ワタシは、ボンバー……   作:無記名 to 稿

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流星のロックマンのアニメがYouTubeで期間限定公開されていました。
一話十分ほどのアニメですので、興味のある方は、どうぞ(露骨な宣伝





山中での備忘録

 

山中。

木漏れ日を歩む。

杖を突きながら。

装備を整え、鈴を鳴らして。

 

一見、老後の趣味に時間を費やしているように見えるかも知れない。

しかし、そう見えるのは姿だけだ。

山中。

整備されていない、道なき道を歩む。

しかも周囲へと殆んど目を向けず、手元の機械ばかりを注視して。

 

そのような姿。

一見すれば自殺志願でしかないだろう。

だが確かな理屈を持って動いていた。

 

手元の機械。

PETに接続され、背中の背嚢へと伸びたコード。

諸々の要素によって導き出される事柄。

画面が常に一定の方角を示していることが、確かな目的の元に動いていることを教えていた。

その動きが不意に止まった。

 

「………………」

『休憩予定地点はまだ先だよぉ~』

 

耳元へと伸ばしているコードへと呑気な声を流すプルーン。

しかし、ソレを無視し、無言のまま周囲へと目を向けた。

囁くような木々の唸り。

駆け抜けていく風の歩み。

ワイリーを撫ぜる、姿なき諸々。

 

僅かな間をおいて、片眼鏡へと手を伸ばす。

微かな起動音。

同時にその色を変えたレンズが、ワイリーの見える世界を変えた。

 

無言。

騒めきが僅か。

やがて、息を零した。

 

「……姿を見せよ」

 

不意に、何かが止んだ。

自然に紛れていた音。

風の音か。

葉の音か。

様々な要素の折り重なっていた音音。

 

その内の一つが不意に、止んだ。

何処を見るでもない。

ただ周囲へと体を回し、何かを探すようにしていたワイリーだったが、一回転でそれは止まった。

 

居た。

曲がりくねった木と木の間。

二十歩も歩めば着くだろう先。

元々から其処に居たように。

人が居た。

 

三人。

老爺。

剃髪。

若人。

 

何れも古めかしい、和装。

流石に驚いたのか微かに目を見開いているワイリー達を他所に、あくまでも冷静に。

中央。

老爺が一歩、前へと進み出、頭を下げた。

 

「お初にお目に掛かります、ワイリー博士――既にお察しの通り、我等は貴方の探している忍び」

 

 

 

「…………」

「どうした?」

「……いえ、何と言うか……」

「普通、か?」

「まあ……はい」

「隠れるならそうすべきじゃろ」

 

大して気にするようでもなく、出された食事を味わいながらそう返す。

分かるけれども。

そのような、諸々の入り混じった表情で、ゆりこは曖昧に笑った。

 

山間の村。

山中の家。

いわゆる豪農の家と言われて納得するような、大屋敷。

その様な場所に、ワイリー達は案内されていた。

 

無論、同行者である大園ゆりこも同様。

もっとも。

ゆりこに関しては一悶着あった。

 

『シャーッシャシャッシャッシャ! ゆりこが気にしてるのはそこじゃねえよ!』

「なに?」

「ちょ、ちょっと?!」

『アンタの車の機能でケガさせちまった奴の心配してるみてぇだぜ!』

 

ケタケタと。

風変りな笑い声を上げているナビの言葉にゆりこは顔を赤らめた。

一瞬ワイリーへと顔を向け、鞄。

小型のパソコンを取り出し慌てて中のナビを黙らせようと指を動かし始めるが効果は乏しい。

ともあれ、漸くワイリーは得心入ったように頷いた。

 

ワイリーが自分を置いては行かない。

その様な信頼は一応、ゆりこには出来ていた。

ただそのような中で、ワイリーの使いを名乗り現れた人物等。

 

実際、直接この家に案内されたワイリーのための使いだったのだが。

それでも、何の連絡もなく何処の誰とも知らない輩が来たのだ。

抵抗もしよう。

 

普通は唯の子供なのだから何も出来ることはない。

普通ならば。

ただ、乗っているのがワイリーが手を加えていたキャンピングカーだった。

それが多少の悲劇を生んだ。

 

ワイリーからの連絡を一先ず待つ方針で居たゆりこの対応。

それに業を煮やした形の人物を襲ったのだ。

具体的には、電撃と言った形で。

ちょっと違法に片足を突っ込んでいるスタンガンのような一撃が。

無理矢理開け入ろうとした人物へと。

 

ちなみにソレを実際に起こしたのは、ゆりこではない。

未だ高らかに笑っているナビが起こしたことである。

ストーンマンの代わりにキャンピングカーの管理を任されていたし、勝手に入ろうとした輩への制裁でもあった。

悪気など、微塵も覚えるハズがない。

 

だからこそ守られた側のゆりこが逆に気まずさを覚えている訳だが。

これはまあ、仕方がないことだった。

人が煙を出して倒れている光景を見れば、流石に慌てもするだろう。

そう言うことである。

 

「ゆりこ」

「あー! はい、なんですおじさま?!」

「引っ掛かった奴が馬鹿なんじゃ、気にするな」

『シャッシャシャー! その通りだぜー!』

「もー! もぉー!!!」

 

高笑いを上げている姿にいよいよ限界。

そのような様相を見せるゆりこに、ワイリーは密やかに微笑んだ。

元来、我の強さのようなモノはあったらしい。

素直にそれが表に出てくるようになったのは喜ばしいことであった。

少なくとも、ワイリーにとっては。

 

さておき。

何時までも一人と一体を戯れさせておく訳にも行かない。

だが、声を掛けるでもなく。

ただ立ち上がった。

 

自然、視線が向けられる。

そして立ち上がった。

騒がしかった会話も、止んでいた。

襖を開け、外に繋がった廊下に出るワイリーの後にゆりこが続く。

 

「――さて、ゆりこ」

「なに?」

「ワシの換算では一月二月程度は此処で暮らすことになる」

「……調査のため、でしたっけ?」

「そうじゃ。ワシがデッカイドーに居たのも、其処からあの車で南下しているのもそれが理由じゃ」

「……ここにあるの? その目的が?」

 

鶯のように鳴る廊下。

それを気にも留めず、歩みを止めず、しかし頷いたワイリーの姿に同じように頷いた。

だが、少し様相が変わった。

関心。

そのナニカに対して興味が惹かれたような表情に。

 

雰囲気の変化。

振り向かずとも、声か何かで感じ取れたのだろう。

顔を僅かに向けはしたモノの、変わらぬ足取りで歩を進める。

途中、音もなく佇んでいた女の横を通り過ぎながら。

 

「…………有り体言って此処は忍者屋敷じゃ」

「……忍者? 忍者! 本当に居るんだ……!」

 

会話をしていたからか。

通り過ぎる間際まで全く気付いていなかったゆりこが飛び上がったのを小さく笑いながらそう言葉を続ければ。

果たして今度は忍者に意識が移ろったらしい。

その有様にまた小さく笑った。

子供らしく結構、と。

 

なればこそ、だろう。

あまり堅苦しいのも良くはないとでも思ったか。

芝居がかった調子で両腕を軽く開くようにしながら続ける。

 

「そう! 此度の調査は忍の秘宝じゃあ!」

「ひほう……?」

「今までこの屋敷の者以外……いや、屋敷の者でも限られた存在しか見ることの叶わなかったと言う秘宝を調査できるのじゃ! 面白いじゃろ?」

「へー! やっぱりすごいのねおじさまって!」

「そうじゃろそうじゃろ!」

 

そう呵々と笑うワイリーに、ゆりこは目を輝かせた。

忍者。

である。

しかもその秘宝。

どのようなモノであるかは分からないまでも、心を揺さぶるには十分であった。

 

もっとも、どのようなものを見せられてもどれほど特別かは分からない。

詰まる所。

単刀直入に言えば、物珍しさ。

自分達しか見れない特別感。

ゆりこが目を輝かせているのは、そのような辺りであるが。

 

ともあれ。

そう考えれば特別感が出たのだろう。

周囲を熱心に見回すゆりこはそのまま。

何時からか、廊下の先に居た女中と思しき人物。

その案内のまま、開けられた一室へと足を踏み入れた。

 

「……ふむ」

「ええ……っと?」

 

何もない。

強いて言えば、掛け軸やらか。

極平凡な和室。

座布団が四枚。

対面上に敷かれているその一つにワイリーは腰を下ろし、恐る恐ると言った様子でゆりこもまた続いた。

 

十数秒。

その程度の時間が過ぎ、周囲を見渡していたゆりこの視線がワイリーへと向いた刹那。

ぬるり。

とでも称す具合に、ソレ等は出た。

 

如何にもな、黒装束の二人。

如何にもな、装飾の施された刀と箱。

ソレ等を持って。

掛け軸の裏から。

畳の下から。

 

もっともその様を見届けていたのはワイリーのみ。

数えて三秒足らず。

視線を戻したゆりこが思わず飛び上がる程、音もなくまた鮮やかな動きで座布団に腰掛けていた。

 

「っひえあ?!」

「――中々見事な動きじゃな」

「ありがとうございます」

「手始めにご覧頂きたいのは……」

「まあ、待て」

 

徐に。

座布団から立ち上がりながらワイリーが言う。

視線が集まるが特に悪びれる様子もなく、

 

「ちょいと手洗いを借りたい」

「……なるほど。それであれば外の者に案内を」

「うむ。その間に他も用意しておいてくれ……あと、出来ればゆりこへ先に説明でもしてやってくれ」

「分かりました――――では、まず、此方の箱から。コレは螺鈿細工……要は、アワビなんかの貝の内側を利用して作られた箱になります」

「貝?」

「その通りです。まず外側から説明させて頂きます」

 

そう言い置き、部屋を出た。

外で待ったままとなっていた、女中姿の人物。

ソレと視線を合わせ、会話もなく廊下を歩む。

ただ、ワイリーの足元でだけ鶯のように鳴く廊下を。

 

「――――」

「――――」

 

距離はそれほど離れていない。

一分と経たず止まり、示された場所へと足を踏み入れた。

そして。

同じように用意されていた座布団に腰掛ける。

 

既に座り、待ち構えるように居た山中で遭遇した三人。

老爺。

剃髪。

若人。

ソレ等を見た。

 

「まず、改めてご説明をするならば……我等は忍びと言っても、その連合体。

 そう思って頂くのがよろしいでしょう。

 例えば、其処な――剃髪の一人。

 目立つので剃っておりますが、地毛は金髪です。

 曰く大陸より来たと伝わる羅無有を祖とし、技術を受け継いだ集団の子孫でありますな」

「よろしくでおさる」

「おさる、と言うのは方言のように思って下され。

 ……時代の変遷と共にその職分を闇へと移し替えた一族。

 とはいえ、戦乱にあって出る杭は打たれる。

 質で勝ってはいても、大きく上回った数には勝てず一族の者達を擦り減らし、やがては滅亡した――とされているような集団の、集合体が我等です」

 

正座で向かい合うその相手を若干冷めた目で見詰めながら、ワイリーは頷いた。

忍び。

頭を下げている、禿げ頭。

もとい剃髪の人物を一瞥し、とりあえず。

その様な具合に頷いた。

 

ワイリーとしては、「そうか」以上の感想はなかった。

そも、山中で彼等と接した段階からして、別に忍と察していた訳でもなかった。

いきなり名乗って来た。

 

その上で、トントン拍子に話が進んでいったのだ。

都合が良さそうだから流れに任せていたが。

言ってしまえば、相手の勘違い。

改めて言うが、少なくともそれが良いように進んでいるため、突っ込んではいないのだが。

 

そのような、若干の適当さの漂う態度。

しかしそれを相手はどう捉えたか。

訳知り顔で頷いてみせた。

 

当然、ご存知なのでしょう。

そうでなければ我等を訪ねますまい。

言外にそのようなことを匂わせている様に、同じように頷いた。

 

分かってるように振る舞う。

それならば、此方もそれに合わせれば良い。

単純な判断だった。

 

「さて――ワシの目的は察しておられるか?」

「先程話しておられた忍の秘宝、とやらでしょう? それであれば我等の元に存在しております」

「うむ。その中でも頭一つ抜けて……そう、ワシは今、少々危険物の確認を進めておる」

「危険物?」

「単刀直入に言おう。お主等があの先の山奥で保管していた、何で構築されたかも知れぬ物体――持って来ておるのだろう? ソレを確認させて貰いたい」

 

軋んだ。

床が軋む音が鳴った。

老爺の鋭い視線がワイリーの後ろへと放たれた。

 

後ろ。

控えていた、剃髪の者へと。

だが今度は音が鳴らず、微かな布擦れだけが沈黙を遮る。

十秒ほどか。

一切表情を動かさなかった老爺から、諦めたような息が漏れた。

 

「――持ってこい」

「よろしいのですか?」

「構わぬ。我等の秘奥――否、仰るように称せば秘宝をどのように知り及んだか……些かならぬ興味はあるが」

「であれば」

「お見せする以上、相応の何かを期待してもよろしいのでしょうな?」

「本物であればな」

 

再び降りた沈黙。

見詰め合い、しかしまるで動きを見せない。

当初こそ反応を待っていた。

しかしワイリーの眉間に不審が形となって表れ始めた。

 

中、その脇を風が抜けた。

風ではなかった。

人であった。

若人であった。

 

歩きながらも床は軋みの一つも上げず。

歩いているにも拘わらず布擦れの音すらもない。

無音。

風を感じなければ果たして、ワイリーは若人こそが探していたソレではないかと疑っただろう。

 

頬に冷たいものを滑らせるワイリーを、悪戯が成功したような笑みを浮かべ。

老爺は脇に控えた若人から、酷く質素な木箱を受け取った。

先程の伽藍細工の箱のような絢爛さはない。

しかし、抱える程の大きさ。

そのまま何の感慨もなさそうに蓋が取り払われる。

 

十字手裏剣。

如何にも忍者が使う代物だろう。

目立つ部分で言えば、その大きさか。

直径で見れば両掌を合わせるよりも大きい。

腕ほどとは言わないまでも、肘から先ほどはあろうか。

 

冷たさ。

温もり。

唐突に森林に放り出されたかのように溢れ出した、異なる空気。

相反する何某かを発する、ソレ。

 

思わずとでもいうようにかワイリーは目元の片眼鏡に手を伸ばし、微かに直す。

同時にそのレンズの色が緑に変わった。

それ以上は動かず。

ただ、流れた沈黙は十秒ほど。

肚の底から吐き出されたような吐息と共に、それは流された。

 

「――――本物か」

「お分かりに?」

「見れば分かる」

 

平坦な言葉。

予め知っていたかのようなその一言に、遂に老人の表情が変わった。

僅かながら。

その目が細まり、鋭さが宿る。

そして、

 

「………………」

 

噴き出した。

何かが。

人であれば殺気とでも称そうか。

影のように潜んでいたソレが部屋を覆い尽くす。

 

「……動じぬか。まあ、良い――話して頂きましょうか、どのようにして知り得たか」

 

しかし特段、気にする様子もないワイリー。

対し、巻き込まれ曝されている二人は静か。

ではあるが、その身に隠し切れぬ湿りを帯びた。

 

「求めていた相応の何かとして話してやるが……簡単な話じゃ。お前達だけが特別な訳ではない、思い上がるな――と言えば分かるか?」

 

揶揄するような言葉。

殺気が微かに揺れ。

やがては溜息と共に納まる。

 

「………………我々だけではない。と?」

「そういうことじゃ。どうせ誰かしら差し向けておるのじゃろうから言っておくが、既にワシは二つばかり管理してある」

 

床が軋んだ。

軽い、手を突いた音と共に。

眩んだのだろう。

老人がその身を抑えるために。

 

慌てずしかし素早くその体を支える若人を残った手で制し。

体を起こしてもう一度、今度は両手を突いた。

頭と共に。

 

「――――――ワイリー殿。伏して、お頼み申し上げる」

「なんじゃ」

「我々は忍び。影の者。故に様々な時代の変革を見てきましたが、此度の激動は瞬く間に世界を一変させるでしょう」

「……かも知れん」

「――ネットナビ」

「それが欲しいと?」

「対価は……我等が秘奥を調べ、その結果を利用しても構いませぬ」

「「……」」

 

伏した姿。

それにさえ動揺がなかった二名の空気が僅かに揺らいだ。

声にしなかったことは意地か、尊重か。

 

かくして。

ゆるりとワイリーが頷いたことにより。

其の契約は成った。

 

 

 

刹那。

電脳に舞う。

空を貫く棘。

無数の鏃の如く。

身軽く、宙へと浮かんが姿に、

 

『シャーッシャシャッ!』

 

下から穿つように放たれる棘衾。

あるいは視野を覆う程のソレ等。

目を細め、懐を探り、放つは、

 

『《バクエン》』

 

焔。

逆巻く熱風。

火の嵐。

飛び迫っていた棘を舐め焼き、勢いそのまま焼き尽くさんと。

 

「《バブルラップ1》スロットイン!」

 

しかしソレがそのまま焼き尽くすのは良しとしない。

声と共に挿入されたチップ。

小型パソコンのアタッチメントを経由してその効果により現出した泡が見事、熱波を凌がせて見せた。

 

小さな笑み。

確信していた訳ではない。

しかし、何かしてくれるだろう。

そのような信頼と共に、腕を宙へ。

未だ宙にある姿へと向けていたニードルマンは笑い、

 

『《ニードルキャノン》乱れ射ちぃ!』

 

再び放たれた棘の数々。

次いでは手裏剣での迎撃を計ったらしい。

しかし、際限なく放たれる棘。

身動きの利かぬ宙の不利。

ソレ等がやがて、数秒の時を置かずにその身を貫くという結果を生み、

 

『んなっ?!』

「っ!」

 

消えた。

あたかも、最初からその姿はなかったかのように。

驚愕の声を漏らした刹那。

動揺。

 

隙を逃さぬようにか現れた二つの影。

ニードルマンを挟むように。

刀が振り被られ、

 

『《ニードルアタック》!』

『……っ!』

 

る中であっても。

上体。

両肩に当たるだろう部分に生えていたそれぞれ二本の棘を伸ばすことでむしろ強襲。

咄嗟に身を躱した片方はともかくもう片方を串刺しに消し去った。

 

『シャァ!!!』

 

なおも止まらぬ。

身を回転させながらの突撃。

人間ならぬナビシュレッダーの如く。

八つ裂きにしてくれようと飛び掛かる。

 

『チッ』

『……侮れんか』

 

ものの。

素早さはニードルマンよりもその相手が上。

それも、大きく。

串刺しボロ雑巾にするよりも前に、十分以上の距離を取られてしまっていた。

 

舌打ちするニードルマン。

だが、再度展開されその身を覆う《バブルラップ》により防御面での有利。

遠近併せ持った棘。

まだまだ推移は読み切れない所である。

が、

 

「もうよい、そこまでじゃ」

『チェ!』

「ふぅ……」

『…………』

 

その一言で、双方は武器を納めた。

両腕を広げながらも棘を引っ込めるニードルマン。

それをプラグアウトし、小さく労わるゆりこを一瞥し。

ワイリーはもう片方のナビがプラグアウトする様子を眺め、目を細めた。

 

老爺。

その手に納められているPET。

その画面に映る一体。

 

「で、いかがだったか?」

「……さて。生憎と我等はそれほどネットナビに詳しくないモノで……」

「フン!」

「申し訳ない。しかし、見事な動きであったとは思います……名に恥じぬ、と言えばよろしいでしょうかな」

「当然。とは言え、お前達もお前達で、調査を進めていたお陰とも言えるじゃろう。その――」

 

無言を貫くは影の如く。

紫の、正しく忍び装束。

額当てのような十字手裏剣と、首元から伸びた真っ赤な血のようなスカーフのようなパーツが目立ちこそするが。

やはり感じ入るは静けさ。

森か山かに身を浸しているように溶け込んだ、

 

「――シャドーマンについては、な」

 

ネットナビを。

一瞥した。

それに対するは、沈黙。

両目を閉じ、黙として語らぬシャドーマンの姿に、口の片端を吊り上げるようにニードルマンはぼやいた。

 

『ケッ、気障な野郎だぜ!』

「やめなさい、おバカ」

『ああ~?! バカッつう方がバカなんじゃねえか、ゆりこ!』

「なんですってぇ?!」

「やめんか」

「『だって!』」

 

思わぬ拍子に言葉が揃い、思わずと言うように顔を見合わせている双方。

半ば無視する形でワイリーは老爺のPETを覗き込んだ。

変わらぬ姿。

しかし、片目を薄っすらと開き、様子を見るような仕草をしている様を。

 

「――シャドーマンは伝えた通り、スペックは既存のナビと比較しても上の上。ワシの手掛けたニードルマンと、オペレーター付きで殆んど互角だった様を見れば分かるじゃろう」

「ええ」

『……チエッ!』

「何よりも」

 

当て馬扱いにいじけた声をわざわざ聞かせて来るニードルマンを、やはり強いて無視し。

視線を一角へと向ける。

自然と、その場にいる者達の視線が向かう。

 

四角形の石の台座。

その中央にて、当然の権利のように浮いている、巨大な十字手裏剣。

周辺を様々な、ワイリーが「古臭くて敵わん」と溢しそうになったものの、機能だけならば十分。

所々に貼り付けられている電圧、電流、振動、等々の様々な観測計器。

常に動き回り記録を取り続けているペンレコーダーや磁気テープ。

 

何よりも、電波。

その挙動を見逃すまいと増やされた観測器の数々は、さしものワイリーも驚いた。

ただ、山奥に置いて拝んでいた訳ではなかったのだと。

ともあれ、そう言った観測データを基に特徴を吟味しながらワイリーが組み上げたプログラム。

それを組み込まれた存在こそが、シャドーマン。

 

「能力、電脳世界最高峰の忍び。そう称して問題あるまい」

 

実力は、語るまでもない。

だがあえて言うならば。

先にもワイリーが述べたように、謹製のネットナビにオペレーターが付いていながらも単独で互角。

 

実力のみでもソレだ。

更には機動力、隠密性に関しては作り上げたハズのワイリーをして舌を巻く程。

組み込んだプログラムが作用していることは、おおよそ間違いないだろうと確信できる程度には。

 

電脳世界最高峰。

少なくとも、忍びとしては。

そう口にしても過言ではない。

ワイリーに確信出来る代物であった。

 

しかし些か、ワイリーには解せないことがあった。

ワイリーの手にしている、他二つの遺物。

其方とは違い、データをプログラム化することが出来た。

まるで安定していない、二つと違って。

 

それにわざわざマグネメタルを身から離して置いた。

にも拘わらず、夢での接触もされていない。

それだけが些か、解せずにいた。

 

「最高峰、ですか」

「忍びとしてはな」

「忍びとしては?」

 

僅かながら。

不満の色を見せた老爺を皮肉気に嗤う。

挑発的な。

そう捉えられても何ら問題ない。

表情で分かる仕草をしながら、ワイリーは懐から無造作にPETを取り出した。

 

「忍びの力だけでは山を崩せん。試してみるか?」

「――――シャドーマン」

『御意』

「ストーンマン。少し働け」

『……ゴゴゴ』

 

果たして。

決戦。

その決着までに要した時間は一時間を越した。

しかしながら突き立てた刃の数々は巌に阻まれ。

切り崩せたのは遂に、その半分にも満たなかった。

 

そして。

数日。

時間が過ぎ。

 

「……………………」

「おじさま、どうしたの?」

「……ふんっ。いやなに、最初に言ったぐらいは居ったと思うてな」

「まあ……結局ナビ作りとか、あと……あの手裏剣? その調査とかでそうだったわね」

「だがもう済んだことじゃ」

 

面倒臭そうに。

数ヵ月近く暮らしていた屋敷を横目に、荷物を放り込む。

キャンピングカー。

時折点検自体はしていたので稼働に問題はないが、念のため運転席に座り、キーを回した。

 

順調なエンジン音に暫く耳を傾け、小さく頷く。

問題はなさそうだ。

と。

 

「ワイリー殿」

「ああ? なんじゃ、見送りか?」

「他もありますが……まずはお礼を」

「お礼?」

「シャドーマンを作って下さり真に、ありがとうございました」

 

鼻を鳴らしながら降りたすぐ脇。

音もなく。

何時からだろう、立っていた老爺。

山中にてワイリーが初めて見えた時と変わらぬ様子で。

しかし、深々と頭を下げた。

 

「アレで問題あるまいな?」

「無論――しかし」

「あ?」

「――あの情報は、どのように構築されたのやら……それだけが結局分からず仕舞いでしたな」

「ふん! ……アレはワシ……と、あともう一人。いや……三…………五はいかないぐらいしかマトモに構築は出来んじゃろうな。少なくとも、すぐには、な」

「もう四人、と?」

「言うつもりはない」

 

僅かに訝しむ気配を覗かせる姿に、眉間に皺を寄せた。

わざとらしい。

そのような感想を、ワイリーは抱いた。

 

単純な話。

自身に匹敵する者は一人しか居ない。

候補が居るとすれば子供ぐらいか。

そのような自負があった。

 

だけでは、ない。

もっと単純な話だ。

何で構築されたかも分からぬ、十字の手裏剣。

近似としては、電波に当たるだろうソレ。

 

情報を分析してネットナビに反映させること等、出来る者は限られる。

それがワイリーの見解であった。

余程執念深く、それこそ更に年単位の年月を手裏剣の影響を受けながら調査と解析に費やすか。

 

ネットナビやプログラム。

ソレに対して、常人の思いも寄らぬ領域。

深奥まで知り得ているか。

 

あるいは。

ココロ・ネットワークやパルストランスミッション。

そういった代物に携わり、様々な電波や生物の精神に触れたことのあるような人物でもなければ。

 

当然、ワイリーは後者であった。

以前よりも忍者集団が進めていた調査結果から、意味ある情報を抽出。

さながら、『虎の秘巻』とでも言うべき代物からデータを創り上げ、組み込んだ。

それがシャドーマン。

完全自立型ネットナビであり、ワイリーをして未知の部分があると言わざるを得ない存在であった。

 

無論、その『虎の秘巻』。

ワイリーはキチンと懐に納めている。

「利用しても構わぬ」と言われているのだから当然のこと。

正当なる報酬でしかない。

まあ、あくまでも、気が向いた時にもその未知を解き明かしてみようと思う程度の代物でしかないが。

 

「――それで?」

「はい?」

「惚けるな。他は?」

 

黙りこくっていた老爺に、鋭い視線を向け。

吐き捨てるように問う。

食えぬ爺。

平身低頭のように見せ掛けてはいるが、それだけの人物ではない。

仮にも、現代まで生き延びている忍び集団の長であるのだから。

 

数月で仲良くなったのか。

離れた場所で数人の同い年位の子だろう、何やら話し込んでいるゆりこの姿に視線を戻し。

沈黙する。

破られるまでは、僅か。

 

「……一つ、お願いが」

「イヤじゃ」

「一人、勉強させてやって頂きたい」

「イヤじゃ」

「それ以外は雑用にでも使って頂いて構いません故」

「イヤじゃ」

 

ヒラヒラと。

手を振りながらワイリーはその場を離れる。

とは言っても、数十歩と行かず。

 

「ゆりこ。行くぞ」

「あ、はい――じゃあね、みんな」

「「「ばいばーい!」」」

 

それだけ声を掛け、歩みを戻す。

後ろで別れの挨拶を手短に交わし、駆け寄って来たゆりこを引き連れて。

キャンピングカーへと、

 

「…………………おい」

「あ、先生」

「…………」

 

それほど大きくない荷物を纏め、キャンピングカーの脇に立つ若人。

老爺と共に日頃から動いていたその男。

半目で眺めていた最中、ゆりこから漏れた言葉に思わず顔を向け。

戻してみれば、頭を下げた姿がワイリーの目に入った。

 

「……先生?」

「色々と忍術……と言うより体術? とか教えて貰ってたの。時間がある時に、だけど」

「はい。中々、筋が良く――体捌きはまだですが」

「おじさま、籠りっきりだったでしょ? 暇な間に役に立てるようになるなら、って色々と」

「まだまだ教えられることはあります故、よろしければご同行させて頂ければ」

 

そのように。

頭を下げる若人からワイリーの視線が横へと動く。

変わらぬ位置に佇んでいる、老爺へと。

 

その姿がゆっくりと近付き。

やがてワイリーとの僅かな距離。

眼前。

誰にも聞こえぬだろう声音で、唇を動かすことなく呟いた。

 

「――将を射んと欲すれば先ず馬を射よ」

 

傍から見れば。

柔らかな笑みを浮かべているだけにしか見えない。

事実。

ゆりこは顔同士がぶつかりそうな程に近い二人の様子に首を傾げていた。

音声すらも。

 

睨み合いですらない。

ただ、視線と視線。

思惑の絡み合い。

先に解いたのはワイリーであった。

 

「…………教育と雑用は出来るんじゃろうな?」

「無論です」

 

唇を動かし、老爺は深く微笑んだ。

 

「ならば良し。ただ、役に立たんと判断すれば帰って貰うからな――行くぞ」

「ありがとうございます」

「はーい」

 

深々と一礼する若人も。

元気よく乗り込むゆりこも。

その様子を微笑みながら見送る老爺も。

何時からか並ぶように立っていた人々も。

 

一切合切を気にしていないとでも言うように。

まるで周囲へと目を向けず。

ただ前を向いて。

ハンドルを握り締めたワイリーがただ、キーを回す。

 

エンジンが唸りを上げ。

踏み込んだアクセルがタイヤを回す。

手を振るゆりこと、振る人々を引き離すように。

 

「…………そう言えば」

「何でしょうか?」

 

ふと。

思い出したような口調で。

助手席に座った若人へと声を掛ける。

 

「お前、運転は出来るか?」

「もちろんです」

「今後はして貰うようにしよう。今日の所は……まあ、勘を戻すためにワシがするが」

「分かりました」

「ふんっ」

 

大して表情を動かさぬ若人の様子をミラー越しにでも見ていたのだろう。

面白くなさそうに鼻を鳴らし。

やがて、ため息を吐いた。

 

「……先ほど言ったことに嘘はない。それだけは覚えておけ」

「分かりました」

「長い付き合いになるかは知らぬが、精々頼んでやる」

 

ただ、黙礼をする若人へ。

 

「――ミヤビ」

 

微かな労わりのためか。

あるいは、警告にか。

そう、名を呼んだ。

 

 

 







「よろしかったのでおさるか?」

誰かの囁き。
あるいは、風の声か。
空耳か。
不意に広がったその言葉に、老爺は足を止めた。

誰も動かない。
身動ぎの一つも、ない。
にも拘わらず言葉は続く。

「ワイリー。彼に、我等の秘宝を見せた上で逃がす等」

木の葉の擦れるような、声。
風の囁き。
肌を撫ぜるようなソレ等。
しかし、老爺は気に止める様子もなく、足を進めた。

「さて、あの領域に我等が辿り着けるまで、果たしてどれ程を要したか?」

返事は、ない。
ただ、門を抜け、屋敷へと戻るその背。
追い掛ける人影。
それ等へと、視線もなく言葉を続ける。

「――対価よ。情報と、技術。その対価が命」
「……何故シャドーマンをミヤビに渡したでおさる?」
「我等にアレは解析出来ぬからだ」

得心。
とまではいかずとも。
一定の納得は覗かせながら、なおも言葉は続く。
ただ、冷静に言葉が返される。

玄関口で下駄を脱ぎ。
何も鳴かぬ廊下を歩む。
誰一人、音を立てることもなく。

無言。
無音。
静寂。
静謐。

音無き歩み。
その末。
幾人かの集団はある部屋の前で止まった。

数瞬の、間。
開き、中へと入る。
屋敷。
その外観とは相反する、研究室のように様々な機械の入り混じった部屋。
中央に浮かぶは、十字手裏剣。

「――――――我等が奥儀。心得。神髄。秘奥。虎の巻――」

様々な機材を表面に取り付けられたソレに。
一切の躊躇もなく、老爺はその表面を撫ぜる。
何処か、恍惚とした表情で。
あるいは故郷を思い、懐かしむように。

「意味ある形にして下さったのは、間違いなくワイリー博士の功績である」
「知られ、持ち帰られた」
「だが無作為に広めるような方でもない。それはよく分かっているだろう」

その言葉には、沈黙が返る。
ワイリー。
彼により、受け継がれて来た秘宝の一部は確かに暴かれた。
しかし、だ。

であるからして、どうなる。
この場に揃っている者、のみならず。
ワイリーを調べた者は何れも知っている。
二ホンにもアメロッパにも、酷さにこそ差異はあれど裏切られたようなモノなのだ。
元より大してあるとは思えないが、世に還元するとは思えない。

精々、自身か身内程度で使われる程度であろう。
なれば、良し。
期間で言えば、五十年と経たず途絶えよう。
あのようなザマのワイリーが、自身の技術や成果を継がせようと言う気概を起こすとは、とてもとても。

「我等がすべきは、ミヤビの帰参をただ待つこと――ではない」
「………………」
「あの御仁が見せた成果を逆算し、作り上げることよ」

ミヤビにシャドーマンを付かせたのは他でもない。
現状、最も諜報能力に長けたネットナビ。
それがシャドーマンであることが、一つ。

もう一つ。
それは屈辱的ながら。
此処、忍びの集まりであるこの屋敷。
そこであっても、シャドーマンを調べ尽くした所でそのプロテクトを破ることは出来ない。
そう、判断がされたからだ。

分からぬモノを調べても時間の無駄。
取っ掛かりもない。
先祖代々において調査が進められてなお、忍びとしての記憶が残されている。
その程度しか分かっていない代物と同じように。
やっと、最新の機材を用いて現象としての理解が得られた程度でしかないこの秘宝のように。

であれば。
腐らせるよりも、ワイリーと言う時代の最先端を独走する技術者。
その傍らに一時でも居らせる方が余程有益である。
代々、分からぬモノを見てきたが故にその程度の思慮は、働かせることが出来た。
だが何よりも、

「…………そう、作り上げねばならぬ」

屈辱があった。
シャドーマン。
その性能。
その動作。
其処には紛れもなく、忍びの技の粋が込められていた。

そう、見て分かった。
そう納得出来た。
理解が出来た。

ストーンマンという、ワイリーに付き従うネットナビもまた。
点滴穿石。
忍びの技を以てすれば、此れ、此の様に。

なると思われた。
だが、負けた。
破れた。
ストーンマンという、ただ一体のネットナビに。

忍びの技は、傷の一筋しか付けれぬ外殻に阻まれ。
時折に解かれ、通った刀の傷も何時しか塞がれ。
ただただ災害のように降り注ぐ岩が何時しか。
床下より生えた頭、口から放たれた光線が。
長い時間を掛けてシャドーマンを詰めた。

儘ならぬ。
その光景を。
見ているしか。

「――――授けなければならぬ。そう」

浮かび、仄暗い輝きを浮かべる手裏剣へと伸ばしていた手を戻し。
老爺は振り返る。
並ぶ、同じような影へと。
引き戻した手を握り締めながら。

ただ一体のネットナビに苦戦を強いられ、破れた。
であれば。
ワイリーの有する他のネットナビをも含めれば、勝算はない。
命のみをこそ得られようが、ソレに価値はない。
勝ちではない。
少なくとも、現状では。

忍びの技。
其れを阻害せぬような軽さ。
しかしながらも一撃を以て深き傷を与える。
その様な代物を。

虎の巻。
秘巻。
秘奥。
そう、称すべき技を。
そう、称すべき業を。

シャドーマンが。
ミヤビが戻って来るまでに作り出す事こそが、残った我等の使命。
役割。
急務。
情報を抽出する様は見ていたのだ。

出来ないハズがない。
否、やらなければならぬ。
出来ねばならぬ。
何故ならば、

「我等が、我等忍びが破れる等……滅ぼされる等……在ってはならぬ――――間違い、ナノダ……!」

赤い雫を。
点々と滴り落としながら。
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