その後。
必死に褒め称えてなんとか。
いや、本当に何とか済んだ。
ちょっとした疑問位のつもりで口にしたのだけれども。
やはり、強さ。
そこに関わる部分は割とデリケートな問題だったかも知れない。
とは言っても、まさか闇の力を醸し出して来るとは思わなかった。
心臓が止まるかと思った。
まあ、ないんだけど。
そんなこんなで案内されたのは、メットールの村。
村かどうかは議論の余地はあろうが、警戒はすれど近付いても攻撃してこないメットール達が屯していた場所。
現実世界で表すなら、五十メートルほどだろうか。
離れて眺めていた所で、一体の、灰色のメットールが近付いてきた。
後は比較的、スムーズに話は進んだ。
数にして数十体のメットール達。
その長と思しき存在と交渉を、セレナードを介して、進めて三日以内にバグの欠片五百個を納めることで一体のメットールがワタシの許に来ると言った契約。
ちなみにセレナードを介したのは、ワタシではメットールの言葉が分からなかったからだ。
「メットー」「メット!」等と言われても。
何を言ってるのかまるで分らず。
分かっている風なセレナードに通訳して頂き、交渉は相成った。
いや本当になんで分かるのかが疑問でしかないが、まあ終わり良ければ総て良し。
かくして。
ワタシのそれなりに過ごした月日からすれば些細なバグの欠片で以って。
黄色いメットールをワタシの許に迎え入れることが出来たのだった。
「そういう訳なのです」
「ドういう訳ダよ……」
呆れたような突っ込みを入れて来る、ボンバーマン姿のフェイクマンに言いながら。
簡易テーブルの上に置いたメットールを撫でる。
それだけなのに、プルプルと震えながら目をバッテンにして怯える姿に何とも言えない心持ちになってしまう。
わざとらしくため息を吐きながら、密やかに周囲を見やる。
スクエアの出入り口の脇。
そこでワタシ達が会話を広げていたお陰で、随分と観客が屯していた。
予定通りに。
ワタシがやっていることは、簡単に言えば、既成事実化。
ウイルス。
その存在は、一般的には当然ながら危険な存在でしかない。
しかし必ずしもその全てが危険なだけの存在ではない、と。
ウラインターネットに限らないことだが。
ウイルスを利用すると言う事柄。
これは案外、将来においては一般的でこそないが決して限定的な事柄ではない。
「無害なウイルス、ネえ?」
「実際この通りな訳にゃんですし」
「まァ…………そうみテえダが」
そう言いながら。
試すように指先で突いている。
プルプルと震えるばかり。
ともかく、ウイルスの利用。
例えば、ウイルス使い。
ウイルスを量産し、それらを自身の戦力として扱うことで自身の非力さを補う。
ウラインターネットの悪役のナビが使っていた記録こそ多いが、表のナビもまた幾らか利用しているのを見受けられた。
例えば、火野。
タコヤキ屋の火力の制御装置。
それに炎系のウイルスを利用することで、プログラムくんの代替以上の役割を果たさせる。
例えば、試験。
強力なウイルスを用意することで、オペレーターやネットナビの実力を計る。
その辺りにお使いをさせるだけでは知り得ない実力を見ることが出来るように。
例えば、セキュリティ。
強引な突破をしようとした際に現れるように条件付けることが出来れば、時間稼ぎやあるいは侵入者のデリートを狙うことも出来る。
隠しエリアとでも称するべき場所では、そう言った存在が幾つもまた。
このように、戦力の代替。
決してマイナス要素だけではない利用も可能ではある。
実際、将来のニホンに科学省ではウイルスの研究と飼育を行っていたとの記録がある。
ナンバリングで言うと、三番目だったか。
噂では既にそう言ったことをしている人間が、ニホンの科学省に居るとも聞いたか。
あと六番目でも、ウイルスバトラーとか言ってウイルス同士を戦わせる遊びをしていたハズ。
「あ、別に全部のウイルスが安全なんて言うつもりはないにゃ。本当に特殊事例のみだと思いますし」
「全部安全なンて言い出しタら頭、ブッ叩いてタよ」
「やぁん! 怖いにゃ~!」
序でに、本命の一つ。
ロックマンエグゼの後半の三作には、『改造カード』と言った存在があった。
イベント等を追加する機能があったが、主とされたのは違う。
ナビカスタマイザーとは別の、ネットナビを改造する機能。
容量にこそ制限があったが、能力を付与出来た。
それらの能力は本当に様々。
メリットだけのモノからデメリットもあるモノまで色々とあった。
だが、あえて特筆すべきと考えるのは。
『改造カード』に描かれていたウイルスやネットナビとの関連性だろう。
読み取ることで、如何にも描かれた存在を連想させる能力が付与される。
そのネットナビが得意とする能力の一部であったり。
ウイルスから手に入るチップデータのような能力であったり。
そう考えてみると、実に興味深い話ではないだろうか。
ウイルスのデータをネットナビに付与する。
そのような、改造が本当に出来るともなれば。
ワタシの目当ての能力や深奥に手が届くかも知れないのだから。
ともかくとして。
恐らく実用性の出るモノから考察の域にしかまだないモノまで、ウイルスの利用法は様々ある。
その中でワタシがまず目指している一つは、ウイルスの研究と飼育。
そのために、バグ自体の研究もあったが、普段から少しずつバグの欠片を集めていた。
バグの欠片でウイルスを強化出来るのだ。
これほど手っ取り早く戦力を揃える手段はないだろう。
ウイルスによっては熟練のネットナビすらも葬り得る訳だし。
「――まあ、そういう訳でご存知の方は居ないかにゃ~、とスクエアまで足を運んだ訳にゃんですよ」
「悪イが流石に見知っタ例はネえな…………オい、おめえ等!」
「あ、はい!」
「とリあえず、カーネル辺りに報告しテくれ。併せテ、ウイルスがデリート後に再構築されタって事例が他にナいかもダ」
「承知しました!」
フェイクマンに敬礼し、プラグアウトするナビへと手を振って見送る。
まあ、今回。
ワタシがこのメットールをどのように捕まえたかに関しては嘘を流しているのだが。
メットールと交渉が出来る。
言葉が通じる。
これは現状、考えられないことである。
何故ならば。
ウイルスは何処まで行っても害のある存在。
クラック行為をひたすらに行う、電脳世界の邪魔モノお邪魔虫。
それが、実の所は交渉出来るだけの知性を有している。
そんなことが広まれば、絶対に碌なことにならない。
ただでさえ、このワタシ。
パインの人権ですら随分と悩ましい状況下の中で、社会実験と言う名の建前があって成り立ったのに。
電脳世界で自然発生している存在が、ネットナビのようにその実、知性を有している等と。
理屈自体は分からないでもない。
ウイルスと言えども、根本まで分解して行けばファルザーと同じような攻性プログラムの一種と称せよう。
プログラムくんがバグ等で有害化するように、逆にウイルスが何らかの要因で無害化する。
そんな可能性もまた、なきにしもあらず、と。
まあ恐らく、そんな例等は極少数だとか一握りもそんな存在しないと思い付くか分かるだろうが。
それでも将来的にはともかく、碌に調査もされていない現状況下。
交渉出来るかも知れないという事実だけが分かれば、ウイルスは保護されるべき等と言った事柄を言い出す輩が出て来かねない。
それで駆除が進まず、犠牲になるのはプログラムくんやネットナビ。
更に言うなら電脳世界そのもの。
故にこそ。
ワタシは、このメットールに関しては嘘を言っていた。
デリートした後に再構成されたメットールが何故か襲って来なかったので捕獲した。
と。
そう言うコトにした。
実例の有無は知らない。
ただ、記録にある情報を元に口にしただけである。
交渉は出来ないにしても、利用は出来る。
そう言った存在であるかのように。
「もしもぉ、今後にそう言ったウイルスが出たら譲って欲しいにゃ~なんて」
「……なんデだ?」
「それはモチロン、パイにゃんがそう言った研究もしてるからにゃ」
「へェ……おめえもウイルスの研究をカ?」
「そうにゃ。まさに可能性の塊! 将来的にはウイルスを利用したセキュリティにゃんて面白いと思いませんかぁ?」
肩を竦めたフェイクマンが、そのまま立ち上がった。
事前に打ち合わせていた会話はここまで。
あとは、
「一応、ワイリー様にも確認取っテおいてやる」
「よろしくお願いしま~す!」
「報酬は試作品デも試さセろ」
一瞥。
メットールを見詰め、歩き去っていくその後ろ姿に手を振る。
ワタシとワイリー様とがある程度は親しいとの情報も広がるだろう。
さておき。
話を始める前に、フェイクマンをパシらせておいたホットケーキへと目を向けた。
ウイルスと一緒にスクエアまでは流石に入れなかったから、お願いして買って来て貰った訳だが。
手を翳せばすっかり冷めてしまっているが仕方ない。
ナイフとフォークで切り分けてから、相変わらず怯えているメットールのメットを指先でつつく。
反応し、此方の向いたその眼前に、フォークに突き刺したホットケーキを掲げる。
大きな目が一層大きくなったが。
暫くそうしていると、恐る恐ると言った様子で黒い部分に吸い込まれるように消えた。
先程までの怯えは何だったのか。
ニコニコ笑顔を浮かべるメットール。
もう一切れも与えながら、空いている片手でそのメットを撫でる。
メットール。
ひいてはウイルス。
時々、思うことがある。
ウイルスとネットナビ。
果たしてどちらが真なのか、と。
周囲にネットナビが居れば。
自身がデリートされる可能性を考えて怯え。
ホットケーキを与えれば。
その美味しさを認識して、あっさりと喜ぶ。
感情がある。
疑似人格プログラムで形成されたネットナビと違い。
生み出された訳でもなく、自然発生的なウイルスに。
いや。
ウイルスの方が、自然な情動がある。
もっとも。
普段、見れる姿はクラック行為によりバグを生み出すような事柄。
情動と言えるほどの何かを見い出せはしないが。
少なくとも、この個体を含めあの村に居たメットール達からは、感じ取れるだけの何かが。
翻って。
自然的に生まれたウイルス。
作為的に作られたネットナビ。
果たしてどちらが真なのか。
どちらが本来、電脳世界にあるべきだったのか。
「……興味深いにゃ~」
「ンメ?」
なんて。
今更な話である。
既にネットナビがインターネットエリアを闊歩し、害獣であるウイルスをデリートしている。
それが人間側の真実であり、事実。
少なくともワタシ自身、ウイルス保護に乗り出すなんて真似をするつもりは微塵もない。
ウイルスに可能性を感じてはいるが、ソレはソレ。
何処まで行っても研究対象。
精々露悪的な言い方をすれば。
畜産か。
狩猟か。
そのどちらかをするつもりでしかないのだ。
このメットールも何処までも、そのための一手。
バグの欠片を与える前後での変化だとか、諸々の調査を行うための対象。
成功すれば、好きなウイルスを好きなだけ用意出来るようになると思えば。
単純にセキュリティとしても使えるし、自動で発生とデリートするシステムを用意出来ればチップデータも取り放題。
実に夢のある話ではないか。
「――あ、そうにゃ」
おもむろに。
思い出したかのような仕草で両手を打ってから、予め作っていた猫耳バンド。
それを軽く掲げるようにしてから、周囲に未だ残っているネットナビに見せ付けるように、メットールのメットに装着。
何事かと頭の上を見ようとしている姿に小さく笑いつつ、手鏡もどきで自身の姿を見させる。
角度を変えながら不思議そうに鏡とワタシとに視線をやってくる姿にまた笑う。
これで猫耳を着けているメットールは、ワタシのだと分かるだろう。
まあ、本命はメットールの変化をリアルタイムに観測出来るようにする記録媒体。
のようなモノ。
現実世界で例えるなら、健康診断で心電図等を計るために使う電極辺りだろうか。
それに積極的に襲っては来ないのだ。
他の誰かしらも、狙う可能性がある。
そのための対策。
映像記録を撮れるようにしていたり、位置情報が分かるようにしていたりと色々ある。
これだけの機能は電脳世界でもなければ詰め込めなかっただろう。
本当、電脳世界とは便利な世界だ。
「あなたは……そうにゃ、パース。これからはパースと呼ぶにゃ」
「メット?」
体を傾げているメットール、パースを撫でながらそう呟く。
パインの背負ったバック。
そのモデルとなっていた、ボンバーマンシリーズのキャラクター。
のみではなく。
文字データを解析し、プログラムとして扱える構造に変換する。
あるいは、使えるデータを取り出すことを示す。
ワタシのしようとしていること。
ウイルスの利用を考えれば、真、これ以上に正しい名前はないだろう。
「これから、よろしくにゃん?」
「メットー!」
残りのホットケーキを与えながら、そう囁いた。