ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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008:大狼

 

帰ろう。

一目見て頷く。

映像データは入手した。

不出来な映画のように、文字通り電脳世界の地面を引っ繰り返している電脳獣グレイガの姿はインパクトが強過ぎる。

 

と言うか、幾らワイリー様でもあれを操れるとは思えない。

本当にワタシの中の記録が正しいのか、此度ばかりは疑念を覚えざるを得ない。

いや。

よくよく見れば、何やら細部が違うような気もしてくる。

ゆっくりと後退りながらもその僅かな間、思い返して気付く。

 

「…………なるホど、な」

 

あの脅威は、今のグレイガだからだ。

後に電脳獣と呼ばれることになるプログラム、ファルザーと一度も戦闘を行っていない。

つまりはあのグレイガ、消耗らしい消耗を一切していないのだ。

文字通り、本当の意味で、万全な状態かそれに近しい電脳獣グレイガ。

いや、今もなおエリアを破壊し、その度に発生している細かなバグを喰らい成長を続けているようにも見える。

 

アレが一度その爪を振るえば電脳の地を裂き、その身を躍らせれば衝撃だけでも崩壊を招き、吐息一つが火焔地獄を生み出している訳だから被害は加速の一途だろう。

『電脳獣の伝説』は大言壮語ではないと言う訳だ。

帰ろう。

カーネルぐらいの性能があるならまだ戦えるかも知れないが、無理。

結論を出し、身を翻す。

 

「……!」

 

翻そうと、した。

その前に。

《ソード》を刺された。

いや何も刺さってはいない。

我が身を貫くモノを感じる。

何が、等と思う必要もない。

身を隠すことを考える余裕はない。

視線。

物理的に殺意すら感じたソレは、視線だ。

目を付けられた。

その事実のみが瞬間ワタシの余裕を消し去った。

 

「チィッ!」

 

距離が離れているのは分かっている。

むしろその距離を保つため、チップデータなしで出せる最高火力の《ハイパーボム》を生成。

踵で蹴り飛ばし、駆ける。

背後で轟音が鳴るのが聞こえる。

これで警戒の一つでもしてくれれば。

 

風。

横に跳んだ刹那、先程までの足場が抉り取られていた。

甘かった。

速過ぎる。

全身に氷属性の攻撃を受けたような怖気。

一撃受けただけでもデリートされかねない。

間違いなくカーネルの剣撃以上の威力がある。

 

そしてその双眸。

真紅の双眼から向けられる視線は、敵を見る視線ではない。

見下すようなモノですらない。

エサを見る目。

食う気か。

ワタシを。

ワタシのデータを。

ならば、やるしかない。

最早僅かな葛藤すら出来ない。

 

「――来いヨ! 獣風情ガ!」

「ギャオオ!」

 

咆哮。

大口を広げた中に《ミニボム》を投げ込む。

発生した爆発を鬱陶しそうに頭を振るい払っている。

ダメージは通る。

確信し、下がる。

 

眼前を大爪が通る。

悲鳴の一つでも上げそうになるがそれは後。

足元に《ハイパーボム》を生成、再びその顔に向け蹴り上げた。

が、居ない。

やはり速い。

脇から抉り込むように迫る横っ面を足場にその身体を駆け上がりつつ幾つか《ミニボム》を落として脇へと飛び降りた。

 

数度の爆発。

僅かな呻き。

狙いがまだ分かり易い。

所詮は獣か。

否。

確かに絡み合う視線。

牙の隙間から鳴る音。

息を吸い込んでいる。

 

跳び下り膝を突くような体勢から全身を駆け巡る悪寒に従い勢いのまま駆け抜ける。

空間が爆ぜる。

背後を覗くことも考えず勘を頼りに横へ跳ぶ。

雷のブレス。

空気が焼き尽くされる。

それが七つの鬣を立てていたグレイガの周りと頭の延長線上の直線、ワタシの横を一瞬で駆け抜けて行った。

 

「…………グググ」

 

当たってもないのに体を焦がされるような感覚に辟易しながら振り返る。

向き直る中、大きく開かれていたその咢を閉じ、ただ忌まわしそうな唸りを漏らす。

一撃一撃が必殺。

しかも体躯を使うのみではなく多彩。

記録を元にある程度の行動を予測は出来てはいるが、いつ知らない攻撃が飛んで来るかも分からない。

と言うか、単純な脅威だけ見れば群体だからこそ脅威だったプロトバグを遥かに超えている。

 

結論。

やはり無理。

デリートするのはどう足掻いてもワタシじゃ無理だ。

一撃、手痛いと思わせるだけのダメージを与えて諦めさせるのが最良か。

であるならば。

ワタシがチップデータなしで作れるボムでは、恐らく手痛いと思わせられるだろう威力がない。

《ハイパーボム》でも痒しと言う程度としか見えなかったのだ。

ならば、

 

「獣に出来ネえコトを見セてやる……!」

 

即座に生成出来る《ミニボム》をばら撒く。

警戒の欠片もなく受けるグレイガに対して連続でぶつけるが、身動ぎ一つしない。

脅威でないと学習している。

学習されている。

 

戦慄を覚えるがしかし、それで良い。

それが良い。

大した脅威でないと思っているからか、生じた煙を払おうとすらしていない。

余裕か。

足搔きを愉しんでいるのか。

その隙を突くような形で生成した《ハイパーボム》を蹴り当て爆発させる。

 

「喰らえヤ!」

「ォオン!?」

 

前脚に喰らったそれに驚いている隙に、仕込む。

《ハイパーボム》に関してもダメージは、数値で表せば《ミニボム》の三倍程度。

グレイガの巨体からすれば大したことはなかったのだろうが、露骨に不機嫌な相貌。

注意がワタシに向いた。

猶更にありがたい。

 

面倒そうに向けて来る尾の先、変形したソレはまさに銃口。

殆んど走るように跳び下がる足元が動きに合わせるように次々と射ち砕かれて行く。

やはり遊んでいるのか。

構わない。

気付かれていないなら。

煙幕となっている黒煙の中、刻まれているカウント。

 

「――プログラムアドバンス」

 

ゼロの数字に併せて全く無意味に腕を伸ばして、人差し指をグレイガへと向ける。

その名を口にはしない。

万が一学習されると流石に困るから、ただ心の中で呼ぶ。

《ギガカウントボム》。

何処か気の抜けた音がエリア内に響く。

 

「? ッ! グガァアアァアアア!?!!!」

 

今までとは桁違いな爆発。

一瞬、足を止めそれを警戒もせずに受けたグレイガが悲鳴を上げる。

微かに聞こえる歓声。

何処からか見られているらしいが、ワタシとしてはそれどころじゃあない。

姿勢を戻しているグレイガから余裕が消えているように見える。

 

即ち。

ただのエサではなく、一定の脅威を持つ存在として認識されたと言うこと。

それに対するアクションで予想される内容は凡そ二択。

回避か、排除か。

これが賭けだ。

あちらはワタシが指を向けたかと思えばいきなり大爆発を受けたように考えている。

ハズ。

 

「――――」

 

しかし此方の速さはそれほどでない以上、グレイガからすれば避けるのは容易。

面倒を避けるなら回避が最も易い所だが、想定以上に脅威と思われてしまえば。

攻撃が止まる。

互いに脚を止め、睨み合う。

プレッシャーが増して来るのを感じるが、背中を見せれば排除しに来るだろう。

数瞬。

あるいは、もっと長い時間そうだったのかも知れない。

圧倒的に不利だった均衡が唐突に破られる。

 

「ッ!?」

「――グォ?」

 

グレイガの側面に小さな爆発が起きた。

《スプレッドガン》か。

逃げれば良いのに正義感か使命感に溢れるナビが居たのか、あるいは力量差を感じ取れもしないただの阿呆か。

更にグレイガの頭で小さな爆発が起こる。

 

今度は《キャノン》だ。

ほぼ同時に発射された方を横目に見れば、数体のナビが道やエリアの残骸に身を隠しながら攻撃を行って来ている。

余裕を持って、首を伸ばすように向いてソレ等を眺めていたグレイガが視線を完全に此方に向けて小さく唸り、外した。

姿が消える。

その、ナビ達の居る方向へと。

 

早速上がる悲鳴を他所に、ワタシは背中を向ける。

向けられていたプレッシャーがなくなっている以上、長居する理由は欠片もない。

逃げるなら逃げろと言うことなら、

 

「《エスケープ》!」

 

遠慮なく。

《カウントボム》や《ダイナマイト》以外に仕込んでいた、逃走用のチップ。

普通に使うだけなら追われる可能性があったが、注意が逸れているならば。

それを一切の迷いなく切った。

 

 

 

『ん? ああ、ボンバーマンか。お』

「ワイリー様!」

『! どうした!』

「スぐニホンのネットワークから来るモノに警戒を! バケモノが現れタ!」

 

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