問題はない。

 

「パインとしては問題ないように見えます」

『拝見します』

 

口にすれば二人が、いや、顧問の持つPETの中のナビも書類を目にした。

微かに漏れる感嘆の声。

元の、結ばれようとしていた契約の額を知らなければ随分と高い売り物だと容易に理解出来るだろう。

いきなり『ドルプロ』の利益が凄まじいことになる所だったが。

いや、今でも凄いし来年からどうしよう。

 

『W2』自体の値と顧問契約、オフィスの賃料他様々な代物の価値を。

それは当然。

微かに、顧問の握るPETに力が籠ったのを密やかに眺めながら口を開く。

 

「ところで一室お借り出来るという事にゃけど、どちらになりますかにゃ? あとコンピューターとかお借り出来ればありがたいですけど……」

『ああ、はい――技術顧問になって頂く訳ですから当然、開発室の近くにご用意させて頂きます』

『……はい』

 

社長が視線をやると前に出た一人。

随分前に思える、パーティ後に運んでくれたのと同じ方。

その顔は若干やつれて見えるが、特に言及はしないでおく。

十中八九ワタシの所為だし。

それよりも、

 

「何か問題があれば連絡を下さいにゃ」

 

モニターからPETのケーブルが引き抜かれる前にそれだけ言い置く。

反応があったのだけ確認して。

運ばれるままに部屋を後にする。

 

何処か軽やかに思える靴の音に耳を傾けながら思考を巡らす。

顧問契約と、オフィスの貸し出し。

金以外の面では色々あったが特に、オフィスの貸し出しが有難い。

 

何故か。

今、ワタシの本社はMMMにあることになっているからだ。

ハッキリ言えばあの場所、現実世界の警備面では心許ない。

あの場所にサーバーは置かざるを得なかったのは仕方がないのだが。

 

ともかくその所為で、物理的なハッキングを防ぐためにも役に立ちそうなデータ類はボンバーマンのプライベートエリアに置いている状態。

全てが全て、だ。

正体がバレることはないにしても、パインとして持っている情報とボンバーマンとして持っている情報とかデータ類とが入り乱れてて、ややこしくて仕方ない。

 

そう言う意味で、オフィスとコンピューター。

ゼフラム社の一室。

そこを借りれるのは有難い。

他にも周辺機器は、後々で要望を出せば良いだろう。

 

ともかく。

万が一にも物理的なハッキングが起これば、それだけでゼフラム社の信用がなくなる。

主にワタシからの。

それは、彼方からすれば望ましくない。

数少ない懸念は、貸し出してくれるコンピューターにバックドアが仕込まれること。

 

だが、コレに関しては当然されているものとして考える方が健全。

総意かは別にしても、『MMM』のシステムにハッキングを仕掛けて来ている一社な訳だし。

むしろされていなければ、ワタシでも気付けないレベルの代物が仕込まれている前提で動けば良い。

 

『…………パイにゃんさん、到着しました』

「ええ、はいにゃ。ありがとうございますにゃ」

『いえいえ』

 

入った部屋、オフィスを眺める。

専用の個室。

幹部級の方が使うような、広々とした部屋の中央に鎮座している来客用のソファとその対面に用意されたモニター。

椅子のないデスクと、そのままの流れで、既に用意されているコンピューターにプラグインがされた。

 

入ったコンピューターの中も上等。

ワタシのプライベートルーム扱いの空間と比べても、多少劣る程度。

許容範囲どころか、パインとして取り扱っているデータ類は移しても問題ないと思える位だ。

本当に何もなければ。

 

整い過ぎた状況に、『W2』を渡して早々に技術顧問の契約の話が出ていたのだろうと察しが付く。

ワイリー様謹製のネットナビ。

グレードは低いにしても、通常のソレを遥かに超えていた訳か。

つまりワタシが、技術顧問として求められるハードルも相応高い。

 

「楽しくなってきたにゃ」

 

強がりを口にしつつ、周囲を見やる。

怪しいのは幾らか。

まあ、それは追々確認するとして。

用意されているモニターとの接続箇所を探り、付ける。

まさにモニターに向かって来ていた彼が驚いた顔で立ち止まった。

 

「視界……カメラの具合も中々にゃ」

『なら良かった。これからのご予定は?』

「当然! すぐに『W2』の暗号化している部分を解除しますにゃ! 連れて来て貰えますかにゃ?」

『ありがたい! ……失礼しました。すぐに』

 

足早に去っていくのを尻目に回線状況を調べる。

繋がりも問題ない。

ゼフラム社の玄関口とも言える場所に繋がっているショートカットの他、バックドアと思わしき見えない通路も早速発見。

一先ずの所、スタッフマン達を引き連れて大捜索をすればよろしい。

 

「あ、いらっしゃいにゃ~」

 

それよりも。

ゼフラム社の社長や弁護士、こちらの顧問等々と。

続々と入ってくる人達への挨拶へと移った。

 







色々な数値は現実のアメリカの数値等を参考にしております。
ただ、数値がおかしい等があっても調べが足りなかっただけなのでスルー頂ければ幸いです。

ちなみに三十億は1980年頃のとある大手IT系の会社の年間純利益を参照にしたものです。
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