「――――これでお分かりになったでしょう」
映像、である。
映像でしかない。
それでも、腹の底から冷えるような映像だった。
無残にもハッキングが完了された国防総省。
その、メインシステム。
映像を眺めながら、何処か笑い事のような気分で口を開く。
私に向けられる目は様々だった。
疑心。
感心。
困惑。
猜疑。
嫌悪。
興味。
悪意。
好意。
様々な感情が入り乱れた混沌とした内実。
その中でも、初めから分かり切っていたことを言うように口を開く。
開かなければならない。
そうしなければ、お終いだ。
「我が国アメロッパは電脳面に疎く、非常に脆い」
「…………」
「私とて、パインに依頼を掛けた時は半ば疑心に満ちておりましたとも――実際、出来るのかとね?」
「……その結果が、アレか」
「ええ。そうです」
演習。
ということになっている、私の基地の掌握から始まり。
次いで、ネットナビ四体による基地四か所。
最後に、ワイリー製を除いたアメロッパ軍の多くが集結した防衛本庁での迎撃。
それはあまりにも無残な結末を迎えた。
標的を誤認させられた末の同士討ち。
戦闘型のハズが最小の戦闘での占領。
高速機動による各所設備の支配奪取。
弾幕の雨を抜く圧倒と称すべき侵攻。
四者四様しかし性能を魅せ付けられ。
そしてその四者が集まった結果は語るまでもないが。
しかし、脳裏に残る。
溢された一言。
あまりにも無常な言葉。
『ワタシ達で三時間切レなかっタか』
酷く、残念そうに溢されたその発言。
何処か訛りを感じさせる、ボンバーマンの言葉。
それに対する残りの三体の反応もまた傑作。
カーネルはまだ良い。
渋い表情を浮かべただけなのだから。
ストーンマンは瞳から光を消して沈黙し。
アイリスは『次は三十分詰められる』等と呑気な発言。
国防総省。
アメロッパ軍の中枢。
国防の要をたったの四体で占領して見せながら。
「渋滞で遅れた」だとか「電車が遅れなければもう少し早く着いたのに」とでも言うような。
あまりにも、軽い感想。
実際、そうなのだろう。
あの四体に掛かれば。
あるいは、超高性能ネットナビの手に掛かれば。
国防総省の玄関から最深部まで入ること等、小高い丘にピクニックへと訪れたようなモノ。
それが現実だ。
今、確かにある現実なのだ。
「…………確かに基地のことは独断専行。罰せられるべきことでありましょう」
「………………」
「しかし、共有したかった。共有しておきたかった。我々はあまりにも危機感が不足していることをっ!!!」
「……だからこその『OS計画』だろう」
「これでッ! 失礼……これを見て、それで足りるとでもッ?」
「………………」
見渡しても。
誰も、何の言葉を発しない。
発すること等、出来やしない。
利益。
不利益。
国防費。
国家予算。
様々な考えが各々の中を過ぎっているのは分かる。
しかし足りない。
あまりにも。
危機感が足りない。
足りていなかった。
「大統領!」
テーブルを叩き、最奥。
そこに居られる方を見据える。
酷く悩まし気に、額を抑えている。
心労は察して余りある。
だが、言う。
言わなければならない。
それが、私が行い、知ってしまった者の責務として。
「足りないのです! 『OS計画』だけでは!」
「…………君が口にし、今回の演習に組み込んだ通りだった。極々一部のネットナビの性能は他から隔絶している」
「ええ。他の、ただのネットナビではこうはいきませんでした。ご存知でしょう?」
口にしながら周囲を軽く見渡す。
多くが渋い表情をしているが、事実。
緊急メンテナンスと称し行われた、ワイリー製の四体を用いた演習。
その結果。
即刻、その後それ以外のネットナビで行われた演習。
それでは、その悉くを阻むことに成功した。
私にとっては幸か不幸かだが、成功できた。
「………………何が必要だと考えている?」
「圧倒的な個」
間髪入れず返す。
しかし返ってくるのは沈黙。
それでも私は、口を回さなければならない。
「――『OS計画』は、我等がアメロッパの国力による数の利を以て電脳世界を掌握する計画と言えるでしょう――いえ、言えたでしょう。そしてそれによってあらゆる事柄を防ぐことが可能だと、誤認していたことでしょう」
『OS計画』。
アメロッパの国力を以てネットナビを製造。
数の利を以て電脳世界を万全に固め、絶対的な優位を築く。
ある種の電撃作戦。
未だに出来上がり、然程経っていない新世界。
その秩序を支配する。
「『OS計画』による高品質なアメロッパ製のネットナビ量産。それに伴い治安維持を進めアメロッパこそ、いえ、のみがその治安を守れるようになる。それを出来ると私自身、信じておりました」
全能なる、我が国が。
明確な、力を以て。
頑強な、盾となり。
傑出した、兵隊を率い。
適切な、制裁を行い。
圧倒的な、安定を催し。
最初の、象徴として。
唯一無二の、安全を創り出す。
そして。
電脳世界における、公的な、救世主。
ソレを創る計画。
『Official Saviour Project』。
アメロッパこそが電脳世界を制御する、唯一無二のシステムとなる。
そうなるべくして推し進められてきた根幹。
それがあっさりと揺らいだのだ。
たった四体。
いや。
五体のナビの存在によって。
「しかし、足りなかった! 我々には、電脳世界への理解も、ネットナビと言う存在に対しての理解も…………舐めていた!」
ストーンマン。
ボンバーマン。
カーネル。
アイリス。
Dr.ワイリーによって製造された四体。
のみならず。
同じく基地制圧を成し遂げたパイン。
ニホンより逃亡し捕まっていないフォルテ。
ボンバーマンが勝てぬと断言したセレナード。
フォルテはまだ、未知数ではあろう。
しかし、言ってしまえばボンバーマンとセレナードのコンビを相手に逃げ遂せた。
その実力を過小評価するのはあまりにも危険。
極少数しか存在しないとしても。
「現実世界のように、数の利と十分な質さえ用意出来れば、どれ程までに突出した個であっても問題ないだろう、と」
「……数だけ揃えても意味がない」
「その通りです! 国の根幹は武力! 必要な武力は、確かに現実世界で有ればある程度の質と量が揃っていれば十分だったでしょう。しかし、電脳世界は違う。足りない!」
武力とは、国を守るための力である。
国が国で在り続けるために必要な根幹である。
武力がなければその国は、他がどれほどに優れていようともあっさりと侵略されてしまうだろう。
武力だけであればその国は、国としての体裁すらも保てず崩れ落ちてしまうだろう。
抑止のための武力。
対抗のための武力。
平和のための武力。
力がなき理想など空想でしかない。
武力だけでは駄目だ。
しかし、武力がなければ駄目なのだ。
そしてこのアメロッパ。
現実世界はともかく、電脳世界は、どうだ。
「ハッキリ言いましょう。アメロッパの電脳世界は、Dr.ワイリーの手によって守られている」
キャスケット。
忌まわしき、ロボット派閥。
時世の読めぬ愚か者達の一派。
唯一認められる所は、Dr.ワイリーをアメロッパに引き込んだことだ。
だが、
「守られていた」
死んだ。
それからのDr.ワイリーの様子はどうだ。
まるで生ける屍のような消沈具合。
キャスケットの息子を教育することで自身を奮い立たせているようだが、それが終わればどうなるか。
「ですがご存知でしょう? Dr.ワイリーの有様を…………」
何処ぞへと隠居してもおかしくはない。
いや、歴史の中に消えて行くことだろう。
この度の演習を見ていても、大した反応はなかったのだ。
そのような状態で、ストーンマンとボンバーマン、アイリスを残して行くか。
行く訳がない。
そもそも、個人の有する武力に頼っている時点で良いハズがないが。
それでも、想像してしまう。
残ってくれれば、良い。
しかしそれは希望的観測に過ぎない。
「多少の質では足りない…………」
終わりだ。
残されるのはカーネルのみ。
ソレでは足りない。
パインに。
フォルテに。
セレナードに。
他にも存在し得る有象無象の強者に。
対抗し得る存在が。
たったの一体のナビしか居ないのであれば。
仮に、抑えられるのは中枢のみ。
アメロッパ全体の電脳世界。
その安全は地に落ちる。
故にこそ、
「数を揃えるだけでは足りない! かつての、騎士の時代の闘争に戻るようですが必要なのです! 強大な質が! 圧倒する個が! 絶対的な象徴が! 英雄と称せる存在が!!!」
「………………なるほど。話は分かった」
「大統領――!」
「君の考えたプロジェクトは、十分に精査させて貰う。そこは、安心してくれたまえ」
「ありがとうございますっ!!!」
その言葉に安堵する。
安堵しながら、深々と頭を下げた。
「………………よろしかったのですか?」
回心した。
そう表すように頭を剃って現れた軍人が出て行って暫く。
半ば呆れたような声が上がる。
それに対して苦いモノを噛み締めるようにしながら、一人の、大統領と呼ばれていた男が応えた。
「良い訳、あるか……っ」
歯が軋むのではないか。
そう思えるほどに噛み締めながら言い放つ眉間に皺を寄せ、しかしその目は残された計画書から目を離せないでいた。
あの軍人がやらかしたこと。
本人は隠し通せているとでも思っているのだろう。
だが、
「…………ネットナビ・パインは危険です。如何しましょうか?」
「元々はアレがやらかした始末。仮とは言っても権利を与えた存在にして良い対応ではなかった」
「しかし。基地を制圧したのは事実でしょう?」
「演習と言うことでアレが責任を負った。ギリギリを立ち回ったものだ……小賢しい。そもそも事実を話すと思うか?」
「あの様子では、話さんでしょう」
既に十分に調べ上げられている。
自身が基地の頂点に立ってから行われていた、半ば私物化。
密やかに伝えられて来ていた情報を元に、如何した物かと思い悩ませられていた。
中での、この始末。
『OS計画』の先鋒として自身を確立したかったのだろうが。
ネットナビ・パイン。
社会実験の一環とは言っても、確かな権利を与えた存在に対して。
恐らくはしたのだろう。
差別、拘束、監禁、暴虐、その挙句に一時とはいえ基地を乗っ取られた始末。
誰かに諭されたか。
性能に目が眩んだか。
理由までは定かでない。
大した理由はないだろう。
パインがアメロッパに対して従順だったから良かったものを。
そうでなければアメロッパは既に地獄にあった。
内紛が巻き起こっていたことは想像に難くない。
そこからどれ程の国民が犠牲になったことか。
回避されたのは単に、運が良かった。
パインと言うネットナビが、アレで平和を愛しているようだからだろう。
そうでもなければ本当に地獄だ。
国民の躰が山と積み上がっていたのは間違いない。
幸いにして、全責任をアレに押し付けてくれたお陰で諸々は丸く納まっている。
演習の事実自体は、緊急メンテナンスと称して情報封鎖を行った。
多少の不便や文句の声があったらしいが、些事だ。
故に、他国を含め知る存在は多くないだろう。
この情報を独占出来ていること含め、有益に納まった。
納まっているが、問題もある。
果たして今後、パインからの協力を受け続けられるかという問題。
ただでさえ、現実世界の戦力をDr.ワイリーの力で揃える準備を進めていた段階であったと言うのに。
妨害工作によってそれも頓挫。
ある程度は絞り込み、それ等の動向を見ている段階だが、今更のこと。
ただただ後の祭り。
ニホンの無人戦車に近しい武力を確保することこそ出来たがそこまで。
アメロッパの科学者では応用が出来ないとの報告。
他国を引き離せているとは言い難い状況。
いやそもそも、そう言ったモノがあったとしても、
「――環境維持システム」
「………………」
「思えば、あのシステムはニホンの罠だった訳ですね」
「……だろうな」
Dr.ヒカリを中心に据えた、ニホンの国家プロジェクト。
『環境維持システム』計画。
しかしそれは、頓挫していた。
単に、資金不足等の面でだ。
アメロッパをも巻き込んだ『プロト』騒動に、復旧されたネットワークを暴れ回った『グレイガ』と『ファルザー』。
その復興だけでもかなりの予算。
のみならず、被害を受けた者達からの反対等々と。
幾らDr.ヒカリが人類最高峰の天才であろうとも、金がなければ如何ともし難い。
そうして泣き付かれたのが、アメロッパであった。
『プロト』騒動への謝辞。
それも勿論あったが、それだけではない。
ヒカリファミリーの技術力。
ソレが確かなモノであると知らしめて来た上での、ニホンからの交渉。
『環境維持システム』という、真実であれば破格のシステム。
共同の国家プロジェクトとして資金提供を依頼され、本来ならば鼻で笑う所。
だが、Dr.ヒカリ等ならばと思えたからこそ。
ニホンは、実を。
アメロッパは、名と実の両方を。
得られるだろうと許可していた。
許可してしまっていたのだが。
「…………電脳世界」
Dr.ヒカリが根幹を創り出したと言える世界。
そこは、圧倒的な質こそが他を凌駕する世界。
やられた。
その一心に尽きる。
タダシ・ヒカリ。
ユウイチロウ・ヒカリ。
この二人が、電脳世界への理解が深い規格外の技術者が二人居れば、ニホンは圧倒的な質を用意出来る。
アメロッパには現状それを用意出来る存在が、専門外な上に消沈したDr.ワイリーしか居ない。
他の研究者は駄目だ。
カーネルどころか、ボンバーマンのデータの暗号化すら未だに解除解析出来ていないと言うのだ。
パインを作り出したのだろう何者かは、成功したようだが。
逃げられているようでは万全とは言えない。
いや、そもそもの話。
出来た所で追い付けたと言う結果にしかならないだろう。
だが、それでも。
忌まわしいことに。
ニホンから名実を共に奪い、否、共有しようとしたことでアメロッパは電脳世界へと資金を注がねばならない。
『環境維持システム』を利用するならば、電脳世界が必要である以上。
「パインの作ったと言うセキュリティが異様に頑強とされていたのは、此方の先入観でしかなかった訳だ」
「……恐らくは。パインが自身を基準に考えたセキュリティだったのでしょう」
「ただのショッピングサイトのセキュリティ……それが今や、アメロッパ最高のセキュリティか……」
「匹敵するのは現状クリームランドのみ」
如何なるネットナビやハッカーを以てしても、最奥の深さすら知れぬ。
ただの、ショッピングサイトのセキュリティ。
異様。
何かを隠しているのではないかと思わせる程に。
しかしそう思っていたのは此方だけ。
あるいは、彼女以外だけか。
本来、彼女から守るためには国家機関をしても調べることの出来ないレベルが必要だったと言うだけの話なのだろう。
「…………クリームランドに技術協定を設けるのは?」
「あの小国に?」
「今はどうも引抜工作が盛んだ。万が一にも此方の情報まで漏れては敵わん」
「おうおう。急ぎではあるが、急ぎ過ぎて足元を掬われるのも問題だ」
「ぅん。他国はネットナビの脅威を我が国程は知るまい……」
「警戒すべきは……」
「やはりニホン」
システムを支配されないように防御を固めるには。
些か、外れ値を参考にしている気がしないでもないが。
それでも、可能な実例が居る。
故に、ニホンに対して負ける。
電脳世界の質で。
そう。
現実世界の武力。
それもまた、基地制圧と言う実例によってカバー出来ることが証明されてしまっているが故に。
小賢しい。
とは言うまい。
目を晦まされるにしても、餌が上等過ぎた。
己の持つ優位を存分に発揮するため、巧く立ち回られた。
そう称するしかない、が。
「……だが幸い、ニホンは我が国を侮っている。そうでなければ『環境維持システム』の話を持って来はしなかっただろう」
「その通りです、大統領」
「我が国の総力を結集すれば、アレの言っていたように英雄を創り出せる。そうだろう?」
「間違いありません、大統領」
「『OS計画』は引き続き進める。ある程度までならば、あの計画は十分に役に立つ。カーネルの体は一つしかない――今更引き返せるモノでもない」
「よろしいのですか?」
「プロトの件のように、やはり数を用意することは必要だ。併せて進める」
その場の全員が厳かに頷く。
そう、必要な事なのだ。
世界の秩序を守るのは他の誰でもない、アメロッパでなければならない。
そのためには、確かな武力が必要である。
電脳世界であっても、それは変わらない。
「――――最低限の目標は、パインをデリート出来るレベル」
「!」
「本当にデリートするつもりはない。役立っている――愛すべき国民の一人。しかし、出来るレベルは必ず必要なのだ。分かるな?」
「……はっ」
誰かが唾を飲む音が響く。
ネットナビ・パインをデリート出来るレベル。
即ち、カーネルに相当する戦闘力。
それは理想としては高い。
そう理解してしまっている。
単独で基地を制圧出来る等と。
現状でソレが出来るナビはどれほど居るか。
片手で数えられない程は居るだろうが、両手ではどうか。
それ位の、特異な事例なのではないか。
疑念はある。
だが、必要なレベルではある。
その場に揃っていた誰もが、理解していた。
パインが基地を制圧したことを犯罪とした場合。
現実問題。
捕縛が出来るか。
デリート出来るか。
カーネル以外で、それを成せるか。
成し得なかった場合の次善の策は。
アメロッパには一つでも、あるか。
ない。
ない。
ない。
何も。
ないのだ。
不幸なことに、パインは既にDr.ワイリーと交流を重ねているとの情報が入っている。
そんな存在に対し、Dr.ワイリーに協力を求めることは可能か。
協力する等と嘯いてその懐へと抱え込みはしないか。
そうなれば、彼の御仁が大いなる武力をどれだけ抱え込むことか。
いや、そもそもとして。
唯の一存在に対して勝利出来ぬ国家に、存在意義があるのか。
「成さねばならぬ。何としても……」
現実世界ではない。
電脳世界、である。
しかし、それを言い訳に出来ようハズがない。
武力を行使し、勝つ。
個人に成し得ぬことを、成す。
それこそが組織。
それこそが国家。
にも拘らずそれを成せぬ等となれば。
権力を保証する武力が体を成せぬなら。
揺らぐ。
国家の威信が。
国家の存在が。
国家の意義が。
国家の根底が。
全てが揺らぐ。
「――引き続き、ゼフラム社より協力を得ると言うコトで?」
「それで問題ない。パインが口外していないようで、それだけは幸いだった」
幸いは、パインが口外していないこと。
現在の最大手、ゼフラム社から何の苦情も来ていない。
油断か。
慢心か。
それとも、真心か。
どれであるにしろ、救いだった。
現状で唯一、パインを繋ぐ伝手。
其処とアメロッパの関係が悪くなっていないことは。
もしも口外されていれば『OS計画』すらも怪しいことだっただろう。
「――あとはニホンより引き出せるだけ引き出せ」
「乗るでしょうか?」
「乗らせろ。どう言おうとも進めるための金は此方が握っているのだ。乗りたくなくとも乗らない訳がない」
「一先ずは技術者。次いで『環境維持システム』の一部でも手に入れる方針で?」
「そうだな――万が一があれば単独で進められるようにする必要がある、か。タダシ・ヒカリにも何とか声を掛ける必要がある」
「冷遇されている科学者が居るはずです。例の」
「益にならねば意味がない」
沈黙。
沈痛と称すべきか。
どうこう出来ることではない。
それでも肌を焼くような焦燥。
堪らずにか誰かの呟きが響く。
「……場合によっては、Dr.ワイリーにストーンマンかボンバーマンかを売って頂くことも考慮すべきでは?」
「――優先するならストーンマンだろう。全くデータがないからな」
「しかしそもそも、あのワイリー殿が売って下さるでしょうか?」
「方法は色々とある。ご老体だ――平和的に、話し合う手段も多かろう」
「その考え最後まで仕舞っておけよ?」
僅かに上がった笑い声に、空気が些か軽くなった。
選択肢としてない訳ではない。
だが、早々に挙がって良い物ではない。
思い出したように一人が口を開く。
「例の……プロトバグを利用したと言う電脳兵器に関しては?」
「当初の契約通り協力の対価だ、受け取りはしよう。いざとなればニホンに対して行使することも有り得る」
「ゴミの管理を押し付けられたかと思いましたが、こうなれば悪くないですね」
「あまり言うなよ? ――あるいは彼方なりの誠意だったか?」
「勿論です。それで、今更ですが――アレは如何しましょう?」
アレ。
そう口にされる存在は、この場では一人しか居なかった。
基地を乗っ取られる切っ掛けを作った愚か者。
同時に、電脳世界の危険性を伝えに来たアレ。
起きたことで功罪のみを見れば、功が大きいあの男。
「アレ自身が持って来た計画だ……率先して動いて貰う」
「……と仰いますと?」
「ゼフラム社……いや。パインに対しての交渉を任せる…………そうだな、省のセキュリティ課長辺りでどうだ?」
「…………それは……」
「やったことは愚かだが、故にこそパインの弱みを握っているとも言える。全ての責任だけを取って貰おうじゃあないか」
「承知致しました」
応えながら交わしたアイコンタクト。
受け取った者が敬礼し、速やかに出て行く。
自身の出した計画の責任者となる。
他はともかく、責任だけは必ず取って貰う。
果たしてアレが喜ぶか。
喜ぶだろう。
偉大なるアメロッパの礎となるのだ。
喜んでもらわなければ困る。
「――『OS計画』は失敗ではない。ただ、我が国は電脳世界への、ネットナビへの理解が不足していた」
言い聞かせるように。
大統領が言葉を零す。
動きを止めた周囲の視線を受け止めながら、ゆっくりと書類の一枚を見せる。
その様子を見せ付けるように。
残していった計画。
穴は多い。
詰めるべき部分はまだまだある、
それでも。
「故に、この計画は必ず成功させる必要がある。アメロッパの総力を結集し、アメロッパこそが頂点であると示すためにも――遂行させる」
アレが残した計画を。
利用するだけ利用する。
それこそがアメロッパのため。
全ては、アメロッパが世界の大国で在り続けるため。
事ここに至っては、アメロッパ単独で成す等と悠長なことを言える状況にはない。
しかして、Dr.ワイリーに頼れると思うべきではないだろう。
あの始末であるし、カーネルのように再現性がないのだから。
故にこそ。
アメロッパの全て。
そしてニホンの技術者すらも利用する。
用いることの出来る全てを合算し、アメロッパの力を以てこの世界で最も優れたネットナビを製造する。
「我が国こそが最優の、ネットナビを製造する――」
即ち。
集大成を成す。
「――――『Project Σ 』を」