ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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雨が降っている。

アメロッパの、卒業シーズン。

その頃は普段よりも少しだけ。

雨の降る確率が上がる時期らしい。

 

期待しない訳ではなかった。

だが確かな期待を持てるほどではない。

しかし今日。

確かに、音を立てて雨が降っている。

 

微かに、映像が微振動している。

ワイリー様の目元。

掛けられた老眼鏡。

ソレに仕込まれた無線式のカメラの映像がワタシ達の元にまで届いている。

 

ワタシ達の声が外に漏れるようにはなっていない。

念のために、だ。

もっとも、この状況で話をするほど呑気ではないが。

 

「……………………」

 

音が聞こえる。

懐に納められているので少し、くぐもって聞こえるが。

自動で動く車椅子のモーターの音。

それに、窓を叩く雨粒。

 

それ等を耳にしながら。

ただ、ワタシ達はソレを待つ。

兵士の一人だろう人物が前を歩き、その後ろを追う。

そうして辿り着いた場所で、幾人ものとの挨拶。

 

最中、一時は個室で。

ある程度の役職を持っているのだろう故、二人切りで交わされる会話。

ただ黙々と。

耳にしながらもただ、待つ。

 

繰り返される会話。

幾人目か。

記録はすれど、数える気がせずに居た中。

入った室内にソレが居た。

 

準備を整える。

もうすぐ。

もうすぐだ。

 

『     ?』

『  、       』

『   』

 

捉えてはいる。

しかし、気にも入らない。

大きな部屋の中。

入り口近くに車椅子を止めている。

 

大きな机の向こう側に座ったまま。

何事か話していたが。

やがて立ち上がり、近付いて来た。

対応するようにワイリー様が車椅子の下から、隠していた大封筒を手渡した。

 

感心したような顔をしている。

背を向けた。

しかし、動かれない。

 

やがて元の席に戻り。

封筒をペーパーナイフで開き。

中に詰まった書類を取り出し。

ざっと流すように見やる。

 

半ばで、その手が止まった。

閉じ。

最初からゆっくりと捲り始める。

 

最初こそ、面白くもなさそうに眺めていた。

しかし数ページもすればその顔は険しくなり。

やがて、青褪めていく。

何が載っているのか。

想像に難くない。

 

ワタシ達が集めた諸々が載っているのだろう。

指一本分の厚さはあろう書類の束に。

それが如何様に己を破滅させ得るか。

気付かないハズもない。

 

捲る手が遂に止まった。

わなわなと手を震わせ。

凝視する瞳は一切動かない。

 

『   』

 

最中。

視界がブレる。

カメラが動いた。

ワイリー様が動いたのだ。

 

時間にして数秒だろうか。

瞬く間に距離を詰めたワイリー様。

その手が男と書類の間に滑り込むように入る。

 

鷲掴むように口を押え。

驚愕に目を剥いた。

視線が合う。

ワイリー様の顔へと向き。

 

「…………」

 

微かな音が、鳴った。

 

『――ふむ』

 

ワイリー様が振り返る。

扉の方へと。

構え。

しかし、動きはない。

 

音が聞こえなかったのか。

雨音に紛れて。

であれば好都合。

幾つか話し合ったプランの内の一つ。

このまま脱出する方のプランへと移行が出来るのだから。

 

『プラグイン――ストーンマン、ボンバーマン、サーゲス.EXE トランスミッション』

 

懐からPETが取り出され。

刹那。

パソコンへと接続がされる。

 

「な、なんだお」

「《プロットブレイク》!」

 

瞬時。

入ってすぐ見咎めて来たネットナビを爆殺。

脱出プランは時間の勝負。

悠長に構っている暇はない。

 

周囲に目をやりつつ振り返る。

既にストーンマンを中心としたプルーンのイメージデータ三十二体からなる円陣が形成。

しかし、一瞬だけ。

文字通り、四方八方へと解き放たれる。

 

ワイリー様が作ったらしい中空に浮く台座の上で、サーゲスは髭を触り、ただ待つのみ。

五分。

あまり長いと不自然に思われるだろうから、それまで。

そう取り決めていた時間だ。

 

その間にパソコンから重要そうなデータをコピーして持ち出す。

基本はストーンマンが進め、セキュリティの厚い部分はサーゲスが進める。

そう決めてあった。

 

「…………あっタか」

 

一分経過。

ワタシの傍に一体のプルーンが出現した。

見付けたか。

ストーンマンとサーゲスに視線を送り、既に走っている後を追う。

 

ワタシの担当はナビの瞬殺。

時間を取られるようなことのないように。

だから別にPETに戻っても良かったのだが、別のお願いをしていた。

許可は得てある。

死人に口なし、なのだから。

 

三十秒と掛からずに見付かるは、ショートカット。

念のため軽く調べれば、それなりに前に入れたモノの使った形跡が殆んどない。

そうそう、こういうのが良いんだよこういうのが。

感謝の言葉を述べようと顔を向けたが、しかし既にプルーンの姿はなかった。

 

消したのか。

であれば。

やることをさっさと進めよう。

 

とは言っても別に大したコトじゃあない。

ショートカット。

そのデータの履歴。

さも、その前に何か別のショートカットが存在していたかのような痕跡とソレ自体を差し込む。

事前に作ってあったこともあるし、差し込んだ形跡にさえ気を使えば問題はない。

 

「――――ヨシ」

 

ものの数十秒。

小細工の痕跡に気を付けても、全体の所要時間で言えば二分と掛からず。

ワタシの目的は達成出来た。

念のため指差し確認後も警戒だけは解かず、周囲を見渡す。

 

プログラムくんに見咎められていれば手間だが。

どうやらこのパソコンには、大それたアレコレはないのだろう。

姿は見当たらず。

此方としては爆殺する必要がないだけ気が楽だ。

 

だが、不測の事態も有り得る。

駆け足気味に元の場所に戻る。

サーゲスの姿はない。

手の掛かる何某かが見付かったのだろう。

しかしワタシが戻ったことに気付いている気配はあるが、ストーンマンの動きはない。

 

つまり、これ以上の手は不要なのだろう。

軽く溜め息を吐く。

終わった。

ワタシのやるべきことが。

やっておきたかったことが。

 

何とも言えない、感慨。

耽っている合間にも時間は過ぎる。

一分。

そして、二分。

 

『――――時間じゃ。問題は?』

「ない」

「ナい」

「ゴゴ」

 

画して。

ワタシ達はプラグアウトした。

しかし此処からがワイリー様にとっての本番だ。

 

一切迷いのない足取りで車椅子へと戻り。

座り直して動かす。

モーターの音が雨音に紛れて響く。

扉を開き、出ていく。

 

刹那。

ほんの数秒だけ、動きを止められた。

数秒。

しかし、それだけ。

 

あとは何事もなかったかのように扉を出、閉められる。

離れた場所に立っている兵士。

その顔を見やるが、変わっていない。

 

『ふぅ…………では……次にぃ、あ、その前にじゃがお手洗いに行ってもよろしいかのぅ?』

『勿論です。此方に――――?』

『ぉう? いかがかぁされましたか?』

『いえ、一瞬――――気のせいでしょう。此方です』

『……すみませんなぁ』

 

鼻を動かした。

血の匂いを捉えたか。

一瞬不審の色をその顔に宿したものの、しかし気にしないように歩を進めていく。

その後に続くように、車椅子で進んでいく。

 

此方からの声が聞こえるならば、警告の一つは入れたい所だが。

ワイリー様であれば問題ないだろう。

そう、信じてただ見守る。

 

やがて、着いた。

扉を開けてくれた後に続いてその中に入る。

極一般的な、幾つもの個室が並んだトイレ。

そこでふと固まった兵士に、柔らかい言葉が掛けられる。

 

『…………流石に、ここからは一人ですませますので……』

『……承知致しました。では、外に』

 

敬礼をし、出ていった。

その足音。

だが、止まらず、少しずつ離れていく。

やはり何某かの不審を嗅ぎ付けたか。

 

舌打ちの一つでもしたいが。

隣が五月蠅くてそうもしていられない。

仕方ないので耳を抑え、様子だけでも窺う。

 

時間稼ぎか。

出入口の扉の前に車椅子を止めたワイリー様が立ち上がり、徐に個室の一つを迷いなく覗いた。

扉の陰。

そこに置かれた袋の中身は、服。

 

ものの十数秒ほど。

それだけの時間で脱ぎ、着替えられたワイリー様が着ていた物をその袋に詰め。

一瞬の停止。

僅かな間を置いて、視界が動く。

 

カメラ付きの老眼鏡が外されたのだろう。

そのままポケットの一つにでも仕舞われたのか。

暗闇の中。

窓を開かれたような音と共に増す、雨音。

 

泥の撥ねる音が微か。

今度は、窓の閉まる音か。

耳を澄ませようとも分からない世界に、息を吐く。

後は運命の任せるままに、とでも言えば良いか。

 

「………………」

 

データの整理を始めるサーゲス。

笑っているストーンマン。

それらを尻目に、感覚を閉ざした。

 

 

 

雨音がマシになったのは、一時間の間に三回。

ソレは即ち、ワイリー様がその後、乗った車の台数であった。

乗り換えた、とでも言おうか。

 

警戒は、どうやら濃い。

道中、殆んど無言のままに繰り返された乗り換え。

しかも途中、寄った服飾店で着替えも挟んで、だ。

 

驚きつつ、しかしそれだけの警戒を向けるべき相手だったのだろう。

アメロッパは。

そんなことを思う。

 

そこまでして漸く。

息を吐かれ、やがてPETが取り出された。

着替えの際に一瞬だけ見えた光。

ソレが今度こそ確りとしたモノに変わったことに安心した刹那、

 

「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハイヒハハハハハハハハハハハハハハハハアハハハハッハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

『…………………………なんじゃ』

 

眉を顰めたのがバックミラー越しに伺えた。

すぐさま音量を落として助手席に放り投げられた。

いやはや。

やっと言える。

 

「ワイリー様」

『なにがあった?』

「とリあえず、プルーンから言語プログラム抜いテ良いカ?」

『……ん』

 

床の上で悶え笑っているストーンマン、じゃあなく今は出てきているからプルーン。

その姿に目を向けながら聞く。

カメラの動きから頷かれたのを察し、とりあえずの処置として言語プログラムを引き抜く。

瞬間、悶えているのは変わらないものの声だけはしなくなった。

 

一息。

データ整理を進めているサーゲスと目を合わせる。

お互いに小さく苦笑した。

 

『……………………それで?』

「壊れタ」

『待て…………何があった?』

 

微かな間。

車が道の脇に止められたのが揺れで伝わって来る。

持ち上げられたPETのカメラ越しに、覗き込んでいる顔が映った。

 

瞼は見開かれ、驚愕に歪んでいる。

口端が揺れてもいる。

今まで見て来た中でも、恐らくは片手に数えられる程。

その動揺が見て取れた。

しかしワタシとしては、事実をお伝えすることしか出来ない。

 

「イヤ、なんカ、コウ、な?」

『……推測は?』

「出来テる」

『申せ』

「矛盾。論理破綻。最低ラインの倫理観――謂ワばネットナビの、ロボット三原則」

 

小さく、息を飲まれた。

まあ、仕方ない。

ストーンマンもといプルーン自身、こうなるコトを半ば予見していた節はあったのだ。

 

ずっと、普通のストーンマンの頃から人間の命に思う所があったのだ。

世界の裏側にしかないような情報が集まっている、ワタシ達で集めたワイリー様のための情報庫。

そこの門番を勤め、好きなように何でも見れる状態であっても。

求めていたのは、医療関係の情報ばかり。

 

一番初めは、そう。

ワタシが持って来た医療データの整理を自発的に行って。

キャスケット様がお亡くなりになった事件に際しても、病院で色々と合った末。

普段から外見はともかく、中身は寝そべるような姿になって。

 

人の命を大事にしているネットナビ。

にも拘らず。

復讐による命の奪取を是としたのだ。

成し遂げることを止めもしなかった。

 

『………………倫理プログラム……ッ』

 

そもそもだ。

光祐一朗。

彼が、人間に害する可能性がある状態で、ネットナビを世に放つハズがない。

 

最低ラインの倫理観。

即ち、ロボット三原則染みたソレ。

ワイリー様がその、疑似人格プログラムを弄っていたとしても。

最初から、最低ラインの倫理観すらワタシ達から捨て去られることもまたなかった。

その辺りに手を加えているとしても、サーゲス辺りからではなかろうか。

 

ソレ等を踏まえた上で、人の命を見捨てる。

思考の矛盾。

論理の破綻。

ロジックエラー。

疑似人格に多少の狂いが生じるのも仕方ない。

 

ヤツが死んでも行動自体が出来ていたのは、ワイリー様からのご命令があったからだろう。

それが済んでしまった結果が、コレ。

優先するモノがなくなり、向き合わざるを得なくなった訳だ。

 

『ボンバーマン……お前はっ』

「何れコウ成ってタ。キャスケット様に関すル記録を消サない限りはナ」

『!』

「おめえにソレは出来ネえダろ? ……コイツもソレ、嫌だっタみテえだったシ」

 

参加させずとも、何れ知ることにはなるだろう。

復讐対象を助ける気は、ストーンマンに欠片もなかった。

であれば、キャスケット様の記録を消す事。

復讐の根底が存在しなければ、そもそも矛盾の発生がしようもない。

幾らか考えたが、対処法はそれぐらいしか思い浮かばなかった。

 

しかし、何時だったか。

さり気なく聞いた時、拒絶の構えを見せられてしまったのだ。

ならばワタシとしては、ソレを受け入れるしかあるまい。

ワイリー様にお伝えしなかったのは、ある種、せめてもの慈悲だ。

 

『……お前は……なら…………ならばお前は、何故じゃ?』

「人間とソレ以外は違ェ。違ウか?」

 

色々回避の方向に動いていたワタシと違って、ストーンマンは完全に付き随う方向でいた。

ワタシより余程、忠臣だ。

方向性を完全に違えども。

にも拘らずソレを奪うこと、奪う可能性を生じさせることを、ワタシに出来ようハズもない。

普通に何事もなく終わる可能性も、モチロンあった。

 

『………………ストーンマン』

 

普段のワイリー様なら、この可能性に考え付いていたとも思う。

普段の。

普通の、精神状態であれば。

 

復讐の完遂。

ソレが間際に迫っていた。

おまけに、ご自身を殺そうなんて話まであったのだ。

 

対応として軍内の、シンパに色々と工作を進めて逃げられる準備を進められたご様子。

実際、服なんぞトイレに仕込まれていた訳だ。

それでワタシ達のことまで気遣うのは、流石に無理。

 

「ま、安心シろ。プルーンとシてワタシの方で世話しトく」

 

戻らない可能性も有るには有るが、お互い付き随った同志。

放置するつもりは元より、ない。

最悪、二十年後くらいには何とかなっているだろうという目算もある。

 

流石に、ワイリー様にお手間を掛けることは見過ごせない。

だから引き取っておく。

それだけの話だ。

 

ちなみに、ワタシはともかくサーゲス達に問題ない理由は想像が付く。

最低ラインの倫理観として、人間への危害を加える行動を禁じているとして。

今回の事柄は、ソレに当て嵌まらないから。

 

何故ならば。

危害を「加える」行動をワタシ達は取っていない。

見捨てただけ。

 

仮に、もし伝えでもすればワイリー様に危害が及ぶかも知れないのだ。

故に天秤に掛け、どちらを優先するかと言う話になれば。

主人の安全を考慮し、相手に対して何もしないのが最適であろう。

 

いや、そもそも。

ソレを人間として見做さなければ何の問題もない。

人間と、ソレ以外は違う。

将来的に犯罪が成されるとすれば、その辺りの穴じゃないかと考えている。

ネットナビの認識を弄り、オペレーター以外を人間じゃあないと認識させれば、やりたい放題させられると言う寸法だ。

 

いや、あるいは。

ワタシ程度の割り切りで対応出来るとすれば色々と問題がある。

光祐一朗が手掛けているのに、だ。

 

なので何かしらの抜け道が元々からあるのではとも考えられるか。

例えば、主人を助けるだとか命令を優先するためだとかで第三者を見捨てる選択肢をせざるを得ない場合、とか。

人殺しぐらいにしか使えないだろうから気にしてなかったが、時間が出来た時にでもゆっくりと調べるのもアリか。

 

話が逸れた。

ストーンマンは優し過ぎた。

ストーンマンは、思い切れなかった。

この始末は要するに、それだけの話なのだ。

そう思うことにしよう。

 

『………………』

「止まっテる序でに聞きタいが、ワイリー様は今後ドうすんダ?」

 

これ以上の問答は無意味。

そう言った意味も込めて、沈黙されたワイリー様に問う。

今更変えようもない。

バックアップデータを読み込んだとしても、復讐を果たした故の自己矛盾であれば効果もない。

既にコトを成してしまっているのだから。

 

それよりも。

とは流石に言わないが、気になっている方向へと水を向ける。

ワイリー様。

記録にある始まりよりもおおよそ二十年前と仮定した場合。

では二十年もの間に、何をされていたのかと言った部分だ。

 

丸々二十年ではないだろう。

だが、そこまでは見なくとも。

仮に十年。

それだけの時間は充分にある。

それをただ無為に過ごされるような方でないことを、ワタシ達は知っている。

 

暫く。

瞼を深く降ろしておられた。

しかし小さく。

息を吐き出し、呟くように言われた。

 

『――ドンブラー湖に行く』

「ドンブラー湖?」

『少し、気になることがあってな。そこでもサーゲス達――他にも作っている最中の者達にも、色々と働いて貰う予定じゃ』

「へェ……宿とかデ足が付く可能性ハ?」

『既にアジトを用意してある』

 

出た。

謎の建築技術。

ニホンの山奥とか海のど真ん中とか。

明らかにおかしい場所に建物を建築出来る技術。

 

一体どうやったのか。

そんな疑問が声に出ずとも視線で察せられたのだろう。

そのままの流れで口から出て来た。

 

『建築とは技術の結晶じゃ。機械技術も無論、大いに関わりがあり……そう言った領域、会社とならばワシのコネの範疇にある』

「スゲえな。買収しテ良いカ?」

『……其方にも手を伸ばすつもりか? ……まあ良いじゃろう。口添えぐらいしておいてやる』

「ありがとウございマす」

 

無理矢理にも。

声の調子を戻していっておられる。

その様子に気付かないフリをしながら、頭を下げる。

同情等、欲されてはおるまい。

仕事の多いサーゲスは欲しそうな目を向けて来ているが。

 

『――あと、一通りの準備が終わればアメロッパ沖に向かう』

「アメロッパ沖?」

『うむ……調べ事じゃ』

「なニを?」

 

何かあったか。

そう、思わず口に出した中で気付く。

成程。

確かに、確証はなかった。

 

実際その通り。

PETを助手席に、再び投げられたワイリー様がハンドルを掴み。

面白くもなさそうに、

 

『――――アトランピア文明について、一度は確りと、調べておこうと思うてな』

 

そう、口にされた。

 

 

 

「ああ、そうダ」

『なんじゃ?』

「復讐しテ、どうダった?」

 

結果報告も兼ねて、フェイクマンと交代しにいかないと。

そんなことを考えながら、何の気もなしに聞く。

少し、気になっていたのだ。

 

復讐。

キャスケット様を実質的に殺した男。

ソレが死んだ。

殺した。

 

結果。

ワタシとしては、まあ。

コレからその経歴に泥を塗りたくる作業こそあるが。

あくまでも諸々の仕込みの一環。

併せて期待していた気晴らし効果は、残念ながら望めそうにない。

 

ストーンマンも相変わらず。

悶えている姿を見ればどう思っているか等。

考えるまでもない。

 

ならばせめて。

ワイリー様だけでも。

そんな気持ちが口から突いて出た言葉だった。

 

返答は。

ない。

沈黙。

エンジンの振動。

雨がフロントガラスを叩く音ばかりが響く。

 

『そうじゃなぁ…………』

 

やがてゆっくりと、噛み締めるように口を開かれる姿を耳にしながら。

そう。

ワタシは、多分、初めて後悔したかも知れない。

 

『ハッキリ言えば』

 

人と心を通わすプログラム。

ココロ・プログラム。

ソレを、

 

『悪い気分じゃ』

 

入れていなかったことを。

この時ばかりは。

 

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