7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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Game8

 聖タチバナ学園はピンチを招くも最少失点で初回を乗り切り、試合は二回の攻防へ。先頭バッターは四番漆原。初回の攻撃同様に少ない球数で追い込まれるもスイングは鈍らず、来るとわかっているナックルボールを叩いた。

 

『ファウル! 漆原選手なんとか食らいついています。依然バッテリー有利のカウントで追い込んでいます。もう一球続けるか、それとも組み立てを変えてくるでしょうか?』

 

 サインに一球首を振ったマウンド上の鈴本を見て、打席の漆原に力がこもる。

 

「(ナックルで決められなかった時は必ず組み立て直す、ナックルは続けない。高めならストレート、低めは外角へ逃げるスライダーが7割以上だ。ストレートに合わせて、低めは踏み込んで叩く!)」

 

『三しーん! 内角膝元へ食い込む切れ味抜群のシュートボールで空振りを奪いました!』

 

「くっ!」

 

 データの裏をかかれ三振を喫し悔しさを滲ませる漆原とは対照的に、鈴本は涼しげな顔で背を向けてロジンを軽く払っていた。その絵になる仕草にまたスタンドからは黄色い声援が飛び交う。ベンチのみずきは、ややに不満顔で悪態をつく。

 

「相変わらずクール気取ってるわね、愛嬌のひとつでも振りまきなさいっての」

「冷静なのは同感だ。漆原の狙いを見透かしたようにパターンを変えてきた。やはり簡単に攻略できそうにないぞ」

「ですが、続けるほかありません」

「わかってるわよ。さあ、どんどん振っていきなさい!」

 

 みずきの激を受け、ベンチの士気が上がる。だがしかし、鈴本は初回のピッチング同様高い精度の投球で付けいる隙を与えない。五番、六番を共に三振に切り三者連続、初回の咲道から四者連続で三振を奪う完璧な内容。

 

『鈴本選手、初回に引き続き素晴らしいピッチングを披露しています!』

 

 今までで一番の鈴本のデキに若干緩んだムードが漂う帝光学院ベンチの中で、唯一気を抜いていない鈴本に気づいた鏡が声をかける。

 

「どうしたんだい? 浮かない顔をして。絶好調じゃないか」

「絶好調か。もしそう見えるのなら、早めに追加点を奪ってくれると助かるよ」

 

 そう答えると鈴本は、この回まわってくる可能性のある打席の準備に取りかかった。そんな普段と異なる彼の態度を気にかけつつ、鏡は、試合に目を戻した。

 試合は二回裏。帝光学院は6番下位打線から始まる攻撃。

 

『夢城選手、二回のマウンドです。対するバッターは下位打線ながらもこの試合まで4割と高打率を残しています!』

 

「(打率4割――確かに高いが、このバッターは出塁率も4割だ。つまり――)」

「(基本は早打ちで、ボール球にも手を出すタイプですね)」

「(そういうことだ。こういう相手こそ和花のアレは効果的に作用するぞ)」

 

 聖から出されたサインに頷いた、和花の初球。

 

『初球打ち! 上手く捕らえましたが、これはややバットの先。予め後ろで守っていたサードが捌いて、ワンナウト!』

 

 幸先よく初球で回の先頭バッターを打ち取るも、次のバッターにはピッチャー和花の足下を抜けるセンター前ヒットを許してしまった。一死一塁で迎えるは8番、ネクストは守備起用されている8番打者よりも期待値のある鈴本が控える。

 

『おっと! バッター、バットを寝かせました。ここは、バントで確実にスコアリングポジションへ送る狙いようです』

 

 送りバントの構えのバッターを見て、和花は聖に視線を移す。

 

「(バント。多く見せるのは得策ではありませんね)」

「(うむ。ここは素直に送らせよう。ただし――)」

「(悟らせないようにですね)」

 

 構えたコースは、内角高めの際どいところ。和花もそこへ投げ込む。

 窮屈そうにしながらもラインギリギリまでオープンに構えたバッターは、バント封じのインハイのストレートをしっかり転がし、ランナーをスコアリングポジションへ送った。

 

『ものスゴい大歓声があがっています! 黄色い声援を背中に受けてバッターボックスへ向かうのは、9番・ラストバッター鈴本選手!』

 

「(周囲の期待こそ大きいが、鈴本は今大会ヒットを打っていない。過去のデータを見ても2割弱、特に140キロを超すボールにはまったくついていけてない)」

 

 鈴本の打撃期待値の低さを裏付けるように、セカンドランナーは一歩でも速くに次の塁を狙おうと大きなリード。

 速いボールにはついていけないが、緩いボールにはそこそこ対応出来る。みずきをはじめとしたタチバナ投手陣はなかなか相性が悪い相手とはいえ、上位とは雲泥の差。帝光ベンチとすれば、鈴本で切れても3回の攻撃は1番からの打順になるためどちらに転んでも構わない。それは、聖と和花も理解していた。

 

『インコース! バッテリー、厳しいところを突きます! 見送ってボール。続いて二球目は――空振り! ですが、ものスゴいスイング! 鈴本選手、積極的に振っていきます!』

 

 和花にボールを投げ返して腰を下ろした聖は、鈴本を見る。

 

「(⋯⋯めちゃくちゃなスイングだ。バットはボールの下を振っていた、変化球を狙っていたのか?)」

「(確認しましょう)」

 

 三球目。外角のチェンジアップ。

 タイミングと一緒にバットの芯を外すも、外からやや内へ入って来たチェンジアップを詰まりながら打ち返した打球が、セカンド寄りの二遊間へ飛んだ。

 

『――捕れません! セカンド咲道選手のグラブの先を抜けた! スタートを切っていたセカンドランナー、サードベースを蹴ってホームへ還って来ます! ホームイン! 鈴本選手のタイムリーヒットで帝光学院は一点追加、その差を二点と広げます!』

 

 聖はすぐさまタイムを要求し、和花のもとへ向かう。

 

「すみません、読みが外れました」

「いや、今のは私の配球ミスだ。和花のせいじゃない。ストレートに合ってなかった、あのままストレートで押し切るべきだった」

「責任の取り合いをしても埒があきませんね。気づかれた可能性はどう思いますか?」

「否定は出来ない。ただじっくり見られたわけでもないからな。早打ちの中で拾うのは難しいだろう」

「では、まだ行けますね」

 

 頷いた聖は、ベンチに座り戦況を見詰めているみずきへサインを送った。

 

「和花はまだ行けるみたいね、よし」

「橘先輩。咲道ですが、今からでも外野へ回した方がいいんじゃ」

 

 控え捕手の二年生茅野が、みずきへ進言。

 

「あんた、中学の時どこ守ってたの?」

「え、今と同じキャッチャーですけど」

「今すぐセカンドできる? できるならあかりの代わりにセカンドの守備付いて」

「それは――」

「不慣れな守備に付かせる方がかえって穴を拡げることになんのよ。ま、打球に戸惑ってるのは確かだけどね。あかり! 定位置より前で守りなさい! あんたの脚なら十分届くからっ!」

「で、伝令出さないで⋯⋯。注意されますよ」

「アタシ、監督じゃないしぃ~」

 

 監督はベンチを出られないが、選手には特段制限がないことをいいことにベンチを出て指示を送ったみずきはしたり顔で平然とそう言ってのけた。彼女の指示にうなづいた咲道は、今より一歩前へポジショニング変更。それを受け、ネクストバッターはやや憤る。

 

「前進守備? ざけやがって⋯⋯!」

「(ナイスだ、みずき。頭に血が上ってる相手ならやりやすい!)」

 

 はやるバッターを打ち気を逆手に取りボール球でカウントを稼ぎ、インハイで身体を引かせ、勝負球は対角。

 

『空振り三振! 最後は外角低めのチェンジアップ! 聖タチバナ学園この回も一点を失いましたが、最少失点で切り抜けました!』

 

 確実に得点を重ねてはいるが、なかなか攻めきれないことに、腕を組みどっしりと座っていた帝光学院の監督もやや渋い顔を覗かせる。

 

「クソ。捕らえたと思ったのに、何がズレたんだ?」

「普通にタイミングだろ。泳がされてたぞ」

「そりゃあ、まあ、ボール球だったし⋯⋯けど、そこまで崩されたつもりはねぇーぞ」

 

 三振に取られた1番バッターと彼にグラブと帽子を持って来た控え選手の会話を聞き、ヘルメットをなどをベンチから預かりに来た控え選手に預けて守備の準備を進めていた鈴本は手を止めた。

 

「どうかしたのか?」

「いや。なんでもない。ありがとう」

「そうか?」

 

 礼を述べた鈴本は、マウンドに上がってイニング間の投球練習を始める。

 

「(ズレた、か。僕と同じだ。捕らえたハズが予測に反して詰まった。もしかしたら――)」

 

 一球投げ終えた直後プレートを外して指先でロジンに触れると、聖タチバナベンチへ顔を向けた。

 ――彼女は、僕には出来ないことをしているのかもしれない。

 そう感じ、より一層警戒心を強めた鈴木は、聖タチバナ打線を寄せ付けい圧巻のピッチングを見せる。 

 

『空振り三振! 鈴本選手、三回裏の先頭バッターを三振に斬りました! これで初回の三番バッターから連続三振を5と延ばした! まさに快刀乱麻のピッチングを披露しています!』

 

 初回から続く鈴本の完璧なピッチングを、鏡はセンターから見詰めていた。

 

「(これほどのピッチングで⋯⋯何をあんなに気にしていたんだろう。焦り? いや、まさかそんなこと)」

 

『空振り! 外へ逃げるスライダー、ボール球に手が出てしまいました。二球目――ストレート。ボール! ここはしっかりと見ます。1-1平行カウント』

 

 聖タチバナ相手にも一切手を抜かない鈴本は、八番相手に三球外角を続けた。スライダー、ストレート、ストレート。三球のストレートはやや振り遅れのファウル。そして、勝負の四球目はパターンのナックル。

 

「任せて! ベースカバー」

「おう!」

 

 バットの先に当たって一塁方向へ転がった打球をマウンドを降りた鈴本が自ら処理して、ツーアウト。連続三振は5でストップ。続く九番は――。

 

『あっと、ハーフスイングが宣告されました! 空振り三振! 決め球のナックルをカットされた後は、外へ大きく逃げるシュートボール! ボール球に思わず手が出てしました。鈴本選手がこれで九つのアウトのうち六つを三振に穫り、三回パーフェクトピッチングです!』

 

 対策を講じて来たにも関わらず三回を完璧に封じられ、みずきは焦りと同時に徐々に苛立ちも募らせ出した。

 

「みずき、焦るのは解るが眉間に寄ったシワが戻らなくなるぞ」

「うっさい」

「問題ありません。みなさん自身の打撃は出来ています」

「分かってるけどさー」

「それより」

 

 和花は、ベンチ前で指示を受けている帝光ナインへ顔を向ける。

 

「おそらく、この回何かしら仕掛けて来ます」

「りょうかい。茅野、ブルペン行くわよ」

「はい!」

 

 みずきは茅野を連れ、ブルペンで本格的に肩を作り始め。和花と聖はマウンドで再度話し合い。

 

「ここからは見せ球以外にも使っていく、全球出し惜しみはなしでいくぞ」

「そのつもりです。それから――」

「ん? なんだ?」

 

 グラブで口を隠し、和花はこれから行おうとしていることの意図を伝えた。

 

「なるほど、わかった」

「お願いします」

 

 軽くグラブを合わせ、投球練習を開始。

 その様子を帝光学院の先頭打者、次打者の三番は注視する。

 

「ストレートは並み⋯⋯てか遅い。確かに打ちづらさはあるけど、思った以上に攻めきれてない」

「コントロールいいからな。インハイの直後のアウトロー、アウトローの後のインハイ、打ちづらい対角へ的確に投げ込んでくる。ただ、逆に言えば狙いやすい。監督の指示通り、球種じゃなくてコースで絞って狙え、だな」

「とにかくしっかり見る、そこからだ」

 

 足場をならし、この回先頭打者の二番バッターが左打席で構え。バッテリーのサイン交換が終わり、和花の初球――ストレートが外角へ決まって、ストライクを奪った。

 

「(振りにいった時は気づかなかったけど、若干シュートしてるな。それで芯を微妙に外れたから打球が上がらなかったのか。次は――)」

 

 内角低めのストレートが外れ、ボール。

 

「(今の、シュートしてたか? あそこまで突っ込まれると断定はできねーな。外、内と来たら次は――来た!)」

 

『空振り! 振っていきましたが、外角のチェンジアップにタイミングが合いません。聖タチバナバッテリー、三球で追い込みました!』

 

「(遅ぇ、このチェンジアップがスゲー厄介。引きつけたと思っても予測よりもっと来ない。追い込まれちまったもんはしゃーない。球速自体は遅いんだ、カットに徹して粘る)」

 

 内角のストレートをカット、外角のチェンジアップを見逃して平行カウントまで持っていった。

 

「(よし。バッターはカットしにきてるぞ、今なら十中八九引っかかる。次で決めるぞ)」

 

 サインに頷き、勝負の6球目――外角のストレート。

 ボールと判断したバッターは、途中でスイングを止めた。

 そして、聖の捕球からワンテンポ遅れて、球審がジャッジ。

 

『ストライク! 球審の手が挙がりました! 見逃し三振!』

 

 予想外の判定に虚を突かれ反射的に後ろを振り向くもグッと堪え、ネクストバッターに情報を伝達してベンチに戻るとすぐ、監督に呼ばれた。

 

「どうして止めた?」

「えっと、初球より外だったので。それに、初球はシュートしてました」

「シュートしてストライクを取られたコースより更に外でストライク、か。鈴本、外角は広いのか?」

「いいえ。特段広くはありません。ただ、僕も打席で違和感を覚えました」

「ふむ。ここまで打ち損じが多いとなるとナニカしらあるのは間違いないだろう。鏡、頼むぞ」

「はい!」

 

 背を向けたまま答えたネクストバッターの鏡は、和花のモーションに合わせてタイミングを計る。

 

『これも際どいコースへの投球! わずかに外れてボール。カウント・ワンボールツーストライク。夢城選手、初回二回と失点を許しはしましたが、上位打線を相手にも気圧されていません! 強気に勝負へ行くか、躱して行くのでしょうか!』

 

「(引きつけろ、もっと⋯⋯ボールか? いや、ここなら届く!)」

 

 外角のストレート。ボールの上っ面を叩いた打球は、マウンドの前大きく跳ね上がった。落ちて来るのに合わせてジャンプして捕球をするも間に合わず、内野安打で出塁を許してしまった。

 

「鏡とベンチに伝えてくれ」

「わかった」

 

 ベンチへ交代を要求した一塁コーチャーは塁に出たバッターから預かった言伝を鏡に伝えた後ベンチへ向かい、監督にも伝える。

 

「変化しなかった?」

「はい。シュート回転していたらしんですが、最後の一球はあまり曲がらなかったそうです」

「曲がらなかった分上っ面を叩いたって分けか。なるほど、使い分けてるならたいしたもんだな」

二番打者(アイツ)の脚なら三盗もいけなくはありませんが」

「さすがにリスクが高い。犠牲フライじゃ相手にひと息つかせてまうしな。ここは連打での得点が理想。鏡なら上手くやるさ。何せ鏡は――」

 

 ――悪球を打たせれば右に出る奴はいない。

 監督の期待通り、鏡は平行カウントから内角を強引に打ちに行く。

 

『叩いた! 内角高めややボール球気味のストレートを弾き返した! 打球はレフトポール際フェンスダイレクト!』

 

「ストップ! ストップ!」

「っと!」

 

 サードコーチャーは、サードベースを蹴ったランナーを制止。三塁ベースへ戻ったところで、上手く打球を処理したレフトの返球が中継へ返って来た。当たりが良すぎたため鏡も二塁へは進めず、一死ランナー三塁一塁。聖タチバナバッテリーはタイムを取り、マウンドで入念な話し合い。ファーストに留まった鏡は、先の打者と同じように一塁コーチャーへ印象を伝える。

 

「捲いてきた?」

「うん。シュート回転とは逆に逃げていったよ」

「それで、打球にドライブがかかったのか。他は?」

「そうだね、若干体勢が崩れたような気が⋯⋯どう?」

「いや、一塁側(ここ)から見る限りは特に。とにかく伝える」

「よろしく」

 

 防具を預けた鏡は、話し合いを終えた和花へ視線を向けた。

 

「(意図的か、偶然か⋯⋯偶然はなさそうかな。ん? サインだ)」

 

 監督から出されたサインは、盗塁。ゴロアウトを避け、あわよくばホームを突くダブルスチールを視野に入れた指示。三塁走者と共にヘルメットを触り、サインが伝わっていることを知らせる。

 

『プレー再開です。帝光学院は五番バッターが右打席に入ります。前の打席はサードゴロに倒れましたが、この打席はどうでしょうか。対する聖タチバナ学園は、夢城選手が続投。このピンチをしのぎ流れを引き寄せたいところでしょう!』

 

 初球――牽制。鏡は足からベースへ戻り、セーフ。

 改めての初球は、胸元を突くストレートが外れてボール。二球目も内角を厳しく突き、ツーボール。そして、三球目。

 

『ランナースタート! しかし、バッテリー大きく外した!』

 

 投げ終えた和花は一塁側へ一歩移動し、バッターはスイングでアシスト。

 

「セカン!」

「(――高い! よし、行ける!)」

 

 アシストが利いたのか、きっちり外したにも関わらず聖の送球が高めへ浮いたのを見て、サードランナーがスタートを切る。

 

「スライ! 回り込め!」

「えっ!? そんな――」

 

 コンマ数秒でも速くホームへ向かっていたサードランナーがバッターのかけ声で気づいた時には、既に聖にボールが返っていた。コリジョン・ルールにならないようホームベースへ滑り込んで来た足先にしっかり触れ、ミットを掲げる。

 

『タッチアウト! ホームスチール失敗! 夢城選手の見事な判断でホーム生還を阻止、追加点食い止めましたー!』

 

 帽子を脱いだ帝光学院の監督は、軽く頭を掻いた。

 

「(やられた。あのお嬢ちゃんたち、鏡の盗塁は折り込み済みで最初からサードをホームで殺すことを狙ってた)」

 

 和花は内角を厳しく突き、わざと仕掛けやすいカウントを作った上バッターのアシストを鈍らせた。そして聖は送球が逸れたと思わせ、投球後一塁側へ移動したが和花がジャンプして届く位置へ寸分の狂いもなく放った。

 

「(あの投手は本来は内野手。当然ジャンプ捕球からの送球は慣れてる訳だ。これは欲張った俺のミスだな)」

 

 六番は外のチェンジアップにタイミングが合わず三振。

 聖タチバナは、ピンチを招いた三回を無失点で切り抜けた。

 ベンチへ戻ってきた和花を、ブルペンから戻ってきたみずきが迎える。

 

「和花、ナイスピッチ!」

「ありがとうございます。次の回からお願いします」

「まっかせない、気合い充分準備万端よ!」

「その気合いが空回りしなければいいけどな」

「うっさいわねー。ほら、さっさと打席に準備しなさいよ」

 

 ビハインド、ノーヒットにも関わらずどこか明るい聖タチバナ学園ベンチとは対照的に、たたみ掛けるチャンスを逃し続けている帝光学院側の空気は重かった。

 

「オッケー! よく走ってる! けど飛ばしすぎるなよ。まだ序盤なんだから楽に行こう!」

 

 ボールを受け取った鈴本は帽子を被り直し、息を吐く。

 

「(楽にだって? 冗談じゃない――こんなにも怖さを感じる打線は、討総学園とやった時以来だ)」

 

 鈴本は一人、ゲームが始まった時からプレッシャーを感じていた。

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