「闇的パワーの出力は……それぐらいでお願いしますにゃ」
「皆さんも最悪、派手に散らばしても構わないにゃ」
「とりあえずワタシからは紹介が主ですので、あとは流れでお願いにゃん」
総勢十六体からなる歩み。
ゆっくりと進む行列。
その最前列で歩を進める。
ウラインターネット。
本来であれば危険地帯であるその場所を、悠々と進めている。
異常。
と言っても差し支えはないだろう。
「協力者と顔を繋ぐ」。
そう口にしてコサック博士を乗せた結果であった。
果たして現状、ワタシ以上の協力者を得られるのか。
そのような疑念を覚えていた様子だったが、ただ頷いた。
「………………」
振り返る、最後尾。
ただ一体。
油断なく、両手にリングを握り、歩いている。
ワタシは先導であり、護衛である。
後ろに連なる行列。
あるいはかつてのニホンにもあった大名行列。
十体のスタッフマンに五つの駕籠を模したモノを、前後に担いで歩かせているのだ。
無意味にも。
と言えばそれでお終いだ。
しかし、あえてそうするのであれば、
『権威付けだろう』
と。
少し前に、リングマンに対してそう口にしていたコサック博士。
大正解である。
ワタシがそのまま運ぶならリングマンと二体で済むので、このような形を取る必要はない。
もっと言えば、スタッフマンの一体でも、恐らくは駕籠の中身を抱えることは出来たろう。
であるが。
あえて、こうしている。
わざわざ危険地帯を、苦労を買うようにして運ぶ。
あの存在の元まで。
最前列に、ワタシが。
十字で言う、両脇にスタッフマンが二体ずつ。
そして最後尾に付くは、リングマン。
その顔には、鋭さよりも微かながらも恐れが目立って見える。
不気味であろう。
不気味でしかなかろう。
この道の先に、ナニが待ち受けているのか。
想像するだけでも。
しかし、そう思っていようとも、ウイルスは遠慮等してはくれない。
「――――!」
「シッ!」
右後ろのスタッフマンの一体が腰元から銃を引き抜いた。
刹那に引き金が引かれ、電気の輪が即座に宙を駆る。
黄色い残跡を追わせるように投げ付けられた《リングブーメラン》は、痺れていた紫色のメットールを真っ二つに引き裂いた。
「おお」
等と、既に何度目か、思わず感嘆の声を漏らしてしまう。
スタッフマンの補助があったとは言っても即座の対応。
ウラインターネットを積極的に探索している様子ではなかったのに、手慣れた雰囲気。
向けられて合った視線に掌を振って返し、止めてしまっていた足を進める。
背中で微かに動くモノを背負い直して。
その背中に負った、一体のウイルス。
獣耳をくっ付けたメットール。
赤ん坊を背負うのに使う、抱っこ紐やらを模したデータ。
それで以って背負っていたメットールが機嫌良さ気に体を揺すったのだ。
今まさに、自身の仲間がデリートされたことを知らぬかのように。
あるいは。
脅威と思われていないのか。
まあ、思っていないのだろう。
メットール。
そうは言えど、既にそれなりの量のバグの欠片を食べさせている。
色にこそ変化はないが、相応の強化は実の所、されているのだ。
並のメットールと思って挑めば痛い目を見るのは間違いない。
まあ、生憎。
痛い目で済むだろう辺り、まだまだ観察と成長の余地が大いにあるのだが。
こればかりは気長に付き合うしかないだろう。
歩を進める。
歩を進める。
ゆっくりと歩みを進める。
途中に出会うウイルスの悉くを葬り去り。
コッソリとソレ等のデータを回収しながら。
只々歩く。
ただただ歩く。
深層へと。
深奥へと。
出ずるウイルスも強力になっていく。
ワタシには見慣れた相手でもあるが。
知らぬリングマンに少しずつ焦燥が浮かんで行くのが見て取れる。
いきなり深みへと降りて行くのは些か、クるモノでもあるのだろう。
何せ、伺った限りではコサック博士。
リングマンを縛っていた様々なプログラムを解除したとのことだ。
フォルテの二の舞を恐れるあまりにしていた、枷。
行動を制御するプログラム。
だけではなく。
ココロの制動、情動、衝動。
様々な意思決定の自由すらもナビ自身には気付かれぬよう奪っていたのだから恐れ入る。
だが、まだ情緒の育っていなかったらしいリングマンには、それがどのようなモノであるかの理解も及んではいなかった様子だが。
とにもかくにも。
ウラインターネットの奥へと潜る。
その一事が、負担になっていることは見て取れる。
オペレートしているコサック博士もまた。
表情こそは冷静に見えるが最初よりも声に固さがある。
それも、もう間もなく終わる。
《リモローソク》のチップを回収し、エリアの境界で足を止め、序でに片手を上げて指を回す。
すぐさま陣形を解き、運んで来ていた荷物の確認を進めるスタッフマン達。
その様子を尻目に、リングマンが顔を寄せて来た。
「この先か?」
「そうにゃ。今一度、言っておきます――」
ようやく。
その安心感でもあるのか何処か軽い調子。
半ば呆れつつ、あえて釘を刺すために。
普段の調子から声を固くし、囁くように口にする。
「――その身が惜しくば、くれぐれも粗相のないように」
ワタシの様子に気付かないリングマンではない。
相応の性能があることは分かっているのだから。
分かるように、あえて隠そうと強いた固さ。
さもそれに勘付いたかのように額に皺を寄せた。
この辺りの遣り取りは、まだ完成してそれほど経っていないからだろう。
簡単に騙されてくれて助かる。
少し前と同じように。
いやそれ以上に体を固くしたリングマンに微笑み掛け。
努めて明るい笑顔で声を出す。
「にゃっはっは! 失礼さえしなければ大丈夫にゃ! 短気な御方じゃにゃいですから」
背負っていたメットールを抱っこ紐ごと解き降ろす。
顔を傾げるように見上げて来ているその頭を軽く屈んで撫でてから、近寄って来たスタッフマンの二体にお渡し。
せっせと背負って下さる様に頷いて、周囲を見やった。
最終確認は完了。
次のエリアに行く準備も問題なし。
「それじゃ、パーズをお願いしますね?」
「……パーズ?」
「あ、このメットールの名前にゃ。可愛いでしょ?」
疑念の声を上げたリングマンに応えつつ、大人しく背負われているメットールの頭を撫でる。
一応、連れて来はしたが。
正直な話、そこまでこのメットールのことを気にしてはいないと思うので無駄足な気はする。
まあ、如何な様子かと聞かれれば見せれるように。
それだけのために連れて来たのだ。
仕込みが無駄になったら無駄になったで良し。
全くの無意味、と言うことにはならない。
「さて――――」
等と無意味な考えを適当にまとめて。
ゆっくりと振り返る。
既に駕籠を担ぎ直したスタッフマン達。
両脇に立つスタッフマンは二名ばかり、メットールと此方で待機だが問題はないだろう。
それよりも。
今回の主役とでも言うべき、リングマンとコサック博士。
落ち着いているようには見えるが、そこはワタシが気にすることではない。
顔繋ぎまでが役割だとこの際、切って捨てた。
「――――行きましょう」
そうして、エリアの境界を抜けた。
瞬間。
身に纏わり付くように絡まるナニカ。
闇。
闇の力。
その片鱗。
さながら、そう。
服を着たまま水場に入り込んだように。
体が重い。
それでも気にせずに歩を進めれば徐々にその重さは増していく。
確か作品の三番目だったか。
その中のウラインターネット。
行き着ける最奥にあったような、坂道。
それに近い場所の根元で一瞬、脚を止めた。
下からでは見通せない、登り着いた先にある広間。
そこで待っている者の存在感を犇々と感じる。
感じ取れる。
振り返り一瞥。
辛そうではあるが、着いて来ているスタッフマン達と最後尾のリングマン。
しかしウイルスを気にする余裕は見られないが。
問題はなかろう。
その辺りの対処はしてくれると、あるいはしてくれているモノと信じて。
坂道へと、脚を掛けた。
途端、増す圧力。
水場で靴を履いたまま歩いているように重苦しい脚を。
引き抜くように一歩、一歩と。
徐々に体に絡み付いてくる重さも増して来る。
後ろで、必要がないハズなのに誰かの息が荒くなっているのが聞き取れる。
しかし進む。
脚を進める。
何歩進めたか。
坂の中腹を超えた辺りか。
背後で音が鳴った。
鈍い音が。
『……! パインくん、何やらスタッフマンが……!』
「…………」
止め掛けた脚を、進める。
スタッフマンの誰かが膝を突いたのだろうと分かったから。
無視して脚を進める。
息を飲む音がする。
それでも無視して脚を進める。
一つ。
二つ。
三つ。
と。
続々と同じような音が鳴っては止まる。
しかし一つだけは。
何処か躊躇しながら。
それでも、足音が着いてくる。
だからこそ振り返りはしない。
ただ悠々と先を歩いて見せる。
この先に居る存在がどのようなモノか。
語らずして知らしめるように。
やがて、ワタシは辿り着いた。
坂の上の広間。
そこに在る、先日に作ったばかりの、石を削ったような玉座。
其処で頬杖を突いて待っていた、その存在の前に。
『リングマン……!』
「問題、ない!」
苦し気な声を背に。
振り返ることなく。
ただ迫り来ることを知る。
足音。
声音。
ソレ等を元に、大凡の位置を把握。
登り切るよりも前に、恭しく頭を下げる。
息を飲む音が聞こえた。
どちらもが。
その姿を見てだろうか。
あるいは、別のナニカを感じ取ってだろうか。
それでも口にすることなく、非常に緩慢ではあっても。
ワタシの横に立った。
そこで頭を上げ、口を開く。
「――――この度は、ありがとうございます」
「構いません、あなたの頼みです。それで?」
「まずは紹介を。此方はリングマンと、オペレーターはコサック」
『……初めまして』
「………………」
画面越しで有りながら頭を下げるコサック博士。
小さく、あるか無き反応をするリングマン。
その様子を見ながら、告げる。
「――フォルテの創造主と言えば、よりお分かりになるかと思います。セレナード」
初めて、柔らかな微笑み以外の反応を示した。
目を細め、様子を見やるように。
心なし、増して感じられる圧迫感を捻じ伏せる。
微かな呻き声を漏らすリングマンを他所に。
ワタシの咎めるように細めた眼差しに冷静さを取り戻したらしくやがて、あらゆる圧力が消え去った。
崩れ落ち掛けたリングマンが曲がった膝を無理矢理立て直すのを他所に。
セレナードから、慌てた様子で坂を登って来るスタッフマン達を視線を移して迎え入れる。
駕籠を掲げ、早速開こうとするのをセレナードは人差し指一つで留め置き。
頬杖を外しながら身を乗り出すようにしながらも。
同時に、その両の手の指が組まれた。
「ご用件を伺いましょう――ミスター・コサック」
画面越しであろう。
にも拘らず、何かしら感じるモノがあったのか。
喉を鳴らして唾を飲み込んだコサック博士は。
それでもゆっくりと。
しかしながら確かに。
その唇を開いたのだった。