「ワイリー様」
『……うん。なんじゃ?』
「ニホンに行きタい」
バグの欠片が飛んで行ってすぐ。
ワイリー様に事の次第をご報告をした。
とは言っても内容は簡素。
要するに。
バグの欠片がニホンの方に飛んで行ったから確認しに行きたいと言うモノだ。
何せ『プロトの反乱』が起きて、半年は経っているのだが、早々。
その原因と思われるバグ、その欠片とは言えニホンの方に飛んで行った。
厄ネタの匂いしかしない。
実際、ご報告を上げた際あまりの怪しさに対してか露骨に顔を顰められた。
興味があるからとバグの欠片の保管場所を作って欲しいとお願いした時以上の顰めっ面だ。
報告はともかく。
意外なことに、それよりも関心を向けられたのはバグの欠片に対して。
ウイルスをカウンターでデリートするとバグの欠片が発生し易いと言うことに興味を持たれた。
結構集めていたのだが、そりゃあ他のゴミ箱なんて覗かれないだろうからお気付きにはならなかったのかとも思ったが。
なるほど。
それもそうだ。
ワタシは記録でそのようなことがあると知っているが、普通は知らない。
ましてや電脳世界のこと。
現実世界に居られるワイリー様からしてみれば未知の世界のことだろうし、特に動きの停止を狙えるとは言えカウンターでデリートすることは珍しい。
安定したウイルスバスティングをしている、主に軍部のナビ達からの情報は望めまい。
いや、よくよく考えてれば当たり前のことだった。
誰が好き好んでウイルスの攻撃行動の最中、つまり自身のデリートに繋がる可能性のある時を狙ってウイルスのデリートをするだろうか。
模擬戦の度に激しさが増しているカーネルの隙を突く練習の一環でそんなことをしているが、傍から見れば狂気の沙汰。
思い返してみると一度ウイルスバスティングの様子について質問されていた。
もしやあの時、バグっていると疑われていたのか。
過去を思い返して納得している中、画面越しだが、視線を向けられていることに気付いて目を合わせる。
ワイリー様もそれにお気付きになられ、口を開かれた。
『バグデータに興味があるとは言っておったが、集める手段があったとは…………すぐに飽きると思っていたんじゃがな……』
「今後の参考ニなるかも知レねえダろ?」
嘘である。
実際はウイルスの製造と飼育が出来ないかと考え、予め収集しているだけだ。
他にはバグ製のナビとか。
つまりそのための研究用。
『全てウイルスバスティングの時のか?』
「そうダ」
シレっと吐いた嘘に関して疑われる様子はなく、それらのバグの欠片に興味をそそられているように見える。
流石にその辺のバグは拾ってない。
怖いし。
バグとは言っても同じようなデータの集積物。
研究者として、興味が湧いているご様子。
しかしワタシはそれについて話し合いたい訳ではない。
「デ」
『うん?』
「ニホンに潜入シてイいか?」
『まあ良いじゃろう――アメロッパ軍にはワシから話を通しておく。じゃが、危ない真似はするんじゃあないぞ?』
「努力はすル。努力はナ」
かくして。
ニホンに行けることになった。
自分で言ったことだが、潜入。
正直ニホンに対して現状、良い感情を持っている国は少ない。
このアメロッパも同様にだ。
対するニホンは、少なくとも科学省はアメロッパに対してあまり良い感情を持っていないと聞く。
ニホンが他国に被害を与えておきながら、と思う所だが、光正より追い出したワイリー様の方が目に見えた実績を見せているのだからその感情は分からなくもない。
しかしワイリー様もロボット工学ではなくナビ方面で有名になることを凄まじく複雑に思っておられるようだが。
とにかく。
ワイリー様が作られ、『プロトの反乱』に際して実力を見せたワタシが大手を振るって他国に赴くのは心証的に憚られると言うのが現状。
らしい。
しかもニホンは復旧に目途が付き、暫く前には光正と複数の研究者達によるチームが漸く各国のネットワーク復旧もとい技術提供に動き出したばかり。
そのためか少し、ひり付いているとのこと。
流石に現実世界のこと、しかも心に関わることは分からないが。
「…………タイミングが悪イ」
ワタシとして思うことは精々、最悪のタイミングで最高の技術者が出て行ってしまったニホンに合掌しておく程度。
とりあえずはワイリー様曰く「雑に作った」外套型のデータを纏い、そのニホンのネットワークへと潜入した。
ウラにでも居そうな怪しい見た目だが、少なくとも誰か分からない。
喋らず、テキストデータで元々こう言う見た目であると示せば怪しいネットナビ以上のことは分からないだろう。
実際、プログラムくんやらに怪しまれているが気にしても仕方ない。
あとは目的地。
その確認方法は楽だ。
ウイルスバスティング。
カウンターによるデリートを行ってバグの欠片を発生させれば良いと言うことは既に数度、飛んで行くのを見ているから分かっている。
「…………」
普段のように何か言わず。
出来るだけボム系の攻撃もしない。
「普段と違うことをするのは勉強になる」等と我ながら呑気なことを考えながらメットールを《キャノン》でデリート。
腐ってもニホン。
いや、光正の技術力と言うべきか。
急拵えとは思えない程しっかりとした電脳世界をしている。
現実世界で例えるなら、舗装された道路だろうか。
とは言え急造から来る不具合、バグも見受けられるが、科学省の管轄。
それにまだ新設されたばかりのインターネット。
発生しているウイルスの強さは然程ではないため、慣れていないチップでもカウンターは容易。
スムーズにデリートし、時々発生するバグの欠片の行方を追う。
ひたすらそれを繰り返して進んでいく。
まだ遠い。
その筈だ。
だが、これは、この感覚は、
「………………」
総毛立つ、とはこのようなことを言うのか。
現実世界の言葉を思い浮かべながら、先を睨む。
何かが視界の端を過ぎっていく。
バグだ。
それも、欠片と言うような大きさではない。
インターネット上に発生すれば、通行ルート自体を阻害してしまうような巨大なバグ。
それが電脳世界の空を舞って行く。
外套データがはためいている。
何かに吸い寄せられるような、あるいは引力とでも呼ばれるモノを感じる。
何が起きている。
いや、分かっている。
分かっているが、分かっていても疑念を覚えてしまうような怖気。
恐怖。
初めてカーネルの剣をこの身に受けた時のような、明確な死の予感。
それがこの先を渦巻いている。
「……」
逃げるべきだ。
そう、恐らくは本能とでも言うのだろうモノが告げている。
しかし。
しかし、だ。
この先に起こっている事柄はワイリー様の未来に関わる可能性がある。
もし記録通りにコトが運べば、二択の可能性が生まれる。
まあ、ワタシがその時に居られればの話だが。
幾ら我が身の危機とは言っても、それを無視して帰るなど、出来ようはずがない。
少なくとも、ワイリー様の手に負える範囲かどうかを確かめないことには。
最早、ウイルスのデリートするまでもなく何処に行けば良いかが分かる。
広大なハズの電脳世界にも関わらず。
一歩。
一歩と。
進む毎に全身を軋ませるほどの威圧感が増していく。
科学省もコトに気付いているのか、怪しい見た目のワタシを無視してネットナビ達が先へ先へと走って行っている。
その中をただ進む。
やがて、ソレはソコに居た。
――ギャォオオオオオオォォォォォォンンン!!!!!
漆黒の暴威。
伝説の片割れ。
『電脳獣グレイガ』。