ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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高台での備忘録

 

高台から街を見下ろす。

宵闇。

その中であっても。

煌々と輝くは文明の光。

 

果たして、あの何割に関わっているか。

試算しようとしたワイリーだが、やめた。

無意味な感傷でしかないと。

 

「………………ストーンマン」

『…………』

 

自嘲気味に鼻で笑い。

徐に、その懐からPETを取り出した。

ただのPETではない。

様々な機能を追加している特別製。

具体的には、キャンピングカー内の機器との無線通信機能なんぞを追加している代物だった。

 

古代文明。

その技術の何が有用かとワイリーが聞かれたとすれば。

電波もとい無線技術。

それがとても便利だと答えることだろう。

 

そう言った代物であるから。

内部の機械管理を任せているストーンマンとも簡単に連絡が取れる。

当然、外に居ても連絡を取れるようにする。

それが最大の利点である。

何か確認したいと思えば、声を掛ける一瞬で済むのだから。

 

言葉に反応してだろう。

おおよそ、十秒。

その程度の間を置いて、ストーンマンがその巨体を現した。

束の間。

更に数秒。

 

横を向いたその体の一部。

胴体の横側とでも言うべき部分が上へとスライドしていき。

気怠そうな。

紫色を基調とした女のナビ、プルーンがへっぴり腰気味に顔を出した。

 

「……寝たか」

『うす』

 

寝た。

と言うのは単純な話。

同行している、と言うよりもワイリーからすれば同行させる羽目になった少女のことだ。

 

記憶のない少女。

その正体は既に割れていた。

『大園ゆりこ』。

家族として、『大園まりこ』という双子の妹が居るようだがそれすらも忘れている。

年齢も、小学生の少女。

 

さしものワイリーも、その事実を知っては顔を顰めた。

やはり連れて来るべきではなかったのではないか、と。

無理にでも、あの医者の所に残していくべきだったのではないか。

 

それも、僅か一日。

パインに調査を依頼したとはいえ、それだけの期間で分かるようならば尚更に。

と言うか一日で写真データ等の証拠まで用意してきたパインに、流石のワイリーも軽く引いたが。

 

まあ、今更の話。

連れて動いている事実は変えられない。

閑話休題。

 

大園ゆりこ。

名前が分かってからは、ソレで呼ぶようにしているが。

ゆりこ。

 

「具合は?」

『相変わらずっす。暗いのが怖いみたいだから足元用の光は点けてるよ~』

「寝たのは?」

『多分ワイリー様が外出る四十三分前……呼吸の感じでだから、多分だけどねぇ~』

「……日を跨いだ後か」

『そだねぇ』

 

腕時計を見て呟くワイリーに、プルーンは頷く。

軽い口調。

反して、表情は険しい。

 

現在の世界において。

プルーンほど、医療関連のデータを有しているネットナビは存在しないだろう。

同時に、人体への理解に関しても。

だからこそ、分かっているのだ。

 

小学校低学年。

その程度の年齢の子供が、日を跨ぐ時間まで眠れずに居る。

眠れずに、居続けている。

それこそ何かしらのイベント前の興奮でも何でもないのに、日常的に。

その異常性は。

 

「…………どうにもならぬか」

『ボスはよくやってる方だと思うよ? 結構甘えられてる方だろうし』

「プルーン」

『あん?』

「アレは甘えてるじゃなく、媚びてると言うんじゃ」

『……違いが分かんねぇ』

「…………そうか」

 

両手を横に広げて見せるプルーンに軽く溜め息を吐き、ワイリーは歩を進める。

街を見下ろす。

その高台の柵の上でPETを巻き込むように軽く手を組み、夜空よりも輝く街並みを。

眉間に皺を寄せながら。

 

「気にする必要があることは多いんじゃが……」

『うん』

「まずワシに依存している状況は良くない」

『ですよねぇ』

 

細々と、胸の内を呟く。

一応頷いているプルーンだが、自分に対して言っているのではない。

考えの整理をするために口に出している。

そう察したのか、ストーンマンボディの縁に腰を下ろした。

そのまま手慰みにか、画面を出して手を動かし始めるがワイリーは気に掛ける様子もなし。

 

「プルーンは……今は引き籠っておるしな」

『まあ……居なくなるかも知れないヤツに本体晒す訳なくねぇ~?』

「…………道理じゃ」

 

ボンバーマンの中身。

それが世間一般どころか手で数えられる程も知られていない。

だからこそ出来ることがある。

ストーンマンことプルーンも同様。

に、なるかも知れないのだから否定する道理はない。

 

「故に話し相手が居ない。ワシ以外」

『そっすね』

 

だからこそ。

ストーンマンと会話できない。

基本的に『ゴゴゴ』言葉なのだ。

言語的な意味は一応あるのでネットナビなら解読できるが、人間には分からない。

 

そしてプルーンはその状態をやめるつもりはない。

ゆりこは確かに子供。

もっと言えば被害者で、プルーンがある種、助けることにも関わった。

 

だが、あくまでもワイリーより優先されない。

優先されるは、ワイリーのみ。

ボンバーマンのように後々で何某かの役に立つ可能性があるのなら、ストーンマンに徹し続ける。

ある種の無情とでも言うべきか、確固たる順位がプルーンの中には存在していた。

 

「用意するか」

『後輩を?』

「うむ」

 

あっさりとしたその言葉に、ツラツラと進めていた手を止め、プルーンが視線を向ける。

だが変わらず街並みを眺める姿に軽く肩を竦めるだけ。

自分が関わる部分は少なそうだと作業に戻った。

一割程度の領域はソチラに割きながら、だが。

 

「ナビを用意する。ソレは良いが……どのようなナビを用意するか」

『ちょっと奇抜なぐらいが良いんじゃない?』

「……その心は?」

『要はボスよりソッチに関心が向く方が良いんでしょ? オペレーターとしてやれることがあるような、ちょっと尖ってるぐらいの方が良いんじゃないっすか?』

「成程――尖ってる。尖ってる、か……面白いかも知れん。その方向で考えてみるかな」

『それでいーと思いまぁす』

 

割と適当気味な受け答えではある。

しかし何かしら琴線に触れたのだろう。

頷く姿を眺める。

 

手を煩わせることが少なくなればなるほど、良い。

意見を出すべきだろうか。

そのように思考と領域を割き掛け、プルーンはやめた。

面倒臭い。

ハッキリ言って、自分の言葉でどうこう変わるような方ではないと思っているのもある。

 

「尖ってる」という言葉が何か琴線には触れたようだが。

それはあくまでも、心中に元々あった何かに触れたに過ぎないだろう。

そのように、キッパリと断った。

出すとしても、少なくできると分かり切っている時だけだと。

 

『……問題は話し相手だけなんすか?』

「…………いや、勉強も教えねば」

『勉強?』

「お前達ナビと違って、人間は学ばねば覚えん」

『ああ、うん。そっすね』

 

顔を顰めているワイリーに、プルーンは頷く。

分かってなくとも。

とりあえずで、頷いた。

 

人間は記憶するために時間を割かねばならない。

理屈としては知っている。

知識としても知っている。

しかし、現象としては分からない。

 

プルーンにとって、覚えると言うことはデータを取り込むこと。

そのデータが有りさえすれば覚えているし、忘れることはない。

不要であろうとも、滅多に使わなかろうとも。

 

忘れると言うことはデータを消去すること。

人間の脳ミソが不要な情報や滅多に使わない内容を忘れることで消去しているのは分かる。

分かるが、実感としては湧かない事柄だった。

特にプルーン。

ワイリー謹製の超高性能ボディに加え、ストーンマンボディと言う特大のデータバンクを有しているのだから尚のこと。

 

「……ぶっちゃけワシが付きっ切りで教えるのは流石にじゃし……用意してやるナビにその手の機能を盛り込むべきか?」

『パインに頼めば?』

「…………いや、ヤツは忙しいじゃろ」

『でもアメロッパでその手のコトもうやってるみたいだし』

「……なんじゃと?」

 

疑念の言葉と共に向けられた視線。

それにプルーンは答えつつ、寝そべった。

 

『ちょい待ってね……あった、コレ』

 

そのままストーンマンボディに上体を突っ込んで数秒。

目当てのモノを引っ張り出した。

少し前。

誰かも分かっていなかったゆりこの情報を手に入れるために依頼した後、受け取りにプルーンが出向いた時に偽装も兼ねて色々と受け取っていたものがあった。

 

その内の一つ。

取り出したのは、電脳チラシ。

ネットナビが見るだけでなく、やろうと思えばPETの画面に広げられるようにもなっている。

そのようなチラシを開いて見せた。

 

「………………」

『あ、訳す?』

「馬鹿にしとるんか? 読めるし意味も分かるわ――アカデミア」

『そそ。学習系のサービスを纏めてやってる所を新しく買収して改名したみてえで』

「建設業者も買ったとは聞いたし、コサックと協力して何たらコードも作ったとか聞いていたが……まあいい。お前が言っとるのはこのメガネか」

『うす』

 

アカデミア。

別の名前だったようだが。

ともかく、元々からあった学習塾を買い取った会社。

 

「……要するに、家庭教師」

『みたいっすはい』

 

大雑把に目を通し、軽い声と共に溢した。

塾のように通うモノではなく、家庭教師に近いある種の家庭学習。

メガネ型のプログラム。

 

予め定まっている範囲ならばネットナビがそれを装備することで、家庭教師のように勉強を教えられるようにするためのプログラム。

問題の作成や、間違っている部分から何処が分からないのか考察補助する機能もある様子。

ちなみに何故か、普通の眼鏡型と片眼鏡型の二種類が存在しているらしい。

趣味なのだろう。

アレはそう言う所がある。

半ば確信しながら、ワイリーは内心で頷く。

 

塾のように通わせる必要はない。

ネットナビが既に居るのならば、そのナビに教師役をやらせられる。

普段から接しているナビなのだから、分からない部分等も相談し易くなる。

 

しかも、家庭教師のように人間がやって来るモノではない。

人間が出入りしない。

外聞を気にするのだとすれば、まあ使い易いか。

 

「…………まだアメロッパでしか運用されていないようじゃな」

『試用としてね? でも割とアップデートはしてるみたいだからそれなりに人気らしいよ』

「ふうん……」

 

再び何やら画面に向き合い始めているプルーンを無視して、ワイリーは顎を撫でた。

単純な話。

それで出来るのならば、それで良いだろう。

しかし、懸念があった。

 

アメロッパ限定で行われているサービス。

これを、ゆりこが出来るようにするには相応、ニホン用に修正する必要が生じる。

それのためだけの改造。

つまり、ワイリーが割と嫌いな領分。

特別仕様、である。

 

特別仕様。

コレの何が面倒かと言えば、他との互換性がなくなること。

追加あるいは改造している所為で、他と同様に更新が出来ない。

しようとすれば大体、ソレのためだけに時間を割く必要が生じるのだ。

 

ワイリーも別段、汎用性のあるモノを積極的に作って来た訳ではない。

むしろ逆。

独自かつ独特なモノを創っていた自覚があった。

だが全く作っていなかった訳ではないので。

 

「………………ま、任せてみるか」

『ソレが良いと思いまぁす』

 

明らかに自分に面倒が掛からなければどうでも良い。

その様な声音はスルー。

まあ、パインだったら何とか出来るだろう。

スタッフマンも作っているのだから。

等と言う無責任な投げっぱなしをすることを決めたワイリーは、ふと思い出したようにPETを覗いた。

 

相変わらず何やら手を動かしているプルーン。

暫くその姿を眺め。

十数秒ほど。

やがて気付いたらしく、顔を向けた。

 

『…………何です?』

「何をしておるんじゃ? 早速このスカウターとか言うヤツを依頼するメールか?」

『違いますけど……』

「では他の奴等に連絡か? ……確かウラインターネットに拠点を造っておったな。サーゲスの案だとかで許可した記憶はあるが」

『先々見据えてって話だねぇ。プルルンとボンバーマンもマップデータ渡してやったりしたからねぇ……まあ、違うけど』

「…………ああ、ゆりこの様子を見とるのか」

『ソッチも勿論してるよぉ』

 

純粋な疑問。

先程から何やらやっていることは何なのか。

しかし、出している答えはどれも当て嵌まっている様子がない。

それにワイリーは僅かばかり眉を顰めた。

 

視線が宙を泳ぐ。

暗闇の中。

燦然と、しかし徐々に減っていると見える街の光へと向け。

 

暫し。

数十秒ほど経っただろう。

観念したように眉を垂れ、視線を戻して問うた。

 

「……なら、何をしておる?」

『…………ん!』

 

硬直は僅か。

数瞬、視線を泳がせたものの。

プルーンは半ば押し出すようにソレを画面に浮かび上がらせた。

ソレは、ワイリーにとっては見慣れているモノ。

しかし見たことのないモノ。

 

「…………コレは……この図面は………………義肢か。電動の」

『そ。中々上手くいかないんだよねぇ』

 

にへら、とでも付きそうな。

情けない感じに口元を緩めて笑うプルーンだが、対するワイリーの視線には鋭さが生じていた。

その図面。

義肢の出来に。

では、ない。

 

「……………………この類の命令、しておったか?」

『勝手にやってるだけだから気にしないで欲しいなーって…………感じっす、はい……』

 

サーゲスがウラインターネットに拠点を造り始めたことはワイリーは、分かっている。

将来的に、ある種の裏世界に拠点を用意する。

その様な意図。

実際、説明を軽く受けていたことをワイリーは覚えていた。

かつて曖昧ながら出して置いた、役に立つようなことをするようにと与えていた命令。

 

だが。

これは。

プルーンの行動は。

 

「――――――」

 

ワイリーが意図せずして向けた、鋭い視線。

ソレに、気まずさを覚えたのだろう。

図面から自身に向けられたことでより情けなさを増し。

何やら揉み手らしきことをしながらエヘエヘと卑屈っぽい笑みを浮かべている姿にワイリーは口を開き。

 

「――――――」

 

閉じた。

 

「――…………」

 

併せて目を閉じ。

暫く。

薄っすらと瞼を開き、変わらず揉み手を続けているプルーンへと視線を向け、今度こそ口を開いた。

 

「…………プルーン」

『へい』

「何も言わん」

『……え、良いんです?』

「何に対してどうとも言わん。ただ、もう一度言っておこう――何も言わん」

『あっはい、じゃあプルーン好きにさせて頂きます……?』

 

真剣な表情とは裏腹に、ある種の投げっぱなしな命令。

それに些かの困惑を紛れ込ませているプルーンだが、余計なことは言わない。

下手に何かを口にして不興を買うのも嫌。

そのような思考が、ワイリーの真意を探ることを放棄した。

単に面倒臭かったのもあろうが。

 

何か釈然としない。

そんな感情を表情に出している様子を鼻で笑い、ワイリーはPETを懐に納めた。

外での秘密話も終わり。

 

これ以上、わざわざ外に居る意味もなければ理由もない。

体重を掛けていた柵から身を離し。

キャンピングカーへと、

 

「……言葉に不備があったな」

『んあ? なに?』

「やることはやるように」

『………………』

「返事は?」

『……………………うす』

 

一度取り出してみれば。

露骨に肩を落とした姿に目を細め。

鼻を鳴らしてから、今度こそキャンピングカーへと歩を進めた。

最中。

一瞬だけ、肩元から振り返る。

 

背後の街並み。

深夜を随分と回り、徐々に弱まっているように見える輝き。

しかし、彼方。

地平の上を一瞬、星が流れたようにも見えた。

 

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