ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

75 / 100
070:フォルテキラー

 

ゼフラム社。

其方で設備を借りたい。

そんな急なお願いは、あっさりと叶った。

 

幸か不幸か、強いナビ同士のバトルは何時でもして貰いたい。

良い実証データになるから。

そう言う思惑があったからだろう。

だからこそ。

ワタシの「コロッセオを使いたい」と言うお願いは連絡一分足らずで通ることになった。

 

それから先は坂を転がるようにあっという間。

顧問さんにお願いしてゼフラム社まで送迎して貰った。

ちなみにその顧問さんは、ゼフラム社の顧問弁護士の先生と話があるとのことで時間を潰して貰う手筈となっている。

買収してくれと来た相手の調査をするらしい。

 

さて。

それらが一通りあった事柄だったのだが。

改めて。

コサック博士。

 

ワタシは彼を高く評価している。

つもりだ。

つもりだった。

しかしそれは甘かったと言わざるを得なかったらしい。

 

ワイリー様と光親子。

この三人が居たニホンの科学省であっても、片手で数えられる中の一人として挙げられる可能性がある。

その評価が果たして、どれ程までに化物染みた評価であったか。

 

『初めましてミスターコサック! お会いできて光栄です!』

『今回居られると言うことは既にネットナビをお持ちなのですね?!』

『私、この研究室の主任を勤めております!』

『三年前に発表されたプログラムの話で恐縮なのですが』

『ニホンの科学省を退省されたと聞きましたよ? 今回来られたのだから事実なんでしょうがなんでまた……?』

『是非ともサインを頂けないでしょうか! 妻に自慢できる!』

『もしよろしければなんですが……プログラミングについてお聞きしたいことが……!』

 

押し寄せる人波。

明らかにこの研究室外からも来ているだろうと言うほどに人が山ほど。

コサック博士を訪ねにやって来ていた。

 

名は、伝えていなかった。

そのハズなので、ゼフラム社に入って案内された時に顔を見られた結果なのだろう。

予め用意する時間が合った訳でもないのに。

何処か手慣れた様子でそれらを捌いているコサック博士に思わず目端で尊敬の眼差しを向けてしまいながらも。

羨ましそうにチラチラ視線をやっている室長さんに対し、頷く。

 

「準備は?」

『もう間もなく』

「にゃら……コサックさん!」

 

声を張る。

ワタシのソレに、落ち着いて対応をしていた顔に僅かな緊張が走った。

しかしすぐさま気を取り直したように表情を作り、此方を向いた。

 

室長さんがコサック博士の元に歩み寄っているのを眺め、ワタシも動く。

とは言っても。

研究室のモニターから、繋がっているコロッセオの電脳へと移るだけ。

 

観戦。

そう言った観点からか、予め繋げられているのは非常に移動し易くて助かる。

等と考えている間にもその胸元からPETが取り出され、

 

『――プラグイン、リングマン.EXE トランスミッション』

「――ハッ!」

 

中央の台座。

仮称コロッセオにプラグインされて来たネットナビを見やる。

名は体を表すと言うが。

成程、納得出来る。

 

典型的な人型。

だが、まず目に付くのは頭の上にある黄色の輪っか。

アイボルト、と言う物がある。

重い物体はクレーン等で吊るすために予め取り付けられている輪っか。

それが頭に付けられているような見た目。

 

他はそれほど目立った要素は、正直ない。

頭が目立ち過ぎているだけだが。

顔と上体、膝から足先までを覆うような赤い鎧染みた装甲。

基本となっているのだろう、黒のボディ。

そして両肘から先を殆んど隙間なく覆っている、黄色の輪っかの数々。

 

緩く開かれた腕とその先で握り締められた巨大な、フラフープほどはあろう大きな輪。

いや確か、チャクラム、だったか。

そういう武器を彷彿とさせる。

 

赤い頭部装甲から見えている、瞳にも負けず劣らぬ鋭さを宿していると見える、ソレ。

一目で理解出来る。

完全戦闘型ネットナビ。

 

相対して感じられる。

カーネルほどではないが、強い。

ウラインターネットに潜っても問題はないだろう。

正直、戦わずとも許諾点は出せそうではあるが、

 

「……にゃ~るほど」

『コロッセオ、準備万全です!』

『……目的のため、勝たせて貰う。このフォルテキラー、リングマンでね』

「……仰せのままに」

「何処からでもど~ぞ?」

 

ゼフラム社。

コサック博士。

どこもかしこも気合十分となれば、そういう訳にも行かない。

 

と言うか。

ワタシが配慮して『フォルテ』の名を出さないようにしていたのに。

とか、よりにもよって『キラー』なのか。

等と色々な考えがメモリ内を過ぎるが、一先ずは断つ。

ただ迎え入れるように両腕を広げ、笑みを見せる。

 

沈黙。

数秒の。

間。

 

『――行け!』

「ゼァアアア!!!」

 

叫ぶようなコサック博士の声が響く。

それと殆んど同時に。

裂帛の気合と共に即座に距離を縮めんと迫り来るリングマン。

速いは速い。

 

感嘆の口笛を鳴らしながら後ろ走り。

生み出した《ミニボム》を軽やかに。

その軌道パターンを予想しながら放り込む。

が、

 

『払え』

「甘いんだよ!」

 

速度が一段と増す。

瞬時に振るわれるチャクラムが道を斬り開く。

幾つかの爆風を背に更に迫り来る姿に距離を置くことを一旦諦める。

なのでむしろ、

 

「そうみたいですね~」

「ッ」

 

寄る。

駆け迫る。

生み出すは《マジカルポテトスマッシャー》。

一瞬乱れた姿を逃さず突き刺すように。

 

『横!』

「フン」

 

しかし一歩。

真横にズレることで躱された。

此処までは予想通り。

突っ込んだ勢いのまま、飛び込み前転の要領で、振り抜かれるチャクラムを跳んで空かす。

 

『払え!』

「!」

 

そのまま離れんとする勢いは床を片手で掴み殺し足元を薙ぐ。

が、駄目。

ワタシ向けて突き下ろそうとしていた軌道を強引に変えたか。

《マジカルポテトスマッシャー》を半ばに裂かれる。

 

しかしまだまだ。

起爆。

柄の先の爆弾が床に落ちた衝撃で爆発。

追撃しようと此方に向いていた意識が一瞬削がれた間、腕の力で弾けるように跳び退く。

おまけに空中から《ミニボム》をばら撒いて。

 

『斬れ!』

「ハッ!」

 

今度は勢いを更に強めて離れる中、見た。

振るわれる二本のリング。

それが縦横無尽に暴れ、《ミニボム》群を斬り裂くことで無力化される光景を。

 

トン。

トン。

トン、と。

 

距離を置いた所で一旦脚を止める。

なるほど。

両手に持っているチャクラムはやはり《ソード》系統のような斬撃か。

ともなれば威力も百かそれ以上はあると見て良いだろう。

 

『待て』

「…………」

 

むしろ《ソード》系統よりも円形な分、取り回しには難がありそうではあるが。

先程の攻防。

自らを傷付けるような下手を打つとも思えない。

近距離では少しばかり分が悪いか。

 

『…………如何でしょうか?』

「悪くはないですにゃあ」

 

軽い考察を挟んだ間。

小さく息を整えてから問い掛けて来た姿を目端に頷いておく。

性能の良し悪しのみで言えば、非常に良いだろう。

 

想定と差異がなければウラインターネットのウイルス相手にも十分にやっていける。

まあ。

あくまでも、ウイルス相手には、だ。

 

『では』

「難易度を一つ上げちゃいまーす!」

『! リングマン!』

 

微笑み、指を鳴らす。

声掛けを即座にしているを尻目に生み出すは《ストーンキューブ》。

ワタシとリングマンとの間に遮蔽物を作る。

それだけの単純な事柄だが、

 

「第二ラウンド、開始ぃ! にゃん!」

『ッ払え!』

 

遮蔽物。

相手が見えないが、ワタシには関係ない。

既に把握している位置を元に、放物線を描くように《ミニボム》を投げ込めば是この通り。

 

僅かな焦りを含んだ声音。

先程よりも一拍遅れたろう動作。

向こう側から聞こえる爆発音から、大凡の位置を逆算しながらただひたすらに放る。

 

塩試合。

関係ない。

勝てばよかろう。

この程度で勝てるなら苦労もない。

 

『リングマン!』

「問題ねえ」

『投げろ!』

 

両手のチャクラムを縦横無尽に振り回しているだろう。

音で察せられた中、遣り取りの声。

投げろ。

成程。

 

即刻《ストーンキューブ》より距離を取る。

序でにチャージを始めた刹那。

半ば斬り裂き、しかし勢い劣る様子もなく貫き現れた輪。

チャクラム。

 

目視したソレをステップで躱して奥を見やる。

片手。

一つのみでも先程まで投げていた《ミニボム》群を問題なく捌き斬る姿。

成程やはりは悪くない。

 

しかし捌き切ってワタシを見やってもないそのまま。

経験が浅い。

いや、指示が悪い。

もう一つ生み出さないと言うことは。

 

もう一回ステップ。

それだけ。

背後から迫って来ていたチャクラムはそれだけでも軽く避けられる。

 

『なっ』

 

平然と受け止めるリングマン。

対し、微かながら動揺の声。

その隙を逃す手はなし。

 

「さてにゃ初お披露目! 《パインボム》!」

 

チャージしていたエネルギーを利用して発動。

ストーンマンの岩石生成能力。

それを、多分気付かれてただろうけど、研究させて頂いた亜種。

相手の上辺りにランダムにボムを幾つも生み出し落とす。

ただそれだけの、技術も何もない撹乱技。

 

序でに。

本来ただの《ハイパーボム》でしかない所。

厄介さを上げるため、落ちたら跳ね回る《プルルンボム》でも出来るようにしてある。

そして今回は初っ端から《プルルンボム》の大サービス。

 

落ち行く刹那。

今までと違う種類のボムへの警戒から離れる選択肢を取ろうとしたらしいリングマン。

反し、

 

『ッ、斬れい!』

 

反射的に。

今までと同じような指示を出したコサック博士。

一瞬の硬直、

 

「っ、グぉァああ!!!」

『しまっ、リングマン!』

 

した表情に相反すように動いたその両腕が動き《プルルンボム》を斬り裂き。

範囲の広い泡の爆風に巻き込まれたリングマンの悲鳴が響く。

驚きの声を上げているコサック博士。

しかしそれでもなおリングマンの腕は止まらず周囲の《プルルンボム》を指示通り斬り落としている。

つまり、確定。

 

『避けろ! 距離を取るんだ!』

「……ッく」

 

今更のように出された指示に従って動く姿に、些かの憐れみを覚える。

リングマン。

コサック博士。

どちらにも。

 

無意味に息を吐きながら。

再度生成した《マジカルポテトスマッシャー》の柄で己が肩を叩く。

離れ、見えるリングマンのダメージは大きい。

《ミニボム》が幾らか、次いで先程の《プルルンボム》でのダメージ。

通常のナビならデリートを免れない値はあるだろう。

 

しかしそれでも平然と。

少なくとも、そう見える姿で立っている様は思わず拍手したいほどだ。

そんな隙だらけの姿を晒すつもりは毛頭ない。

再びエネルギーのチャージを開始。

警戒する姿を他所に、舌を回す。

 

「――全く、憐れな話にゃ」

「………………」

「貴方のことにゃ、コサックさん」

『……!』

「完全自立型ネットナビ――ソレに勝手をさせ過ぎた所為で――とか自制した結果が、こぉんな無様なリングマンなのかにゃあ?」

 

《マジカルポテトスマッシャー》の先でその姿を指し示しながら。

適当にそれらしいことを口にして、

 

『くっ…………ワ、ワタ』

「《ウォール・パイン》!」

 

言い淀んでいる間に次へと移る。

生成するは、ボムの代わりに《ストーンキューブ》。

上空に生成したソレ等が電脳世界でも変わらぬ摂理に従って、落ちる。

要するに岩石落とし。

 

『シ、っ下がれぇ!』

 

瞬間の動揺。

僅かな間を晒すもしかし冷静に退避を命じる。

悪くはない。

悪くはないけど良くもない。

 

くるりと無意味に一回転。

併せて足元に生み出した《プルルンボム》を終わり際に蹴り込む。

未だ残っている物も含め計五つの《ストーンキューブ》が並ぶ地帯。

存分に乱れて頂きましょう。

 

「脱落ぅ?」

 

生成は終わらない。

わざわざ離れてくれた距離。

蹴り込む先には見えずともおおよそ分かるリングマンの位置。

でも別に確りとは狙わない。

大体の位置へと《プルルンボム》を蹴り上げ、あるいは蹴り滑らせていく。

 

「リタイア?」

『――――っ』

 

息を飲む音が聞こえる。

分かる。

下手な指示は出せまい。

 

「無駄骨様かにゃぁん?」

 

下がって避けている手前。

避け続け、ダメージを避けれている手前。

先程までは自身の指示がダメージに繋がっていた手前。

最早、己を信用出来まい。

 

リングマンに、チャクラムを投げさせるか。

迎撃を命じるか。

何時までもこの状態を保っていられるか。

目まぐるしく動き回っている《プルルンボム》の数々。

様々な要素がコサック博士の思考を、視線を、集中を、削いでいるのが見て取れる。

 

だからと言ってワタシが止まる理由もない。

蹴りながらも都度都度に位置を変え、《ストーンキューブ》の陰へ陰へと移ろう。

最初のは爆発を受けて遂に壊れてしまったけれど。

四つ、まだ壊れていないソレ等の傍らへと。

 

「――あらあらまさか、本当ぅにこの程度なんですかぁ~?」

『ッ!』

 

姿を隠し、焦りを揺する。

リングマン自体は優秀だ。

今の所、ダメージらしいダメージはコサック博士のミスからしか生まれていない。

 

ならばやるべきことは簡単だ。

コサック博士を揺すれば良い。

それだけで勝ち筋が容易に見通せる。

 

『ぅ……く』

「コサック様」

『っすまない、リングマン……! ワタシは……』

 

のだが。

まあこの戦法。

問題は少なからずある。

 

「……安心しろ。オレは貴方のナビだ」

『!』

「この程度、幾らでも耐えられる」

 

はい、この通り。

失敗。

オペレーターとネットナビとの繋がりが確りとあれば。

会話一つで立て直しが出来てしまう。

 

他の筋としては、要するにオペレーターを揺する策でしかないので。

ナビがオペレーターを無視。

オペレーターが命令を強行。

等々とある中で比較的、と言うより最良に近い選択であったと言えるだろうか。

 

そうこう伺いながらも蹴り込んでいる内に。

《ストーンキューブ》の一つがまた砕けた。

ランダム軌道の《プルルンボム》の弊害。

巻き込むつもりがなくとも巻き込まれることが起こる。

舌打ち、

 

『行け、リングマン!』

「っ!」

 

する間もない。

未だ跳ね回り続けている《プルルンボム》。

その群れを突っ切って迫り来るリングマン。

足元に出していた一つを迎えさせるように蹴り込んで残っている《ストーンキューブ》の陰へと移る。

 

背後に聞こえる爆発音。

視線を僅かに投げれば構え。

あれは、

 

『行け!』

「ゼヤァアアア!!!」

「流石にマズいっ?!」

 

投げられたチャクラム。

今までよりも勢いの増したソレが、寸分違わず陰に隠れようとしたワタシを捉え。

あるいは咄嗟に跳んでいなければ斬り裂かれていた。

耐久限界を越え消える《ストーンキューブ》を尻目にまだ無事な一つを足場に更に跳ぶ。

 

残りのもう一つも投げ付けられ足場にしたモノまでもが消失していく。

だが、まだまだ。

戻って行ったチャクラムを一つ手に、忌まわし気に顔を歪めているリングマンを嗤った。

 

「《ウォール・パイン》!」

『下がるんだ!』

 

空中で無意味に身を捻りながら生み落とす《ストーンキューブ》四つ。

上の辺りで散らばるように生み出されたソレ等を避けるため、法則に従って落ち行くワタシを見逃して退いていく。

併せて適当に生み出した《ミニボム》を牽制がてらにばら撒いて。

着地。

煙を斬り裂きながら戻って行くチャクラムの軌跡を目で追う。

 

もう良いでしょう。

そろそろフィナーレでも。

誰に伝えるでもなく口内で唱え、生み出した《ストーンキューブ》の陰にまたしても隠れる。

今度は、ボムを放り込んではいかない。

 

「――――――」

「…………チッ」

『何処に……』

 

雑に散らばった四つ。

攻撃がなければ何処に隠れているかも分かりはしない。

あくまでも、咄嗟にはでしょうが。

時間があれば探知能力なりで気付けようが、そんな時間を作るつもりはない。

 

声から位置を把握。

音から動作を確認。

その場で周囲を見ているのならば、問題なし。

音を立てないよう慎重に。

《ストーンキューブ》の側面に足裏を付け、

 

「――どっせーい!」

『……なっ?!』

「なにぃッ!?」

 

蹴り飛ばす。

別に不思議な事じゃあない。

《ハイパーボム》や《プルルンボム》なんかを蹴り飛ばせるだけの脚があるのだ。

パンチ系統のチップなんかのように。

ワタシの脚が置物系統を動かせて、何の不思議があるだろうか。

 

あるのは唯一。

パインと言う小柄なナビ。

それが《ストーンキューブ》を蹴り飛ばせる等とは思えない先入観。

 

驚愕の声が消える間もなく《ストーンキューブ》が破砕する。

同時に挙がる絶叫と悲鳴。

普通のナビなら間違いなくデリートされるレベルはとうに超えているだろうに。

 

「ぜァアアア!」

『!』

 

半身で投げ付けられたチャクラムを躱しながら、密やかに頷く。

既に己が限界が近いと見たらしいリングマンが勢いのまま突っ込んで来ている。

それに対して特に反応せず。

ただ、左手で小さめのボムを弄びながら《マジカルポテトスマッシャー》を一閃。

 

「イっちゃいにゃ~ん!」

 

大袈裟に後ずさって避けられるが、しかし。

被弾は致命と考えているのが良く分かる。

ならば。

吶喊。

 

後ろからブーメランの如く戻ってきているチャクラムを気にせずに。

ただ必ず当てると言う意思の身を明瞭に示す形で。

振り被り、振り下ろす。

 

『――いけ!』

「おう!」

 

返される対応は単純明快。

やや大げさに横へと避けられ、そのまま風車のように回るリングマンとそのチャクラム。

勢いのまま眼前に迫るソレを無視してワタシは、

 

「――鬼チョロですね」

 

弄んでいたボムを指で弾いた。

油断だろう。

《ミニボム》程度ならば耐えられる、と言う。

しかし生憎、違うのだ。

接触の瞬間に解放された冷気は一瞬にしてリングマンを氷像へと変じた。

 

『な』

 

《フリーズボム》。

氷の向こうで見開かれた瞳を一瞬だけ眺めてその脇を抜け。

背後から迫って来ていたチャクラムがリングマンの氷像に突き刺さり。

そして。

割れ出でたその背に《マジカルポテトスマッシャー》を叩き付けた。

 

 

 

「結果発ぴょ~~~~~、にゃん!!!」

 

I字バランスで回転。

からの、エヘ顔ダブルピース。

四段積み重ねていた《アイスキューブ》から、リングマンの前へと跳び下りる。

 

三点着地。

からのY字ポーズを決めて見せるも無言。

腕を組み、無言でワタシの言葉を待つ姿に肩を竦める。

 

「…………はぁー……ノリが悪いにゃぁ」

「……さっさとしろ」

 

些か反応が悪いと言わざるを得ない。

コサック博士を見やっても、沈痛な面持ちでワタシの言葉を待つのみ。

断頭台に乗せられた罪人のよう。

コレは流石に予想外。

少し焦らそうかと思っていたけれども、巻きで言った方が良いかと思い直した。

 

「結論から申せば――花丸! 合格! 二重丸にゃー!」

「…………なんだと?」

『っ……なんだって?』

 

驚いているご様子。

周囲に居るゼフラム社の人々も何処か驚いている様子。

まあ、そっちは無視で良いでしょう。

 

「まずはリングマン!」

「! ……おう」

「性能は充分、合格点! 投げるチャクラム? の威力も申し分なしでしたので、ウラでもやって行けるでしょう」

『……リングブーメランがかな?』

「あ、そんな名前なんですか? そっちも威力は良かったと思いますよ~?」

 

ただし、

 

「それ以外がダメダメでしたけどにゃーん」

『………………』

 

両手の人差し指と、序でにワタシの顔面にもバッテンを作る。

反論はない。

此処で一言二言あると思っていたが。

流石に勝者の言を曲げることは叶わず、か。

 

「アレの反省にゃんでしょうけど、ナビの自由行動を制限してたのが良くありませんね。指示通りにしか動かないとなれば、指示が出るまでの二秒はコッチの自由にゃ――――二秒? 永遠って意味ですかにゃぁ~?」

『……言葉もない』

「そこはお分かりになられたでしょうから、キチンと信頼関係を結べば解決にゃ」

 

顔を戻しつつ、頷きながらそう言っておく。

と言うかだ。

大凡の問題は今言ったコトを起因としている。

 

一つ一つ命令をしなければならないとなれば、短い命令であれそれだけでタイムラグが生じる。

「下がれ」「進め」「止まれ」「左」「右」。

単純な、ソレ等のような命令ですら口に出すだけでも二秒。

伝わってから反応するのは殆んど反射で可能であれど、口に出すと言うことは聞かれるリスクを負う。

 

チップ一つを取って見てもそう。

現実世界で使用する。

電脳世界で発動する。

 

生じる、間。

フォルダの中身が大まかにでも共有され、かつ信頼関係が出来ていれば。

チップを使用するタイミング等もオペレーターやナビそれぞれで調整出来るだろう。

だが、ハッキリ言えば手間。

 

故にこそ。

自由に行動出来るナビ自体の強さ。

一枚使うだけで威力の出せるチップ。

そう言ったモノの重要性が、今はそこまでにしても将来的には、大きいのだろう。

 

何せ、楽だから。

楽は悪いことじゃない。

長い目で見れば、楽が出来なければ辛いだけなのだ。

あくまでも、一定の水準だけを見れば。

 

ただ、フォルテを仮想敵とするならば、それでは不足だ。

ナビだけが強い。

チップだけが強い。

それはフォルテに糧をやるようなモノでしかない。

 

「――――お歳の面から見るに、反射神経に判断力。諸々全部がこれからは衰える一方でしょうからあんまり言えなにゃいんですけどねぇ~」

『………………』

「コサック様」

『……構わない、リングマン。パインの言う通りだ』

「ですのでリングマンを主体に、コサックさんが補助に回るように考えた方が良いと思うにゃ。オペレーターの方がそう言ったリソースに回れるのも間違いなく利点ですから」

『考慮する』

 

考えてくれるのならば良し。

アスリートとトレーナーは違う。

理屈で言えば、そんな所だ。

オペレーターと言うより、ディレクターとして動くべきだろう。

頷いて、次に進む。

 

「あとはリングマンの性能を活かし切れていないのが難点ですにゃ」

『それは――――』

 

開き掛けた口だが、返って来たのは沈黙。

やはり。

囚われていると見える。

しかしあえて無視。

 

「リングマンは……ワタシの見立てでは片手にそのリング、二つ三つ扱えると思いますけど如何です?」

「まあ、な」

『……』

「コサックさんが対応出来るようにするためなんでしょうけど、ちょ~っと甘々ですね~。一度に複数投げれるだけでも制圧範囲が増しますから、戦術的な意義は大きいにゃ」

 

利点のみを明示する。

仮に持てる持てないの問題があっても些細なコト。

処理的に持てない。

なら、手を持てるよう大きくすれば良いだけ。

 

人型に作っている所為で、あるいは人間の常識に当て嵌めて考えてしまう部分もあるのだろう。

だが、それならそれで対処も出来る。

二本の手で扱うのが心配なら、四本ほど増設してやれば良いだけだ。

恐らくは単に、フルスペックで動くこと自体を恐れている。

まあそれはそれとして、

 

「パッと思い付く最後の問題点は……コサックさん? あなた、ワタシの情報収集怠ったでしょ~? それとも出来なかった?」

『………………』

 

最終的に行き着く所は、コレだ。

 

「ワタシがどう言った武器を使うのか予め調べられていれば《プルルンボム》を迎撃するなんて選択肢、端からありませんものねぇ~?」

 

どう言ったナビかぐらいは調べていたかも知れない。

しかし、それ以上は踏み込んでいないだろう。

もしくは調べられる伝手がなかったのか。

流石にそれ以上は分からないが、情報が不足していたのはまず間違いない。

 

追加で言えば。

スタッフマンが割とウイルスバスティングに使っている《フリーズボム》。

ワタシもそれを使える。

そんな可能性も考慮出来た、可能性も有る。

情報さえあれば。

 

『……その通りだ。リングマンであれば負けるハズがないと考えていた』

「怠ったの? おばかさ~ん――慢心が身を亡ぼす典型例にゃ。場所が此処で良かったですねぇ?」

 

足先でコロッセオの床を叩く。

数秒の後、ガックリと肩を落とすコサック博士。

リングマンもその様子を見て慰めようと手を伸ばし、しかし引っ込めた。

ワタシを睨むように見て来はするが、その眼光に鋭さはない。

 

そりゃあそうだ。

情報収集を怠った結果の敗北。

とまではいかないが、一因ぐらいはある。

 

この場所でなければ自身がデリートの憂き目に合っていた。

ともなれば、簡単に片付けられることではない。

幾ら、バックアップから復帰出来るにしても、だ。

 

なのでそれ以上の会話をするでもなく。

視線を断ち、ゼフラム社の人々を見やる。

今回の戦闘で得られた映像やダメージが発生した際の状況等々のデータ群を見ている姿。

声を掛けるまでもなく。

その中の一人が気付いたかと思えば、続々とワタシへと視線が向けられる。

 

「……今回の結果は如何でしたかにゃん?」

『ええと……はい。大変、有意義なデータかと思います』

「でしたら良かった! また今後もお借りする機会があるかも分かりませんけど、その時はよろしくお願いしますにゃ」

『ええ……勿論です! ぜひともご活用下さい!』

 

そうこうして。

コサック博士との話し合いは終わりを、

 

「――――あ、そうにゃコサックさん」

『………………何だろう?』

「キラーは辞めた方が良いにゃ。絶対勘違いされますから」

「……そこは同意するぜ」

『…………格好良いと思ったんだけどなぁ』

 

盛り返していた肩をもう一度落としたコサック博士を見ながら。

今度こそ、話し合いを終えたのだった。

 






コサック博士と言う大物が出てきた割に使っていたのがノーマルナビだったのは何故か?
と考えた場合。
フォルテのトラウマがあって強いナビを作れはしても自由に動かせず使いこなせなかったのではないか、と言った考察でした。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。