7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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聖タチバナ編エピローグです。


Game13

 試合終了後、聖タチバナベンチは敗戦の余韻に浸る暇もなく慌ただしかった。キャプテンのみずきは、荷物をまとめながらナインたちに声をかける。

 

「落ち込んでる暇はないわよ、後ろ押してるから急いで帰り仕度! 試合の反省会は、学校ついてからするから!」

「あかり、着替えはあとだ。手分けして荷物を運ぶぞ」

「はいっ!」

茅野(かやの)さんは、先にバスへ行って編集作業を進めてください」

「わかりました。お先に失礼します」

 

 二年生控え捕手茅野(かやの)は、バッグを肩に担いで先にベンチを出ていき。彼から数分遅れて、みずきたちも球場を後にした。外周を歩いて駐車場へ向かっている途中、向かい側から帝光学院ナインの列。最後尾で監督と話していた二人の選手は列を抜けて、チームメイトたちを見送る。列を見送っていた選手のひとりが、みずきたちに気がついた。

 

和花(のどか)、あとよろしく」

「手短にお願いします。行きましょう」

 

 引き継いだ和花はナインたちを引き連れ、駐車場へ向かう。

 みずきと聖は歩いてくる帝光学院の選手の異変にすぐ気づき、先に声をかける。

 

「あんた、その腕――」

 

 みずきが声をかけた相手は、右腕を三角巾で吊った鈴本(すずもと)(ひじり)が問いかけた。

 

「右腕を痛めたのか?」

「たいしたことない。次戦に影響はないよ」

「アホか、精密検査の結果次第だろ。ったく⋯⋯」

 

 これでもかと大きなため息をついたのは、病院への付き添いを任された女房役の千葉(ちば)。彼は鈴本(すずもと)の隣に並び、姿勢を正す。

 

「副キャプテンの千葉です」

「キャプテンの(たちばな)よ。で、こっちは」

「副キャプテンの六道(ろくどう)だ」

(たちばな)さんの変化球マジ凄かったっす。オレ、狙ったのに一球も掠んなくて。今まで戦ったピッチャーの中で一番の変化球だった、マジで」

「まあっねぇ~! 私の"トゥインクルムーン"最強だし!」

「打たれただろ、四番に」

「うっ、あんたねぇ~⋯⋯」

 

 心を抉るような(ひじり)の鋭いツッコミに、みずきはジト目で抗議。

 

「いや、紙一重の勝負だったよ。試合全体を通してね」

「ホント。聖タチバナさん凄い粘り強くて、9回の四番の打席は正直持ってかれたって思いました」

「敬語じゃなくていいよー、同い年(タメ)じゃん」

鈴本(すずもと)、9回のあの打席のあの一球――投げ方変えたな」

「⋯⋯やっぱり、(キミ)の目は誤魔化せないか。その通りだよ。彼女の――夢城(ゆめしろ)さんの投球術を使わせてもらった」

「はあ? お前、先発投手のムービングボールのカラクリに気づいてたのかよ。なんで黙ってた」

 

「変化方向が読めればもっと点をとれたかもしれない」そんなニュアンス混じりに問い質され、若干バツが悪そうな苦笑いを浮かべた鈴本だったが、ひとつ息を吐いて理由を語る。

 

「まず誤解はしないでほしい、手加減は一切していない。伝えなかったのは、聖タチバナに悟られたくなかったから。(たちばな)さんの今までの試合のピッチングを見れば、接戦になることは最初から覚悟していたよ。だから、もしもの時を考えて最後の最後⋯⋯試合を左右する勝負所まで隠したんだ」

 

「あそこまでストレートがいかなくなったのは予想外だったけどね」と鈴本(すずもと)は自虐的に付け加えた。しかし、ストレートがシュート回転したからこそ、踏み出すステップを変えることで微妙に軌道をずらす投球術がより活きた。

 

和花(のどか)の模倣はある意味で窮余の一策だっとという訳か。追い詰めてはいたんだな」

「そういったでしょ。どうしても勝ちたかったんだ。やっぱり行ってみたいから、甲子園へ。去年甲子園で活躍していた二人が羨ましかった」

 

 帝光学院は能力に関わらず、学年ごとの特色に合ったチーム作りをする。そのため、公式戦に出られるのは二年の秋から、鈴本(すずもと)(かがみ)も例外ではなかった。その揺るがない育成方針は高校野球の先、プロ、独立リーグ、大学、社会人野球への道を見据えたもの。

 

「ハァ~、ドラフト一位候補がなにやってんのよ、プロになれば何度も行けるのに。そんなのことでケガとか。まったく、野球バカじゃん」

「はは、知ってる」

「あの。二人に訊きたいことあるんだけどいいか?」

 

 女房役の千葉(ちば)は、旧友三人の会話が途切れたところで話しを切り出した。

 それは、これから先についてのことだった。

 

           *  *  *

 

 学校に戻ってから行われた反省会の後、女子部員専用の更衣室で制服に着替えながら、和花(のどか)を加えて先ほどの件について話していた。

 

「二人は、進路決まってるの?」

「私は当初の予定通り、東京の国立大を目指すぞ。和花(のどか)は?」

「姉と同じ大学へ進学しようと考えています。お二人は、野球は?」

「⋯⋯ま、辞められないわよね」

「うむ、私も何らかの形で続けるつもりだ。みずきは、女子プロ野球のセレクション受けないのか?」

「そのつもりだったけどー、大学野球もいいかなって思ったり?」

 

 帝光学院の正捕手千葉(ちば)に問われたことは、和花(のどか)も含めて――東京六大学野球で一緒にプレーしよう。

 三人は場所を学校から馴染みの甘味処に移動して、改めて進路について会話。

 

「六大学野球ですか⋯⋯確か、六大学野球は性別不問でしたね」

「六大学は今まで何人もプロ野球に選手を送り込んでいる。全国からプロを目指して集まった有望な選手が日々しのぎを削っている訳だから当然、レベルは高いぞ」

「そうだけどさ。やっぱり、レベルの高いところの方が燃えるでしょ」

 

 みずきはそう言って、スプーンで掬ったパフェのプリンを口に運び。和花(のどか)は、紅茶のティーカップをソーサーに置き。(ひじり)は、きんつばを運びかけだった手を止めた。

 

「みずきの気持ちはわかる。可能なら私も、また三人で野球がしたいぞ。だが、こればかりは簡単な話しじゃない。それぞれの道があるからな」

「私の志望校の硬式野球部は関東4部。リーグが違えば一緒には出来ません」

「わかってるって。だから迷ってるんじゃん」

 

 テーブルに肘をつき、頬杖をついたみずきは不満足に視線を窓へ移した。空から降り注ぐ真夏の日差し、青空には真っ白な入道雲が空高く広がっていた。

 無言のまましばらくが経ち、和花(のどか)のスマホに着信があった。彼女はスマホを手に取り、確認。

 

「姉からです。姉さん」

『お疲れさま。みずきと(ひじり)も居るんでしょ?』

「はい。スピーカーにします」

 

 周囲の席に気を配りながらスピーカーに切り替えて、ボリュームを絞る。

 

「どうもでーす」

「ご無沙汰してます、優花(ゆうか)先輩」

『堅苦しい挨拶はなしにしましょう。試合は残念だったわね。いろいろ思うところもあるだろうけど、歩みは止めてはいけないわ』

「相変わらず厳しいわね⋯⋯。わかってますって、今、進路の話ししてましたし」

『そう。それは関心なことね。じゃあ、本格的な受験勉強は九月以降にしなさい』

「ん? 言ってること矛盾してませんかー?」

『これが理由よ』

 

 通話画面がテレビ電話変わった。画面は、別に置かれたタブレット端末の画面が映っていた。

 

「なにこれ? ビル⋯⋯ちがう、客船?」

「デッキに何かあるぞ。あれは⋯⋯まさか、野球場か?」

「置き直しますね」

 

 和花(のどか)は、スマホを壁に立て掛ける。

 映し出されているのは、ビルよりも巨大な超豪華客船QOF号。ホテルはもちろん、一番の特徴は船のデッキに完備された二種類の野球場。

 

『甲子園閉幕後にパワフルTV、INFINET共同主催"WWBF"が開催されることが正式に決まったわ。舞台は横浜に停泊中の超豪華客船"クィーン・オブ・フェスティバル号"』

「"WWBF"? 新しい格闘技団体か何かですか?」

『違う。"ウィメンズ・ワールド・ベースボール・フェスティバル"の略称。要するに、世代別女子野球の世界大会よ。甲子園予選がある高校野球以外の世代は既に、全国各地で予選が行われている。あなたたち三人は高校ではなく"女子日本代表"チームに選考されているわ』

 

 高校生以外は既に通達済みで、甲子園予選に参加している学校、女子硬式野球部所属の選手は予選大会優先で、予選大会敗退後に随時打診されている。

 

『プロ所属の早川(はやかわ)あおい、女子プロ所属の冴木(さえき)(はじめ)、アメリカ独立リーグの十六夜(いざよい)瑠菜(るな)、関東大学リーグ2部の太刀川(たちかわ)広巳(ひろみ)の4選手の参加は既に決まってる。今回は、私も選手として参加するわ』

「姉さんも出場するんですね」

「てか、マジオールスターじゃんっ!」

「私たちが選ばれるのなら、至皇理(しおり)たちも選ばれるだろう」

『当然佐渡(さわたり)姉妹も選考メンバーに入っているわ。辞退の申し出は甲子園終了二日後が期限。さっきはああ言ったけど無理強いはしないから、しっかり考えなさい。ま、今日のところはお疲れさま。ここは私が持つわ。和花(のどか)、いったん立替えておいて』

「わかりました」

「ゴチでーす」

 

 優花(ゆうか)との通話を終えた途端、みずきはテーブルに突っ伏した。

 

「なんか⋯⋯あれね、いろいろありすぎて疲れた~」

「落ち込むタイミングを完全に逃したぞ。優花(ゆうか)先輩の話し、二人はどうする?」

「聞きますか?」

「愚問だったな」

「ちょっと、結論はわたしの返事聞きてからにしなさいよー。まったく」

 

 苦言を言いながら突っ伏していた身体を起こす。

 

「よし。せっかく優花(ゆうか)先輩の奢りなんだし、一番高いケーキたーべよ」

「ふむ、景気づけにかケーキか」

「スベってますよ、(たちばな)さん」

「あんたたちねぇ~っ!」

 

 彼女たちの眼は、もう前を向いていた。

 そして、一日休養日を挟んだ放課後。先日の反省会で三年生の後を継いだ二年生がグラウンドを訪れると、既に身体を動かしている三つの人影があった。その中のひとり、サイドテールを風に靡かせながら、みずきが声を上げた。

 

「おっそーい! やる気あるの!」

「あ、あれ? なんで、先輩たちが? 引退したんじゃ⋯⋯」

「諸事情で来月まで練習に参加することになりました。これをどうぞ、姉に助言を仰いで作成した漆原(うるしばら)さん用のトレーニングメニューです」

「マジっすか! あざっす!」

 

 次期エースの漆原(うるしばら)は礼を伝えると、さっそく練習メニューを読む。(ひじり)は、新チームのキャプテンに任命した茅野(かやの)に今後のスケジュールを確認。

 

「先輩たち試合に出てくれますか?」

「機会を奪ってしまう。練習に参加するだけのつもりだ」

「⋯⋯そうですか。先輩たちの名前使えば他県の強豪校引っ張れると思ったんですけど」

「うちの人数では、ダブルヘッダーは大変だろう。人数合わせでなら参加するぞ」

「ありがとうございます!」

 

 みずきは手を叩き、ナインの注意を引く。

 

「はーい、ちゅーもーく。いい? 私たち練習には参加するけど、練習の指示は全部新キャプテンがするし、練習メニューにも口は出さないから。わかった?」

 

「はい!」としっかり揃った返事を聞いたみずきは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「よろしい。キャプテン、号令!」

「指示しないのではなかったのか?」

「細かいこと気にしないっ! ほら、キャプテン!」

「は、はいっ! じゃあ、各自ウォーミングアップのあとポジション別に分かれて――」

 

 厳しい暑さが続く夏空。

 強い日差しが照りつけるグラウンドに、大きな声が響く。

 彼女たちの――そして、聖タチバナの新たな挑戦が始まった。

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