ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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075:弟子

 

ようやくだ。

ようやく、終わったのだ。

ワタシのやるべきことが。

 

多くの計画書。

それ等の全てをワイリー様にお送りして数日。

奇妙な虚脱感に襲われていた。

 

無論、まだまだすべきことは多い。

それでも、だ。

そもそも会社を設立した目的。

ゼフラム社に近付き、『OS計画』の主導者達を探り出す事。

 

その、目的を達成した。

達成出来た。

達成感。

と言うよりも、開放感だろうか。

 

肩の荷が下りたとでも言うべきか。

仕事はキチンとしているが。

それでもその感覚からは、抜け出せずにいた。

 

やるべきことがある。

やっておくべきこと、かも知れないが。

近日中では電脳教会だとか。

 

いや、教会は大まかな部分以外は一先ず投げている。

そんなことよりも。

ワタシが進めておきたいことがある。

計画自体を進めてはいるが。

 

「はぁ…………?」

 

意味もなく、溜め息を吐く。

そんな最中だった。

ワイリー様から連絡があったのは。

 

周囲への一通りの連絡を済ませ、即座に向かう。

当然のことである。

併せて、ボンバーアーマーを着けることも忘れずに。

と言うよりも、プラグアウトすれば即座に用意してある場所に行けるので何の問題もない。

「忘れる」と言うのはネットナビ故にないのが利点である。

 

まあ、そんなことはともかく。

ワイリー様からのお呼び出し。

大抵は、夜なのだ。

 

ワイリー様とて、宇宙開発局でのお仕事がある。

なお、無事に目的のデータも入手出来たお陰で大分やる気が出ているらしい。

具体的にはその解析。

ワタシもワタシで、当然ながらお仕事がある。

手に入れた収益をそのまま事業拡大に費やす、ある種の自転車操業で拡大中。

 

お互いの邪魔にならない時間帯だから。

余程のことがなければ、夜なのだ。

お呼び出しがあるのは。

 

なのに日のある内に連絡。

それも、ご自宅からして来られたご様子。

つまり宇宙開発局を離れて。

そう言った意味で、今回の呼び出しは異常事態と称しても問題ない出来事であった。

 

急がずとも良い等と。

そうあったとしても、外せない事柄でもない限りは流石にすぐお伺いする。

半ば駆け付ける形でお訪ねしたワタシに対して、

 

「オう、待たせタ」

『早かったな……まあ、良いじゃろう』

『………………』

 

頷かれるのとは対照的に、何処か淀んだ男がそこに居た。

一瞥。

それのみでお互いに視線を逸らす。

 

しかし此方は、人間と違って目を向けずとも認識出来る。

詳しく観察してみれば、ワイリー様にお会いするためだろうか。

身嗜みを整えてから来ているのが窺い知れる。

ボンバーマンポイント一点。

 

なんて冗談はともかく、そうすれば隠し切れない部分が奇妙に映る。

手先が些か荒れている。

特に短く切られた指爪の間。

それに、落とし切れていない油による黒ずみか。

皮膚にも染みて見える辺り、普段から機械類を触っている証左。

 

ワイリー様のお知り合いであることは確定だろうが。

ワタシのことを知っていてそれなのか。

あるいは知らなくてそれなのか。

些か興味深い反応ではあるが。

それは、ワイリー様との会話の内で探れば良い。

 

強いて、その男のことを無視しているかのように。

ワイリー様を見やる。

興味ないような姿勢に軽く眉を動かされはしたが、何事もないかのように口を開かれた。

 

『ボンバーマン。お前は初めて会うじゃろうが、ワシが科学省に居った頃からの弟子じゃ』

「……ドうも。ボンバーマンだ」

『………………』

『自己紹介位せい』

『ワイリー様の一番弟子、タレル・達磨』

 

十秒ほど待ってみるが、それ以上の言葉がない。

ワタシも眉を、ないけど、軽く顰めてワイリー様へと目を向ける。

小さく溜め息を吐かれ、視線を合わせて来た。

 

『今、自己紹介にあったように此奴は科学省でのワシの弟子じゃ』

「科学省? 信用出来るのカ?」

 

半ば揶揄するように口にする。

ぎょろりとした目がワタシを睨んで来るが、無視する。

弟子。

ワイリー様の一番弟子。

 

そう聞いて、思い浮かぶ人物が一人だけ居た。

ロックマンエグゼ。

シリーズの先駆けである初代。

その作品にのみ登場した、一人の人物。

 

『WWW』。

ワイリー様が将来的に、設立する可能性のある組織。

その設立当初より所属していたが、後に裏切り、秋原町にてボケ老人のフリをしていた男。

場合によっては、ワタシがデリートされる切っ掛けの一つに成り得る男でもある。

 

それが不快と顔に浮かび上がりそうな表情でワタシを睨んでいる。

しかし、此方も同様に睨み返す。

科学省に居た。

それだけでも、十分に警戒対象にする意味はあるだろう。

 

「急に来タのか知らネえが、今更来たヨうなヤツ、信用出来んのカ?」

『……此奴には科学省で情報を集めるように言っておったのじゃ』

「成程。スパイってヤツか……失礼しタ、すまネぇ」

 

ワイリー様がそう仰るのであれば警戒を解かざるを得ない。

少なくとも、表向きは。

さっさと頭を下げる。

 

鼻を鳴らす音が聞こえはしたが、返事はない。

気にせずに顔を上げれば既に逸らされている。

成程。

これはこれは。

 

「…………デ、何だっテんだ?」

『単刀直入に言おう。此奴とパインを繋げ』

「パインと?」

『ワシは近々、潜るつもりだとは伝えておったろう? 此奴を社長にして会社を立て、暫く資金調達を担当してもらう』

「……新興のパインの所なラ仕事もあるダろうし、潜り込ミ易いっテ考えカ?」

 

本当に『WWW』を建てられるかは別としてだが。

資金源の一つにワタシの会社を利用しようと言う考え。

ワタシとしては、何の問題もない。

経理関係を巧い具合に騙くらかすのさえして下さるのであれば。

 

何某かの仕事を頼んだ分の幾らでも利用して下されば良い。

特に、ワイリー様なのだ。

機械関連の研究開発なんぞはお手の物であろう。

そう言った依頼を回して、最低限の成果分以外はご自身等で利用されれば良いとは思う。

 

モチロン、パイン側と見ても利点がある。

現在、抱えているのはコサック博士。

どちらかと言えば電子畑の人間だ。

ワイリー様の一番弟子と言うし、様子を見る限りこの達磨とか言うヤツは機械畑の人間だろう。

 

ワタシ自身、現実世界の機械には手を出せるモノじゃあない。

非常に理想的な人材ではある。

そう言った面だけを見れば、だが。

 

『――――で、どうじゃ?』

「まァ……問題はネえと思ウ」

『そうか。タレル!』

『っ、はい!』

『暫くリビングで待っておれ。もう少し話を詰めたら呼びに行く』

『……分かりました』

 

ワイリー様に大人しく従い、部屋から出て行くタレルの後姿を眺める。

そのまま出て行き。

微かに名残惜しむように扉の前に留まった後、ゆっくりと離れていく足音がする。

そうして、恐らくはリビングまで去って行った。

ところで溜め息を吐いた。

 

「ワイリー様」

『なんじゃ?』

「正気かヨ?」

『無論じゃ』

「ダが、アりゃぁ……」

 

言葉を区切る。

顔をリビングの方に向け、視線だけ戻す。

顰めっ面のワイリー様が頷いている。

 

『……些か、頭が固い』

「ネットナビを嫌っテる。イっそ清々しい態度ダ」

 

つい先日まで、ニホンの科学省に勤めていたのが信じられない。

非常に頭の固い種類の人間だろう、アレは。

時代の進歩に追い付いていない。

 

と言うよりも、単純に反撥心か。

ワイリー様を蔑ろにした科学省。

ひいては、その切っ掛けとも言えるだろうインターネット工学とネットナビに対する。

 

「言っチゃあ悪イが、あレが一番弟子ネぇ……時代に取り残サれるんジぁねえか……アレじゃあ技術も大しテあると思えネえ……」

『ボンバーマン』

「オう」

 

時代に取り残されている。

取り残されているのを、是としている。

その時点でどうかと思うが。

 

等とボヤいていれば、ワイリー様からの声が掛かる。

顔を向ければ、確りとワタシを見詰めているお姿。

微かな不審。

だが姿勢を正し、見詰め返す。

 

『今の言葉は取り消せ』

「…………ドの言葉?」

『技術も大してあると思えない、という言葉じゃ』

「エぇ……」

 

思わぬ困惑。

溢すが、ワイリー様の表情は変わらない。

真剣な眼差しが、ワタシに向けられていた。

 

『ボンバーマン』

「オう」

『ワシが、一番弟子を自称することを許している。それでは不足か?』

「――――」

 

成程。

それは、まあ。

何と言うべきか。

 

「――――言葉が過ぎタ。本当に申し訳ネえ」

『……よい、許す』

 

「世界が認めた」だとか。

世界技術大賞金賞だとか、ノーブル物理学賞を受賞しただとか。

そう言った陳腐な言葉や意味よりもずっと、重い。

非常に簡素であり、かつ、認めざるを得ない。

それほどの技術をあの男は持っているのか、と頭ではなく心胆から理解させられる言葉である。

 

「…………ナら、ダ」

『なんじゃ?』

「何処まデ出来る?」

『意図が分からん。具体的な例を言え』

「ナビにヨる車の操作。そのタメの機械」

『………………ふむ』

 

僅かに、考えるように顎を手で撫でられる。

記録によればエグゼ一作目の時には、それに似たシステムがあった。

『オートドライブシステム』。

ただ、アレは街そのもの。

と言うより信号機に依存していた様子だったから完全な自動運転とは言い難い。

 

しかし、無人での操作。

そのシステムの基礎があるならば。

そのシステムを出来るのであれば。

コサック博士。

ソフト面を彼が、ネットナビによる操作システムさえ済ませられれば。

 

後は、ハード面。

現実世界、つまりは車側の問題になる。

その自動車自体、オペレーションシステムによってある程度の中身を制御がされているのがワタシの知る未来では一般的であった。

実際、既に排気ガス規制の対応のためだとかで電子化を進められ、他にも色々と手を加えられているとも聞いている。

 

要するに、既に自動運転の芽はあるのだ。

多分。

だが流石に、ワイリー様にそんなことをお願いするにも気が引けていた。

なのでコッソリ、お作りになられていた全自動車椅子のシステムとか構造とかの解析を進めていたりしているが。

 

まあそれが出来たとしても、早くて十年は先だろうと見ていた。

件の、信号機に依存したシステムでも大凡二十年後だ。

世界的に見て、光親子の居るソフト面に比べ、ワイリー様の居られないハード面の発展に遅れがある。

そう、考えていたが。

あのタレル・達磨がそう言ったモノを作れるのなら話は別だ。

 

「車ダけじゃネえ。ソの類型ダけでも、ヤれるコトが増えル」

 

まだまだ先と考えていたが、やれることが増える。

自動車の自動運転はモチロン。

工事用機械での施工。

農業用機械での農作。

運搬用機械での運行。

パっと上げただけでもコレだ。

 

新規に機械を設計する必要はない。

既存の機械であろうとも、ただ、ネットナビが操作出来るようになれば。

夜間であろうと、危険地帯であろうと、二十四時間であろうとも。

 

一切の関係なく動かすことが出来る。

言い換えれば。

現実世界へと影響力を増すことが出来る。

 

『………………中々面白い』

「デ、どウなんダ?」

『……腕が鈍ってなければ出来るじゃろう』

「なラ、パインも雇う気になるダろ」

『ならワシは話しに行くが……他に何かあるか?』

「別に。ソレが出来るなラ、他も行ケるダろ」

『他か……気にはなるが、楽しみは取っておくとしようかの』

 

「よっこいしょ」と年寄り臭い言葉を吐くワイリー様を思わず笑う。

ジロリと睨まれるが、笑いが止みそうにない。

いやはや。

実の所、安心してしまったと言うのもあるのだ。

 

タレル・達磨。

あの一番弟子とか言う存在。

将来的にはワイリー様を裏切る可能性はもあるが、今だけは感謝する。

「暫くは資金調達を担当してもらう」と。

そう、ワイリー様が仰られたのだ。

 

「暫くは」と。

復讐を済ませ潜られてしまえば、あるいは朽ち果ててしまうのではないかと思っていた。

だが、何かしらのお考えをお持ちである。

まだ未来を見て居られる。

それだけで、良かったと思える。

 

『WWW』を設立する未来なのかも知れない。

世界にとってはあまり良い方向でないかも知れない。

それであっても。

ただ、生ける屍が朽ちる時を待つように。

漠然と生きていくだけのつもりでないと、分かっただけ。

 

忍び笑いをし続けているワタシを呆れたような目で見詰め。

首を振って出て行かれて。

それでも。

暫くは、笑いを収めることが出来なかった。

 

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