ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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079:工作

 

夜半。

日を跨いだ後。

ワタシはただ、連絡を待っていた。

 

ネットナビと言うこの身。

人間のような生理的制約とは無縁。

故に、丸一日でも万全に働くことは可能。

無意味に欠伸を嚙み殺すような動作をしながら、『MMM』として集積されたデータを片付けていた。

 

サーゲス発案。

実行はワタシ、ストーンマン、そして一番重要な役割としてフェイクマン。

何よりも、ワイリー様に許可を得ての作戦である。

 

失敗は事実上、ない。

駄目であったらそれはそれで良し。

短期的にはモチロン上手く行けば、暫く先の未来にはなるだろうが、ワイリー様に多大な利益を提供出来る。

少なくとも、ワタシは一層アメロッパからの信頼を得られる。

そう言った計画だった。

 

ワタシの利。

其処に若干の心配はあった。

単純に、ワタシばかりが利を受けるのはどうかと言う。

その辺り、一番表に出ているのだからと言うことになってはいるが。

今後が少し、心配である。

 

「………………」

 

閑話休題。

ワタシはただ、待っていた。

連絡が来るのを。

 

ワタシが動き出すのは、最後。

フェイクマンが終え、ストーンマンが動き、そうして漸くワタシの番となる。

最も動きが少なく、しかし他二体同様に影響も大きいだろう。

アメロッパへの働き掛けな分、ある意味では最も大きいのかも知れないが。

 

連絡があるまでは端的に言って、暇。

なので、元社長の手腕を学んで貰っているツガル。

彼女が判断に悩むような事柄の処理を進めているのだった。

 

とは言ってもこれは珍しいことでもなく、日々ある業務の一環と言えるのだが。

いや本当。

戦闘型ナビのする作業じゃあない。

 

ツガルの所感や、スタッフマン達が集めてくれている資料等である程度は分かるとは言っても。

会社の将来に関わる事柄。

不具合が出たら都度、連絡と修正をして貰いながら進めているのである。

戦闘型ナビのする仕事じゃあない。

 

「…………!」

 

無意味に目を真っ白にしながら整理を進めていた。

中。

来た。

連絡を確認する。

ストーンマンもといプルーンからの一報。

 

「ちょっとヤバめ」と。

予め成功の時に取り決めていた内容。

万が一、見られた場合にも問題ないよう決めていたソレが送られて来たことをキチンと確認。

プルーンより前段階のフェイクマン。

彼方も上手く出来たのだと一安心はしながら、最後の締めとなるのはワタシだ。

 

ワタシとプルーンの作業は、直接的にワイリー様の利益になる範囲ではない。

だが、今後のコトを考えればやっておいて損がない。

プラスではないが、マイナスの可能性を減らす。

そう言った作業な以上、手を抜くことも出来ない。

実際問題、前の二体が上手くやっているのだから、手を抜くことは有り得ない。

 

急ぎの事柄は既に済ませてある。

近くに控えていたスタッフマンに終わらせていた事柄を回し、残りは放置。

PET諸々を経由する形でケツアゴに連絡を入れる。

 

電話で、だ。

夜半。

日を跨いだ夜半。

数十ものコール音。

 

出るか。

出ないか。

出なければ出ないで良い。

しかし、ワタシが最大限の配慮をした実績は残しておきたいが、

 

『なんだ』

 

果たして。

ようやく。

ケツアゴが電話に出た。

内心で生じる笑みを、念のため、表には出さず声色だけ作る。

 

「大変です!!! もしかすればアメロッパの一大事です!!!」

『少し待て』

 

慌てたような声音。

動揺を醸し出す揺れ。

酷く不機嫌そうな声で電話に出たケツアゴは即座にそう言い、少しの間を置いて乾いた音が向こうから聞こえた。

それこそ、頬を叩いたように軽快な音が。

痛みに呻くような声が小さく聞こえ、

 

『……それで?』

「はい! それでクリームランドの……クリームランド?」

『おい!? どうした?!』

「あっ、ごめんなさいにゃ。よくよく考えればクリームランドのだから特にアメロッパと関係なかったです、失礼しましたにゃ」

 

自嘲気味に。

そう一息に言い切って電話を切る。

最低限はコレで良いが。

果たして。

 

十秒と間を置かず、電話番担当のナビから、向こうから電話が来たとの声が届けられる。

素早い反応。

実に良し。

すぐに回すように返し、受ける。

 

「はいにゃ」

『判断は此方でする。話せ』

「あっはい」

 

スピーカーにでもしたのだろう。

向こう側から何やら物音がハッキリと聞こえて来る。

察するにどうやら、動けるよう準備をしているらしい。

尚更結構。

 

「まあ……一先ず順を追って説明しますにゃ。クリームランドの技術者について、何かご存知だったりしますかにゃ? それによってお話出来る範囲も変わって来るんですけど」

『――ダークランドに引き抜かれた者が居る。クリームランドで開発されていた、防衛プログラムの基幹データを持って』

「流石」

 

逡巡も殆んどなし。

ワタシがどこまで知っているか。

ソレへの探りより、ワタシから全ての情報を抜くことを優先したか。

起き抜けでこれは偉い。

内心で褒めつつ言葉を紡ぐ。

 

「であれば全部話しますが、その防衛プログラムが流出したとの噂は?」

『覚えがある』

「にゃはは。だったらその基幹データがちょ~~~っとよろしくない場所にも流出したみたいなんですにゃ」

『……よろしくない所?』

 

流出した。

と言うか。

ストーンマンが流出させたのだが。

 

「ハッカー……については説明は要らないですね。そう言った集いが電脳世界……と言うよりネットワーク上に存在してますにゃ」

 

電脳世界よりも、容量が低い。

掲示板。

あるいは、チャットルーム。

 

ネットナビやプログラムくんを介さない。

そう言った、文字でのやり取りのみを目的とするような空間。

もっとも、誘導だとかで工夫すればデータの遣り取りも出来る。

今回のように。

 

「そこに何の目的か、データを流出させたみたいなんですにゃ」

『何があったかは分かった。だが、具体的にはそれの何が問題なのだ? 報告する以上、その辺りを詳しく聞きたい』

 

要点の説明か。

流石。

弁えている。

 

「例えばの話、お家の設計図が外に漏れた場合には何処に何があるか分かってしまいますよね?」

『ああ。だが漏れたのは防衛プログラムだろう?』

「流石に鋭いですにゃ。でも、似たようなモノなんですよ」

『……と言うと?』

「鍵の設計図が漏れた。警備員の巡回時間と経路がバレた。金庫の番号が広まった。そう言った類の事柄なんですよ、今回のコトは」

 

防衛プログラム。

単独で見ればよく出来ている。

実際、幾らかはワタシの所にも流用させて貰おうと思う位には。

しかし、よく出来過ぎていた。

 

「勿論そのプログラムに手を加えれば問題ないでしょう、加えられれば、ですけど」

 

果たして、既に完成しているそのプログラムに手を加えられる人材がどの程度居るのか。

クリームランドが国家として推進していたらしい防衛プログラム。

模範解答とでも言うべきモノに対して。

積み重ねたであろうノウハウもないままに。

手を加える、と言うのは相応の知識がなければ出来ないのだから。

 

「ワタシが拝見した限り、手を加えるには中々に難易度は高いでしょうにゃ」

『…………しかし』

 

と。

半ば呻くような声が向こうから聞こえてくる。

 

『どの程度、広まっているかも分からんのだろう?』

「ハッカーが手に入れられて、しかも愉快犯的に広められる程度には広まってると思われますにゃ」

 

返って来たのは沈黙。

動きも止まったらしい。

物音一つしない。

問題の大きさを理解したのだろう。

同時に、厄介さも。

 

クリームランドの防衛プログラム。

その基データが流出した。

大抵の人は「だから?」で終いだ。

クリームランドの不備というだけの話。

 

しかし一部が、そうではない。

その防衛プログラムを利用した側。

利用している国家。

もしかすれば野良のハッカーを防ぐ防壁程度の認識なのかも知れない。

同様のデータを入手している他国等に対しては別途防衛手段を講じているのかも知れない。

 

ワタシは見ていないから知らないが。

しかし。

仮にあっても、その防衛手段はどの程度のモノか。

クリームランドの防衛プログラムと言う、他よりも格段に高いレベルのプログラム。

それがあるのだからと、後回しにしていない保証は、どうか。

 

ない。

と言うか、してない。

侵入後の難易度次第ではあるが、そう高くはないのだろう。

だってオイルマンとストーンマンが悠々と盗って来ているのだから。

 

『……………………クリームランドの復讐か?』

「その可能性は低いと思いますにゃ」

『何故だ?』

「ワタシが調べていた限り、クリームランドは防衛プログラムの再構築に忙しいみたいにゃ。と言うかぶっちゃけ内側の締め付けとかのため、復讐に動ける余裕すらなさそうな感じにゃ」

『ぬぅ……』

 

さっと擁護に回る。

此処でクリームランドに疑惑が向くのは拙い。

微かに思い悩むような声が聞こえて来る。

 

問題はなさそうか。

恐らく、アメロッパの調査でも余裕がないことは知れているのだろう。

なれば良し。

 

事実、クリームランドは防衛プログラムの再構築中。

造り直しの上、内部の引き締めもしないといけない様子だから他国に構っている暇はない。

これはオイルマンとストーンマンの証言から間違いない。

クリームランドには。

 

「まあ此処まで驚かすようなこと言いましたけど、何の問題もないにゃ!」

『………………どういう意味だ?』

 

努めて、明るい声を出す。

振り絞るような声が返って来る。

内心で嗤いながら、答える。

 

「だって他所で使ってたデータをそのまま使い回す馬鹿なんて居るハズないでしょ? 最低限、何某かの改造はしてるハズにゃ」

『……フッ。それもそうだな』

「にゃっはっはっは!」

『ハッハッハッハ!』

 

笑う。

そして気付く。

どうやらケツアゴ。

本当に知らないらしい。

 

アメロッパ内にも殆んど手を加えず、そのまま流用している馬鹿が居ることを。

まあ、他国よりか規模はマシみたいだけど。

具体例は、ダークランド。

 

其処はどうやら、丸々流用していたらしいから。

お陰で電子データにある範囲は殆んど丸裸に出来ている。

開発中の新兵器のデータとか潜入させてるスパイのリストだとかの情報、普通に有って笑ってしまったもの。

時間を見繕ってサーゲスの手伝いをしていたから知ってしまった訳だが。

 

もしもこのようなデータが流出してる事実を知られたら。

多分、クリームランドの元技術者の首が飛ぶんじゃないだろうか。

物理的に。

 

まあ、だからこその一手。

だって、怖いでしょう。

人の首が簡単に飛ぶようなデータ群。

出す所に出せば大戦を起こせそうなデータ群が、ワタシ達目線、野晒しにあるとか。

 

いや多分なんだかんだで大丈夫なんだろうとは思う。

何でもかんでも記録している訳ではないが。

それでも、ワタシの記録にある物語ではそんな危機が過去にあった、なんて匂わされた覚えがないから。

 

でもそれはそれとして、怖いので。

ワイリー様に石器時代を体感させる可能性を放置したくないので。

ある意味で、クリームランドの益にもなるだろう、このようなモノを含めた手を打っている訳だ。

やらかしている国々とかは暫く、地獄を見るだろうけれども。

 

ともかく。

一頻り。

それこそ三十秒ほどはお互いに笑って済ませた後に、

 

『……まあ、一応は知らせて来る。情報提供、感謝する』

「国民の義務みたいなものにゃ。気になさらずに」

『ああ。では、また』

「ばいにゃ~」

 

そう言って、通話が途切れた。

明日から。

いやもう跨いだ後だから朝日が出てからか、忙しくなるだろう。

そんなことを思いながら。

ワタシもまた、「完了」のメッセージをそれぞれに送った。

 





侵入者の報。
それを聞き、クリームランドのネットナビ達は迅速に対応していた。
屈辱。
味方に裏切られたと言う、恥辱。

古来より、優れた砦は内部より崩れると聞く。
しかし、そうであっても。
味方の裏切り等、想定したくもなかった。
事実として起きてしまったそれに歯噛みし、しかしやらねばならぬ再度の防衛プログラムの構築。

その最中。
侵入者。
何者か。

鬱々とした心持ちの中。
クリームランドのネットナビ達が集ったのは最奥。
構築途中。
そう、言い訳するにも、既に起きている失態は大きい。

あるいはネットナビ全てが一度粛清されるか。
そう自嘲気味に苦笑を溢しながらも駆け抜けた先。
其処に、それは佇んでいた。

クリームランドの最奥。
そうである筈なのに。
まるで、元から最初から其処に居たかのように。

外套を被り、その姿を隠したナビが。
ただ唯一、現実世界のリボルバーを模したのだろう右腕の銃身を晒して。
幾十もの倒れ伏すナビ達の中にただ一体。
佇んで、居た。

「――――――此方に戦闘の意志はない」

振り返り、顔が、向けられたのだろうか。
外套の奥に光って見える黄色い双眼。
銃口は床へと向けられている。

果たしてその言葉は真実か。
僅かに戸惑い、気付く。
我々クリームランドのネットナビが、倒れ伏していると言う事実。
デリートされず、倒れ伏しているだけだと言う事実に。

「…………何が目的だ」

誰かが、振り絞るように口にした。
それぞれが武器を構えている。
しかし、目の前のネットナビには敵わない。
半ば確信しているが故にか、問いとなって発せられた。

そうしてその言葉に。
外套のソレは笑った。
黄色い三日月を闇の中に浮かべ、

「ハッハ! 我が主より土産だ。謹んで受け取るが良い」

左腕を振るった。
垣間見えた、ネットナビから見ても無機質な腕。
それが宙を過ぎった。
と共に、世界に負荷が掛かる。

何が。
考えるまでもない。
データだ。
何か、データが送り込まれて来ている。
目の前のネットナビを座標に、膨大な量のデータ群が。

誰かが、撃った。
それを止めようとだろう。
しかし予期していたかのように《バリア》に阻まれ、只々高笑いが響く。

火蓋と言うにはあまりにも儚い。
絶叫。
これ以上は好きにさせまいとする誰かの。
あるいは踊るように撃ち抜かれた誰かの。

しかし、そう時間も掛からず。
居並んでいた全てのネットナビも、また倒れ伏す中の一員と変わっていた。
呻いているナビ達の只中、ソレは忍び笑いを漏らす。
漏らしながら中空へと顔を向けた。
中空に浮かぶ、モニターの画面へと。

「国王陛下。ご機嫌麗しゅう……」
『何が目的だ』
「我が主より土産を届けに来ただけだ。裏切られた、憐れなるクリームランドへ」
『それを信じるとでも?』
「見れば分かる。それでは」

言い訳をするでもなくただ恭しく一礼し、姿を掻き消した。
プラグアウト。
逃げた、いや出て行った。
そう察して顔を顰める国王を他所に。

クリームランドの電脳。
最奥。
跡に残されたのは、大量としか形容出来ない、種々様々なデータ群。
そしてその中で存在感を示すように浮く、『W』とだけ刻まれた一つのデータだけだった。
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