7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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挑戦・聖タチバナ学園
Game4 始動・聖タチバナ三人娘


 春――薄紅色の桜の花びらが爽やかな春風に吹かれ空を舞う。ひとつ学年が上がって、周囲の空気感がわずかに大人びて感じるようになった高校生活最後の年。

 聖タチバナ学園野球主将であり、エースナンバー1番を背負う――(たちばな)みずき。聖タチバナの頭脳、扇の要――六道(ろくどう)(ひじり)。昨年秋から投手挑戦を決意した、常に冷静沈着の投打二刀流――夢城(ゆめしろ)和花(のどか)

 聖タチバナ学園野球部を代表する三人の女子野球部員最後の挑戦が今、幕を開ける。

 

           * * *

 

 昨年夏の甲子園ベスト16、秋大会二回戦敗退から半年――再起を図った新チームは、エースみずきを中心に県大会まで勝ち上がるも関東大会までは進めず、夏予選のシード権を逃してしまった春大会。

 高校最後の甲子園夏予選まであと三ヶ月に迫った四月上旬。入学式から数日が経ち、聖タチバナ野球部女子専用更衣室で着替えながら、みずき、聖、和花の三選手は今日から練習に参加予定の一年生の名簿を手に話し合いをしている。

 

「入部希望者は計15名。内女子が3名。マネージャー志望が2名。軟球、硬球の違いはあれど選手希望13名全員が経験者ですね」

「てか、三人も女子入ってくるとか。超美少女ピッチャー"みずき"ちゃん様に憧れてってことよねっ!」

「和花、期待できそうな新入部員はいそうか?」

「そうですね。シニアで全国経験者が一名います。他の12名はまちまちですが、それなりの実績の方も何人かいます。一人、二人ものになれば御の字ですね」

「シニア出身の全国経験者か⋯⋯ポジションは?」

「ポジションは――」

「ちょっとアンタたち! 拾いなさいよ!」

 

 肩まで挙げた左手を後頭部、右手は腰に添えて妖艶な感じに身体をくねらせたポーズを取ってツッコミ待ちするも敢えなく撃沈。完全に無視されたみずきは声を大にして、二人へ苦情をもの申す。

 

「なんのために魅惑のポーズ決めたと思ってんのっ!」

「私たちに色目使っても意味ないぞ。和花も言ってやれ」

「橘さん。挙げるなら右腕の方がいいですよ、少なからず負担かかりますから」

「⋯⋯そういうマジなダメ出し求めてないから、まったく⋯⋯」

 

「ハァ⋯⋯」と大きなため息をついて仕切り直し、みずきも二人の会話に加わった。和花は、改めて名簿に記された経歴を読み上げる。

 

「右投げ右打ちポジションは、投手。公式戦では最速135キロを計測。アベレージは120キロ半ばから130キロ前後、平均球速128キロですね」

「MAX135キロで平均128ねぇ、使えんのかしら?」

 

 みずきの低めのテンション、新入部員に対する期待度が低い理由は、去年、聖タチバナ学園を甲子園へ導いた中心人物であり、和花の実の姉である――夢城(ゆめしろ)優花(ゆうか)の「中途半端に速い速球が一番危険」という考えが根底にある。

 宣言通り、みずき、優花。そして、佐菜(さな)あゆみの変則サウスポー三人の継投で、甲子園出場を掴み取った実績があるため。

 

「そこは六道さんに見極めていただきます」

「うむ、任せろ。あとは、打撃だな。長打不足は聖タチバナ(うち)の課題だ」

「ちょうどいいじゃん、全国経験者くんに投げてもらえば。どっちもテスト出来るし」

「それはよしましょう。受験で身体も鈍っているでしょうから」

「解ってるわよ、テストするのは仮入部期間が終わってから。何人残るかわかんないしね。さてと――」

 

 みずきはロッカーの扉を閉じ、カギを掛ける。

 二人も同じように仕度を整え終えた。

 

「じゃあ、行くわよー!」

 

 女子部員専用更衣室を出た三人は、既存の野球部員と新入生が待つグラウンドへと向かった。

 

           * * *

 

 新入生の仮入部期間が明日に迫り、和花は自宅の自室で今後の練習メニューを詰めていた。監督が素人の聖タチバナでは、昨年まで姉優花がほぼ一人で練習メニュー考え、各個人への個別メニューも含め作成していた。その優花は高校卒業後都内の大学に通いながら、去年の夏甲子園優勝の栄冠を手にした"恋恋高校"で「研修生兼サポートトレーナー」として学んでいる。

 優花はあまり気にしてはいないが、和花としては別の地域とはいえ同じ目標を⋯⋯聖地甲子園を目差すライバル同士。去年までのように気軽に相談するのは少々気が引けていた。

 

「去年のメニュー⋯⋯やっぱり、姉さんの観察力は群を抜いていますね」

 

 去年優花が個人的に使っていたメニューは練習内容だけではなく、部員全員々の欠点と長所が事細かに記されている。優花と同じことは自分には出来ない。そう考えた和花は、優花が残した昨年のメニューを参考にしつつ、自分なりに一番効率的と考えられる方法を取り入れ、新たなメニューを作成していく。

 

「あとは――はい」

 

 二時間弱の時間で全体メニューを作り終え、個人練習のメニューに取りかかろうとした時スマホが鳴った。発信者は、聖。聖は進行状況を訊ねる。

 

「基本計画は出来上がりました。あとは練習試合のスケジュール次第で対応します」

『予選までに何試合組めるかだな。今、みずきから連絡が来た。土日ひと試合ずつ取り付けたらしい』

「例の件は?」

『なにやら不穏な動きがあるのは掴んでいる。まあ、当初の予想通りになるだろう。準備はしているから問題ない』

「穏便に済むのならこしたことはありませんが、妨げになるようなら容赦しません。徹底的にやりましょう」

『みずきと同じことを言うんだな、和花も』

「六道さんは違うのですか?」

『そうだな。私も同じ想いだ。必ずもう一度甲子園へ行くぞ』

「もちろんです。では、続きがありますので」

「ああ、邪魔して済まなかった」

 

 通話を終えたスマホをバッグにしまったところを見計らい、みずきが聖に声をかける。

 

「和花、なんだって?」

「向こうがやる気なら徹底的に、だそうだ」

「さっすが~解ってるじゃん。んじゃあ、私たちもやるわよ」

「許可を貰った15分だけだぞ」

「月明かりで見えるじゃん」

「ダメだ。それこそ、いつ行動に移すか分からないからな。万全の状態で迎え打つぞ」

「はいはい、解ったわよ。じゃあ最初っからいくわよ、"クレッセントムーン"バージョン2(仮)!」

「うむ、来い!」

 

 照明と月明かりが照らすグラウンドのブルペンで、新たな武器を求めて二人はピッチング練習を行う。

 みずき、聖、和花。三人の他、様々な人たちの思惑が入り乱れる聖タチバナ学園の挑戦は今、始まったばかり。




一度全て見直して再構築したため時間がかかりましたが、次回はもう少し早く投稿出来ると思います。
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