ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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「――此方です」

案内人。
書店に赴き、ワタシの名前を出してすぐ。
出て来た彼は、自身をそう言った。

そうして揺られたこと暫く。
車で連れて来られたのは、何処とも知れぬアパートメント。
何処にでもありそうなその中の一つを前に、そう口にした。

車の中で聞いた話では、パインの未来への展望に感銘を受けたとか何とか。
それで自身の築き上げた会社、書店を売り払ったのだと。
今は顧問として、相談役として勤めているそうだが。

改めて、扉を見やる。
それから左右も。
正直、特別他と変わりない一階の部屋としか思えない。

とは言っても、何時までも前で立っている訳にも行かない。
鍵は既に開けてくれた。
だからただ、開く。

中は質素なものだ。
何か飾られている訳でもない。
玄関口に積まれた段ボールの数々。
すぐの廊下に置かれた本棚。

通り過ぎる最中に一瞥する。
しかしどうにも、本の種類に統一性はみられない。
気にせずに奥まで踏み込めば、リビング。
此処は異様だった。

壁一面から伸びた板。
正方形に区切られている棚を幾つも繋いでいるような。
覗いてみればそれら壁側を奥にした四角柱には、全てに付きっぱなしのテレビが十数。
全て違うチャンネルを映しているようだった。

「これは……」
「ネットナビに現実世界を学習させるため、だそうです」
「現実世界を?」

覗き込みながら思わず溢せば。
返って来たのはそのような答え。
確かに、テレビの前にはカメラと集音機か。
そう言ったモノがそれぞれに設置され、何処からか伸びたコードも見える。

「ええ。これ以外にも、本の中身をスキャンしたりと色々しておりますよ」
「……本を?」
「本屋をしているのに本を読まないのは、なんて言って。まあそのために一度裁断する必要があるのは……何とも言い難い所ですが」

微かな苦笑い。
そんな顔を浮かべた彼が「此方です」と口にしながら扉の一つを手先で示した。
件の主。
その先に、パインが居ることを。



069:コサック

 

他の皆。

スタッフマン達やその他色々と。

ガールではないけど、近しい子も含め。

 

様々な番組を眺めている姿を横目に。

チェアに座ったままぐるぐると回る。

今日の所は、メガネも付けた研究者スタイル。

なので回っていると白衣が靡くが無視して、形ばかり、瞼を降ろしたまま回り続ける。

考えの整理も兼ねて。

 

アパート一階を借りた秘密基地。

とでも称すべき、情報収集部屋。

ソレが此処だった。

 

現実世界の様々なテレビ番組。

現実世界の小説に雑誌、聖書や画集に資格書等々。

此処は、そう。

ネットナビ達に、テレビと言う媒体を通して現実世界を学習して貰う他、アルバイトの方にスキャニングして貰った書籍を読み込む場所である。

 

ちなみにアルバイトの子は、本屋に勤めている従業員の子供を雇っている。

本の解体からスキャニングまで。

中身をプログラムくんに確認して貰って、問題なければ持って帰っても良いとしている。

そのお陰でか、幸いアルバイト希望が途切れる様子もない。

 

我ながら『MMM』の売り上げに貢献していると自画自賛しつつ、ナビ達に色々と吸収させれて、どちら共に実に好調。

本のネット通販なんてモノを作らなければ、こうも巧くは行かなかっただろう。

自分で構造を用意して、自分で使う。

そう思えば、我ながら恐ろしいほど天才的。

今日は人を呼ぶと言うコトで、スキャンの方はストップしているのだが。

 

「……………………」

 

改めて。

コサック博士。

今更語るまでもない。

フォルテの生みの親。

 

ある種、ワイリー様からのご依頼もあって彼と会う訳だが。

これが中々、困った御仁である。

フォルテを見付け出したい等と。

いやまあ、理解は出来る。

 

記録の中。

三作品目。

フォルテを自身の手で、命を懸けてまで、ケリを付けようとする位には重い思いを抱いている様子の方だった。

 

ワタシことボンバーマンがフォルテと遣り合ったと耳にすれば。

その詳細を知るためにやって来ることも想像しておくべきだったのだろう。

人の口に戸は立てられぬと言う位な訳だし。

しかし誰から漏れたのかが気になる所ではあるのだが、些か時が経ち過ぎている。

調べるのは難しいし、ただの無駄。

 

ゆっくりと、無意味に閉じていた瞼を開く。

椅子の回転を緩める。

モニターの電源を付ける。

足を組み、指を絡めながら微笑みを作る。

 

「…………どうぞ、お入りになって下さい」

『……失礼します』

 

微かな躊躇い。

それを感じさせる間と共に、ゆっくりと彼が入って来た。

コサック博士。

記録にある、若葉色に似たスーツ姿だが当然まだ若さが見える。

 

「お連れして下さってありがとうございますにゃ」

『なに、大したことじゃありませんよ。それよりも一つだけ』

 

椅子に座りながら大仰に。

心持ち、大物感を醸し出すように心掛けながら礼を伝えれば、指を一本立てた。

それほど急ぎの案件があったか。

最近の出来事を思い返しても心当たりはないが、

 

「なんでしょう?」

『例のカードゲームに関して、買収してくれても良いから現実世界で扱わせてくれと嘆願が』

 

確かボードゲームだとかと取り扱っている個人経営の店だったか。

自分達で作ってはどうかと伝えたハズなんだけれども、広めるだけの資産か自信がないから相乗りしようと言う事なのだろうが。

ソレ、今聞くことかな。

今、聞くことかなソレ。

 

「……そうにゃんですか」

『ええ。遂に自ら買収してくれと……これも計算通りでしょう?』

「もももちろんです! ただ! その辺りどうするかは後程、話を進めましょう!」

『分かりました――では、失礼します。だそうだ、ツガル。そうなるとまずは相手側に何を出して貰うか必要があると思う?』

『は、はい! えっ、と……さ、昨年の売上とかでしょうか?』

『あとは借入金だとか。銀行に借金がどれだけあるか、とかね』

 

ヒッソリと。

まあ、ワタシには聞こえているけれども。

話しながら出て行き、扉を閉めていった。

 

軽くため息を吐いて見据える。

この部屋については驚いている様子はない。

まあ、隣の部屋で既に聞いていたからだろう。

ちなみにワタシは、

 

「少し汚くて申し訳にゃいですけどお座り下さい」

『失礼します』

 

面接のように。

少しばかり緊張した様子で居た彼に椅子を勧め、ゆっくりと腰掛けていく。

その姿を見ながら、同時に部屋を眺める。

部屋の隅と言う隅には段ボールが積み重なっているだけでなく、本を解体して貰った際の切り落とし何かで床も何処か粉っぽく見えるのだ。

 

スキャナーだとか機械類の調子が悪くなるから掃除するようにも言ってはいる。

それでもこのような具合。

いやはや本当。

お恥ずかしい限りである。

 

「ワイリー博士からのご紹介と言うことですけれど、如何なご用件でしょうかにゃ? あの方からのご紹介です。大抵のコトでしたらお力添え出来る……いえ、するとは思いますにゃ」

 

噯にも出さぬよう努める。

弱みとも捉えられかねないし。

序でに、あくまでもワイリー様からの紹介であるから聞く気があることもアピールしておく。

後々コサック博士の話を聞いて誰彼構わず頼って来ても困る。

 

『……ワタシのことは何処までご存知でしょうか?』

「ニホンでも優秀な科学者だと知っておりますにゃ。仮に片手で数える中で、光両博士、ワイリー博士、残り二人を挙げるとなれば誰になるかと言われる中で候補に挙がるぐらいには」

『でしたら、ワタシの作ったネットナビに関しても?』

「勿論にゃ。ニホン政府によって処分されたフォルテ――それから然程経たず、科学省を辞められたと言った話も」

 

微笑みを絶やさぬまま、見詰める。

モニターに映らない所でスタッフマン達だとかが、何だ何だと近付いて来ているが無視。

大人しくテレビや本の情報を読み込んでおきなさい。

等と言えぬので、ポーズを変える際に軽く睨んで牽制しておく。

 

蜘蛛の子を散らすようにさっさか離れていく様に心の内で頷く。

まあ、まだ何体か聞き耳を立ててはいるが。

それは良しとしましょう。

後で説明することになった場合に面倒臭いし、各自で情報共有して貰おう。

 

そんな電脳世界の状況をコサック博士が知れるハズもなし。

ワタシの意味有り気な風に取り繕った態度を暫く見詰めていたが。

やがて目を伏せ、小さく息を吐いた。

 

『………………恐らくは、ご存知でしょう。フォルテは処分されていません――処分を自ら逃れたのです』

「………………」

『今、フォルテは……あの子は…………インターネットの奥地。誰も由来を知らぬ不明のエリア。称するなら、ウラインターネットの何処かに居るようなのです』

「…………」

 

さも初めて聞いたことのように目を細めれば、重々しく頷いた。

ワタシがそのエリアを動き回っているのは公然の秘密。

と言うほどでもないか。

 

ワイリー様と話していた時は、ワタシことパインについて然程知っている様子ではなかった。

ニホンの何処かに居ると考えて、海外の情報収集を怠っていたのだろう。

なら、誰かが漏らしたと言うよりも、改めて自前で調べたと考えるべきか。

アメロッパにコサック博士の協力者が居るかが読めない。

まあ、居た所でどうにもなる話ではなかろう。

 

ついつい裏側を考えてしまうのが。

口元に、曲げた人差し指の第二関節辺りを当てるようにしながら、メガネ越しの目を細める。

疑るように。

怪しむように。

 

「――――どうしたいんですかにゃ?」

『ワタシは……ワタシは、あの子ともう一度会いたい。会って、話がしたいのです』

「なるほど」

『しかし、それはワタシだけでは難しい――いえ、無理でしょう』

 

実際問題、怪しいのだ。

コサック博士は。

ニホンの科学省を辞めてまだ数年と経っていない。

にも拘らずアメロッパへと渡って来て、口にしていることと言えばウラインターネットの事柄。

 

フォルテを製造した経歴があるためそれらしくもある。

ある、が。

ニホンからのスパイ。

そう、疑われるだけの要素も十分にある。

 

ワタシが内心で怪しんでいないのも所詮、記録があるからに過ぎない。

仮に、三番目の作品の記録がなければ露骨に怪しい人物と考えていただろう。

怪しんでも、ワイリー様からのご依頼だからと対応はしただろうが。

 

そんな、作った疑惑の視線に一度は顔まで伏せたコサック博士だが。

息を大きく吸い込んだかと思えば。

真一文字に口を閉じ。

背筋をまっすぐに立て、睨むような眼差しをワタシに向けた。

 

『お願いします、パインさん。貴方がワタシを怪しむのも重々承知の上です――ですが、ワタシが頼れるのはもう、貴方しか居ないんです……ッ!』

 

立ち上がり。

ワイリー様に向けたように。

キッチリと頭を下げて来る。

モニター越しである、このワタシに。

 

両脇に作られた握り拳が、微かに震えている。

当初から対応するつもりではあったのだが。

此処まで、ネットナビに対して真摯な対応をされれば流石に応えたくもなる。

 

実際、利点も大いにある。

あのフォルテがウラインターネットを徘徊しない。

それだけでも安全性が随分と高まる。

逆に、それ故に治安が悪くなる可能性も有り得るが。

 

「………………良いでしょう」

『!』

「ですが条件が二つ」

 

口にした瞬間、顔を跳ね上げた。

しかし。

それに対して水を差さないといけない。

 

「一つは、仮称ウラインターネット。其処にフォルテが居る以上、あの場所に通用するネットナビを持っていることが最低条件にゃ」

『…………判断の基準は?』

「ワタシが直接お相手するにゃ」

『……なるほど。しかしデリートの危険があるのでは?』

「そこは当てがあります。気にする必要はにゃいです――――それで、如何かにゃ?」

 

微笑み。

では、ない。

にんまりと笑って見せる。

 

何処までワタシのことを聞き及んでいるか。

あるいは、知り到っているかは分からない。

それでもそれなりの実力はあると思ってはいるハズだ。

 

そんなネットナビに対して。

勝てると思えるネットナビを用意出来るのか。

出来るだろうが、果たしてどの程度のネットナビか。

興味が尽きない。

 

まさかカーネルに匹敵するほどのモノを用意は出来ないだろうが。

それでも。

期待してしまう部分があった。

 

『……もう一つは?』

 

無言で、事前に用意していたテーブルの紙を示す。

薄々気付いてはいたようで、軽く息を吐いてから近寄ってそれを手に持った。

僅かに見てから、視線を寄越してくる。

微笑んで返す。

 

「娘さんも居られるのでしょう? 情報共有もやり易くなりますし、そう悪い条件じゃあにゃいと思いますけど」

『――――――良いでしょう』

 

僅かな逡巡、閉じられていた瞼が開く。

意外なことに、苦々しさが見当たらない。

むしろ納得の色が見える。

もう少し抵抗があるかと思ったのだが。

 

そんな内心を噯にも出さずに居れば。

ゆっくりとそのスーツの内側から、一つ。

PET。

それが抜き出された。

 

思わず感嘆の息が漏れる。

既にネットナビを用意していたとは。

流石だ。

だが、

 

「おっとっと! ちょっとお待ち下さいにゃ!」

『んんっ…………何でしょうか?』

「当てって言うのは此処じゃ用意出来にゃいので、場所を移したいです」

『はぁ……別の場所? それは、どちらに?』

 

意図せず出鼻を挫いてしまった形になるワタシを、肩を落としつつ半眼で眺めて来る姿に苦笑い。

流石にそこまで用意が良いとは思わなかったので勘弁願いたい。

そもそもの記録の中でも量産型のネットナビを使っている様子だとしか分からなかったのだから。

等と言い訳出来るコトでもないので甘んじて受けるが。

 

「ゼフラム社」

 

一先ずの所。

微かに眉を吊り上げる姿を見ながら、

 

「ゼフラム社の施設を借りようと考えてますにゃ」

 

そう伝えた。

 

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