被害はなし。
直接的なナビ的被害は、だけど。
それ以外は知らない。
出来るだけ配慮はしたけれども。
何せ今回の《フリーズボム》は改造版。
スタッフマン達が持っている通常仕様とは訳が違う。
普通のボムでは一時的にしか凍り付かせることは出来ない。
しかしワタシの使ったモノは《アイスキューブ》を利用して、恒常的にナビを凍り付かせられないかと研究を進めている試作改造品だった。
最終目標は将来のフリーズマンがやらかすような、自身がデリートされない限りは破壊もされない氷。
それによる氷像化レベルなのだけれど。
流石にまだまだ試作レベル。
カーネル級と言わず、それこそスタッフマン達なんかと言ったある程度以上の能力があるナビであれば簡単に壊せる代物である。
所詮、元にしたのは《アイスキューブ》。
耐久力が百程度の脆い代物。
単純に昨日の、軍のネットナビ達の性能が低いから凍り付かせたままに出来た訳だけれど。
そう。
昨日。
パインに対して追手が差し向けられる様子もなく。
かと言って、ワイリー様に対してパインのデリートの依頼が成されることもなし。
些か拍子抜けするような状態に今はあった。
仮にだが。
現実世界にワタシの身があれば、ワイリー様の手で首を絞められていただろう憤怒の形相を前に。
正座して頭を床にくっ付ける以外これと言って出来ることは何もなかった。
正直に言えば、色々と言いたいことはあった。
概ねワタシに責任はないでしょうと。
いや、いきなり圧縮していたとは言え軍事機密だとかが山ほどメールで送られて来れば、そりゃあご心配もされるだろう。
一先ずは。
正座して、言い訳を口にしようとも思ったのだ。
だが、小さく。
「もう閉じ込めておくしか……」等と呟かれては。
ワタシに出来ることは土下座しかない。
ワイリー様が言うと洒落にならないの。
そうして、一夜が明けた。
そんな翌日の朝である。
一先ず、反応らしいモノが来ない以上は出社しておこうか。
等と考えている内に、メールが届いた。
ワタシと、ワイリー様の両方に。
来たか。
内心でそう考え、似たようなことを考えていたらしいワイリー様と共に内容を読み上げ、訝しむしか出来なかった。
ワタシは、だ。
ワイリー様は何か勘付いたのだろう。
小さく鼻を鳴らし、仰られた。
『行け、悪いようにはならん――コトの経緯だとかは後々聞く』
「あいヨ。そレはそレとしテ、すぐ聞いテ欲しかっタんダが…………」
了承。
そう返事を返し、出る。
ゼフラム社にあるオフィスへと。
だがその日一日。
ワイリー様にコトの経緯を簡素に記したモノをコッソリ送ったり、プログラムくんの元データを組みながら。
しかし、警戒は怠ってこそいなかったが。
まるでゼフラム社の方々は昨日のことを知らないかのように何の連絡も来ることはなかった。
ワタシ自身からすれば、まだ様子見の段階。
政府の動き次第でどう動くか変わって来る。
コトをばら撒いても良いし、ばら撒かなくても良い。
直接的、あるいは間接的にか。
何かしようと言った動きがない以上は、様子見。
そう。
そのまま本当に何事もなく。
数日は動き回るから来ないとも我が社ゼフラム社双方に伝えパインとしての一日は終わり、そうして姿を晦ます。
ウラに潜る、と言う体だ。
何事もなければ数日。
ボンバーマンとして、何か分かればそれが一生にも成り得る。
何とも憂鬱にそんなことを考えながら、ワイリー様の家へと戻った。
理由は単純。
回収だ。
ストーンマンとそれに、アイリス。
この二体を回収して連れて行くことにもなっていた。
あと作ってたプログラムくんの起動も。
「………………オい、準備は良いナ?」
「ゴゴ」
「…………」
ストーンマン。
今回はプルーンじゃない、今まで通りの四角い姿。
と言うかストーンマンのボディ。
その中に姿を隠したままと称するべきなんだろうが。
そしてアイリス。
此方は、少し変わった格好である。
水色のドレスっぽさを感じる格好に、仮面。
ウルトラな感じと言うべきか、仮面なライダーっぽいと称するべきか。
とにかく顔とかを隠した姿。
コスプレ。
とはまた違うが、いやはや、最初見た時はワタシも驚いたものだ。
だが、よくよく考えれば当然。
本来のアイリスの姿が知れ渡っていれば、アメロッパ軍もそれなりに力を注いで探したりしていただろう。
何せ、自軍の兵器をよく知るナビなのだから。
それがそう言うことがなかったのは恐らく、本来の姿が知られていなかったから。
実際ワイリー様がアイリスを連れてアメロッパ軍に伺われる際にさせているある種、何時もの姿。
キチンとそうしているのを確認して、頷いておく。
反応は、ただ視線を返して来るだけだ。
一先ず、
「ストーンマン」
「ゴ」
「おめえはメール、来てタろ? 見たカ?」
「……」
「見タなら良い。一先ずアイリス、おめえには向かイながら説明すル――行クぞ」
知っている様子のストーンマンは放っておく。
やはりただただ視線を向けて来るだけのアイリスは心配なので手を引きながら、相変わらず突っ立ってるフェイクマンに視線でコッソリと挨拶。
何やら恨めしい視線を感じる気がするけど、無視。
今回の件はワタシ、悪くないのだ。
次いで出入り口の脇に置いていたプログラムくんを連れて外へと出た。
念のため、待つ。
サボらないだろうか。
ストーンマンもすぐに出て来たのを確認してから歩き始める。
「今回は軍じゃナく、アメロッパからの依頼ダ」
「ゴゴゴゴ」
「確かに珍しイが、なくはなかっタだろ。マ、今回が急なのは本当ダが……」
「……」
「話が逸レた。今回の依頼は要すルに――ハッキングだ」
我ながら普通に歩きながらする話じゃあない。
まあ当然、周囲で聞こえる範囲に他のナビが居ないことを確認した上ではあるが。
そう。
ハッキング。
それもアメロッパの国自体からの依頼として。
パインに対して強硬手段に出る。
等と。
過激な手を取る訳でもなく。
「曰く、軍の防衛システムが大丈夫か、ワタシ達で確かメるっテ訳」
「ゴゴゴゴゴゴ」
「マ、確かにおめえは無理ダろうな」
不平を口にしているストーンマンに思わず笑った。
能力はともかく。
動きの遅さでは群を抜いていると言って良い存在だ。
ボディを着込んだままなら、まず間違いなく苦手分野の類と言えた。
逆に防衛方面なら頭一つ抜けている。
見た目に合わない高度な演算能力にストーンマンボディの高い耐久性、そして無尽蔵に出せて操作も出来る自身のイメージデータ等々。
元来あるであろうセキュリティと併せれば、相手したくないの一言に尽きる。
だが今回は逆の、ハッキング。
「軍のシステムをハッキングしてくれ」と来た。
ワイリー様に対しても直々に依頼している、正規の事柄。
そうなれば断るという選択肢はそもそも存在しない訳だが。
しかし、何故。
恐らくは、と言うよりもほぼ確実に。
パインとして基地を一時占領したことが端を発している事柄ではあろう。
だがそれが何故、今回の依頼に繋がってくるのかと言えば分からない。
レベルが違い過ぎる。
それに普通、そう言ったコトは秘するべきだろう。
例えワイリー様が味方であるとは言っても、身内ではないのだ。
今回もまた、意図が読めない。
意味が分からない。
「………………」
唯一考えを聞いて意味がありそうなストーンマンだが。
何だ。
駄目そう。
見るヤツが見れば分かる。
ヤル気が微塵も感じられない。
ワタシに付いて来てるのもただ単に、バックレた後の面倒事と比較した結果でしかない雰囲気が漂っている。
ただこれで知らない輩が見れば、与えられた任務を忠実に遂行する寡黙な巨像、みたいな感じで人気が有ったりするのだ。
実際は虚像な訳だが。
今は。
たまにやる気を出すこともある。
アイリスは、何だ。
色々と考えてはいそうだが、それらを飲み込んで事務的な返事しかして来なさそうな雰囲気で聞き辛い。
そうこうとウイルスを適当に蹴散らしながら数十分ほどか。
言葉少なに散歩するような感覚で、現実世界的には結構な距離を移動して着いた。
目的の場所。
アメロッパの中枢地区に程近いネットワーク。
スクエアではないが、広場と言って差し支えのない広々とした空間に佇む一体のナビ。
「よウ、カーネル」
「待っていたぞ。ボンバーマンとストーンマンと……全員居るな」
視線をそれぞれにやり、しかしアイリスで言葉を飲み込み、逸らした。
それに対して言及はしない。
流石にコトがプライベート過ぎる。
だがそれより、後に付いて来ていたソレを一瞥し、ワタシを見た。
「それは?」
「今回ノに少し使おウと思ってナ。問題あルか?」
「……いや。今回の案件は手段に対して特別な指示はない」
「なら良いダろ?」
「ああ」
連れて来ていたプログラムくんをもう一度だけ見。
振り払うようにマップデータが目の前に広げられる。
それも現在判明しているアメロッパに関連する電脳世界の全域マップ。
さり気なく知らない地方が広がっているのでそこをワタシ自身のモノに反映させ、表向き何でもないように先を促す。
頷いて、その手を動かした。
瞬時に現れる赤い点。
それが五つ。
「一ヶ所多いんジゃないカ?」
「コレで正しい。まずは各々、ここより離れた四ヶ所へと向かう」
口にしながらその指先を動かせば、連動して四ヶ所の点がスコープのマークのように強調される。
併せて現れる赤い線。
その先に、それぞれの名前が掲示された。
どこどこの港湾基地だとか、なになにの空軍基地だとか。
まあ様々。
恐らく、他と比較して規模が大きいだとか交通網が近い重要な拠点と言って差し支えないだとかだろうか。
「明日の零時から二十四時までを作戦時間とし、向かった者がその拠点のシステムを掌握する。無論、掌握が完了した後には開放して貰うが」
「相手側はソレを知っテるか?」
「勿論だ」
「被害は何処まデ許容さレる?」
「全て。セキュリティを強引に突破しても、何十体のナビをデリートしても構わない。一日と言う制約の内に収まるのであればあらゆる被害は今回、許容される――基地の電脳内部に限定はされるがな」
「ダとよ、ストーンマン。良かっタじゃネえか」
「ゴゴ」
「悪いが全て終わった後には復旧を手伝って貰うことになるだろう。そこは頭に入れておくように」
「ゴ…………」
被害が許容される。
と言うのは一瞬驚いたが、そう言う事か。
多少の被害であれ、ワタシ達の手が加わるなら弱くなることはないだろう。
そう言う意味ではむしろ、派手に破壊して侵入される方が望ましい位には考えていてもおかしくはないか。
まあ。
横目でストーンマンを見れば、面倒臭そうな雰囲気が濃くなっている。
被害を少なく済ます、と言うのは岩を生成して落とす戦法が主なストーンマンからすれば殆んど不可能と言って差し支えない。
要するに。
今回の作戦に参加が決定した時点で残業が確定したようなもの。
時間を見付けて手伝い位はしてやるべきか。
「――そして」
「ア?」
「ゴゴ」
「……」
「作戦の成功失敗を問わずその翌零時から二十四時までに、一度此処に再集合した後、我々は防衛本庁への侵入に移る」
「本気カ?」
思わず言葉が衝いて出た。
そしてそのまま視線をやる。
一回り大きな赤い点として表示こそされてはいたが。
カーネルの後方彼方。
アメロッパの中枢の、更にその中枢。
数多のセキュリティとネットナビによって防衛されている最重要拠点の一つ。
軍事中枢。
即ち、アメロッパ三権の一角。
そこに足を踏み入れよと言うのだ。
流石に命の危機を感じる。
いや、既に大概な情報をワイリー様に送った後なんで今更なんだが。
下手なモノを見てしまえば、デリート必須になるんじゃあないか。
「本気のようだ。そしてその際に発生した被害等に関しても、不問とされる」
「正気と思えネえ……何かあっタのか?」
「……私にも全ての情報が入ってくる訳じゃあない。だが今回のことが許されるだけの何かがあったようだとしか…………」
「ンー……」
僅かばかり、眉間に皺を寄せているカーネルの姿からその言が真実であろうことは知れた。
何か知ってるか。
そういう表情を作りながら一応ストーンマンとアイリスに目を向けるが、答えは沈黙。
となると十中八九、パインの所業が理由だろうが。
「マあ、良い」
手を叩く。
空気を変えるため。
益体もなく、各々が沈んでいた様子であった思考の沼から引き揚げる。
「まズは四ヶ所。何処に誰が行くかダ」
「好きにして構わない」
「ストーンマン、アイリス、希望はアるか?」
徐に、ストーンマンがトングを取り出し四ヶ所の内の一つを示す。
何処が良い等と示すのは少々意外だったが。
なるほど。
何かしら考えはあるのだろう。
念のためにカーネルとアイリスに目を向けるが、反対する様子はない。
顔を見ながら頷けば、ゆっくりとした動作で動き始める。
向かうと言う事だろう。
だがカーネルを見れば渋い表情をしている。
勝手に動き始めるのには苦言の一つも言いたいか。
軍事ナビだし。
しかし飲み込んだ様子で視線を切り、ワタシへと向け直した。
「希望はネえ。三番までのクジで行こウ」
「――問題ない」
「…………」
早速残った三ヶ所。
手早くそれぞれ時計回り順に番号付けを行っていくカーネルを尻目に、数字付きの導火線を作る。
一瞬で終え、数字を隠したソレを見たカーネルが振り向き様に一本引いた。
残り二本。
無感動そうにワタシを見るアイリスに示せば、少しの間を置いてから一本を何処か恐る恐ると言った具合に指先で摘まみ、ゆっくりと抜く。
「――――では、また明後日までには此処で」
「オう! どっチも気を付けテな」
「…………はい」
「! ……では。行動開始!」
そう言うコトになった。
弾かれるようにカーネルが。
ゆっくりと、アイリスが。
まだ姿の見えるストーンマンが。
それぞれの背中を見詰めてからワタシが動く。
主に遅いストーンマンが居ない以上、ゆっくりする理由もない。
片腕で連れて来ていたプログラムくんを抱え上げ、走る。
向かう最中、確認もする。
装備に問題なし。
道具に問題なし。
プログラムくんは、着いてから確認すれば良い。
バグのチェックまではしてないが。
パインとして先日侵入した感覚で言えば慢心さえしなければ何とかなるだろうと言う感覚。
これこそが油断か慢心でなければ良いのだが。
と言うことで。
全ての準備を整え終わった、二十三時三十分。
間近に、基地の電脳。
道中は特に何もなく、然程の問題もなく到着した。
その後は暫く、周囲の確認やプログラムくんの調整に時間を使ったもののそれだけ。
周囲を監視しているナビの姿は見受けられたが、ワタシが見付かることはなく。
無事、目の前までやって来た。
堂々と正面から近付いて行けば、露骨に警戒する六体ほどのナビ。
とはいえ性能はお察しだが。
それに対して両手を頭の横辺りに掲げながらゆっくりと近付いていく。
ある程度の距離の所で足を止め、
「…………ヨっ!」
「ああ……ボンバーマンさんですか。と言うことは?」
「オう。此処の侵入役はワタシになっタ」
「了解しました。ちなみにその恰好は?」
「ソレっぽいダろ?」
「ハハ……よろしくお願いします」
「よろシく」
軽く挨拶だけ交わし、外套データを羽織り直す。
如何にも怪しい外套姿。
ワタシがこの格好で侵入すると印象付けは完了。
あとは、追って来ていないことを確認。
周囲の目がないのも察知。
「………………じゃ、頼んダ」
「分カリ マシタ !」
元気の良い返事をしてくれる、さっきまでのワタシと同じ、外套姿のプログラムくんを見送る。
基地の方から見えそうな辺りをひたすら動き回ったり逃げ回ったりするようにお願いしてある。
そのための周囲の地形の確認も済ませた後。
ウイルスに対しても逃げ回るようにも言ってある。
まあ先日の経験から言えば。
バレないように侵入するにしても多分、半日掛からないだろうし。
俄かに騒がしくなったように感じ取れる基地方面。
時間を確認すれば、既に開始時刻を過ぎている。
「ジゃ、始めマすか」
そして、意味もない伸びを軽くしてから。
基地へと歩を進めた。