向かい合い、構える。
片腕は前に出し、もう片方はくの字気味に引く。
相手は、仁王立ち。
実力に自信があるから。
ではない。
最も攻守の動作に置いて隙が無い。
そう言った自負があってこその、構えぬ、構え。
故にワタシにも油断はない。
「…………」
「…………」
開戦の掛け声はない。
ただ、《ハイパーボム》を生み出す。
それだけで十分だった。
足を然程動かさず、爪先で蹴り飛ばす。
寸分違わずその、離れている顔目掛けて飛ぶが、
「フンッ!」
「おオっと!」
明滅。
全身に走った青白いラインが明滅したかに見えた瞬間、目から放たれたレーザーが《ハイパーボム》を貫き破壊。
そのままワタシに襲い掛かって来たソレは一歩ズレることで避ける。
反応が早くなった。
そう感心しながら《ミニボム》を生成。
両の手、指に挟んで合わせて八個。
一瞬で生み出したソレ等を空中へと投げ放った。
瞬間だった。
再びその目が輝いた。
刹那、閃く幾多の光。
記録にはない。
極細の拡散レーザー。
「クぉあ?! コイツはァ」
思わず呻き下がる。
ダメージ。
掠めた。
久し振りに。
《ミニボム》の処理なんぞはソレで大半は済ませられる訳か。
放たれた一瞬で、貫いたのは流石に数個。
しかしレーザーの早さ故。
殆んど初動の段階で貫かれた所為で爆発に他が巻き込まれてしまったのだ。
出の早い範囲攻撃。
嫌らしい技を創り出したモノだ。
リーガルに、そして早々手札を切る決断を下したレーザーマンにも感心する。
隙を伺うのは無論、悪くない。
だが、早々。
此方の攻撃手段を潰す手があることを知らしめられれば打つべき手も減る。
油断なく。
掌から太いレーザーを動きながら、あえてだろう其処まで狙わず、射ち放ってくるレーザーマンに舌打ち一つ。
「動キがヤラシいな!」
「何処ぞのナビに、相手の嫌がることをしろと教わっているのでな」
「ゥおっと?! ソりゃあ碌でもネえ! 一発入レといテくれ!」
「コレから嫌と言うほど入れてやる――――ハッ!」
一撃が大きく出も速いレーザー。
その威力を落として同時に複数発を無秩序に放つレーザー。
ウイルスには通常のレーザーで十分。
そう考えれば結論は一つ。
ワタシに対しての対策。
ボムを生み出し、蹴る投げるをしなければならないワタシに対して。
その初動を潰すことで攻撃自体を封じる。
嫌らしい。
そうなってしまうと、此方も手札を切らなければならなくなる。
だが弱点も見えた。
普段使いは変わらず通常のレーザー。
時々交ぜて来る拡散レーザーの拡散の振れ幅は、離れればワタシの全身を貫けるだろう。
しかし、
「サぁて、コイツはどう対処すル? 《パインボム》改め《フォールボム》!」
「ッ!」
上からレーザーマンを中心にして無秩序に降って来る《ハイパーボム》の数々。
拡散レーザーの一撃で破壊するにも。
そもそも最初から散らばって落ちて来るソレ等を破壊するのも。
どちらも一手で済みやしない。
僅かな呻きを上げたかと思えばソレ等の間を縫うように離脱を計るレーザーマンに向けて、生み出した《ミニボム》の数々を投げ放った。
結果。
まあ、ワタシの勝ちである。
レーザーは射線が分かり易い。
レーザーマンと言う起点から真っ直ぐにしか行かないのだ。
そう言った意味で、《パインボム》もとい《フォールボム》。
レーザーマンの周辺にボムを落とすソレは、中々に相性が悪い攻撃だっただろう。
まあ、ワタシの方も。
拡散レーザーとかいう避け難い上に《ミニボム》なんかの迎撃に都合の良い攻撃手段を用意されていたのだ。
どっこいどっこいと言った所か。
「――――なら、今後はどうすれば良いと思う?」
「全方位攻撃、とカ?」
「簡単に言ってくれる」
「おめえ単独でダったら、それぐレえしか手段はネえよ」
「……リーガル様には、進言しておこう」
「ソうしな」
心なし。
と言うか実際、爆弾の煙ですっかり煤けたレーザーマンにそのようなアドバイスを送る。
一瞬チャージしてレーザー。
タメを必要とする攻撃手段な以上、その隙を消せる手段はどうしても必要になろう。
ただワタシの場合、そうでもない。
ボムと言った、自動的に時間差攻撃になるソレ等を使っているのだ。
相手が何某かの対処をする合間に次のチャージなりをすることは出来る。
その辺りの差。
攻撃前後の間が殆んどないレーザーの利点であり、欠点でもあるか。
実際に相対して初めて分かって来る部分だろう。
さて、と背を向ける。
レーザーマンとのバトル。
正直これは、メインじゃあなかった。
あくまでもウォーミングアップ。
それぐらいのつもりだったが。
些かと言わずに、かなり、か。
油断が過ぎた。
最近、遣り合う機会がなかったからと言うのはある。
しかし、確りと研鑽に励んでいることを知ってはいたのに。
まあ勝てるだろう、とそれこそ胸を貸すぐらいに軽い気持ちで挑んだのは間違いだったか。
まだ背中から、特徴的な巨大ジェネレーターが生えてない。
だから極太レーザーでの薙ぎ払いみたいな攻撃はないと踏んでいたのだが。
拡散レーザー。
記録を含めても初めて見る攻撃。
それを使われてダメージを受けた。
だけじゃあない。
ボンバーマンとして使う用の《フォールボム》。
《ハイパーボム》をばら撒くソレが自身の対処能力を超えている。
そう判断してからが早かった。
対処を諦め、ワタシに対してダメージを与えることを優先してきたのだ。
お陰で太いレーザーを二本も喰らってしまった。
一本ならマグレと言えたかも知れないが、二本。
油断。
慢心。
我ながら調子に乗ったか。
「――――レーザーマン」
「なんだ」
「おめえは中々強くなっタ。まダ、ワタシには勝てネえが」
「……それで?」
「それダけだ。一応言っテおこウと思っテな」
そう言い残し、歩を進める。
今日は些か、イベントが濃いのだ。
多いのではなく、濃い。
ソレを知っているらしいレーザーマンから声を掛けられることはなく。
そのまま、リーガルのプライベートエリアを抜けた。
ワイリー様のエリアを歩く。
相変わらず佇んでいるストーンマン。
今日、フェイクマンは居ない。
既にパインとして先に向かって貰っている。
今日のイベントは、本当に濃い。
まず以って。
まだ昼過ぎにもなっていない今日だが、リーガルとバレルは居ない。
二人は旅行に行った。
小旅行だ。
理由は単純。
リーガルの、それも主席での、名門ローバート大学卒業祝い。
そしてもう二週間としない内に、表向き、ワイリー様と共にキングランドへと行くことになっている。
最後の思い出作りと言うヤツだ。
珍しく、リーガルがワイリー様に強請ったと聞いている。
いよいよアメロッパの軍人に成るバレル。
ある種、袂を分かつことになるのだから、と。
ソレを聞いて止めるワイリー様ではない。
本人曰く、「有り余るほど」お持ちのゼニ―を好きに使えと押し付けたらしい。
恐らく、負い目もあるのだろうが。
「………………ハぁ……やダなぁ…………」
ともかく二人は旅行に行っている。
だがまあ、小旅行。
明日には帰って来る程度のモノだ。
だからこそか。
イベントが濃いのだ。
まずオードブルがレーザーマンとのバトル。
次はいきなりメイン。
カーネルとのバトルである。
それも、全力をご所望だ。
いきなり一キロぐらいのステーキ肉を目の前に投げ置かれるぐらいに、濃く重い。
勘弁してくれと思った。
しかしワタシは、表向き、アメロッパを去る身。
コレから身を粉にしてアメロッパのために働く羽目になるだろうカーネルのコトを思えば。
頷くしか選択肢はなかった訳だ。
いや正直、今更になっても後悔している。
全力のバトル。
ワタシとカーネルとでは、模擬戦であってもワタシの勝率はもう三割を切っている。
ソレなのに全力戦ともなれば。
今から既に、思わずして撫でているぐらい、胸元を斬り裂く《アスパイアブレイク》の閃光に怖気が走る。
等と、鬱々と考え込んでいても体は勝手に動く。
襲って来るウイルスは適当に処理。
目的地に向けて足も動く。
「ようこそお越し下さいました」
「アぁ、すマねえが話は……」
「通っております。此方へ」
目的の場所に着けば、案内のネットナビ。
見知っている姿でもワタシの姿が違うから、口調が違うのは少し新鮮味を覚えた。
そう、此処はゼフラム社。
目的地は、分かり易い。
何時もの対戦場所、コロッセオ。
デリートされるダメージであっても、ログアウトでデリート自体は防げるのだ。
「使わない手はない」と言うのがカーネル談。
今回はそういう訳だから。
事前にワイリー様に色々として貰った。
とは言っても、一つ。
デリートするだけのダメージを受けても、アーマーが剥がれないようある種の癒着をされているだけだ。
コレが終わったらさっさと剥がしてもらうことになっている。
ちなみに、コロッセオの利用自体はパインからの申請だ。
カーネルには、少し前のジョー達の件で借りがある。
その借りを返すようにと言われれば、パインとしては是非もない。
着々とワタシ自身の手で逃げ道を塞いでいたようで嫌になるが。
考えていても仕方ない。
案内された先。
ショートカットに、お礼だけ言い置いてから、足を踏み入れた。
「…………」
相変わらず何とも慣れない浮遊感を噯にも出さぬよう、出る。
周囲に浮かんで見えるモニターの数々。
その向こうでキーボードを叩いていたり、何やら調整のつまみを触っている姿。
暇そうに椅子に腰掛けているパイン、もといフェイクマン。
それ等を一瞥し、見やる。
此方に背を向け佇む、姿。
風もないのにマントを靡かせるカーネル。
充分に距離を置いた所で止まった。
ワタシの存在には元々から気付いていたのだろう。
それを察したように。
ゆっくりと振り返って来る。
既に、刀身を見せているソード。
遊びもない。
戦闘態勢。
思わず肩を竦めてしまった。
「………………此度は、感謝する」
「ナニ。下のヤツかラの頼みダ――受ケる甲斐性はあル」
「ならばこの一戦、有意義なモノになるだろう。此方も、ワイリー様に最後の調整も済ませて頂いたからな…………パイン」
「は~い! 準備は概ね完了! パイにゃんが出てって少ししたらカウントダウンが始まりますから、それに合わせて始めちゃって下さいにゃ」
一瞥。
変わらず座っていたフェイクマンが椅子からぴょんと降りた。
そのままの調子で出て行こうとするのを軽く見送りつつ、
「悪いナ」
近付いた刹那、そうとだけ溢す。
普段からワタシの代役を務めることもある。
慣れてはいるだろう。
それでも。
「――ゼフラム社の方々にお願いしますにゃ」
そんな思いと共に零れた言葉を。
一瞬だけ止まったフェイクマンは悪そうに笑い、軽く周囲を見渡して。
後ろ手を振りながら消えて行く。
その背中を眺め、数秒。
音が響く。
「スリー」、と。
叫ぶようでなく、ただ知らせるような音。
前は鳴っていなかったから、最近の、色々と試している一環だろうか。
ショートカットの光は既にない。
決着が付くまでは灯ることはないだろう。
カーネルとのことだ。
そう、長引くようなことに成らないだろうが。
「ツー」と、響く。
振り返り、見やる。
カーネルの足は変わらず止まっている。
しかしその鋭い瞳。
双眼。
鷹のように鋭い両目が、ワタシを捉えて離さない。
体力の底の底まで。
尽きるまでの戦い。
「ワン」と聞こえる。
口から意味もなく何かが漏れる。
腹の底から吐き出すソレは、チャチな諦めなんかじゃない。
勝つ。
カーネルの方が戦闘能力は優れている。
そんなことは知っている。
それがどうした。
だから勝つ。
今に始まった訳じゃあない戦いだ。
今後あるとも思えない。
有終の美の一つぐらい、飾らせて貰おうじゃないか。
「「!」」
音が鳴った。
そう、認識した瞬間に動く。
動けるなら問題ないと動く。
爪先で《ハイパーボム》を蹴り出す。
一瞬のソレでも構わず宙を突き進むが、生成されていたキャノン砲より打ち出された砲弾が直撃。
丁度、中間地点とでも言うべき場所で共に爆発を引き起こした。
「《スクリーンディバイド》!」
刹那。
キャノン砲を投げ捨てたカーネルの斬撃が飛ぶ。
文字通りに。
距離を無視して斬り裂くその斬影を踏み込むことで避ける。
此方は幾多のボムはある。
だが、技の豊富さ故にあらゆる距離に対応出来る強み。
それは時間を掛ければ掛けるだけ有効的に働いてくるのだから、
「《パインボム》改め《フォールボム》ダ!」
手首から先を振り下ろすように。
パインの時のように派手な演出をせず、それだけ。
十個ばかしの《ハイパーボム》がカーネル周辺に、
「……」
「――!」
落ちる。
中。
笑っていた。
カーネルが。
怖気。
それを堪え、追撃のため《ミニボム》を併せて八個ばかり両手に生成。
踏み込んだ勢いのまま駆け走り、
「《カーネルアーミー》!」
瞬間に通り過ぎる何か。
ハッキングか。
何を。
その答えはすぐ分かった。
「おめえ」
落ちて行く中。
ミカンの皮を剥がすように。
あるいは外套を脱ぐように。
《ハイパーボム》の中から現れる《カーネルアーミー》達の姿を目にすれば。
「ソレはズルだろ!」
急制動を掛けその勢いのまま《ミニボム》を横広く叩き付ける。
爆発による簡易的な煙幕。
あえて動かず《ストーンキューブ》を生成。
その数秒後には数多の弾丸が周囲の空間を撃ち貫き始めていた。
弾丸の雨。
《ストーンキューブ》を穿っている。
流石に確証もなく《カーネルアーミー》を再び使わないのは幸いか。
しかし最初からワタシの居る場所よりその周囲の方が雨は濃い。
カーネルは動くと睨んだようだが其処だけはワタシの読み勝ちだ。
だがどうする。
最大の攻撃手段である大型ボムの悉くが実質潰えた。
考えた時間は数瞬。
削られて行く《ストーンキューブ》に足裏を掛け、
「――!」
蹴り出す。
射出。
同時にその後ろを駆け追う。
降り頻る弾幕は変わらない。
どうやら最初に命令された動作から。
「《スクリーンディバイド》」
しかしカーネルは自由。
当然のように走ったのだろう剣閃が《ストーンキューブ》を斬り裂いた。
だがワタシの足は止まらない。
いや止められない。
剣を振り切った姿勢のカーネル。
弾幕を突っ切りそのまま雪崩れ込む。
「甘い!」
「どウかな?!」
閃光が走る。
踏み込んだワタシの脚から。
《ブラインド》。
《プロットブレイク》の一環に仕込んでいるソレを空打ちさせる形だが、閃光自体が視界を焼く効果は消えやしない。
即座に構え直していたカーネルの懐にそのまま突っ込む。
タックル。
攻撃ですらないソレ。
しかし体勢を、もっと言えばバランスを崩させるには十二分。
揺らいだその姿に追撃を、叩き込まない。
姿勢の崩れを思わず正そうとしてしまう隙。
身を守ろうと動いた両腕を目で追い。
その片方、右前腕を掴んだ。
動揺が掴んだ掌から伝わって来る。
それはそうだろう。
カーネルが振るソード。
《スクリーンディバイド》を放つ起点。
ソレを封じに掛かったのだから。
「――コレで五分ダな?」
「ッ」
「チイと踊っテ貰おウか!」
まだ視界が眩み焦点が合っていない。
その顔に向けて頭突き。
揺れる体を引っ張り右のストレートを叩き込む。
コレは賭けだ。
大型ボムの悉くが《カーネルアーミー》で乗っ取られる。
近接から中距離は《スクリーンディバイド》含めたカーネルが有利。
遠距離もまた様々な銃器を擁するのだから言わずもがな。
時間を掛ければ、中距離の有効な攻撃手段が《ミニボム》程度のワタシでは無理が出る。
徐々に不利。
故にこそ唯一の勝ち筋はコレ。
離されれば即座に負ける、剣撃を振るう隙間すら与えない密着状態。
超近接戦闘。
「ヌ、ゥッ!」
「ッゴぁ?!」
だが叩き込まれた頭突き。
目が治ってすぐ状況を察したのだろう。
強引に振り払われそうになった腕に意識が向いた途端に顔に突き刺さる。
負けじと拳を放つが軽やかに流された。
流石は軍所属。
何かしら武術のデータも確りと入っているか。
だが甘い。
強引に流された腕を横薙ぎに変え叩き込む。
「ダンスは学んでいないんだがなっ!」
ならばとばかりに腹に膝が突き刺さる。
衝撃でくの字に曲がる体。
その姿勢を利用する形で後頭部で顎を突き上げる。
避け切れず微かに揺れる体に今度こそと、今度は脇腹へと拳を突き刺した。
「カふッ、中々巧ぇジゃネえか、ヨ!」
泥仕合。
そんな声が聞こえてきそうな。
未来感も何もない肉弾戦
お互いの躰から鈍い音が響いてくる。
コレでも。
いや、こんな状況だからこそワタシがやや不利。
確りとした武術を有しているらしく隙のないカーネル。
それに比べてワタシの動きは何と言う事か。
《プロットブレイク》を放てる両脚に注意を常に向けさせられると言うのに。
それであっても叩き込め込まれる数。
同程度から一割二割と。
形勢は徐々にカーネルへと傾いている。
いやはや《カーネルアーミー》の情報はあったのだ。
今までは置物系を変えるタイプは有していなかった。
違う、使ってこなかったが警戒して然るべきだった。
武術についても学ぶべきだった。
サンドバッグ代わりにプルルンボムの外側を殴ることはあったが真面目にパインとして、ボンバーマンガのラッシュでも新しく覚えるか。
「――考え事か?」
微かな悔やみ。
こうすべきだったかとの悔い。
そんな思考の間隙を突くように。
顔目掛けて放たれていた拳が解かれ、開いた掌が顔面を掴んでいた。
「マ」
体が浮く。
足払い。
「ッ」
唯一の支え。
掴んでいたカーネルの右腕が持ち上がる。
同時にそれを掴んでいたワタシの左腕も。
足を払われた勢いを殺せぬまま体が回り、
「ズビャ」
床に叩き付けられた。
人間だったら死ぬんじゃあないか。
そう考えつつもしかし衝撃で離してしまった左手に危機感。
頭を掴んでいたカーネルの手が離れた。
瞬間むしろその頭を基点に回転。
カポエイラ染みた、いやブレイクダンスのように回り右脚を脇腹に突き刺す。
仕切り直し。
打てる手は少ないが、
「!」
勢いのまま離れる。
前に、
「捉えたぞ」
脚が。
抱えられていた。
驚きに目を向けた刹那。
入る。
マントを握り締める右手が目に。
「ゥぁあアアあああアアあアあ!!!?!」
捩じる。
捻じる。
ねじる。
抜けない。
抜けない。
抜けない。
だが整った。
暴れるワタシを逃すまいとする。
その僅かな合間で。
踵を。
その胴体に引っ掛けるように。
閉じる。
空いた左脚で挟み潰すように。
「《プロット
閃光。
が出ない。
違う。
遮られた。
左脚へと投げられたマントで。
瞬間に目を剥く。
代わりに見える。
煌々と光を放つ。
高々と掲げられた剣が。
「――《アスパイア
だが此方の方が早い。
鋏のように。
咢のように。
そのまま脚を閉じる。
これでカーネルもデリートいや無理、
「ブレイク」
刹那。
その手が。
胸元を。
ワタシのナビマークを撫ぜた。
「――――――」
ゆっくりと立ち上がる。
その序でのように。
抱えられていた脚が放り投げられ。
おまけのように。
ぐったりと倒れるワタシを蹴飛ばした。
「グエー」
思いの外、強く蹴られた。
その勢いのまま数回転ほど転がり。
俯せで止まる。
いやはや情けない。
まさか、こんな結末に成ろうとは。
「――――どうした?」
「本当、すまネぇ」
顔向けが出来ない。
こればかりは。
本当に。
「どうした、と聞いた」
しかし、変わらない声音。
俯せの顔を僅かに傾ける。
カーネルの顔を見やる。
覗いているのは、怒りや悲しみではない。
強いて言うならそう、困惑だろう。
あの刹那。
《プロットブレイク》。
《アスパイアブレイク》。
交錯の中で、ワタシの脚の方が恐らくギリギリで早く届く。
そのハズだった。
「――――怒ラない?」
しかし届かなかった。
ワタシが。
ワタシが脚を止めてしまったから。
そうした結果。
どうやらカーネルの手をも止めてしまったらしい。
閃光ではなく手が、ワタシのナビマークを撫でたのがその証拠だった。
真剣勝負であったのに。
無言。
顎で先を促す姿に、渋々と体を動かす。
俯せから、胡坐へと。
少しの気まずさに顔を逸らしながら。
「………………出来ネえと思っタんだ」
「何をだ?」
「おめえをデリートするコトが、ダ」
「……此処ではその前にログアウトされる。そのハズだが?」
「そウ分かっテるハズなんダがなァ…………」
頭を掻く。
出来なかった。
デリートし得る。
そう、認識した途端に。
自分の意志で脚を止めてしまったのだ。
「………………ワイリー様が何か仕込んだか?」
「ンなショウもネえことスる訳ねェ」
「……お前自身が止めた、と?」
「ソ。我なガら情けネぇ話ダ」
安全と分かっていても。
デリートを殆んど確実にしないと分かっていても。
それなのに思わず脚が止まった。
他のネットナビであれば容赦なく蹴り潰せると言うのに。
愚かな挑戦者を爆殺して来たのも一度や二度じゃないと言うのに。
「――甘いヤツだ」
「否定出来ねエ」
「真剣勝負だったんだぞ? 好きになれん」
「仕方なイ」
「嫌いではないがな」
逸らしていた目を向ける。
片目を吊り上げ、不満を顔に表してはいる。
しかし、皮肉気なソレ等とは裏腹に口元は上がっていた。
存外、カーネルも甘いらしい。
優しいのではなく。
「………………おめぇもな」
「先に手を止めたお前に併せただけだ」
「そウかよ。マ、今回のバトルはワタシの負けダなぁ」
「いや、オレの負けだろう」
思わず訝し気な顔を向ける。
だが一切気にする様子もなく。
既にワタシから視線を逸らし、落ちているマントを拾い上げていた。
「あの瞬間にあって、オレの方が遅かった。であれば負けだ、違うか?」
「違ウと思うガ? 勝手に脚、止メたワタシの負けダろ」
「強情だな。勝ち星ぐらい素直に受け取ったらどうだ?」
「コッチの台詞ダな。ドう考えテもワタシの負けダろ、コレ」
微かに汚れを払うようにはためかせて。
マントを背負い直したカーネルが今度こそ、その口元を皮肉気に歪ませた。
しかし目に浮かんでいるのは嘲笑ではない。
何とも言えない、呆れの色。
「なら引き分けで良いだろう。何とも締まらんが――それ位の方が、らしいのかも知れない」
「らシいって……」
ソレが垣間見えたのは僅かな間。
身を翻す。
そんな動きだけで、膨れ上がったマントがワタシからの視線を遮った。
「さらばだボンバーマン。我が兄――息災で」
「そウかカーネル。おめえも達者デ――弟よ」
そのまま堂々と。
マントを翻しながら歩いて、行く。
何ともまあ、格好良いことだろう。
そんな感想を胸中に抱きながらヒラヒラと胡坐のまま手を振るう。
そして何ともまあ、締まらない終わりになってしまった。
ワタシの脚が止まった。
だからカーネルも剣を収めた。
決着も完全には付かないまま。
どっちつかずの勝負なし。
「……………………ハぁ」
ワタシとしても困りもの。
果たして、思わず脚を止めてしまったのがカーネルだけなのか。
あるいはカーネル以外の兄弟相手にもそうなってしまうのか。
だとしたら将来的に、色々とマズいことが発生し得る。
デリートまで行かなければ問題ない、と言うことでもあるが。
まあ、いい。
無事に済んだのだ。
カーネルには悪いことをしたが。
こういうこともある。
そう思って貰おう。
さて。
やることは、多くはないがある。
ワイリー様の元に戻って、アーマーとの癒着を戻して貰うこと。
一応、お仲間をデリート出来ないよう細工されていないかお伺いすること。
まあわざわざ送り出して下さったのだから有り得ないだろう。
今回の事態も、ワタシの甘さが招いただけのこと。
それよりも、一つ。
「……………………」
意味もなく。
上を眺める。
幾つも見えるモニターの数々。
その何れかに、フェイクマンも居るのだろう。
フェイクマン。
そしてストーンマンにも話は通してあるが。
我ながら、飽きもせず。
悔いのないよう、それだけのために。
今宵、ワタシは懲りずに死に向かう。