7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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お待たせしました。
もう忘れられていたと思いますが、恋恋高校編です


恋恋高校編
Game14


 去年の夏の甲子園、初出場初優勝を果たした恋恋高校。秋は辞退、春は部員が足りず他校と合同チームとして出場、一年ぶりに単独での公式戦に挑む夏予選に向け、選手は各自課題に向き合っていた。

 甲子園出場を機に新設された野球部専用ブルペン。エースナンバーを背負う二年生片倉(かたくら)は、同じく二年生で正捕手新海(しんかい)を相手に軽めのピッチングを行っていた手を止めた。新海(しんかい)が、声をかける。

 

「どうしたの?」

「狙って空振りを奪える球種がほしい」

 

 先日のアスレテース高校との練習試合。相手チームは、ほぼ全選手が他部活との兼任選手だったにも関わらず、粗い面を補って余りある高い運動能力で、ピンチを背負う場面も少なからずあった。特に衝撃的だったのは陸上短距離界の雄、カイル・モラレス。低めのカーブで打ち取った打球を内野安打にされると、二盗、三盗を決められ。深い内野ファウルフライでタッチアップ、持ち前の瞬足でホームを奪われてしまった。

 

「あれは事故みたいなものだって。あんなの出来るヤツ日本中探しても――あー⋯⋯」

「な? 居ただろ」

 

 去年の夏の甲子園準決勝。一年生ながら名門校で先発投手を務め、打者としても中軸を座り、全打席ヒット、複数盗塁を決めた会津大附属壬生高校の沖田(おきた)。その高い身体能力は、カイルと同等レベル。そして彼が在籍している壬生校は、圧倒的な強さで今年も甲子園出場を決めることとなる。

 

「けど、実戦で使える球種を一から増やすのは⋯⋯」

「候補は絞ってある。フォーク、スライダー、チェンジアップ、ツーシーム――」

「いや、多過ぎ。とりあえず、夢城(ゆめしろ)さんに相談してみよう」

 

 二人は、ベンチでアスレテース戦で見つかった課題を元に各個人の練習メニューを考案中の夢城(ゆめしろ)優花(ゆうか)に意見を求める。

 

「止めなさい」

「秒で止められた!」

「球種を増やしたいという考えは理解できるわ。でも、あなたはまだその段階じゃない。これを見なさい」

 

 優花(ゆうか)片倉(かたくら)に見せたタブレットには、対アスレテース戦の投球データの詳細な記録が表示されている。

 

「秋から、平均球速だけではなく、平均回転数も伸びているわ。今は、ストレートを磨くことね」

「だってさ。やっぱり軸はストレートなんだしさ。ストレートの精度が向上すれば、今の変化球も活きる」

「んじゃあ、沖田(おきた)のまっすぐ目指しますか」

「次の試合は失点するまでまっすぐ一本で行こう」

「マジか」

「やるなら徹底的に、中途半端ならやらない方がいい、でしょ」

「だな。夢城(ゆめしろ)さん、カメラ1台借ります」

「ええ。これ持っていきなさい。私もあとから行くわ」

「どもっす」

 

 最新のビデオカメラを渡し、守備練習中のグラウンドへ目を戻す。

 

「(公式戦に出られなくてもモチベーションを落とさず意地してきた二年生の向上心の高さは本物ね。問題は、こっち)」

 

 ノック用バットを持った二年生の女子選手であり恋恋高校キャプテン香月(こうづき)が、ポジションに着いた守備陣に合図を送り、右手で軽く前方に放ったボールを打つ。

 

「いつも通りランダムで行くよ、はいっ! セカンド!」

「あっ!」

「よっ! ファースト!」

 

 セカンドのグラブの先を抜けていった打球をセカンドベースの後方で、ショートの十六夜(いざよい)(みるつ)がバックアップ。ファーストのポジションに着く二年生六条(ろくじょう)はショートバウンドの送球を上手く掬い上げた。

 

「ショート、ナイスバックアップ! セカンド、一歩目遅れたよ、打球怖がらないように!」

「は、はい! もう一球お願いします!」

 

 守備練習を見て「軟式出身者に内野は厳しいわ」と呟いた優花(ゆうか)は、新入生のデータに目を落とす。

 入部希望者21名、マネージャー志望が4人。17名中3名が仮入部期間の基礎体力作りで早々に脱落。残ったのは、投手3、内野5、外野3、捕手1、未経験2名の計14名。経験者12名のうち硬式野球出身は9名。女子選手は3名。春大会は、クジ運と都内屈指の投手に成長した片倉(かたくら)を中心とした投手力で勝ち上がったが、課題は明白。喫緊の課題は軟式上がり、未経験者の硬球に対する恐怖心克服と2番手捕手の育成。

 

「はい、全体練習終了! 基礎体力トレーニング!」

 

 全員一度ベンチへ下がり、用具を片付けて甲子園優勝後に新設された室内トレーニングルームへ移動し、サーキットトレーニングのちランニングを行う。

 

「それにしても⋯⋯加藤(かとう)先生が、夏のシード権に拘った理由がわかるわね」

 

 タブレットのメールボックスには、東京都内外を含め練習試合申し込みのメールが画面いっぱい表示されている。中には、全国出場経験もある古豪も。

 

「大学から? 白薔薇かしまし学園大学⋯⋯」

 

 白薔薇学園とのかしまし女子大が統合され、今年度から共学の白薔薇かしまし学園と名前を変えた。

 

「野球部代表者⋯⋯川星(かわほし)ほむら。ああ、ジャスミン学園の川星(かわほし)さんね」

 

 ほむらが在籍していた聖ジャスミン学園も部員の大半を占めていた三年生が抜け、互いに人数不足になっていたところを合同練習という形で補って秋、冬を乗り越え。春大会も合同チームで予選を戦い勝ち上がったが、ジャスミン学園は新入生を含めて部員9名には届かず。部員が揃った恋恋高校が夏のシード権を得ることに。

 

「白薔薇かしまし学園、4部リーグ所属。春季大会開幕4連勝中。なるほど、優勝候補が本格派の投手なのね。試合希望日はGWの最終日」

 

 スマホを立ち上げ、理香(りか)にメッセージを送る。返信はすぐに返って来た。「わかりました。こちらで手配します」と返信し、スマホを置く。

 

「GW合宿の準備、練習試合の選考、オーダーも決めないといけないわね」

 

 タブレットを手にし、改めてスケジュール調整を行う。

 そして5月に入り、新チーム初の合宿。合宿場は去年と同じ海近くの宿場。ジャスミン学園の野球部も参加する合同合宿。部員全員が女子選手のジャスミンにとって、東京屈指の投手成長した片倉(かたくら)のボールを打席で経験出来る絶好の機会。

 

「ストライクよ」

「うっし!」

 

 シート打撃の球審を務める優花(ゆうか)のコールを聞き、片倉(かたくら)は小さくガッツポーズ。アウトコース寄りのストレートに手が出ず見逃したジャスミンの女子選手は、思わず捕手新海(しんかい)に問いかけた。

 

「は、はや~い⋯⋯。片倉(かたくら)くん、また球速上がったんじゃない?」

「そんなに変わってと思うよ。今、回転軸意識して投げてるんだ。その影響かもね」

「回転軸⋯⋯そうなんだ。よしっ! もう一球ストレートお願いっ!」

「あいよ」

 

 練習風景を眺めながら両校の監督は、同じベンチで言葉を交わす。

 

「ジャスミンさんも9名揃ってよかったです。手強くなります、お互い手の内は知れていますし」

「そのことですが。彼女たちの意向もあり、今年度は女子野球で全国を目指すことにしました」

「そうですか。ご健闘をお祈りします」

「ありがとうございます。男子と、それも全国制覇を経験した恋恋さんと合同練習はうちの子たちには貴重な経験になりますよ」

 

 攻守交代。今度は、ジャスミン学園の投手がマウンドに上がった。打席に立つのは、新入生の中でも一番の実力者十六夜(いざよい)(みつる)

 

「――ここだ!」

「――あっ! ライトっ!」

 

 ピッチャーは右のサイドスロー、ワンボールからの二球目の外へ逃げいくスライダーを上手く捉えた。ややドライブがかかった打球がライトの前でワンバウンド。シングルヒットを放ち、バッター交代。

 

「中軸を打つ打撃じゃねーな」

「じゃあお手並み拝見。中軸の打撃ってやつを見せてよ」

 

 (みつる)と入れ替わりで彼の同期であり、遊撃手のポジションを争う神田(かんだ)がバッターボックスへ。競争心剥き出しの様子見て、優花(ゆうか)はジャスミンの捕手に声をかける。

 

「いいかしら」

「あ、はい。なんでしょーか?」

 

 話し終えるとほぼ同時に、神田(かんだ)が右打席に立つ。一年生ながら175㎝オーバーの身長に加え、構えも大きく見るからに大物打ち。予想外のところから出されたサインにやや戸惑いながらも頷いたピッチャーは、モーションを起こす。

 

「(――インコース!)」

 

 豪快に引っ張った打球は三塁線へのファウル。二球目も同じような打球が三塁線へ切れて二球で追い込まれた。しかし、神田(かんだ)には余裕があった。

 

「(さあ、この一球があなたにとっての勝負球よ)」

「(――はい!)」

 

 三球目のサイン、そして初球、二球目のサインを出したのも実は優花(ゆうか)。頷いて投げた勝負球は――チェンジアップを二球続けたあとのストレート。三球勝負はないと踏み、初球二球目より速いストレートに差し込まれた。セカンドへの平凡な内野フライ。

 

「くそ!」

「(甘いわね。十六夜(いざよい)の打席と投球練習をしっかり見ていれば球速差に気づけたはずよ。さて、問題は次ね)」

「よろしく」

「はーい」

 

 神田(かんだ)が打ち取られたあとの三人目は、二年生の藤堂(とうどう)。投手の軸が片倉(かたくら)なら打線の軸は、この藤堂(とうどう)。膝元へ食い込んでくる膝元のクロスファイアーを完璧に捉え、打球はライトのフェンスを越えた。

 

「(身体を開かずに前で捉えた。あのコースをあの角度に飛ばされたら仕方ないわ。チームとしてバッティングが課題だったけど、片倉(かたくら)と二人で打線を引っ張っていければ⋯⋯いえ、三人ね。彼もここのところ実力をつけている。気がかりなのは、三人とも左打者。ハマれば強力だけど、嵌まった時のことを考えれば右打者も絶対に必要になるわ)」

 

 今のところ候補は、共に右打者の(みつる)神田(かんだ)。同ポジションで競い合って伸びてくれることを期待しつつ、次の打者と対戦へ移行。

 そして迎えた、合宿最終日。

 練習試合の相手、白薔薇かしまし学園大学野球がグラウンドに姿を現した。部員の約半数が女子選手。監督同士の挨拶が済むと試合を申し込んで来たほむらと、恋恋野球部OG浪風(なみかぜ)芽衣香(めいか)が、恋恋高校ベンチへ挨拶にやって来た。

 

「先生、ご無沙汰してますっ」

「元気そうで何より。川星(かわほし)さんも、今日はよろしくね」

「こちらこそッス。こほんっ。試合を受けてくださりありがとうございますッス。今日は胸をお借りしますッス」

「こちらこそ。大学生と試合できる機会なんてそうそうないから勉強させてもらうわ」

 

 後輩と軽く言葉を交わし、二人は自軍ベンチへ戻っていった。試合開始20分前ベンチにナインたちを集め、スターティングメンバーの発表。

 

「アスレテース戦はお前だったんだ、今日はオレだろ」

「へぇ、順番とか言うんだ。ポジションは与えられるモノじゃなくて奪い取るモノだって姉さんは言ってたけどね」

「シスコン」

「静かに。発表するわ。セカンド――十六夜(いざよい)|」

「はい」

「次、ショート――」

 

 (みつる)の名がセカンドで呼ばれたことで、ショートは自分と確信した神田(かんだ)は得意げな表情で軽く拳を握った。が⋯⋯。

 

「ショート、藤堂(とうどう)

 

 しかし、呼ばれた名前は二年の藤堂(とうどう)

 夏予選に向け、熾烈なポジション争いが今、幕を開ける。

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