7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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Game11

『カウント1-2、5球目――ファウル! 夢城選手、インサイドのスライダーをかろうじてカットしました。しかし、依然としてバッテリー有利のカウントが続きます!』

 

 キャッチャーは、球審から受け取った新しいボールを手で揉んで間を取る。

 

「(しぶとい⋯⋯外野の頭を越すパワーはなくても、コンタクト力はタチバナ1だな。けど、それ以上に問題なのは、鈴本だ)」

 

 ボールを投げ渡し、ストレートのサインを出して外角にミットを構える。一塁ランナーを警戒、視線で牽制し、モーションを起こす。

 

「(――アウトコースのストレート。橘さんの話し、この打席での感覚⋯⋯今の鈴本さんでしたら――)」

「ボール!」

 

『うーん! 際どいコースを見極めました! カウント2-2! 帝光バッテリー、速いボールを見せた後の勝負球は何を選ぶのでしょーか?』

 

 今の1球を見た帝光監督の表情がやや硬くなる。

 

「(今の見送り方、100パー流れると決めつけてやがったな。本来後半戦に組み立てに混ぜるシュートが思うように曲がらない上、序盤のシュート多投の影響で、本来なら糸を引くようなストレートが若干シュート回転して外に流れてる。かと言って、スライダーにばっか頼る訳にはいかねーぞ? 分かってるな)」

「(分かってます。鈴本は、指先の力加減でスライダーとストレートを投げ分けるタイプ。スライダー多投は、指先の感覚が微妙に狂う怖れがある。今のストレートが甘く入れば、いくら非力つっても打球方向次第で長打だ。それなりに足があるランナー、ツーアウト、バットに当たった瞬間スタートだ。ここは絶対に三振に取らなきゃいけねぇ)」

「(――と、考えていそうですね。同点、逆転できれば理想ですが⋯⋯もし、非力な私が鈴本さんのストレートを捉えられたなら、以降重要な場面でストレートを使いづらくなります)」

 

 ベンチからのサインを受け取り前を向いたキャッチャー千葉の動きに合わせ、和花は打席で構え直す。この場面、彼女の狙いはストレート一本。選択肢からシュートが消えた今、もう一つ選択肢をバッテリーから奪うため、是が非でもストレートを狙い打ちたい。

 

『一度首を振り、サインが決まりました。鈴本選手、素早いクイックモーションから7球目を投げました! 夢城選手、インコース膝元のスライダーを上手く掬った! 打球はライト線上⋯⋯わずかに切れました。抜けていれば長打コースの惜しい当たりでした!』

 

 プレートを外した鈴本はロジンを弾ませ、キャッチャーに目を向けた。

 

「(今ので分かっただろう。この打者は躱して打ち取れるほど簡単な相手じゃないよ)」

「(⋯⋯分かったよ。あのコースついて当てられるならもうあれしかねぇ)」

 

 セットポジションに戻り、サイン交換。ランナーをほぼ無視してゆったり足を上げ、勝負の一球を投じた。

 

「(高い、失投⋯⋯いえ、このボールは――)」

 

 高めに抜けたと思われた投球は、揺れながら向かって来るナックルボール。とにかく当てようと引きつけてバットを振るが、手元でスッと逃げたボールを捉えきれない。

 

「ファウル! ファウル!」

「クソ!」

 

 バットの先端が微かに掠り、捕球しきれずファウル。

 新しいボール受け取ると間髪を入れずセットに入った鈴本を見て、少しでも気を散らせようとファーストランナーは通常よりも一歩分リードを広げた。

 

「(俺のことは完全に無視かよ。つーことは、ナックル⋯⋯チームいちミート力のある夢城がまともに当てられなかった。チーム内じゃ速い方の俺でもワンヒットじゃホームに還れない、なら)」

 

 ランナーの意識がセカンドへ向いた刹那――千葉はミットを落とし、鈴本は素早くプレートを外した。バッテリーのサインプレー。意識の逆を突かれ、ヘッドスライディングで必死に帰塁。

 

『あっと、握り損ねたか? 鈴本選手投げられませんでした。ランナーは命拾いしました』

 

「(握り損ねた? そんなヤツじゃない。今も涼しい顔してる。つまり、得点圏に行かれるよりも夢城を次回の先頭にしたくないんだ。だったら⋯⋯!)」

 

『ああっと! これは大胆なリード! ベースから3メートルは離れています!』

 

 それでも、鈴本は揺るがない。

 今、彼が考えていることは和花を確実に打ち取ることだけ。ランナーがスタートを切ることもすべて織り込み済みで、同点は仕方ないと割り切っていた。

 

『スタートを切った! ナックルはワンバウンド、ランナーはひとつ進塁。フルカウントの勝負です!』

 

「(走ってくれた。これでファーストが空いた、無理して勝負する必要はない。コースを狙える)」

 

 しかし、鈴本の思惑は崩れる。崩したのは、他でもない捕手千葉。コースを突いた投球結果はフォアボール。しかし、大きくリードを取っていたセカンドランナーを捕手の牽制球で刺して、三つ目のアウトを取った。

 千葉は鈴本を待ち、二人は言葉を交わしながらベンチへ戻る。

 

「さすがに逆転のランナーはだせねぇよ」

「わかってるよ。ナイス牽制」

 

 そうは答えた鈴本だったが本音は、9回表は一番和花から始まる打順。この打席での粘り、コンタクト力を考慮すると歩かせてでも和花の打席を最終回へ持ち越したくはなかった。

 

「悪い、せっかくのチャンスで⋯⋯」

「ええ、不用意でした。ですが、正直なところ捉えることは難しかったと思います。私が考えていた以上に、鈴本さんは信用していないことがわかりました」

「信用? 何を?」

「後ほど話します。理解しているとは思いますが、守りのミスは致命傷になります」

「お、おう」

 

 双方の思惑はどうあれ、帝光は同点のピンチをしのぎ、聖タチバナは同点のチャンスを逃したことは事実。

 試合は8回裏帝光の攻撃、そして最終9回の攻防を残すのみ。

 

「ほっ!」

「くっ!」

 

『バッター、沈みながら逃げていくクレッセントムーンにタイミングが合いません! バッテリー有利のカウントで追い込みました!』

 

 なんとしても追加点を奪いたい帝光学院の攻撃は一番から始まる好打順も、和花のあとを受けてマウンドに上がったみずきの変幻自在の投球に翻弄されていた。彼女のボールを受ける聖も手応えを感じている。

 

「(よし。この試合のためだけに今まで築き上げてきたフォームを崩してまで、相手の両サイドをしつこく攻め続けた和花のピッチングが効いているな。ここは一気に攻めるぞ)」

「(当然じゃん! 絶対に三人で終わらせるっ!)」

 

『橘選手の勝負球――クレッセントムーン! 合わせただけのバッティング、平凡なファーストゴロ!』

 

 いいように打ち取られたバッターはネクストバッターへ情報を伝え、三番にも伝える。

 

「やっぱ速いのと遅いのと二種類あるぞ、あの変化球」

「で?」

「どっちもどっちだな。速い方が若干早く変化するぞ」

「オッケー」

 

 ネクストバッターズサークルに入った三番はバットを構えて、みずきの投球に合わせてタイミングをはかる。初球は対角線のクロスファイアから更に逃げるスライダーでファウルを打たせ、二球目は一転してインサイドを厳しく突く。外角のストレートで誘い、最後は膝元へ食い込みながら滑るクレッセントムーンを打たせた。キャッチャーファウルフライで、ツーアウト。

 ツーアウトランナー無しで迎えたクリーンナップ相手にも強気の投球を崩さない。

 

「痛ぇ⋯⋯」

 

 膝元のクレッセントムーンを打つも、ふくらはぎ付近への自打球。レガース越しに受けた衝撃を堪えながら一旦打席を外す。

 

「(相当引きつけたつもりだったけどまだ早いのか。今のは、遅い方の変化球か。このコースは打ってもほとんど長打にならねぇ割に見逃すとストライクを取られる。追い込まれたらカット⋯⋯ってワケにはいかない)」

「(そうだ。この投手は簡単には崩れない。チャンスは一度あるかどうかだ)」

 

 指差しで送られた監督の合図に頷き、打席に戻る。

 

『打席に戻りました。さあ、仕切り直しの一球――打った! 引っ張った痛烈なゴロファウル! 自打球の影響はなさそうです。バッテリー追い込みました!』

 

 みずきが登板してから明らかに変化した相手の戦術「追いかけず自身のバッティングに徹する」それは、過去に彼女たちを苦しめた戦術。

 

「(やっぱ、あおい先輩たちと同じ戦術(コト)してるわね)」

「(うむ。あの試合では恋恋高校の術中に嵌まって最後は力負けしたが、同じ轍は踏まないぞ)」

 

 構えたコースは三度同じコース。だが、要求した球種は別。

 サインに頷いたみずきは投球モーションを起こす、相手バッターに背中を向ける独特のモーション。

 

「(握りはストレート、スクリューはねぇ。外角ならスライダー、内角は例の変化球――前二球より変化が早い、コイツは速い方だ!)」

 

 上げた右足を引く。

 

「(――オープンステップ! 狙われたか!?)」

「(関係ないってのっ!)」

 

 みずきの左腕からインコース向かって真っ直ぐ放たれたボールは、途中からまるで三日月の様な軌道を描き。バッターの膝元へ食い込む変化に合わせ、バットを振り抜く。

 

「貰った⋯⋯の、ノビるッ!?」

 

『空振り! しかし、六道選手ボールを弾いてしまった! 振り逃げー! おーっとベンチに飛び込んだ! 思わぬカタチでランナーが出ました!』

 

 クレッセントムーンと同様に強力なスピンがかかった一球は、聖の捕球直前にイレギュラーバウンド。名手の彼女のミットを弾いたボールは、運悪く一塁側ベンチへ入ってしまった。ボールデッド、二死一塁。マウンドに内野陣が集まる。

 

「すまない、慎重にいきすぎた」

「あんたが捕れないなら仕方ないって、なんてたってアタシの"トゥインクルムーン"最強だしっ!」

「最強かどうかはさておき。どうする?」

 

 ミットで口元を隠し見詰める視線の先は、ネクストバッターは四番・鏡空也。

 

「勝負は避けましょう、と言いたいところですが」

「中途半端に外せば持っていかれるぞ」

「ええ、鏡さんは悪球打ちの名手です。勝負なら勝負、引くなら敬遠。ここははっきりさせましょう」

 

 集まった内野陣の意見を聞くことなく、みずきは和花の問いかけに間髪入れず答える。

 

「勝負! 決まってるでしょ?」

「理由は?」

「負けないしっ! なんてワガママ言うわけないじゃん。ここで引いたら避けられるでしょ」

「珍しくちゃんと考えていたんだな」

「失礼ね、あたしはいつだって大真面目よ。あかり、次打席回るから頼むわよ」

「はいっ!」

「あんたもね。さっきの引きずってミスしたら許さないから」

「ああ」

 

 走塁ミスしたショートに励ましと発破をかけ、二人はグラブタッチを交わした。三人はポジションへ戻り、残った三人で最終確認。

 

「では、私も戻ります」

「和花、なんかないわけ?」

「必要ありますか? 負けないのでしょう」

「おっけー」

 

 和花は戻り。背を向けた聖に、みずきは声をかける。

 

「頼むわよ、相棒」

「うむ。必ず勝つぞ」

 

 軽く弾ませたロジンバッグを置き、大きく息を吐く。

 青く澄んだ空にしばし見上げて、彼女は前を向いた。

 

『鏡選手が、バッターボックス立ちます! 聖タチバナバッテリーは、ゼロに抑えて最小得点差で迎えることが出来るか? それとも主砲が試合を決めるか? 注目の対決です!』

 

 8回裏一点差、エース対四番。試合の行方を左右する対戦が始まる。

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