7Game ~Next AGE~   作:ナナシの新人

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Game9 

「ほっ!」

「よし、ショート!」

「オーライ! ファースト!」

 

『打ち損じた! 見逃せばボール球、外角の変化球に強引に手を出し、打球はショートへの平凡なゴロ。ショート捌いて⋯⋯アウト、スリーアウト! 4回裏から登板した橘みずき選手4回、5回、6回裏の3イニングをランナーを許しながらも、無失点で抑えました!』

 

 同地区トップクラスの打線を抑え意気揚々とベンチへ戻っていくみずきとは対照的に、7回のマウンドへ鈴本は普段と変わらず冷静沈着クールな面持ちの中に若干の硬さが混ざっていたが。聖タチバナ学園のベンチは鈴本の発しているシグナルにはまだ気づいていない。それどころか、6回をパーフェクトに抑えられていることで「何かを変えるべきではないか」と、今の戦法に迷いが生じかけていた。

 そんな中この回先頭バッターの和花は、揺れるベンチには目もくれず、球審に一礼しバッターボックスに入った。

 

『7回表聖タチバナ学園の攻撃は、4回からサードの守備についている夢城選手。キャッチャーフライ、サードゴロとここまで抑えられています。対する鈴本選手は、初回からパーフェクトピッチングが続いています! どこまで伸ばせるか、それとも夢城選手が突破口を開くか、注目の対決です!』

 

「(迷っても仕方ありません。練習してきたこと以外はできないのですから)」

「(全然表情変わらねぇな、普通もっと焦るだろ。パーフェクトだぞ? やりづれぇな)」

 

 ポーカーフェイスを崩さない和花に対して、鈴本をリードする捕手――千葉(ちば)は慎重に外角を要求し、鈴本は首を振らずサインに頷く。

 和花への初球――外角のストレート。慎重にボールから入った。見逃して、ボールワン。二球目、バックドアから巻いて来るスライダー。

 

『押っつけた! しかしこれは、三塁線を切れていきます。ファウル!』

 

 ファウルを打たせてストライクを奪うも、バッテリーには若干の迷いが生じていた。ナックルを決め球に使うには、速いボールで追い込むことが定石。

 しかし、初球を見極められ、スライダーを想定外のいい当たりされたことで、次の一手が揺らぐ。通常であれば微かな迷いも生じない場面だが、少し時間を割き選択した内角のスライダーでファウルを誘い、そして狙い通りに追い込んだ。

 

『追い込んだ帝光バッテリー、当然決め球は――ナックルボール! ボールです、外角へ外れていきました。2-2平行カウント』

 

「(⋯⋯振りにいってたバット止めやがった、この女子の選球眼は本物だ。なら、これが使える)」

 

 サイン頷き、鈴本は投球モーションを起こす。

 カウント2-2からの五球目は――内角低め。

 

「(――ボール。いえ、この場面でボール球を投げるような方ではありませんね。高めはストレート、低めはスライダー、組み立て直す際のパターンを漆原さんの時は崩した。でしたら、ここは――シュート)」

 

 内角のボールゾーンからストライクゾーンへ食い込むフロントドアのシュートを狙い通り叩いた。

 

『打った! 打球は、セカンド後方ライトの⋯⋯セカンド、ジャンプ! 捕った! ファインプレー! 力投に応えるようにバックが盛り立てます! ワンナウトー!』

 

「あ、あっぶねぇ~⋯⋯」

「ふぅ」

 

 キャッチャーは胸をなで下ろし、鈴本は息を吐いた。

 狙い通りシュートを叩くも結果的にセカンドフライに打ち取られた和花は、ネクストバッターの聖と三番の咲道に耳打ちして、ベンチへ戻る。そしてすぐさま、みずきが声をかけた。

 

「惜しかったわねー。で、何話したわけ?」

「狙い球です」

「狙い球って。ナックルで決められなかった後の高めの真っ直ぐ、低めの変化球じゃないの?」

「はい。ですが、今まではただ漠然とそうしていました」

 

 春大以降の練習試合に偵察部隊を送り込み、鈴本の投球パターンからチャンスのある狙い球を割り出した。

 

「ただ、恋恋高校元キャプテンと、佐渡さんの助言についてはどっちつかずのままでした」

「ナックルにはこだわらない、振ればいい、だったわね」

「ええ。"振る"と"振らない"は両立できないと考えていました。そもそも両立する必要はなかったんです。どちらの戦法も、たどり着く答えは同じだったんです――」

 

 バッターボックスの聖は追い込まれてからのナックル、仕切り直しのスライダーをカット、次のストレートもかろうじてカットして、ファウルに逃げた。

 

「(しぶとい。こうも粘られたら面倒だ、次で決めるぞ⋯⋯って、真っ直ぐ系は続けたくないのか。まあ、さっき当てられたしなぁ。だったら、インスラで見逃し――スライダーもか?)」

 

 シュート、スライダー、出されたサインに二度首を振った鈴本は、三度目のサインでようやく頷いた。彼が頷いた勝負球は――ナックル。

 

『またもカット! 六道選手粘ります! 次が7球目』

 

 球数を要すことを嫌がるキャッチャーとは対照的に、鈴本には若干余裕が生まれていた。

 

「(タチバナは全員、どのコース、どの球種もフォームを崩さず振り切ってた。けど今の六道は、明らかにカットに来ている。これなら、怖さはない⋯⋯!)」

「(――緩い、ナックルだ!)」

 

 当てにいくもバットは空を切った。

 空振り三振⋯⋯と思われたが、捕球ミス、ボールを後ろへ逸らした。すぐさま立ち上がったキャッチャーは、バックネットを転々とするボールを追う。

 

「聖、振り逃げ! ダッシュっ!」

 

 みずきの声かけに反応して一塁へ走るも、送球の方が早く一塁へ到達。プレー成立ツーアウト。

 

「さすがに無理かー。けど――」

 

 項垂れたみずきは顔を上げて、小悪魔のような笑みを浮かべた。

 

「続けたわね、ナックルを!」

「はい。本当の意味で初めてパターンを変えてきました」

 

 この一球が、試合を動かす一球となる。

 みずきは打席へ向かう咲道を呼び止め、確認。

 

「あかり、どうするか解ってるわねっ?」

「はい!」

 

 はっきりした返事で応えた咲道はバットを指一本分短く持って、左打席に立った。前二打席とくらべて明らかにコンパクトになった彼女の構えを見たバッテリーは当然、力で抑えに行く。

 初球は、インコースのストレート。咲道は手を出さず、ストライク。続けたストレートでファウルを奪い、決め球はナックルボール。

 

「あったれ!」

 

 やや甘いゾーンから外へ逃げていったナックルに対し、思い切り踏み込み振り切った。

 

「あっ、くそー!」

「よし、打ち取った! ショート!」

 

 先っぽに当たったやや弱い打球が、ショート真正面へ飛ぶ。

 バットを投げ捨てた咲道は、一塁へ全力疾走。ショートは腰を落として捕球体勢で打球を待つ。

 

「マズい! 前に出て!」

「くっ! は、速い!?」

 

 鈴本の助言も虚しく、スピンが掛かった打球はショートのグラブの中でブレて、ボールを握り直すミスを誘発し、一塁への送球がワンテンポ遅れた。バッターランナーとの競争。ライト方向へやや逸れた送球に、ファーストが思い切り伸びる。捕球とベース到達はほぼ同時、一塁塁審は両腕を水平に伸ばす。

 

「セーフ! セーフ!」

「よしっ!」

 

 咲道はベースを駆け抜けた先で、ガッツポーズ。

 

『Eのランプが灯ります、記録はエラー。鈴本選手のパーフェクトは7回ツーアウトで途絶えましたが、依然としてノーヒットノーランは継続中。しかし聖タチバナとしては、このランナーを足がかりにしたいところです!』

 

 初めてランナーを許した場面で、帝光ベンチが動いた。伝令が告げられ、内野陣がマウンド上に集合。それに合わせて、ネクストバッターの漆原はベンチ前まで戻り、和花の話を聞く。

 

「咲道さんは走らせません。というより、難しいです」

「クイックはぇーっすもんね、あの人」

 

 マウンド上の鈴本にチラッと視線を向け、顔を戻す。

 

「気休めですが、プレッシャーはかけます。それから、球威が落ちることはあってもあがることはありえません。積極的に狙っていってください」

「ういっす」

 

 返事をした漆原は「よっしゃ!」と気合い十分で打席へ向かう。各々ポジションへ散り、軽くロジンを弾ませた鈴本がマウンドへ戻り、球審のコール。

 

『試合再開です。両チームとも入念に話し合っていましたが⋯⋯あーと! 一塁ランナーの咲道選手、バッテリーを挑発するように大きなリードをとります!』

 

 だが鈴本は、オーバーリード気味の咲道には目もくれず、バッター勝負。走者にタイミングを掴ませない素早いクイックモーションで初球を投じた。

 

『豪快なスイング! しかし捕らえきれません、ファウル!』

 

 アウトコースのストレートを引っ張ってゴロファウルにした漆原は、一度打席を外す。

 

「(146キロ⋯⋯けど――)」

 

 帽子を被り直した鈴本を見据える。

 

「(球威は前二打席に比べれば落ちてる⋯⋯たぶん。まあ、オレには喰らい付いていくしかないんだ。とにかく自分のスイングを貫く、腰の引けたスイングじゃ失投が失投じゃなくなるんだ!)」

 

 固めた決意通り、漆原は必死に喰らい付く。

 追い込まれてからのナックルもカットし、カウント1-2から仕切り直しの一球――。

 

「っ――! くっ!」

「(――甘い!?)」

「もらったーッ!」

 

 1打席目と同じ膝元をを狙ったシュートが、ボール一個分甘く入った。全てを狙いに行っていた漆原は当然、このチャンスボールを見逃したりはしない。一切の迷いもなく振り抜く。

 

『打った! 捕らえた打球は、レフト上空へ高々と舞い上がるっ! レフト全力で打球を追いかけます!』

 

 フェンス手前で振り向いたレフトは、ジャンプしながら左腕を伸ばす。伸ばしたグラブの先をかすめ、奥のフェンスに直撃。打球が転がる。

 

『フェンスダイレクト! センターバックアップ! ツーアウト、自動でスタートを切っていた咲道選手が今、ホームイン!  バッターランナーも二塁に到達。聖タチバナ学園、チーム初ヒットは反撃の狼煙を上げる主砲のタイムリーツーベースヒット!』

 

「く~っ、おしい! あと数センチ!」

 

 体力温存目的でイニング間の肩慣らしを早めに切り上げ、ベンチへ戻ってきたばかりのみずきとは逆に、和花は冷静に答えた。

 

「ですが、ひとつ"奪い"ました。橘さん、準備を進めてください」

「解ってるって。何イニングだっていってやるわよっ!」

「まあ、あと2イニングの間に追いつかなければ終わりなのだけれどな」

「水射すんじゃないわよ、もう一回ブルペンいくわよ」

「うむ。では和花、後を頼む」

 

 改めてブルペンへ向かう二人を見送り、グラウンドへ視線を戻す。ここでは伝令は使わず、帝光バッテリーは二人で入念に話し合っていた。

 

「あと二つ⋯⋯」

 

 ――間に合えばいいのですが。

 勝負の振り子が漸く振れ始めた。

 しかし、気づきの遅れ。それが不安、懸念材料であることは確かだった。

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