やっておくべき始末も終えた。
そうなれば、ワタシの役割も自動的に終わる。
ワイリー様がコトを済ませてから、些か時間を要した。
途中、数日ばかり建設中の神社エリアに籠って秘密の新エリアを作ったりと。
急用と称してアポイントを断ったりした所為で、その後が些か大変だったが許容範囲。
致し方のない犠牲。
と言うことにした。
ソレ等をひっくるめて、まあ、大変だったが。
かくして。
ワタシが本格的に動く必要は、最早ない。
ボンバーマンとしてすべき仕事は、精々が一つ。
二十年程度先の未来で、ロックマンと相対するぐらいだろう。
運命通りに行けば、だが。
勿論そうならないよう色々とするつもりだ。
そもそも論、ワタシがこれまでにした事柄もすべき事柄であったかは分からないことだし。
言ってしまえば、文と文の狭間。
描写と描写の隙間。
仮に運命とやらが動かし難いモノであっても、元からないモノなら容易に動かし得よう。
ビリヤードのボールのように。
動き、跳ね回る小さな玉がやがて大きな運命をも動かし得る。
ソレを願って。
だからワタシは続けるのだ。
「は~い、皆さんお揃いかにゃ~?」
モニターに、横から覗き込むような格好で姿を映す。
元から室内がどんな状況かは知っていた。
思い思いにジュースを手に取り、思い思いに話をしていた面々の視線が一斉に向く。
それに対して軽く手を振って軽やかに中央へと跳んだ。
今回は、パーティーだった。
新しく雇い入れた新メンバー達。
その交流目的のパーティー。
一応、名目上はホームパーティーだ。
パインには現実世界でホームと言える場所が会社しかないので、そこでさせて貰っているのだけれども。
閑話休題。
ハッカーだとかのまあよろしくない領域に足を踏み入れていた子達だが。
有する技術自体は確かの一言。
とは言っても。
対応出来る分野だとかはあるし、まずは様子見。
今後は得意と見た分野や本人の希望に沿った分野。
其方へと振り分けていくのだが。
それもこれから。
一先ずの技術力は確かにある。
そう、確証を示すための期間だった。
そして無事に終えた訳だ。
流石に「ハッキングされていたから技術力は知っています」では顧問さんも納得行かない部分もあった。
なのでまあ、実績を示すには良い機会だった。
グループ同士だとか別グループだとかで細かな小競り合いもかつてはあった様子。
此処ではそんなこと、関係ないものとして貰わないと困るのだけれど。
そう、上手く行かないのも人間と言うもの。
お手伝いや監視をさせていたスタッフマン達からその辺りの情報も吸い上げているから、調整は面倒だが出来ている。
面倒臭かったけれども。
心底面倒臭くて、困ったチャンを幾らか切っちゃおうか悩んだけれども。
「さぁて皆さ~ん? ワタシの開始宣言前に始めてる悪い子は居るかにゃ~?」
『『『『『いませーん!』』』』』
陽系の一同は一斉に、残りも軽くコップを掲げている。
明らかにビールに見えるモノが半分かそれ以上減っているコップが散見するのは、気の所為としておく。
深くは考えまい。
「それじゃあホームパーティ……と行きたかったけどパイにゃんには現実世界にお家がないのでぇ、カンパニーパーティーを始めたいと思うにゃあ! プッチョヘンザーー!」
『『『『『イエーイ!』』』』』
《マジカルポテトスマッシャー》をぶん回しながら言えば、同調してくれる方々。
改めて、陽。
アゲアゲなテンションには今回、半ば強制的に参加して頂いたコサック親子やタレル博士も苦笑い。
そんなテンションアゲアゲな所で、さっさと始めてしまっても良いのだが。
スマッシャーをロッドのように回転させ、頭の部分で床を叩く。
鈍い音が響き、飲み始めた一同の視線がワタシに集まる。
中途半端な所で申し訳なくもあるが、
「――と、その前に。皆さんが盛り上がってお話も出来なくなる前に我が社の方針に少し触れておくにゃ」
微笑んで見せると、一斉に姿勢を正した。
この辺り、やり易い。
ハッカーとして上下関係、力関係が出来上がっているお陰だ。
最低限、聞く姿勢ぐらいは取ってくれるのは。
まあ、集中力が散り易い人も居るからさっさとするに限る。
「それじゃ、三分の動画にしてるからちょっとの間、ゆっくりと見て欲しいにゃ――スリー、ツー――」
三本。
二本。
一本と。
指を折りやがて、モニターにワタシの代わりに映像を映し出した。
目を閉じたワタシ。
その顔が僅かに映り。
刹那、開いた片目に吸い込まれる。
瞳の奥は、望遠カメラのレンズ。
構える男。
幾つかのフラッシュが閃き。
徐にカメラのファインダーから目を離す。
そして映し出される、撮影していた写真。
ネットナビと共にそれを見、にっこりと笑ってお互いに親指を立てた。
次の瞬間。
PETのコードをカメラに接続したかと思えば、映っていた写真がPETの中へと移る。
そして紙飛行機となって、半透明のネットナビを載せて空へと消えて行く。
PETを覗き込む少女。
中のネットナビW2と話をしている素振りをしていたが。
不意に何かに気付いたように首を傾げれば。
ネットナビが紙飛行機を開くと中から写真が現れる。
当然、折り目の一つもない、先程にチラと映っていた写真。
嬉しそうに微笑んだかと思えば、不意に視線を上げた。
その先。
中空に浮かぶワタシとリングマンへと。
目まぐるしく動き回るワタシ達。
ボムの爆発。
放たれるリングの数々。
半透明のソレ等は、すぐ真下の機械から映し出されていると分かるのにはそう時間を要さない。
赤っぽい少女と白い老人とが向き合い。
お互い、口元の笑みが映り。
飛び交うワタシ達が空中で交錯する。
刹那。
周囲から迫り来る弾丸が、刃が、一瞬で弾かれる。
そうしてワタシ達が視線を向けた先。
黒い、幾つもの影。
赤いテロップと共に横切る『CHALLENGER』の文字。
瞬きの如く。
世界各国の装束を匂わす姿のナビのミリ出しと、同時に映る各国の名所を背景としたオペレーターの姿一部。
ソレ等はやがて真っ白な画面に消えた。
微かな黒い線が斜めに混じり始め。
その奥から下り降りる飛行機。
雲海を降りる旅客機。
そのコクピットへとズームされるが、中には誰も居ない。
いや、居る。
半透明なネットナビが何やら操作するような仕草と共に。
やがて旅客機はゆっくりと動きを変えながら滑走路へと降り立った。
無人の空港。
誰も居ないのに動き回る機械。
否。
コチラにも半透明のネットナビが。
機械を操作し、人間の代わりとして仕事を熟していく。
空港の前に止まるバス。
運転席には誰も居ないにも拘らず。
正確に停留所に止まったソレに、誰も気にせず乗り込んでいく。
乗り込み、チケットを取るでもなくPETを機械にかざして中へ中へと。
そうしてバスは当然のように動き始めた。
動き始めたバスから見える景色。
空中を走る列車。
並んで走る、運転席に誰も居ない自動車。
信号機の色が変われば、通行止めの線が空中を横切り進行を遮断する。
子供が駆け抜け。
PETに何か話し掛けている大人がその後に続き。
やがて信号機の色が点滅する中、まだ半ばで杖を突く老人。
その老人の前に膝を突く存在。
半透明ではない、ネットナビ。
ソレが老人を優しく背負い、横断歩道を渡り切ってゆっくりと下ろした。
嬉しそうに微笑みながら何事か言っている老人に対し、ネットナビは親指を立て。
瞬間、その老人の胸元へと消えて行く。
胸元を探り出せば。
PET。
その中から手を振っている、つい先程のネットナビ。
その後ろで動き始めるバス。
街を抜け、何処か町外れへと移動していったそのバスからPETを片手に下りた少女。
周囲を見渡している間にも、その後ろでバスは発車する。
しかし気にする様子もなくPETを覗き込んでネットナビと数語交わせば。
空中に在るは赤い矢印。
あたかも道筋を示すように何処までも伸びていくその跡を歩き。
途中、PETをかざすだけで自動販売機から飲み物を買い。
飲み歩きながら進んで行き、何処かの家の前に辿り着いた。
その家のチャイムを鳴らし。
扉が開いて行くと同時に白い光に呑まれ。
やがては何かから遠ざかり、やがて開いていた瞳から遠ざかっていると気付け。
そうして。
ワタシが瞼を閉じることで映像は終わった。
まあ、大凡詰め込んだが。
デジタルカメラ。
画像のデジタル送受信。
ネットナビのバトル。
それに伴う、ホログラム技術。
世界を繋ぐグローバルネットワーク。
其処から先は、無人運転を始めとしたネットナビによる業務代行。
キャッシュレスでの買い物関連。
ネットナビの現実進出もチラリと触れつつ、PETでの道案内機能だとか。
人々の味方であることをアピール。
もっと色々と詰め込みたくもあったが。
あんまり詰め込み過ぎてもと思ったのでこのぐらいに抑えた。
しかしそれでも、要所は抑えているだろう。
一つ頷いて。
準備していた小細工、意図的に1/fゆらぎの性質にした声を発す。
「――――とまあ、大体こんな感じです」
ワタシの知る世界。
スマートフォンではなく、この世界ではPETだろうが。
SNS。
それに伴う、写真や映像の拡散。
キャッシュレス決済。
マップと所要時間まで載った道案内。
世界中に広がるだろうソレ等。
ワタシの垣間見た世界。
アメロッパ城に存在した壁と見紛うホログラム。
ネットバトルの機械上に投影された映像。
街の中空を走るリニアバス。
現実世界へと進出した、ネットナビ。
どれも、そう遠くない。
ワタシが存在して居なくとも。
二十年近い先に於いて、この世界に普及しているだろう技術。
それを先んじて見せただけだ。
ワタシの知っている未来を。
ワタシの見えている景色を。
「さあ、皆さん」
パチン、と。
手を叩く。
それだけで物思いに耽っていた人物等の視線が集まる。
全員。
コサック親子も。
タレル博士すらも例外でなく。
その様に内心で訝しむが、噯にも出さずに言葉を紡ぐ。
「これがワタシの見る世界。
ワタシの目指す世界の一端。
ですが、まだまだ目指す先は遠い。
――ワタシだけでは。
だからこそ。
皆さんの手をお借りしたいのです。
皆さんの力を貸して頂きたいのです。
まだ見えない未来。
まだ見通せない世界。
まだまだ見えてない景色。
その先を見るために。
その先を知るために。
その先を彩るために。
他でもない。
ワタシ達自身の手で。
ワタシ達自身の足で。
ワタシ達自身の頭で。
彩るために。
いいえ、違いますね。
彩りましょう。
何も描かれていない未来を共に彩りにいきましょう!
ワタシ達自身の手で!
ワタシ達自身の足で!
ワタシ達自身の頭で!
未来を彩りにいきましょう!
世界を創り上げていきましょう!
現実を築き上げていきましょう!!!
――ワタシ達なら出来ます。
だって――今、此処に居るワタシ達が出来なければ、誰にも出来るハズがないんですから!!!」
無音。
無言。
静まり返っている。
しかし、その中で噴出しようとしている何かを感じる。
蓋をされた、熱狂。
「ワタシ達にしか出来ない」なんて。
あたかも選ばれた存在であるような言葉になら、若い世代は釣られ易いだろう。
ましてや、此処に居るのは全員が全員、元はハッカー。
ただの勉学には飽き飽きとして。
電脳世界を見歩いていたような者達だ。
特別扱いは、さぞや自尊心を擽られよう。
もっともどうやら。
視界の端に二人を入れる。
コサック博士。
タレル博士。
この両名にも、多少なりヤル気が湧いた様子。
とても良い。
天才秀才と言える領域にあろう。
だが見劣りする。
他はそんな中、この二人に火を点けられたのであれば。
フォルテのため只々惰性で過ごされるよりも。
鬱々として機械以外に見向きもしないよりも。
未来に目を向けた。
それは何にも勝る炎に成ろう。
ワタシの目的を達成する上でも。
「――――ささ、みなさ~ん」
両腕を広げる。
愉しそうに笑う。
未来を見通すように、目を細める。
「一緒にこの世の何もかもを――彩りに行きましょー、にゃん!」
返って来たのは。
地鳴りのような声音だった。
※少し前にお伝えしましたが、次章の始まりとなる一話を来週投稿させて頂き、暫く休載とさせて頂きます。
半年以上、長引かないようには頑張りたいと思います。
また、あまり機会がありませんでしたので改めて感謝の言葉も記載させて頂きます。
感想や誤字報告に評価、お気に入り登録等を頂き、ありがとうございます。
非常に嬉しいものでした。