ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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「…………何をしている」

その人物の前に立つ二人。
もっと言えば、三人。
現在の科学省でもトップクラスの研究者であろう。

ネットワークの権威、光正。
ネットナビの創造主、光祐一朗。
ウイルス研究の奇才、或日喬就。

目の前に並び立つ二人。
そして、後ろに立つ。
庇われるように立つ光正を見、呟くように言った。

遠巻きに眺めるのは多くの科学者達。
コトの次第は聞いていたのだろう。
間に割って入ろうとしない。

「何をしている」

事態は酷く単純な事柄であった。
既にこの場から去った男。
その後に続いて、機械派閥とでも言うべき人間がまた一人が去るだけ。
よくあった光景の一つだった。

今回は最後にと光正の元に挨拶に来、揉めているだけ。
理由は、語るまでもない。
電子工学とロボット工学。
その争いに暫く前、決着が付いたとは言っても、だ。

好奇の視線が周囲から浴びせられる。
その中であっても。
三人の前に立つ一人は、憎々し気にその表情を歪めていた。
気負いもなく、ただ忌まわしそうに、

「何をしている貴様等っ!!!」

周囲へと。
驚いている二人と、呆れたように顔を崩す光正を置いて。
その言葉を周囲へと放った。

「貴様等のような木っ端共が真っ先に来ず、何ァ故、よっぽど優秀な此奴等がワシの前に立っているっ! ああっ?!」

放たれる怒声。
しかし、ざわめきが起こるだけで動かない。
いや。
数名が慌てたように割って入ったがそれだけだ。
大半は見に入っている有様に、隠すことなく舌打ちを響かせた。

「祐一朗! 喬就!」
「え、は、はい」
「何だぁ懐古主義?」
「逆だ! 気を付けろ、お前達のような未来ある人材が前に立つんじゃあない! 前に立つべきは老い先短い正の方だ! ――もっと前に立つべきは、其処等の馬鹿共だがな!」

ぎょろりと。
血走りすらしている眼が向く。
前に立つ、未来ある二人ではなく、周囲へと。
気まずそうに顔を逸らすソレ等を見、鼻を鳴らした。

しかし、それだけだった。
これ以上、何も言うことはない。
言外に示すように、一度だけ強く足を踏み鳴らすと背を向け、

「もう、行くのかい?」

掛けられた言葉に足を止めた。
顔だけが、声の主。
光正を見やる。
僅かな、間。
交わされた視線に何があったのか。

ただ、言葉ではない何かが交わされ。
やがて、ゆっくりと。
一人の男の足は、入って来た扉へと戻っていく。

「――さっき言った通り、すまないがワイリー達によろしく言っておいてくれ」
「様を……お前は……まあ、良い。覚えてはおいてやる…………息災をな、正」

足は僅かに緩み。
しかし、止まることはなかった。



 068.5:来訪

 

到着した時間は既に夜。

夜空には微かな星が見えるほどに暗く。

何よりも周囲には人影も見当たらない。

 

郊外。

その高級住宅地にもなればそうだろう。

ニホンと違い、アメロッパともなれば。

 

不用意な外出は時に、命に関わることも有り得る。

そう、頭では理解していた。

しかしそれでも、逸る気持ちを抑え切れなかった。

抑え切れず、やってきてしまった。

 

「――――――ふぅ…………」

 

息を、吐く。

緊張を口から吐き出すように。

ゆっくりと吐き出していく。

 

考えるまでもなく、急な訪問だ。

非常識と言って何ら差し支えない。

それにそもそも、彼はアメロッパで多大な成果を挙げていると言っても良い。

既に、そう言った世界から遠ざかって時間の経っているワタシと違って。

 

だから、会ってくれない可能性は十分にある。

いやむしろ、会ってくれる可能性は奇跡的なモノだろう。

それでも。

それでもワタシは、その可能性に縋りたかった。

 

唯一の可能性。

あるいは、数少ない機会。

彼の不調を聞き及んでいる以上、無為に時間を過ごす訳にも行かなかった。

あの子に届き得る、僅かもない手掛かりなのだから。

 

そうと、分かっているのに。

握り締めるキャリーバッグの重さが、脚を鈍らせる。

明日でも良いのではないか。

夜遅く、非常識なのではないか。

アポイントを取った上で訪ねるべきではないか。

 

二十歩。

歩を進めれば辿り着ける玄関口までが、ただ、ひたすらに遠のく。

理性が遠ざける。

 

溜め息交じりに改めて腕時計を見やれば、既に三十分以上は経っている。

立ち尽くしたまま、それだけ。

近隣の方に警察へ通報されていても何ら可笑しくはないだろうに。

自嘲し、それでも離れることが出来ない。

しかし脚を進めることは叶った。

 

一歩。

一歩と。

キャスターの音を引き連れながら、他の住宅とも代わり映えしない玄関口へと近付いていく。

 

「………………ん」

 

半分ほど進んだ刹那。

扉が僅かに開き、足元にまで光が差す。

そして数秒ほどの間を置いて、また動く。

驚き立ち竦んでいる間に開き切ったその光の先に、彼は居た。

 

出会いたかった彼が。

出会ってくれるかも分からなかった彼が。

呆れたような目を私に向け、

 

「――――入れ」

 

何時ものように。

何処かぶっきらぼうな物言いで。

ワタシに入るよう、顎で示した。

 

奥に消えて行く彼の後を、小走りで追う。

アメロッパ式の、靴を脱がない方式だが。

キャリーバックは流石に玄関に残した。

ところでふと脇に置かれている車椅子に目が留まる。

 

何かしらのエンジン機構だろうか。

それに片手で操作するハンドルらしき物体まで。

相変わらず熱心な。

感嘆の息を吐くのも束の間、顧みる様子もなく歩いて行くその後を追い。

 

背後で鍵の閉まる音が鳴った。

振り返れば、何やら点滅している小型の機械が錠の部分に設置されてある。

自動で閉めた。

成程、やはり相変わらず機械に関しては先を行っている。

 

不調だったのではないのか。

そのような疑念が脳裏を過ぎり、消えた。

車椅子は玄関に置いたまま。

つまりは、偽の情報だった。

言ってしまえばそれだけなのだろう。

 

一つ頷き、今度こそその後を追う。

豪邸。

と言うほどの大きさではないが。

それでも中々の大きさではあるその邸宅は、アメロッパ政府が用意した物だろうか。

 

ちっとも緩む気配のない足取りを足早に追い掛ける。

最中、脇に一つ、人影が居た。

若い。

その人物は、昔に写真を見せて貰った記憶があった。

蹈鞴を踏むように足を止め、「確か」と口にする。

 

「――リーガルくん、だったか?」

「ご存知でしたか?」

「ああ。昔、写真を見せて貰ったことがあってね」

「そうですか。私も貴方のことは写真で拝見したことがありました。ですがまさか、このような時間に訪ねて来られるとは……」

「ん…………それは。申し訳ない」

「いえ。もう少し早い時間であればお話しする時間もあった、と言うだけです。それでは」

 

にこやかな。

それでいて何処か棘のある言い回し。

歓迎されていない。

当然ではあるが。

 

思わず去っていくその背中に伸ばし掛けた手を引っ込める。

言い訳出来ることでも、状況でもない。

ただ視線を戻し、僅かに此方を窺い見ている彼の元へと急ぐ。

何事もなかったように歩き、すぐに開いた扉。

ゆっくりと閉まり行くその中へと、ワタシもまた滑り込むように入った。

 

研究室。

一言で言えば、それがあった。

幾つものモニター。

壁際に並ぶ本棚。

稼働音を鳴らしている機器。

 

玄関口らしい場所の映像を流しているモニターの明かりを受けている彼の姿に、ため息を吐く。

ワタシがずっと外で悩んでいたことをご存知だったのだろう。

だからわざわざ、出迎えに来てくれた訳だ。

 

「…………もう少し早く来てくれても良かったんじゃないかい?」

「アポイントもなしに来た者の態度か、それが?」

「それは……すまない。改めて、急な訪問で申し訳ない」

 

揶揄するように言えば、そう返される。

もっともな話だ。

そうである以上、頭を下げる以外の選択肢がワタシにはない。

そうすれば何時ものように鼻を鳴らし、口を開いたようだった。

 

「――――久しいな、コサック。どう言った風の吹き回しじゃ?」

「――――久し振り、ワイリー。少し君に、頼みたいことがあって来た」

 

 

 

勧められた椅子に座る。

彼、ワイリーの座っている物よりも粗末なソレ。

と言うかそもそも、物が置いてあったから床に置いた形跡が傍にある。

明らかに、誰かが来て座ることを想定していない。

それはそうだろう。

 

ワイリー。

彼の技術力は、アメロッパであろうとも突出していることは想像に難くない。

唯一並ぶ者が居るとするならば。

光正、彼、一人。

次いで祐一朗くんや、いわゆる手前味噌な話だが、ワタシぐらいなものか。

 

人を招待する、と言うこと自体が稀を通り越して稀有。

ワタシも招待されたことはない。

恐らくされたことのある人物等、光正を含めても片手で数えられる程しか居ないのではないだろうか。

 

そんな彼が、不機嫌そうな顔を隠そうともせずにカップとスプーンで不協和音を奏でる。

友人。

旧友。

そう思って貰えていれば有難いのだが、コーヒーを攪拌する手が忙しない彼の様子を見ればその認識が合っているとは思い難い。

 

いや、理解は出来ていたのだ。

ワタシは謂わば、裏切り者の一人。

科学省から彼が追い出される際、その理由の一人として挙げられた中に入っている。

忌々しいことに人の名を勝手に利用された訳だが、追い出された張本人がどう思っているか。

何処でも変わらず図太くやっているだろう等と少し、甘く考えていたかも知れないと気を引き締める。

 

「――――――それで」

 

恐らくは、十分ほどか。

幾多の秒針の音が通り過ぎた後。

あるいは、経った頃。

一言、そう口を開いたかと思えばコーヒーを一息に飲み下し、

 

「何の用じゃ?」

 

単刀直入にそう言った。

 

「ボンバーマンと言うナビに用がある。良いだろうか?」

 

単刀直入にそう返す。

訝しんだ様子は一瞬。

カップをチェイサーに置き、そのままキーボードに指を躍らせたかに見えた次の瞬間、モニターの一つが切り替わる。

 

何やら、噂に聞いたストーンマンらしきナビと話し込んでいた様子だが。

すぐに此方に気付いたように、顔を向けて来た。

ワイリーから、次いでワタシを認識した様子で、軽く頭を下げていた。

 

「ボンバーマン」

『へい』

「そこの男――科学省の同僚じゃったコサックと言うのじゃが、お前に用があるらしい」

『用ダぁ? ……ドうも。ボンバーマンと言ウ』

「初めまして、ボンバーマン。早速で申し訳ないんだが、一つ、確認したい」

『話せルことなラな』

 

微かな、訛りのあるような口調。

明らかにワタシに対し、警戒の色が見えるが。

気にせず、

 

「それなら聞きたい――――フォルテと戦ったのは本当かい?」

 

唯一の手掛かりへと。

そう尋ねた。

目の部分が、モニター越しでも分かる程に細まる。

そうして、ワイリーを伺うように向いた。

一瞬視線を合わせたかに見えたワイリーだが、僅かばかり頷いて顔を此方に戻した。

 

『……遣り合っタ』

 

そうか。

そうなのか。

真実なのか。

 

軽やかな絶望が心を通り過ぎる。

確かめざるを得なかったが、確定してしまった。

フォルテが既に、ニホンのネットワークより脱出してしまっている。

それが真実であると。

 

今まではまだ、ニホン国内のネットワークで痕跡を探るしかなかった。

いや、国内だけで済んでいたが。

謎のネットワークエリア。

ニホン内でも観測されている、未知の場所。

それが、少なくともアメロッパ内にまで通じていることが確定したのだ。

 

広がり続けている、ネットワーク。

ニホンだけでも広大と言う他ないそのエリア。

それが、諸外国を含めた範囲になるともなれば。

可能性は考慮していたが。

それでも。

 

椅子に座っていなければ、床に座り込んでしまっていただろう。

無意識的に目元を抑えてしまうが、どうしようもない。

暫く、目を閉じていても揺れる世界に身を委ねる。

 

「――――おい、どうした?」

「大丈夫、少し……眩暈がね」

「フン! ……歳を取ったか?」

「君ほどじゃない」

「ほざけ。ワシは無為に取ってはおらん。お前と違って有意義に重ねただけよ」

 

目元から手を離し、天井を見やった。

そのタイミングで声を掛けて来たワイリーにそんな軽口を返し。

息を吐く。

確定したのだ。

確定した以上、ソレを元に動くしかない。

 

唯一の幸運は、ワイリーだ。

ワイリーであることだ。

彼ならば。

恐らくは多少の惜しみはあろうが、問題ないだろう。

何を求められるかについては、些か考えたくないが。

 

「――――ワイリー博士。どうか、ワタシの願いを聞き届けて頂きたい」

「……言うだけ言ってみろ」

「単純なお願いだ。ボンバーマンを借して欲しい」

 

微かに。

ワイリーの雰囲気が変わった。

目を細め、睨んで来るが胸を張ったまま向き合う。

 

「ワタシがフォルテを探していることは、あるいは君も聞き及んでいるかも知れない」

「そうかも知れぬな」

「であれば、分かると思う。現状、フォルテの居た未知のインターネット……人の目に触れ易い部分とは違う……そう、ウラインターネットとでも言おうか? そこに詳しいボンバーマンを、借り受けたい」

 

未知のインターネットエリア。

ウラインターネットと称そう。

そこに現状、ワタシの手に入る情報の限りで言えばだが、最も詳しい存在が一体。

 

ボンバーマン。

それ以外は、些か手に余る。

もっと言えば、伝手がない。

力を借り受けようもない。

 

しかし、ボンバーマンであれば。

ワイリーの作ったボンバーマンであれば。

ワイリーのことだ。

相応の対価さえ用意出来れば貸してくれるだろう。

 

何せ、ワイリーのことだ。

幾ら優れたネットナビを作れたとしても、それが何になる。

尊敬すべき点でもあるが、その執念故に些か頑迷でもある。

科学省から追い出されてもなおロボット工学を取り続けた男なのだから。

 

そんな彼が優先順位を作るとすれば、ネットナビのソレは、一段二段以上も落ちると知っている。

少なからぬ付き合いがあったのだ。

その中身、内面はよくよく知っている。

たった数年の歳月程度で早々変わらないことも含めて。

 

対価も、既に用意してある。

キャリーバッグの中に。

フォルテ。

その、自立型ネットナビのプログラミングデータの原型。

そして『ゲットアビリティプログラム』のデータもまた。

 

「ふむ…………」

「…………ワタシの用意し得る、それ相応のモノは用意させて貰う」

『………………』

 

気にしているように、ワイリーへと目を向けているボンバーマンとストーンマンを視界の端に。

徐にテーブルの引き出しを探り始めた姿を眺める。

一言。

何を用意出来るかと問われれば渡す。

その心構えをしながら、何をしようとしているか眺め、

 

「おお、あったあった。おい、コサック」

「何が……!」

「何故ワシが貴様の尻ぬぐいのために――ボンバーマンを貸さねばならん?」

 

ていれば。

全く自然に。

握り締められた拳銃。

その銃口が、向けられていた。

 

口を開き、しかし意味を成さない言葉しか出ない。

銃口。

ワタシへと。

ワイリーに向けられている。

 

理解が。

追い付かない。

何故。

理由は。

どうして。

 

目まぐるしく脳内を情報が駆け巡る。

そう、理由だ。

理由が分からない。

 

有り得ない。

昔のワイリーであれば、此処までの警戒を見せることは有り得ない。

ならば、何故、だ。

 

何故、拳銃を向けられている。

何を怪しんでいる。

何を企んでいると思われた。

ニホン政府との繋がりを疑われたか。

 

可能性は無きにしもあらずだが、違う。

ハズだ。

接してきた経験上の話だが。

 

過去に勤めていたからと言って、そう考えるほど短慮じゃあない。

むしろフォルテのことを伝えたのだ。

ニホン政府に関わる事柄とは考えないだろう。

彼も、事の次第は知り得ているだろうから。

 

であれば、何か。

ボンバーマンを借り受けたいと言ったことが気に食わなかったのか。

それも、可能性としては薄い。

なくはないが、薄い。

 

相応の技術力を持っている。

悔しいことだが認めざるを得ない。

専門分野外であろうともワタシ相当の腕前まで持っている。

部分も、ある。

 

しかし。

ワイリーの根底にあるのは何処まで行っても機械。

ロボット工学。

そのためにニホンを見限ってアメロッパへと渡ったのだ。

ワタシのようにフォルテに、ネットナビに情を抱いている等とは思えない。

 

ならば、だ。

尻ぬぐい。

それに対して思う所があるのか。

 

それも違うだろう。

ワイリーとてニホンで勤めていた折、幾人幾十人もの尻拭いをする羽目になっていた。

優秀であること。

何より、ロボット工学含む機械に置いて彼以上の存在が居なかったからこそ。

忌まわしくは思えども、拳銃を向けて来る程のことではないハズ。

 

であれば、何か。

モノでなければ、何か。

可能性を消していく中、唯一浮かぶモノ。

 

それは、覚悟。

要求している以上。

覚悟か。

ワタシの、覚悟を問うているのか。

 

「――――――ワイリー」

「二度は言わん」

「頼む」

「コサックッ!」

「頼む。ワタシの家族を見付け出すために、ボンバーマンを、どうか借して欲しい」

 

これ以上の言葉はない。

頭を下げる。

確りと。

それ以上、示せるモノはない。

 

頭上を通り過ぎる針の音。

静謐に響く、微かな布切れ。

僅かな呼気すらも嫌に響いて聞こえる。

中。

無機質な、金属の音が鳴った。

 

何も。

何も、起きない。

何も起こらない。

小さなため息が聞こえたかと思えば、テーブルに何かが投げられる、重たげな音がした。

 

「…………顔を上げい」

「………………」

 

恐る恐る。

瞼を下ろしたまま顔を上げ。

そして。

ゆっくりと開けた。

 

テーブルに、無造作にある拳銃。

撃鉄は元に戻っている。

引き金を引かれたのだろうが。

 

「ハッ……常に弾、入れてるハズがなかろう」

「……そうか」

 

視線に気付いた様子で、嘲るように吐き捨てていた。

もう一度、気付かぬ内に吐いていた息を吐き直す。

そうしてから漸く、ワイリーの顔を見た。

まるで、己自身が気に入らぬとばかりに歪めている、その顔を。

 

「結論から言うが、ボンバーマンは貸さん。誰が頭を下げてきたとて貸すつもりはない」

「……」

「じゃが、お前の役に立つ輩の紹介は出来よう」

「……それは…………アメロッパの人間かい?」

「そうとも言えるし、そうとも言えん――ボンバーマン」

『オう?』

 

顎を撫でていたワイリーが、視線も向けずに声を掛ける。

待機していたボンバーマンが返事をするのを、微かに頷いた。

 

「パインに紹介してやったとして、フォルテが見付かる公算はあるか?」

『ンー……パインだケじゃア厳しいと思うガ』

「あるか、ないかじゃ」

『……アる』

「だそうだ。ワシから出来るのはそれぐらいじゃが、構わんな?」

 

思わず唾を飲み下した。

パイン。

そのネットナビの名は既に、ニホンでは些か薄いが、アメロッパ外にも広がっている。

 

社会実験の一環により、人間の様に一部権利を与えられたナビ。

他のネットナビに関しては現在、後見人もとい後見社となる企業が探されている一大実験。

その先駆け。

 

様々な企業が参加を志しているそうだが。

ネットナビに関してはアメロッパにおいて半ば一強と化しつつあるゼフラム社。

そこに匹敵出来るだけのネットナビを作れるか否かで、殆んどが頓挫していると聞く。

 

もっとも。

ゼフラム社とて、パインと言うナビを作ってはいない。

あくまでもその超技術のネットナビと友好関係を結べたからに過ぎないのだ。

等と言う話を科学省を抜けた元同僚から、そんな話を聞いた。

 

だがゼフラム社が作ったか作ってないか、そこは重要じゃない。

ワイリーがワタシを、パインに紹介する。

その一事が大きい。

 

「…………良いのかい?」

 

紹介とは、軽いモノではない。

即ち、ワタシの身元を保証することと同義なのだ。

何か人間側からでは分からない不躾をしてしまって怒らせた場合、回り回ってその責任は、ワイリーにも生じてしまう。

しかし、そのような疑念を孕んだ言葉は、

 

「構わん」

 

ただの一言で片付けられてしまった。

 

「ただ、コサック。一つハッキリしておこう」

「……なんだろう?」

「この協力は、あくまでもお前が家族を見付け出したいからと言ったから協力してやるに過ぎん。努々それだけは忘れるな――よく、覚えておけ」

「――ありがとう。本当に、ありがとう」

 

もう一度。

頭を下げる。

それしか出来ようハズがない。

もう一度、ため息を吐く音がする中、

 

「家族は精々大事にするんじゃな」

 

何処か呆れ果てたような声が聞こえた。

 

 

 

暫くの後。

連絡先の確認だけ済ませ、

 

「さっさと帰れ」

 

と口にするワイリーの言う通り、帰る準備を進める。

とは言っても、別段そう準備することはない。

ただ、持って来たモノを持って帰るだけ。

リーガルくんと話が出来ないのは少々残念ではあるが、長々と居座るのは流石に迷惑だろう。

今回の所は。

 

「――じゃあ、失礼させて貰うよ」

「おー、帰れ帰れ。二度と顔を見せるな」

「冷たいなぁ……」

 

手だけで追い出して来る、相変わらずの様子に懐かしさと虚しさを半々に感じる中。

ふと、思い出す。

伝えておいた方が良いだろう。

そんな事柄を。

 

「そう言えばワイリー、知ってるかい? 近々アメロッパがニホンの技術者を招集する話だ」

「知っておる。『環境維持システム』の人身御供じゃろう」

「! 流石。光博士も一体いつからあんなモノ隠していたのやら、人が……っと、そうじゃない。それに際しての話だ」

 

その辺り、ワイリーにもちょっと聞いてみたくもあった。

ワイリーのことだから、そのシステムについて詳しい話を知っているんじゃあないか。

なんて思ったものの。

辞めた。

 

不機嫌。

口に出さずともそんな気配を発している彼に、そのことを聞くのは。

流石にそこまで命知らずじゃあない。

フォルテを見付けるまで、死ぬ訳には行かない。

 

「ニホンの技術者を幾人も引っこ抜かれるとか言う情けない話か?」

「幾らか人が辞める話もある」

「……で? さっさと結論を話さんか!」

「ハッハッハ、ごめんごめん。辞める人間の一人が、君の一番弟子と言う話を耳にしてね」

「……なんじゃと?」

 

凄まじい勢いでその顔がワタシに向いた。

浮かんでいる表情は、驚愕。

知らなかったのだと一目で分かる。

 

「何でも、君の許に身を寄せるつもりだと吹聴していたそうだけど……その分だとやはり知らなかったみたいだね」

「――――あの馬鹿ッ」

 

鋭い舌打ちの音。

歯軋りが聞こえてきそうな具合に歯をむき出しにする姿。

やっぱり相変わらずの様子だ。

 

「……今日、お前と話した中で一番有意義な話じゃったわ」

「酷い言い草だ」

「フン! さっさと帰れ! …………フォルテが見付かる事、精々祈っておいてやる」

「ありがとう。それじゃあ、また」

「二度と来るな!」

 

言葉に押し出されるように、その場を後にする。

次に来る時の手土産をどうするか。

そんなことを考えながら。

 

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