ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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072:娘

 

会談の内容について。

これは詳しく聞いていない。

フォルテの話もあるとなれば、流石に。

その場を辞させて頂いたのだ。

 

折角奥まで踏み込んだのだから《リモローソク》の収集を行いたいのもあったので。

と言うのは冗談。

実際のところで言えば。

プライベートな部分に突っ込みそうな雰囲気があったので引き上げた面が強かった。

だからこそ、具体的にどのような話を交わしたのか、ワタシは知る由もない。

 

しかしそれでも、そう悪い結果にならなかったのではないかと思われる。

お呼び出しとして、外でうろついていたワタシに、セレナードが光弾を撃ち込んできた以外。

それも恐らく、じゃれ合い程度の認識だろう。

普通に避けたが、当たっていても別段、デリートされる程の威力はないと思われたので。

 

多分、コサック博士のコトを特に伝えなかったのが原因だろう。

ちょっとしたサプライズ。

それに対して、事前に言っておきなさい、ぐらいの。

 

ともかく、そんな具合に話が済んだ様子なので顔を伺いに戻った時、そう悪い雰囲気ではなかった。

コトは大凡、想定通りに進んだ。

コサック博士とセレナード。

この両名の出会い。

それをワタシの手で、少なくとも悪くないモノとして、成すことが出来たのだ。

 

この両名の関係性。

記録にある、どちらも登場する作品の三つ目。

そのブラック版で示唆するようなモノがあった。

《ダークネスオーラ》だ。

 

ギガクラスチップ。

ソレをコサック博士は、フォルテからの攻撃を防ぐ目的で使用していた。

そしてその入手手段と言うのは、セレナードが用意していたとある試練を突破すると言うモノ。

故にこそ、この両名に何某かの繋がりはあろうと想像は出来ていた。

 

だからこそ、何れは出来ただろう繋がり。

それを最大限利用する形に演出させて貰った。

コサック博士は、フォルテの情報を得るためセレナードと通じ。

セレナードは、フォルテの詳細を得るためコサック博士と通じる。

 

どちらの利益にもなり、かつワタシは恩のみを甘受出来得る立場。

まさしく天才的。

等と自讃したい所だが、閑話休題。

 

コトは済んだ。

後に残されたのは、そう。

コサック博士と言う、破格の人材であった。

 

『――――何から何まで申し訳ない』

「お気になさらず。その分、確りと働いて返して頂きますにゃん」

 

椅子に腰掛け微笑んでいる彼に、此方も微笑んで返す。

コサック邸。

とでも称そうか。

ワタシがコサック博士のために手配した諸々の中の一つ。

 

手配。

そう。

手配だ。

 

簡単に言えば、ワタシはコサック博士の雇い入れに成功した。

それを条件にしていたので。

そしてそのため、諸々の手配を進めていたのだ。

まあ、ワタシが出来る範囲は限られる。

毎度お馴染みな弁護士さん他皆さんに色々と働いて頂いた訳だが。

 

その中の一つであり、衣食住の一つである、住宅。

空き家の情報を元にして、ワタシや序でにサーゲス達の情報網も活用させて貰って候補を三十ばかり。

諸々の要素を鑑みた結果、コサック博士が選ばれた家を購入して、家中にネットナビが顔を出せるように改装して社宅に割り当てた。

その価値があると思ったから。

 

つい先日まで。

と言うよりも先程まで、引っ越しの諸々で動き回っていたのだ。

流石に疲れている様子のコサック博士に微笑み掛ける。

 

改装した結果、ちょっとした研究室になっている一室の一角。

ちょっとした扉のような大きさのディスプレイのお陰で、そう違和感なく話せるようにもなっている。

と、思われる。

流石に相手の心情までは読み取れないから分からないけれども。

 

直接話をすると言う関係上、PETだとかパソコンのサイズでは小さ過ぎる。

そんな思惑の元で運び込んで頂いたのが、このディスプレイ。

ワタシの後ろに立っているリングマンの姿もキッチリと見えているようで、何とも微妙な表情を浮かべていた。

 

まあ、分からないでもない。

リングマンを成人男性サイズとすれば、今のワタシことパインは頭三つ分は小さい。

ガチのメスガキサイズ。

それがパインである。

しかも今日はクローバーマークが大量にあしらわれた黄色い帽子を被っているのでパイン感は更にマシマシ。

 

そんなのが雇い主だと思えば、まあ、微妙な表情の一つや二つするだろう。

だがしかし、このディスプレイに関しては譲れない物でもあった。

直接、話をする。

それ以上の目的が一つばかりあったから。

 

『…………お父様』

『おお、カリンカか。どうした?』

『業者の方が少し、確認をしたいと……』

『そうかい――ではパインさん、少し、席を外します』

「ごゆっくりにゃ~」

 

ゆっくりと。

しかし、少し面倒臭そうな様子で。

席から立ち上がったコサック博士が部屋の外へと出て行く。

 

入れ替わるように、入って来た彼女へと目を向ける。

カリンカ。

コサック博士とは少し違って混じりっ気のない、ウェーブの掛かった金髪をした、少女。

ワタシと同じぐらいの身長をした、一人娘。

 

生憎ながらコサック博士の奥さんは居ない。

ワイリー様と言い、光正と言い、天才科学者の奥方は居ない法則があるのかと疑いたくなる。

そんな中であっても男で一つで育てられていた娘。

 

「カリンカちゃん、お久し振りにゃ~」

『………………』

 

ディスプレイ越しに手を振る。

だが、反応は薄い。

微かに顔を顰め、しかし此方に近寄って来て、

 

『…………フン』

 

ディスプレイを叩かれた。

手の平で。

ワタシの額辺りを目掛けて。

 

「にゃん?!」

 

なので、衝撃を受けたように引っ繰り返る。

そのまま後転、後ろ回り。

リングマンの足まで転がって、止まった。

 

額を擦りながら涙目を作って見返せば。

僅かにたじろいだ様子のカリンカがしかし。

それでも胸を張ってワタシを指差して、

 

『わたし、あなた達が嫌いです』

 

それだけは、とでも言うような具合に言い切って。

足早に。

しかし一瞬だけワタシを振り返って、部屋から出て行った。

 

顎を擦る。

これは、これは。

思考を巡らせること、僅か。

 

大した考えも纏まらない内に、尻が蹴り上げられる。

文字通りの意味で。

背凭れ扱いしていたリングマンが軽く蹴り上げて来たのだ。

その勢いを利用してそのまま立って半回転。

リングマンに向いた。

 

「…………あのガキの事は気にするな」

「と、言いますと?」

「何っ時もあの調子だ。コサック様の前じゃあ猫被ってるが、オレだけだと何時もな!」

 

半ば吐き捨てるような物言い。

苛立たし気なその表情を軽く眺め、視線を切る。

情緒が出来上がっているのは良い兆候だが、ソレはソレ。

出て行った後。

 

だが、足音は然程せずに消えた。

なら近くで聞いているのだろうと、リングマンはどうか知らないが、察せられる。

軽く肩を竦め向き直った。

 

「いつも、って言うのは?」

「ああ?」

「それは貴方が知ってる限りの最初からって意味かにゃ?」

「そうだ」

「ふぅ~ん……だったら少し変な話にゃ」

 

聞かれているだろうと知りながら。

さも素知らぬように顎を擦る。

訝し気に表情を歪めるのを見ながら、目を細める。

 

「嫌われるには――絶対とは言いませんけど、大体は何かしらの理由があるモノにゃ」

「知るかよ」

「思考の放棄はいけないにゃ。何故、嫌われているか。貴方も、ワタシも」

「オレとお前と?」

「もっと言うなら…………ネットナビが、かにゃ?」

 

微かに、音。

やはり聞いている。

そしてリングマンは気付いていない。

 

いやそもそも、現実世界に興味がないのだろう。

関心があるのはコサック博士だけか。

であれば、まあ、カリンカにとって余計に宜しくない相手だったろうに。

 

「――――リングマン」

「なんだ?」

「貴方が作られてから、カリンカちゃんと貴方……いえ、フォルテ関連とでどちらに時間を取ってたかにゃ?」

「詳しい時間まではすぐ分からねえが……まあ、フォルテだろうな」

「であれば、フォルテへの怨みかにゃ」

 

嫉妬とは言わない。

あえて。

聞こえている前提で話している訳だから、そう口にするのは流石によろしくない。

 

あのぐらいの歳の頃。

何かとデリケートでしょうから。

濁しておいて損はなし。

 

「怨み?」

「父親の手を煩わせるフォルテ――ひいてはネットナビに対する、にゃん」

「……とんだとばっちりだぜ」

 

露骨に舌打ちするリングマン。

しかしまあ、その表情に微かながら同情の色が見える。

自身が対フォルテ用として製造された訳だ。

 

フォルテの所為。

ともなれば、ある種の共感でも芽生えはしたか。

理解し難いが、分からないでもない。

とでも。

 

まあ実際の所は恐らく、単なる嫉妬。

自身よりも時間を取られている、時間を使われている。

フォルテに対する、嫉妬。

ネットナビに対する、嫉妬。

 

そして多分だが、カリンカは賢い。

聡い。

少なくとも、自身のソレが決して褒められたモノじゃあないとでも思ってるのだろう。

 

でなければ、だ。

叩かれて転んだフリしたワタシに、心配するような素振りはすまい。

純然にただ嫌っているだけなのであれば、嘲笑うだけの話なのだから。

 

いや、そもそも。

悪いことだと思っていなければ。

コサック博士が居ようが居まいが同じことをしているハズなのだ。

悪いことをしていると言った自覚があればこそ、隠れてしているのだろう。

 

「そうですにゃ」

 

閑話休題。

もっとも。

今はそうであっても、二十年近く後までそう在り続けるかで言えば疑問が残る。

特につい先日まで、フォルテのために娘をニホンに残してアメロッパまでやって来たコサック博士だ。

流石に家政婦なり何なりとの対応はしていただろうが。

 

それにしても、まあ、何だ。

年頃の娘と言わず子供のことを考えると、よろしくはなかろう。

何時までも、何時までも、そんなことをし続ければ。

やがて決裂するのが目に見えるよう。

 

だからどうしたと言う話。

ワタシには関係ないコト。

コサック博士も懐に入れることが出来たので、あとは個人で頑張って頂きましょう。

 

とは、流石に行かない。

コレは単純にワタシ自身の寝覚めが、いや寝るも何もないけど、悪いと言うのが一つ。

あと、もう一つ。

ワイリー様のお言葉がある。

 

『家族は精々、大事にするんじゃな』と。

ワイリー様がコサック博士に対して仰られたのだ。

であるならば。

ワタシが、それを無下にするような行動をする訳には行くまい。

 

仕方なく。

そう、仕方なく。

そんな建前がある状態で動ける。

 

「だからリングマン」

「……んだよ」

「どうか、カリンカちゃんをよろしくお願いします」

 

軽く、頭を下げる。

それに微かに驚いた様子が感じ取れるが、すぐさま気を取り直したようだった。

 

「なんでお前が頭、下げんだ」

「未来のため。一人でも、ネットナビを嫌う子が減るなら、にゃん?」

 

と言うのは真実であるが、嘘でもある。

ネットナビが嫌いと言う子のためにイチイチ頭を下げては流石に居られない。

そう言った意味で、選別はさせて頂く。

 

カリンカちゃん。

コサック博士の娘。

言い方がかなり悪いかも知れないが。

現状、ワタシの知っている有名博士の子孫で出来の悪い存在は居ない。

 

ワイリー様の息子、リーガル。

光正博士の子孫、光祐一朗に、光熱斗と彩斗。

ケイン博士の孫、ケイン市長。

 

何れも優秀。

ケインに関しては市長に成れるだけでなく、事件を起こしたことを知られてもなお支持者が居たと記録にある。

人心掌握術なのか、あるいは話術なのかはともかくとして。

 

善悪の方向性に思う所はあれど、そう言わざるを得ないだろう。

であれば。

カリンカちゃん。

 

押さえられるなら、押さえられて損はない。

少なくとも、ネットナビが嫌いだから関わらない仕事に。

等と言うことになるよりかはずっとよかろう。

 

多少優秀なだけでもモチロン損はないが。

ワイリー様然り。

光正然り。

特別優秀な存在は本当に、飛び抜けて優秀なのだから。

 

「…………まあ、オレも」

「も?」

「……フォルテに対して思う所は、ある。そういう意味じゃあ、あのガキも同志みてえなもんか」

「ガキじゃなくてカリンカちゃんって呼んで上げて欲しいにゃ」

「アッチがオレを名前で呼んだらな!」

 

相変わらず、吐き捨てるような物言い。

しかし現実世界を気にするような視線をやった。

良い傾向である。

興味がないよりかは、それが褒められたモノでない何かが起因であったとしても。

 

「ワタシもゆっくりカリンカちゃんとは仲良くしていきたいと思いますにゃ。まず、お友達から!」

「ガキ同士お似合いだな」

「え~、そのガキに負けた貴方がそんなコト、言っちゃいますぅ~?」

「コイツ……っ!」

 

にやにやと嗤い、口元に指を当てて見上げる。

ワタシに敵意を向けて来たのを確認しながら、カリンカちゃんの足音が遠ざかっているのを耳にする。

リングマンは、気付いている様子はなし。

入れ替わるように近付いてくる大きめな足音にも、だ。

 

後ろ手で、しかしわざと見えるように《マジカルポテトスマッシャー》を顕現。

バトンのように後ろ手で弄び回せば、数歩分ほどリングマンが飛びずさり。

《リングブーメラン》が両手に三つずつ、合わせて六つ。

両手の内に生み出し、扇のように広げている様を眺めながら睨み合う。

それも、数瞬。

 

『……何をしているんだね?』

「ちょっとしたじゃれ合いにゃ。ネットナビにとっての、ね?」

「……フン」

『………………なら、良いんですがね。それではパインさん、話の続きを進めていきましょうか』

 

扉から入って来たコサック博士によって終わった。

《マジカルポテトスマッシャー》を消して見せれば、同様に《リングブーメラン》を消し去ったリングマン。

それが他の電脳空間のショートカットへと消えて行く。

音にもならないようなため息を吐いて話の続きをと口にするコサック博士に、ワタシは内心共に頷いた。

 

探しに行ったのだろう。

ならば良い、と。

これで何かが変われば良いと、思いながら。

 

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