7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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恋恋高校、あかつき等いくつか焦点を当てて進みます。
今話、次話はあかつきになる予定です。
前作同様ゆっくり投稿になると思いますのでご了承ください。


再起・あかつき大学附属
Game1 挑戦者・あかつき大学附属高校


 公式戦初参加校が、全国に名を連ねる強豪・名門を打ち破り甲子園初優勝の快挙を達成し、伝説となったあの夏の甲子園大会終演から約9ヶ月。

 チームを引っ張ってくれていた三年生が卒業し、新チームの新たな挑戦が始まろうとしていた――。

 

           * * *

 

 東東京・名門あかつき大附属高校。

 三年の主力が抜け、新チームで挑んだ最初の公式戦。秋季大会は関東大会で敗退、春の甲子園出場を逃した。

 そして、再起を図った春の関東大会はベスト4の成績を残すも、あかつき大附属高校野球部監督千石(せんごく)(ただし)の表情は優れなかった。サングラス越しに目を通しているスコアブックに記された試合内容、勝ちゲームのスコアはとても盤石とは程遠い内容。閉じたスコアブックをデスクに置き、背もたれに体を預けると深いため息をつく。

 新チームに特別大きな不満があるわけではない、戦力でいえば例年と同等――いや、この世代3本の指に入ると評される捕手がマスクを被ることを踏まえれば、総合力は例年よりも高い戦力。だが、エース猪狩(いかり)(まもる)を中心に三年間で三度の甲子園出場を成し遂げ、黄金世代とまで云われた去年と比べると投打共に見劣りしてしまうこともまた事実。

 

「やはり、この世代の課題は――」

 

 ――投手陣と中軸。

 あかつき大附属野球部専用室内練習場・ブルペン。

 夏予選決勝で敗れた直後の秋から新チームのエースナンバーを背負う日比野(ひびの)慎一郎(しんいちろう)は、新チームの主将に任命された猪狩(いかり)(すすむ)を相手に投げ込みを行っていた。

 

「ナイスボール!」

「まだまだ! この程度の制球力じゃとても勝ち上がれない。もう一球右打者の内角だ!」

 

 日比野の宣言通り、右打者の内角に球速140キロのストレートが決まる。

 

「いいコース! もう一球同じところいってみよう!」

「よし!」

 

 立ち上がった進は日比野に声をかけ、ボールを投げ返してキャッチャーミットを構える。構えたミットは、一球前よりもやや内角。

 

「⋯⋯次、対角へスライダー」

「了解!」

 

 日比野を含め、春大ベンチ入り選手全員の投球を受けた進は練習終了後、監督室のドアを叩いた。

 

「失礼します。監督」

 

 晴れない彼の表情から察した千石は、引き出しから取り出したファイルを手渡す。

 

「明日は予定を変更して、試合観戦に行くことにした」

「わかりました、回しておきます。失礼します」

 

 攻守共に進ひとりに負担がかかる今のままでは、夏予選での苦戦は必至。仮に甲子園出場が叶ったとしても、去年の春ベスト4以上の好成績を残すことは難しい。去年と比べ見劣りは否めない投手陣を進が上手くリードしてはいるが、本当の意味で計算出来る投手は日比野のみ。守備の負担を考えれば、進は打線の中軸から外して守備に重点を置かせたい。

 明日の試合観戦は、どこかで進に頼りがちになる他の部員に危機感を持って貰うことが最大の目的だった。

 

           * * *

 

 都営グラウンド。あかつき一軍選手の面々は内野スタンドに座り、試合開始を待つ。春大会セカンドのレギュラーとして出場した選手――四ツ谷(よつや)がボソッと呟いた。

 

「予選まであとひと月の時期に試合か。余裕があるのか、悪足掻きか――」

「前者だと思うよ」

 

 進は、スコアボードに視線を向ける。

 記されているのは去年甲子園で伝説を作った恋恋高校と、近年成長著しいスポーツの名門校アスレテース高校。

 

「よく見ておけ。恋恋高校は、我々が倒さねばならない相手だ。甲子園へ行くためにな」

 

「はい!」と声を揃えて千石に返事をしたが、試合開始前から真面目な態度で臨んでいるのは進のみ。他の部員はどこか冷ややかな目をしていた。

 無理もない。恋恋高校は夏予選のシード権を得たものの、次戦はあえなく惨敗。今日の対戦相手のアスレテース高校に至っては、地方のノーシード校。しかも、先発投手は女子部員。上位のシード権を得た自分たちとはそもそも格が違う⋯⋯自惚れとまではいかないが、無意識ながら格下と見てしまっている。それが、一番怖いことであると体験したことがないために。

 

「しかし、部員の半数が他の部活動との兼任という話だったが、どの選手も基礎的な運動能力は高いな。アスレテースも侮れん」

「完全にノーマークでした。戻り次第データを上げます」

「ああ、頼む」

 

 試合は既に中盤。両投手とも安打は許すも連打は許さない。

 

「セーフ!」

「ヨシ!」

 

 アスレテース高校はツーアウトから、陸上部と兼任する俊足カイル・モラレスが内野安打で出塁。すかさず二盗・三盗を決め、ツーアウトながらこの試合初めて三塁にランナーを置いた。

 

「ミンミン、頼んだよ」

 

 三塁ベース付近からカイルが声をかけたのは、ネクストバッターのミンミンこと――眠明判 (ミン・ミンバン)。卓球兼任の彼女だが、男子部員にも引けを取らない思い切りのいいバッティングが魅力。

 

「差し込んだ。投手の方が上か」

「いや、面白い打球だよ」

 

 威力のある外角のストレートに差し込まれはしたが、振り切った分思いのほか打球が鋭い。この春から背番号1を背負う二年生エース・片倉(かたくら)が声を張り上げる。

 

「ショート!」

「任せてください」

 

 バウンドに合わせて付いた左膝を軸に、打球の勢いに逆らわず一回転。すぐに立ち上がって足場を作り、余裕を持って一塁を刺した守備に、千石は目を見張る。

 

「(――上手い。あのショートは⋯⋯新入生か。総合力は前任には及ばないが、グラブ捌きが柔らかい。それにしてもあの投手、去年の夏から体格が一回り逞しくなった、速球もコンスタントに140キロ超を記録している)」

 

 三年引退後人数割れで秋大会を辞退した恋恋高校だが、その分全員が地道な基礎トレーニングを積み、経験の浅い新入生たちをしっかりフォローしている。

 

「相変わらず上手いな、アイツ」

六郷(ろくごう)、知っているのか?」

「あ、はい。シニアの後輩です。声はかけたんですけど、フラれました。名前は、十六夜(いざよい)(みつる)

「十六夜? まさか、あの"十六夜(いざよい)瑠菜(るな)"の弟か」

 

 甲子園優勝の立役者のひとり、十六夜瑠菜の弟。姉と同じく高い運動センスを持ち、ルックスも抜群で人気者だが。瑠菜には頭が上がらない。

 

「(⋯⋯実際、こういうことなのだろうな)」

 

 名門あかつきのブランド力は今も健在だが、甲子園をきっかけに直前で進路変更した選手も少なからずいた。

 満もそのひとり。自身を高めるため、敢えて逆境に身を起き。あかつき他複数の推薦、他県の強豪校・月光学院の特待の話を蹴り、姉・瑠菜が在籍していた恋恋高校へ進路に決めた。

 試合観戦を終え、両校の監督に挨拶をしてあかつき高校へ帰ってきた千石は、監督室でタブレット端末に送られて来た今日の練習試合のデータに目を通している。

 

「(試合は結局、恋恋が競り勝った。今日の試合内容からすれば、三年が抜け、チームとしても半年のブランクがあるにもしっかり地に足をつけて戦っていた。その上途中出場の選手たちの集中力も目を見張るものがあった。おそらく、部内の競争が激しい。我々以上に⋯⋯)」

 

 今年のあかつきはチームとしてのまとまりはあるが、良くも悪くもまとまった選手が多く、一人で戦況を打開し、チームを引っ張っていけるような尖った選手がいない。

 

「(今年はまだいい。だが、今年の結果次第で来年以降この一年がボディーブローのように響いてくるだろう。悪い流れは早急に絶ちきらなければならない。そのためにも――)」

 

 最低でも、今夏の甲子園出場。

 本大会ベスト8以上を目指すには、部内の意識改革に取り組む必要があると再確認した千石は、頭を悩ませた。予選まであとひと月。時間があまりにも短い。下手に動けば予選に影響が出かねない。

 不意に、ドアがノックされた。タブレットを起き、応対。訪ねてきたのは、神妙な面持ちをした進。

 

「監督、お願いがあります」

「何だ?」

 

 ひとつ息を吐き、真剣な眼差しで進は言った。

 

「1軍対2軍で紅白戦をお願いします」

「1、2軍で紅白戦だと?」

「はい。今のままではとても勝ち上がれません。2軍の捕手は、僕が務めます」

 

 ――勝てねぇよ。

 腕を組み、考え込む千石の頭に()()()()()()が過った。組んだ腕を解き、スケジュール表に目を落とす。

 

「⋯⋯わかった。三日後、1軍対2軍の紅白戦を行う。2軍監督には私から連絡を入れておく」

「ありがとうございます! 失礼します」

 

 進が監督室を出ていったのを見届け、窓際へ移動。

 

「まったく何を迷っているんだ、私は――」

 

 ほんの僅かな迷いでさえ集中力を欠落させることを去年の夏、身を持って痛感させられた。春大を制したことで若干緩んでいたチームの空気をもう一度締め直す。何故なら――。

 

「そう。今年の我々は――」

 

 ――挑戦者。

 あかつき大学附属高校野球部のリベンジが今、始まった。




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