ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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080:就職活動

 

アメロッパの就職活動。

それは、ワタシの想像と少し違う。

まず大学卒業してすぐ就職ではない所。

 

卒業してから動くなんてことも割とあるらしい。

と言うよりも。

在学中に動く、と言うこと自体が珍しいようだ。

学生は勉強に集中しろとかそういう感じの様子。

 

故に、採用は基本的に通年。

状況次第で行うのが一般的らしい。

まあ他にも、大学自体やそこでの成績が特に着目されたり。

そもそもニホンと違って終身雇用じゃないからか、転職も結構頻繁にあるらしい。

 

大学生が卒業を前に就職活動をするのは、一般的ではない。

例外的なのは所謂、インターンシップ。

職場体験的なモノぐらいだろう。

リーガルがワイリー様の研究室で見掛ける機会があったのもどうやら、その流れだったようだ。

暇だから来てたのかと思ってた。

 

閑話休題。

まあ、ワタシが何を言いたいかと言えば。

既にその、珍しい例の四件目がワタシ達の前にやって来ていた。

 

「――――なるほど。イェーイ大学でコンピュータの研究を、ですか?」

『はい、その通りです! だからこそ今、時代の最先端を行っている貴方の元で働きたいです!』

 

スキャンして貰った履歴書を眺めるフリをしながら、頷いて見せる。

相変わらずゼフラム社に用意して貰っている大モニターに映っているワタシ。

だが、今回は趣向を変えてスーツに黒縁眼鏡着用のビジネスウーマンスタイル。

他三人とは頭二つ分くらい小さいが、ともかく。

 

理由は、言っているまま。

時代の最先端。

そんな場所で働きたいからと、卒業までまだ間があるのに履歴書を送って来た。

 

履歴書以外にもメールだとか。

就職希望関連。

そう言ったモノを一つ一つ挙げて行けばキリはないが、重ねて、珍しい。

卒業前に動いてわざわざワタシの居る、と世間一般に対してはそう言うことになっている、『MMM』本店までやって来たのが彼だ。

 

それ以外の子達も大凡似たようなモノ。

これまでの成績やらまだ途中の卒業論文やらも纏めて送って来るのは珍しくない。

基本的に、よっぽど音に聞こえる優秀な相手でもなければ、スタッフマン達にお願いして調査してから面接している。

彼はそんな中でも諸々の調査の結果、面接にまで漕ぎ付けている一人である。

 

ちなみにリーガルは、キングランドに渡る事が決まっているので、その前にとホームパーティに誘われ回っているとの話だ。

友人、居るのか。

等と思ったのは秘密。

 

「なるほどなるほど……顧問さんは気になること、ありますか?」

『そうですね……少し』

 

ともかくとして。

ワイリー様やコサック博士に、一番弟子のタレル博士。

そのレベルを求めるのは酷だろうが、ある程度は優秀な人間を雇いたい。

と言うのがワタシの考えである。

 

だからぶっちゃけ。

スタッフマン達による調査が完了した段階で、採用の是非はおおよそ固めてある。

とは言っても、実際に働く場のこともある。

そう言うことで、来て貰っての面接と言う訳だ。

 

顧問さんと弁護士の先生に、もう一人。

これら三人にはその辺り、スタッフマン達の集めた情報と併せて伝えてはある。

なのでよっぽどのことがなければ、だ。

特に顧問さん。

 

彼は人生経験も豊富で有られる。

それを無視するのも勿体ないので、時間を割いて参加して頂いていた。

大体はワタシに集中して、本筋の篩には気付いてないのが楽しい所だが。

 

等と会話に適当な相槌を打ちつつも。

思考はそれ以外に使っていたのも束の間。

凡その問題なし。

少なくとも、そう判断したらしい顧問さんが手元の履歴書端に「OK」と記したのを捉えた。

 

傍から見える表情は変えないまま。

適当な会話の切れ目に、眼鏡を中指でクイクイしながら左右を見るように顔を動かす。

正面以外、実は部屋の脇にも設置しているカメラで三人の様子を伺うが。

反応はない。

であれば、

 

「なるほど――――であれば、面接は以上となります。合否については後日、お電話にてお伝えさせて頂こうと思いますがよろしいでしょうか?」

『はい。問題ありません』

「はい。では、ありがとうございました」

『ありがとうございます』

 

礼。

お互いにそれを済ませ。

 

「あ、ちょっと良い?」

『はい、なんでしょうか?』

「ああ、ごめんにゃさいね。此処から先はプライベートな感じだから時間があればで良いんだけど、どうかにゃ?」

『……ええ、はい。時間は充分にありますので…………』

 

出て行こうとするのを呼び止める。

不審。

明らかに普通の面接では有り得ないだろう。

それを分かっていて、する。

 

一瞬だが訝しむ表情を見せたものの。

ワタシと交友を深めるのは就職の上で有利。

とでも考えたのだろう。

少しばかりは崩した様子で席に座り直した。

 

「先日入ったセキュリティはどうだったかにゃ?」

 

瞬間に言葉を浴びせる。

 

『………………はい?』

「ほら、二日前の夜にゃ。コッチに向かってくる前にセキュリティ、覗きに来たでしょ? ソレ、どうだった?」

 

理解できない。

とでも言うように表情を固めた彼に、続きの言葉を掛ける。

数秒。

理解に要したのはソレだけだったらしい。

 

一瞬にして顔を青褪めさせたのを見やりながら。

ただ、笑顔を作ったまま見守る。

横の三人は少し呆れた表情を浮かべているが、無視。

 

頻りに視線を左右に巡らせ。

何とか言葉を絞り出そうと試みては閉じること数回。

時間にして一分少々。

 

唾を飲み込み。

少し可哀想なぐらいに声を震わせながら。

絞り出すような言葉を出した。

 

『通報、するのか?』

「いえ別に? 単に今回も侵入深度で言えば八回前の記録を越えられなかったみたいだから、セキュリティの改修が上手く行ったかにゃ? なんて思ったのでにゃ」

 

小首を傾げながら答えれば。

いよいよ以てその顔は青から白へと変わっていく。

そうだろう。

バレないと思ってやっていたのだろう。

だからこそ、最新最先端と言ってワタシの元までやって来たのだから。

 

しかしその実、バレていた。

侵入回数はモチロン、個人含めて特定されていた。

多少なり対策はしていたようだが。

少しばかり、舐め過ぎだ。

 

「それで、どうだったのかにゃぁ?」

 

そんなつもりは然程ないが。

相手がそう思っていれば、嬲るような声音に聞こえるように調整して。

笑顔のままで再度、問い掛ける。

 

唇の隙間。

微かに息を飲む音。

舐めていた。

慢心していた。

自分に害を与える術等ないだろうと。

 

緩み切っていた眼前で、虎が笑っている気持ちだろう。

自分でのこのことやって来てしまったのだ。

安全だろうと思って虎穴に。

入るよりも前から見られている事にも気付かずに。

 

笑顔のまま暫し。

前もって打ち合わせていたパターンの一つ。

と言うか現状、このパターンしか当たってはいないが。

流石に不審に思ったかのように小首を傾げた所で。

顧問さんが仕切り直すように両の手を叩いた。

 

『はぁ…………単刀直入に言うが、我々は別に、君のことを訴えよう等とは思っていない。少なくとも、今の所はだが』

『そ、それは何故……?』

『パインくんの意向だよ。折角、電脳世界を楽しんで来ている観光客を警察に突き出すのは些か大人げない、とね』

『……そう、なんですね? 本当に……?』

「さっきもそう言ったにゃ」

 

呆れ交じりに聞こえるよう出した言葉に。

ようやく生きた心地がしたのだろう。

無意識的に固くしていたらしい体が崩れ、椅子の背凭れに寄り掛かった。

 

『勘違いしないで貰いたいが、私は、証拠が揃っているならキッチリと突き出すべきだと言ったのだ』

「まあまあまあまあまあ……まだ子供にゃんですから」

『二十にもなればもう大人だよ。少なくとも、私はそう判断している』

「社会経験はこれからにゃんですから、ね?」

『全く…………君は相変わらず甘いねぇ……』

 

やれやれ、と。

さも折れたように顧問さんが首を横に振った。

まあ、全部事前に取り決めていた小芝居なんだけど。

 

それに気付ける目は、少なくとも今の彼にはないだろう。

普段ならどうか分からない。

だが、自ら飛び込んだでしまった虎穴から抜け出せる。

そう思ってしまえば気も緩もう。

 

半ば口を開けて此方を見詰めてきているのがその証拠。

なので。

此処で畳み掛けておく。

 

「あ、そうそう。ぶっちゃけワタシ、貴方のことを雇いたいと思ってますにゃ」

『えっ? ほ、本当に?!』

「本当本当。折角電脳世界に興味持ってくれててこれからもっと! って考えてくれてるみたいなのは事前の調査で分かってたからにゃん」

『パイン?』

「まあまあ……ただ、ね? 雇うとしても他所へ勝手にハッキングするような子だと流石に困っちゃうからそれだけは辞めてね? もし辞めるつもりがないなら電話した時にでも辞退してくれれば良いにゃ。OK?」

『……OK』

「はいにゃ……何だか疲れさせちゃったみたいだし、今日は此処までにしますかにゃ。また次の機会にでもゆっくり話しましょうにゃ~」

 

面接を終えた時と比べれば、数倍は疲れたような顔をしている彼にそう語り掛け。

弁護士の先生にアイコンタクト。

頷くと立ち上がり、そのまま部屋の外へと案内しようとしていく。

その後に続くように、何とか力を込めて立ち上がり、

 

「あ、そうそう」

『なんでしょうかぁ?』

「今の、他の人達には秘密にゃん?」

『…………なんで?』

「他の人達にもこんな感じに聞くつもりなんですけど、質問なんてその場で変わるかも知れませんから。どうかにゃ?」

 

出て行こうとした所でこのように言う。

無邪気を装って。

出て行く直前。

扉の前で些かの逡巡を見せた彼だが、

 

『OK!』

 

ハッキリと、今まで見ていた中で一番の笑顔でそう言い残し、消えて行った。

これで良し。

あのまま放っておけば、お仲間の内で情報共有されていたかも知れないが。

ああ言えば、他に応募する人が居たとしてもアドバイスしたりしないだろう。

 

と言うか、されていない。

彼よりも前に来た三人が三人。

広めた様子がないのだから。

肝を冷やす思いを自分だけがした、と言うのは嫌なんでしょう。

きっと。

 

と言うことで今日の面接はお終い。

無意味に、伸び。

そのままズレてきた眼鏡を両手の中指で位置を直す。

 

「いやぁ。今回もありがとうございますにゃ」

『構いませんよ。彼も、ワタシと関わる機会はそうないのでしょう?』

「すみませんにゃぁ……関わるとすれば」

 

関係あるのはどちらかと言えば、もう一人。

視線を流す。

参加こそして頂いていたが、ずっと置物に徹していた、

 

「タレル博士と、でしょうかにゃ?」

『……』

 

軽く鼻を鳴らして答えたタレルに、笑顔で頷く。

ワイリー様からの指示。

その通り、彼は株式会社を設立した。

自身の技能が機械工学に傾倒していることを理解して、機械系の会社を。

 

だが正直、そのままであれば倒産していただろう。

資金を基に開発する、言ってしまえば典型的な科学者だ。

ワイリー様の一番弟子と言うネームバリューも、ニホンでなくアメロッパでは知名度故に効果が薄く、しかも時代はネットワークに傾倒しつつあったことも向かい風。

顧客ゼロ。

早晩には潰れていただろう。

 

そんな所に、予定通り、現れたのがワタシだった。

予めワイリー様から、ボンバーマン経由で情報を出すと知っていたハズなのだが。

まあ恐らく信用していなかったのだろう。

随分と驚いた様子だったことを覚えている。

 

その上で、更に揉めた。

ワタシ側の当然の立場としては、株を取って子会社にしたかったのだがタレルは拒否。

理由は流石に察しが付く。

ワイリー様に横流しするためとすれば、子会社になってしまえば資金の流れが監視されて自由に作れないだろうから。

早晩潰れてもおかしくない状況なのに、傍から見れば、我儘を言う姿に弁護士の先生が困惑顔していたことを今でも覚えている。

 

と言うことで。

経営権だとかはちゃんとタレルが持っている状態での、ある意味では子会社化。

実質ギリギリ違うものの、子会社化に近い形。

此方からは金の流れは見えず、しかし仕事は最優先で受けて貰えるが、そこまで。

 

これでケリを付けた。

弁護士の先生はモチロン、顧問さんも露骨にイヤそうな顔をしていたが。

そこは、ワタシが説得した。

 

「と言う事にゃので、タレル博士から見て如何かにゃ?」

『さて、な。ネットナビの見る虚像と現実の実像とでは異なる』

「仲良く開発を頑張ってくれれば何だって良いにゃ」

 

根本的に、

 

「現実世界を良くするには、貴方のような優れた機械技術者が居ないとお話になりませんからにゃぁ」

 

コレである。

電脳世界。

幾ら其方で利便性を向上させようとも、根本的に、人間が居るのは現実世界だ。

そうである以上、現実世界が便利になるようにしなければならない。

 

システムやプログラムは何とでも出来る。

ワタシと、コサック博士が居るのだから。

それ等を現実世界に反映させられる人物。

流石にワイリー様にそんな仕事で手を煩わせるのも悪いから、その辺り全般をやってくれる人物が欲しかった。

 

ワイリー様の一番弟子なんだからそれぐらい出来るでしょう。

実績さえキチンと挙げてくれれば、それで金は流せるのだ。

ワイリー様のため、死ぬ気で頑張って頂きたい。

 

「この彼も………………」

 

少しばかり居心地が悪そうに身を揺すっている姿を横目に。

改めて、履歴書を眺める。

先程の学生。

間もなく卒業する、彼。

 

ハッカー。

つまりは割と危険人物ではある。

しかし技術は確か。

なので、釘を刺した。

 

侵入して来ていた事実を知っている。

その証拠もあるし警察に出せる状態にある。

ハッキングを続けるつもりなら会社に入れない。

 

これだけ言って、続ける程のバカではなかろう。

続けるなら、突き出せばいい。

続けないなら、その技術はとても役に立つ。

 

コサック博士より上の存在等、早々居ないだろう。

しかし、コサック博士は一人しか居ない。

それに一人で考え付ける事柄等、知れている。

ワタシの有する未来と思わしき記録にもまた、限界はある。

なればこそ、

 

「……何れは未来を彩る一員、あるいは一角になって頂きますからにゃん」

『…………自動車の自動操縦だったか?』

「それだけじゃありませんけどねぇ~」

 

更に先。

平凡以上の技術者達を集め、発展を進めれば。

ワタシの目標とする到達点まで届く見込みもお陰で出てきそうである。

まあ、全てはアレの始末を完全に付けてから、だが。

 

『ネットナビ』

「パイにゃんにゃ! ……何です?」

『お前は何を見ている』

「未来――ですので」

 

技術を発展させた先。

ワイリー様が納得される先。

少なくとも、平穏が訪れる先。

ハッピーな終わりと、その先。

 

だからこそ。

訝し気にワタシを見ているタレル博士と目を合わす。

ワイリー様の躰は一つしかない。

故に、考え付く範囲もまた限度がある。

 

そう、ワイリー様は少しばかり固執し過ぎなのだ。

良くも悪くも、と言うか、良い所だと思ってはいるけれども。

光正に。

彼の創り上げたことになっている、なって行く、ネットワーク社会に。

 

ネットワークがどれだけ便利で楽しいモノになろうとも、どこまでいこうと間接的。

直接的に世界を便利にしていくのは機械あってこそ。

『環境維持システム』と言う、現実世界に多大な影響を有するシステムをこそ求めていること。

それ自体が、結局の所はその結論に行き着くことを証明している。

 

所詮求められるのは大多数の人間、その現実世界での利便性。

故にこそ、まだまだ。

いやむしろこれからこそ。

巻き返せる可能性は、見返せる可能性は、十分以上にお有りなのだ。

 

ネットワークを足場に、機械が重要視され、比重がやや傾く社会へ、何れ世界は変わっていく。

ワタシはそう信じている。

人間はそうだと、確信している。

 

何処まで行っても、使う対象が人間だからこそ。

コピーロイドや警備ロボットが創られた辺り。

現実世界の何某を減らしたい。

そんな意図や片鱗が見える。

だからこそ、そんな輝かしい未来の一端をお見せするためにも、

 

「今後とも、よろしくにゃん?」

 

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