ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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067:サーゲス

 

そう言う訳で。

まあ、ワイリー様もわざとじゃあなかったんだろうが。

それでも、もっと早く思い出して頂きたかったが。

 

思いがけず。

ワイリー様より新しい弟妹が居ると伺ったワタシは早速、ワイリー様を置いて。

とは流石に行かなかったので一通り済ませて、だが。

保管庫へと足を踏み入れていた。

 

保管庫。

ストーンマンが守衛を勤めている其処は、ワタシがかつてハッキングして手に入れた医療データその他が山となっていた場所である。

それをストーンマンが暇潰しにか、チマチマと整理を進めていたエリア。

 

普通ならば。

ワタシがお送りした、基地から引っこ抜いたデータに関しても気にするべきだったのだが。

あの時は正直、ワイリー様をどう宥めるかしか考えていなかったからすっかり抜け落ちていたのだ。

なので正直、ワイリー様のことをあまり言えない部分でもある。

 

「成程ナ……」

 

なんて意味のない言葉を口にしながら、周囲を眺める。

存在を二つほど感じられるがしかし、プログラムくんの一体も見当たらない。

かつては雑多にデータが詰め込まれていた場所。

その痕跡は既にない。

其処はさながら、大図書館とでも称すべき空間が広がっていた。

 

天高く。

とまでは言い過ぎだが、ワタシの幾倍ほどの高さはあろう本棚のような白い棚。

ワタシが『MMM』で作ったモノを真似されたのか、現実の物を反映させたのか。

それが遥か彼方にまで広がっているように見える。

 

分類分けも成されているのだろう。

最上段に乗せるように置かれたアルファベット。

徐にデータの一つに手を伸ばし開けば。

まあ正直よく分からないんだけど多分、頭文字はアルファベットに関係ありそうな病名的な事柄に関わっているらしい情報の纏められたデータが読み取れる。

 

だが、ここまでなら別にストーンマンが纏めていてもおかしくはない話。

ワタシが運んだ時は中身も見ずに、出来るだけ順番はそのままに置いただけだから分からないけど。

ともかくとして。

 

何事もなかったかのように。

試し読みしたデータを戻し、奥へと歩を進める。

そうすればやがて、白い棚は終わりを迎える。

先に並ぶのは、黒い棚。

 

なるほど、分かり易い。

試しに黒い棚の中身を一つ開いて見れば、軍事情報に関わるような代物だ。

此処から先は間違いなく、新しい弟妹が整理したか、あるいはしている空間なのだろう。

 

「――――初めまシて、ダな?」

「そうじゃな――初めまして、じゃ」

 

データを戻しながら振り返る。

ゆっくりと。

白と黒の棚の境界から、姿を見せた。

 

背丈は、低く見える。

だが老人のように腰を曲げた姿から、伸ばせば相応に高さがありはするだろう。

体は外套で覆い隠すようにし、頭には円筒状の帽子。

垣間見える体こそ青っぽくはあるが、それら衣装が黒々としており、何もかもを覆い隠しているようですらある。

 

ただ、ハッキリと窺える顔。

何処となくワイリー様を感じさせる立派な、それこそブーメラン染みた口髭。

そして何よりも真っ赤な、右目と、本来左目がある部分に存在している大きなモノクルらしき物体が内なる心意をも隠そうとしているように感じられる。

だがそれでも、此方を探るような気配はまるで隠せてはいないが。

 

なるほど。

これは如何にも研究者と言うべき風貌。

しかもワイリー様に似ていると来れば、中々に性格に難がありそうだ。

この手のは、

 

「ボンバーマンと言ウ。今後、よろシく頼む」

 

最初に確りと礼儀正しくしておくに限る。

誰に対してもそうだが。

相手側が然程、手を伸ばさないでも済むように、近付いた上で屈むように手を差し出す。

殆んどその眼前に差し出すような恰好になったワタシの手を暫く見やったそのナビは、口端を軽く吊り上げるように笑った。

 

「……サーゲスじゃ」

 

軽い握手。

離されたので、此方も姿勢を戻す。

そのまま脇を抜けて奥へと進んでいくその後ろを、追うような形で着いて歩く。

 

「――――さて。此処に来るまで随分と遅かったようじゃが?」

「ワイリー様がおめえのコト紹介しテくれなかったんダ。すマねぇ」

「ふぅん? ……嘘を吐く理由もない、か。ワシを生み出しておいて早々に耄碌されても困るんじゃがなァ?」

「ハハハ! 面白くナい冗談ダ」

「そうじゃな。少なくとも、復讐を完遂されるまではそんな暇はなかろう」

 

軽い会話。

此方に振り返るでもなく、ある種の傲慢さを感じさせる足取りではある。

ある、が。

 

何処か探り探りの言葉のキャッチボール。

何と言うか微妙に覚えのある不器用な雰囲気。

少なくとも、此方から無下にするようなことさえしなければ害はないだろう。

仲間である限りは。

 

軽くどんなナビか想像している内、サーゲスの足が止まった。

併せて止めれば、その手を黒い棚の一つに伸ばす。

取り出された資料は何のモノやら。

覗き込もうと近寄れば、見るより前に眼前へと突き付けられた。

 

「さて…………ワシが作られた理由は知っておるか?」

「助手っテ聞いタが?」

「半分は正解じゃ。しかし、別の理由もある」

 

中身を受け取りつつ見返すが、そんな反応。

読み進めるようにと顎で示してくる。

 

「……別の理由っテのは?」

「まずワシの名じゃが、Surges。即ち、サージを由来としておる――そう言った事象に対応するため、とな」

「ハぁ……?」

 

渡された資料とは関係なさそうだが。

 

「……サージ電流と言うモノを知っておるか?」

「知らネえな」

「サージ電流とは、カミナリやらが落ちた場合なんかに起こる、瞬間的な規格外の電流のことじゃ」

「………………」

 

思わず読み進めていた手が止まる。

サージ電流。

要するに、瞬間的な過負荷。

 

事前にお伺いしていたサーゲスの役割。

ワイリー様の助手であり。

資料の整理等を行っていると。

 

そして今、

ワイリー様の手に余るほどに大量のデータ類。

そんなモノ、早々に有り得るハズがないだろう。

と言うのは易いが。

生憎、ワタシには一つ、心当たりがあった。

 

今、まさに目を通していた資料。

軍事情報や機密情報。

即ち、軍事基地より纏めて引っこ抜いたコレ等の情報。

規格外のモノと言えば、まさにコレ等であるとすれば、

 

「…………」

「……察したようじゃから、何が言いたいかを言うがな」

 

自然。

顔を向ける。

背の低さ故に下から覗き込むような形になっている、サーゲスの顔を。

何処か恨めしさを感じさせる、真っ赤な瞳。

意を決したように、一瞬閉じた口からその言葉が放たれた。

 

「加減しろ馬鹿――――なぁにが悲しくて資料整理のために作られにゃならんのじゃ、ワシ」

「本当すみマせん……」

 

そう言うしかなかった。

不可抗力であると言うのは容易い。

だが概ね、ワタシの責任であるとも認識していた。

一旦見ていたデータを脇に置いて、今一度、確りと頭を下げる。

 

暫くの、間。

やがてため息が一つ聞こえて来たかと思えば、軽く頭に衝撃が起こる。

視線だけを上目に向ければ、手をヒラヒラと振っているサーゲスの姿が目に留まる。

 

「……まあ、良い。これでチャラじゃ」

「へイ…………」

 

どうやら殴られたらしい場所を撫でる。

正直、ダメージにすらなってない。

非戦闘型ネットナビ。

と言うのはどうやら間違いないらしい。

 

チップデータを使えば。

あるいは戦闘機能を足して行けばまた違っては来るのだろうか。

ウラのチップを幾らか、ワイリー様に回しておいた方が良さそうだ。

最低限、自己防衛できる程度には。

 

「それでは早速、話を進めよう。ワイリー様の復讐に」

「ソの前に!」

「関す……ん?」

「モう一体の方、紹介しテくれても良いんじゃネえか?」

 

進みそうになる会話。

それを遮り、視線を背後に向ける。

背後。

と言うよりも、斜め上。

 

手近な棚の上には、何の姿もない。

しかし、その奥。

隔てた向こう側の棚の上に居る存在へと声を掛けたのだ。

 

沈黙は僅か。

サーゲスが微かに鼻を鳴らし。

視線の先、奥より、

 

「ハハハハハハ! 流石は兄姉! オレっちに気付くなんて良い勘してるぜぇ~!?」

 

その音を飲み込むほどの哄笑と共に降って下りた。

床に付くと同時に鳴る、微かな水気を帯びた音。

液体。

一瞬、そう思ったが違う。

黒い人型がその身体を僅かに波打たせながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「ワタシはボンバーマンだガ、おめえは?」

「おっと! 先に名乗られちゃあ仕方ない! 聞いて驚きな、オレっちの名前は!」

 

首から靡くように揺れるマフラーは鮮血か、あるいは導火線か。

血色の良さそうなタラコ唇からこれまた健康的な白い歯を笑みと共に覗かせる。

肌も、現実世界風に言えば油が乗っていて輝いて見える、とでも言おうか。

だがまあ、それは言葉通りの意味だ。

 

真っ黒な体。

油のような艶。

透明なビニールにでも入れられているような、流動的なその体。

火を点ければそれこそ、派手に燃え上がりそうな雰囲気はまさに、

 

「メンテ担当の! オイルマン! もう一度言うが、オーイルマンだ! よろしく頼むぜぇ~!」

 

名は体を表すと言わんばかりだった。

 

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