運命者達の軌跡   作:藤崎葵

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気が付けばもう9月。まだまだ暑い日々が続きそう。

相変わらずアキナ×ミコトで付き合ってる設定。妄想と空想と幻想がトランザムバーストを起こしてるので苦手な方、解釈違いを起こしそうな方は観覧注意。

「熟知している」という方はスタンドアップしてどうぞ〜


星空の下で

 

────よ

 

─────た────よ

 

────たえ────よ────

 

 

 

 

 

 

 

 

我の声に────応えよ────

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

頭の中に直接響くような声に、思わず振り返る1人の女性。

視線の先には沢山の生い茂る木々と澄んだ青空が映るばかりだ。

そんな彼女の突然の行動を不思議に思った少年は

 

「ナオ先輩? どうかしたんですか?」

 

女性────員弁ナオに問いかける。

すると少年の右隣にいる長い黒髪を靡かせた少女もナオの方に目を向けて

 

「何かあったんですか?」

 

そう尋ねてくる。

ナオは一瞬だけ眉を顰めるも、すぐに人好きのする笑みを浮かべながら

 

「んーん、なんでもない。風の音が人の声のように聞こえた気がしただけだよアキくん、ミコトちゃん」

 

声をかけてきた少年と少女─────明導アキナと西塔ミコトにそう返した。

返ってきた応えに2人は顔を見合わせた後

 

「それならいいんですけど……」

 

「もし体調が優れなかったりしたら言ってくださいね?」

 

少々心配そうな表情を浮かべてそう言うと、ナオは困ったように頬を指で掻いて

 

「だいじょーぶだって。それよりも、今日は待ちに待ったキャンプなんだから大いに楽しもう!」

 

そう言って目を向けた先には綺麗に生え揃っている広大な芝生サイト。

すぐ側には川があり、透き通った川水が緩やかに流れその中を魚が優雅に泳いでいる。

しっかりと整備された炊事場と大きめのテーブルに固定椅子。

キャンプ場の周りは木々に囲まれており、心地よい清風が枝を揺らして音を奏でていた。

ここはアキナ達が子供の時に参加したキャンプが行われた場所。

そして、彼と妹のヒカリにとって因縁の深い場所である。

このキャンプ場から少し離れた位置には古い遺跡が存在しており、かつて参加したキャンプにて彼らはその遺跡へ訪れ崩落事故に巻き込まれていた。

その頃からヒカリは身体が弱くなり入退院を繰り返すようになっていたのだが、原因は遺跡の中に眠っていたこの世ならざる存在『シヴィルト』が彼女に憑依して生命力を奪っていたのである。

現在は運命大戦を勝ち抜いたアキナの願いによって彼女の中にいた『シヴィルト』は消滅してヒカリは健康な身体を取り戻しており、また3年後の未来からやってきた彼女────名を改めて明星エリカの中に巣食っていたもう一体の『シヴィルト』が己の復活の為に開催した宿命決戦にてアキナとのファイトに敗北し、『シヴィルト』はその存在を消し去られ彼等の因縁に終止符が打たれている。

その因縁の場所に、彼らはキャンプをする為訪れている。

発端は3月末の春休み真っ只中。

その日はヒカリとミコト、そして宿命決戦を通して友達になった至高の宿命者カードの所有者である西園寺ユナの3人でお茶会を行っていた。

適当な喫茶店に入り他愛無い話に花を咲かせていたのだが、不意にかつてヒカリとミコトが参加したキャンプの話になり

 

『あのキャンプ、例の事故で最後まで参加出来なかったんだよね。私はいいんだけど、お兄ちゃんを巻き込んじゃったのがなぁ……』

 

そう呟いた。

例の遺跡にて起きた崩落事故の際、気を失ったヒカリは駆けつけたナオによって運び出され、その後病院へと搬送されている。

当然身内であるアキナも付き添いとして病院へ行かなければならなかった故、最後まで参加する事が出来なかった。

宿命決戦で互いに本音をぶつけ合った事でこの件に関する兄妹の蟠りは無くなってはいるのだが、やはり自分のせいで楽しんでいた行事を途中退場させてしまった事には申し訳なさが残っているようである。

なんとも言えない表情でグラスに注がれているアイスティーをストローで啜るヒカリに対し、ミコト達がどう言葉をかけるか迷っていると

 

『なら、また私たちでキャンプすればいいんじゃない?』

 

不意にそう言われて目を向けた先にはナオの姿。

いつの間にか現れていた彼女に当然ながらミコト達は驚き

 

『な、ナオさん!? いつからそこに?!』

 

『ついさっきだよ。今日はもうバイト終わったし、帰る前にお茶でもシバこうと思ってね。そしたらみんなの姿が見えたから来ちゃった☆』

 

問いかけに対してナオは笑いながらそう言うと空いているユナの隣に座ってメニュー表を手に取り、おしぼりを持ってきた店員にカプチーノとフルーツタルトを注文する。

オーダーを受け取った店員が下がったのを確認し、改めてミコトはナオに目を向けて

 

『で、ナオさん、さっきのはどういう意味ですか?』

 

『言葉通りだよ。ここにいる私達と、アキくん、呼続くん、藍川くんのみんなでキャンプをしようってね』

 

問いかけるとナオはそう返してくる。

 

『取りこぼしたり、やりきれなかった思い出は新たに楽しい思い出で塗り潰しちゃえばいいって事ですか?』

 

『そそ。私もアレ以来キャンプなんてやってないし、話聞いたらなんかワクワクしてきちゃって』

 

『それって自分がやりたいだけなのでは?』

 

言いながらいつの間にか運ばれてきていたカプチーノの注がれたカップを手に取って一口啜るナオに対し、ユナがそう言うと彼女は軽くウインクして返してくる。

どうやら当たりらしい。

ナオらしい発想にミコトが苦笑いを溢していると

 

『でも面白そう! ね、みーたん!』

 

ヒカリが目を輝かせながら食いつき隣に座るミコトに視線を送ってくる。

 

『まぁ、確かに面白そうなんだけど……キャンプって事は外泊ですよね?』

 

『当然』

 

『友達の家でお泊まり会とかならまだしも、流石に未成年ばかりで野外泊は難しいんじゃ?』

 

最もな疑問をミコトは口にした。

当然ながら彼女達は学生、ナオは大学生だがそれでもまだ二十歳に届いてない。

ただでさえ危険が伴う野外レジャーに未成年だけで、それも外泊となれば難しいだろう。

するとナオは不敵な笑みを浮かべながら

 

『ふっふっふっ。そういう時は知り合いの大人を巻き込────頼ればいいんだよ。日時も今のうちに決めちゃってさ』

 

スマートフォンを取り出して操作し、表示されている連絡先をミコト達に見せると彼女達は苦笑いを溢す。

表示されていたのは標の運命者カードの所有者である清蔵タイゾウだ。

確かに面倒見の良い彼ならば、あらかじめ日時を指定しておけば快く引率役を引き受ける為にオフを捥ぎ取ってくるだろう。

 

『というか、さっきの員弁さんの言い方だとユナも参加人員に数えられてませんか? ユナは皆さんが参加したキャンプには参加してないのに……』

 

『何言ってるの? ユナちゃんも私達の友達なんだから無問題だよ。それに、こういうのは人数が多い方が楽しいんだからさ』

 

『そうだよ! ユナちゃんも一緒にやろうよキャンプ!』

 

おずおずと訊ねてくるユナにナオが言うと、同意するようにヒカリも若干身を乗り出しながらそう言ってくる。

2人を見た後、ユナはミコトに視線を向けると彼女も笑顔で頷いた。

 

『な、なら、ユナも参加させて頂きます!』

 

言いながら敬礼してみせるユナ。

 

『オッケーオッケー! じゃぁ後は決行日だけど、準備もあるしみんなも予定があるだろうから近日ってわけにはいかないよね。特にミコトちゃんはお仕事もあるわけだし』

 

『ですね。スケジュールはマネージャーに相談すればなんとかなると思います。でも日時かぁ……GW(ゴールデンウィーク)は逆に混雑しそうですし……』

 

『だったら、GWから1週間ほど空けた土日はどうでしょう? それなら準備期間もそれなりにありますし、みーたんもスケジュール調整をお願いしやすいのでは?』

 

『ユナちゃんナイスアイデア!』

 

うんうん唸っているミコト達を見て、ユナがそう提案してくる。

生徒会に所属している故か、こういった行事関連のスケジュール管理に慣れているのだろう。

 

『なら私、今からマネージャーに仕事のスケジュール訊いてみるね』

 

『アキくん達とタイゾウさんには私の方から連絡してみるよ。言い出しっぺは私だからね』

 

そう言うとミコトはマネージャーに連絡を取るために一時退席し、ナオもスマートフォンを操作してアキナ達へとメッセージを送る。

数分後に全員から参加の連絡があり、マネージャーに連絡を取ったミコトも戻ってきて問題なしと笑顔で報告。

こうして思い出作りのキャンプをすることが決まり、今日という日を迎えたのである。

タイゾウが手配し、乗ってきたマイクロバスから各々の荷物とキャンプ道具、そして午前中に買い出しした食料や飲み物が入った大型クーラーボックスを運び出す。

全ての荷物を運び終え

 

「さ、点呼を取るぞー。横一列に並んでくれ」

 

タイゾウが号令をかけると皆横一列に並んでいく。

 

「まずは、員弁ナオさん」

 

「はい!」

 

まずはナオがニッカリ笑いながら返事

 

「藍川クオン君」

 

「はい」

 

次いで呼ばれたのは無限の宿命者カードの所有者である藍川クオンだ。

 

「呼続スオウ君」

 

「……ああ」

 

少し間をおいて返事をしたのは零の運命者カードの所有者の呼続スオウ。

 

「西園寺ユナさん」

 

「は、はい!」

 

「西塔ミコトさん」

 

「はい!」

 

若干緊張ぎみに返事をするユナ。

そして次に呼ばれたミコトも返事を返す。

 

「明導ヒカリさん」

 

「はーい!」

 

「明星エリカさん」

 

「……はい」

 

続けて呼ばれたヒカリが元気よく返事をしたのに対し、隣にいる彼女と瓜二つ、否、少し大人びた顔つきの少女────明星エリカは少し間をおいて控えめな返事を返す。

 

「明導アキナ君」

 

「はい!」

 

最後に呼ばれたアキナが返事をするとタイゾウは満足そうに頷いて

 

「よし、それじゃぁ最後に……黒崎キョウマ君!」

 

自分の後ろに控えていた眼鏡をかけた男性────秤の宿命者カードの所有者である黒崎キョウマに呼びかけた。

当の彼は呆れたようにため息を吐いた後

 

「同じ引率役の俺にまで点呼をとる必要はないだろう」

 

言いながらわずかに下がった眼鏡を指で上げ直す。

本来彼は参加予定ではなかったのだが、タイゾウからのゴリ押し────もとい強い要望で引率役として参加することになったのである。

ちなみに今回の為のオフを確立する為、彼らが本来よりも速いペースで仕事を片付けなければならなくなったのは言うまでもないだろう。

 

「そう言うなよキョウマ。せっかくのキャンプなんだ、しっかり楽しもうぜ?」

 

「……まぁ、『郷に入っては郷に従え』と言うからな。それなりに楽しむとしよう」

 

ニッ笑いながら言うタイゾウに、キョウマはそう返す。

なんだかんだと言いつつ彼も今回のキャンプを楽しむ気でいるようだ。

そんな彼らとは対照的に

 

「ていうか、私も参加して良かったの?」

 

エリカがそう口にする。

それを聞いたナオは

 

「当然でしょ! ね、ミコトちゃん?」

 

そう言ってミコトに目を向けると

 

「そうだよエリカちゃん。私、あの時言ったよね? 失くしたものも取りこぼしたものも一緒に経験して積み重ねようって」

 

笑いかけながら言ったその言葉は以前、エリカとファイトした後、なおも壁を作ろうとする彼女にミコトがかけた言葉だ。

それを聞いたエリカははにかんで

 

「みーたん……うん、ありがとう。私、目一杯楽しむね!」

 

そう返すとミコトとナオは満足そうに笑顔を見せる。

 

「さて、それじゃぁまずはみんなでテントを設置しよう。設置したら自由時間だ。身体を動かすも良し、自然を満喫するも良し。ただ、あまり遠くには行かないように。陽が沈む前になったら食事の支度をして夕飯。その後少し時間を空けてからメインとしてコレをやろうと思う」

 

改めてタイゾウがスケジュールの説明をしつつ、最後のあたりであるものを手に取ってアキナ達に見せた。

彼が見せたのは手持ち型の花火セット。

 

「花火ですか? 夏前なのにもう売ってるんですね?」

 

「取り扱いの早いところがあったんでね。色んな種類を購入しといたから楽しみしておいてくれ」

 

アキナの言葉にタイゾウはニッと笑ってそう言うと

 

「さぁ、テントの設置を始めようか!」

 

行動を促すと、皆はそれぞれ手分けしてテントの設置に取り掛かる。

1つのテントに2人、ないし3人で寝る予定なので男女合わせて4つのテントを一つずつ丁寧に設置していくアキナ達。

設置が終わったテントに各々の荷物を運び込み、それが終わると自由時間へと突入。

アキナとスオウ、クオンにユナ、ナオの5人は持ってきていたフリスビーを使い、誰が遠く飛ばせるかを競い合い始め、ミコトとヒカリ、そしてエリカは周辺を散策。

タイゾウは設置されている固定椅子に座って芝生サイトで年相応にはしゃぐアキナ達を眺め、キョウマはその近くで同様に固定椅子に座りいつの間にか炊事場で湯を沸かし、淹れた珈琲を飲みながら本を読み始めている。

皆が思い思いに過ごす中、散策に出たミコト達は近くの河原を歩いていた。

 

「んー。日差しが少し強いけど、風が冷たくて気持ちいいね」

 

「ええ。ホント、いい風」

 

ミコトの言葉にエリカが頷いた。

緩く吹き抜ける心地よい清風は彼女達の髪を軽く揺らし、肌を優しく撫でていく。

 

「みーたん見て見て! 川の水が太陽の光でキラキラしてるよ!」

 

清風を堪能しているミコトにヒカリが声をかけてくる。

呼ばれて視線を向けると視界に映るのは陽光を反射させている水面。

その中を泳ぐ淡水魚も陽光を反射し、より一層の煌めきを見せている。

緩やかな風に吹かれながら、煌めく水面を眺めていると

 

「そういえば、あのキャンプでもこうやってみーたんと川で泳いでる魚を眺めてたっけ」

 

不意にエリカがそう口にする。

明星エリカは3年後の未来からこの世界にやってきた明導ヒカリその人。

ヒカリと同一存在である彼女もまた、別の世界ではあるが子供の頃のキャンプを経験している。

懐かしむように言う彼女に

 

「言われてみれば、私ずっとみーたんと一緒にいた気がする」

 

同意するようにヒカリが応えた。

彼女達の言葉を聞き

 

「そうだったね。私もなんとなくだけど、ヒカリちゃんと一緒に行動してたの覚えて────────あ……」

 

そこまで言って、ミコトは何かを思い出したように目を見開いて言葉を詰まらせた。

その様子にヒカリとエリカは疑問符を浮かべ

 

「みーたん?」

 

「どうしたの?」

 

言葉を詰まらせ固まっているミコトに問いかけると

 

「う、ううん。なんでもないよ!」

 

彼女はハッとした表情をした後、苦笑いを溢しながら2人に返したかと思えば再び何かを考えるような仕草を取り始める…

その様子にヒカリとエリカがまたも疑問符を浮かべて顔を見合わせていると

 

「あ、いました。みーたん、ヒカリちゃん、エリカさん! そろそろ夕飯の準備に取り掛かる時間ですよー!」

 

彼女達を探しにきたユナが少し離れた場所から呼び掛けてきた。

言われてスマートフォンを取り出し時間を確認すると、すでに17時前を示している。

5月なので陽が沈むまでまだあるが、少しでも明るいうちに準備するに越したことはない。

 

「みーたん、ユナちゃん呼んでるし、そろそろ戻ろ?」

 

「そ、そうだね。行こっか」

 

未だ考える仕草を取っていたミコトにヒカリが声をかけると彼女は僅かに慌てた様子で返す。

ヒカリは疑問符を浮かべつつもテントを設置した芝生サイトに戻る為歩き出し、次いでエリカも歩き出す。

その後に続いてミコトも歩き出すが、その表情は何処か浮かない様子だ。

 

(思い出した……あのキャンプ……ヒカリちゃんがいなくなる前まで一緒に居たのは────私だ……)

 

歩きながら思考を巡らせるミコト。

あの日、彼女が件の遺跡に行ってしまう前、彼女とミコトは確かに一緒にいた。

今日と同じように、煌めく水面の中を優雅に泳ぐ魚を無邪気に眺め、その後突然茂みから現れた怪しい坊主の男と当時の彼女達には理解しきれない会話をした後、スタッフに呼ばれて集合場所へと向かったが、気付いた時にはすでにヒカリの姿は見当たらなくなっていた。

 

(あの時、私がもっと早く気付いてれば……ううん、手を引いて一緒に戻ってれば……あんな事にはならなかった……? 私も……ヒカリちゃんが長い間苦しむ原因の一つだった……?)

 

あの日、訪れた遺跡の内部でヒカリはシヴィルトに憑依され、それ以降アキナが運命大戦を勝ち抜き願いを叶えるまでの10年間、彼女は生命力を搾取され入退院を繰り返す事になり、またアキナも自分の所為で妹が苦しむ事になったと思い、自らを顧みず妹へ献身的に尽くすようになった。

 

『あの時自分が気付いてさえいれば』

 

巡る思考は彼女にどんどん暗い感情を募らせていく。

一度産まれたマイナスな考えは簡単に消えるものではない。

どんなに振り払おうとしても消えることのない疑念は彼女の表情に僅かな陰を落としていく。

しかし今日は楽しい思い出作りの為にと企画したキャンプである以上、自分が暗い顔をしているわけにはいかないと考えた彼女は自身の中に生まれた不安の種を悟らせない為、なんとか表情を作る事を決めると先を行くヒカリ達の後を追ってその歩を速めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んー♩ 美味しいぃ〜」

 

「ですねぇ〜。美味しいです〜、カロリーとか知らないですけど〜」

 

ステンレス製の長串に刺された、香ばしく焼かれた肉を頬張りながらヒカリとユナは表情を綻ばせる。

今回用意された夕食はバーベキュー。

いくつものステンレス製長串に交互に刺された肉と野菜がバーベキューコンロに敷き詰めた炭火でじっくりと焼かれ、食欲を唆る香ばしい匂いを漂わせている。

他にもアキナとナオ手製の即席野菜スープに飯盒で炊いたご飯で握ったおにぎりが振る舞われ、皆思い思いに食事を楽しんでいた。

 

「ただ焼いて塩胡椒してるだけなのに、なんで外で食べるとこんなに美味しく感じるんだろ? っていうかヒカリ、アンタ野菜もしっかり食べなさいよ。大きくなれないわよ?」

 

「むぅ。ちゃんと食べてるもん。それに私はまだ成長期なんだから」

 

「含みのある言い方ね? ケンカなら買うわよ?」

 

エリカに指摘されたヒカリは頬を膨らませつつエリカにそう言って返すと、彼女はにこやかに笑いながら言う。

笑顔ではあるが目は決して笑ってはいないのだけれども。

 

「まぁまぁ2人とも。ヒカリちゃん、こっちの串はバーベキューソースを使って焼いたから野菜特有の苦味も薄れてて食べやすいはずだよ」

 

そう言って間に入ったのはクオンだ。

手に持っている長串に刺さった野菜と肉は確かにソースの焼けたいい匂いがしている。

 

「ありがとうクオンさん」

 

「因みに焼いたのはスオウだよ」

 

手に持っていた長串をヒカリに渡すと、彼がそう言って指差した先にはもう一つのバーベキューコンロで黙々と肉と野菜を焼いているスオウの姿。

自分が呼ばれた事に気付いたのか、彼はヒカリ達の方に視線を向けると

 

「最近は料理にも興味がある。まだ焼くからしっかり食べろ」

 

そう言い再び肉と野菜を焼き始めるスオウ。

ヒカリは受け取っている串に刺さったピーマンと肉を同時に口にして咀嚼すると、確かに苦味はあるのだが逆にそれがソース特有の甘辛さと肉の旨味を引き立てたようで、彼女は表情を綻ばせながら

 

「美味しい! これならいっぱい食べれそう!」

 

そう言って他にも刺さっているズッキーニなどにも齧り付く。

嬉しそうに食べるのは本当に美味しいからなのもあるが、密かに想いを寄せるスオウが焼いてくれたものだからというのもあるだろう。

尤も彼女の気持ちには当のスオウと兄のアキナ以外はしっかり気付いており、同一存在のエリカとしてはかなり複雑な心境なのは言うまでもないが。

 

「まったく、家でもあれくらい野菜を率先して食べてくれればいいんだけどなぁ」

 

「けど、喜んで貰えて何よりだ。食材を奮発した甲斐があったよ」

 

呆れつつも優しげな表情で言うアキナに、固定椅子に座って焼きあがった肉と野菜、楽しんでいるタイゾウがそう口にする。

 

「なんかすみません、タイゾウさん。集めた費用超えてますよね? 後で追加で払いますよ」

 

そんな彼にアキナが申し訳なさげに言う。

今回のキャンプにあたり、当然の事ながら参加費用を各々から徴収してあるのだが、買い出しが終わった時に確認した領収証を確認してみると集めた費用の合計を完全に超えていた。

それだけではなくマイクロバスの費用等もタイゾウ達が持ってくれており、感謝はもちろんあるのだがそれ以上に申し訳なさをアキナは感じている。

そんな彼に対し

 

「気にする事はない。こういう時、子供は素直に大人の厚意に甘えておけばいい」

 

「キョウマの言う通りだよアキナくん。これは俺達がしたくてしてる事なんだ。だから素直に受け取ってもらえると、こっちとしても嬉しいよ」

 

「けど……」

 

2人の言葉にアキナはまだ納得がいっていないようだが、タイゾウは構わず

 

「俺達も子供の頃は大人達に色んな事をしてもらったよ。だからこそ俺達もあの時の大人達のように、後の世代に対して世話を焼きたいんだ。そしていつか君達が大人になった時、同じように後の世代に何かをしてあげればいい。そうやって、人は絆を結んで大切な想い、志を受け継いでいくんだと俺は思うからさ」

 

ニっと笑ってそう言った。

彼の隣に座るキョウマもまた、何も言わないがタイゾウと同様に笑みを浮かべている。

彼もまたタイゾウと同じ気持ちという事だろう。

 

「……わかりました。今回は2人の厚意に甘えさせてもらいます」

 

2人の言葉にアキナはようやく納得して返すと彼らは満足そうに笑って頷いた。

皆が和気藹々と食事を楽しんでいる中、ミコトは1人浮かない表情をしている。

物思いに耽って食事は止まり、手に持っている長串を眺めている状態だ。

そんな彼女の様子に気が付いたナオが

 

「どしたのミコトちゃん? 食が進んでないよ?」

 

覗き込むようにして声をかけてきた。

 

「もしかして塩胡椒多かった? それとも生焼けだったりした?」

 

そう問いかけるとミコトは素早く笑顔を作り

 

「そんな事ないですよ。すっごく美味しいです。ちょっとはしゃぎ過ぎて疲れちゃったのかも」

 

「そ? ならいいんだけど、ミコトちゃんも体調悪くなったら無理せず言うんだよ?」

 

そう返すとナオはそう言いながらバーベキューコンロの方へと戻っていく。

それを見送ると彼女は再び表情に陰を落とすが、それを振り払うようにミコトはブンブンとかぶりを振った後、食事しながら談笑しているヒカリ達の元へ行きその輪に加わった。

その後も楽しそうにしていたミコトだが、皆の目が逸れたほんの僅かな間に考え込む様な表情を何度か見せており、そんな彼女の様子にただ1人が気付いて疑問を抱きながらミコトに目を向けていた。

食事が終わり、使わなかった食材を近くの管理小屋の冷蔵庫へと預けた後、皆で紙皿などのゴミを集めて袋に纏め、長串や鍋に飯盒を洗って片付ける。

陽もすっかり落ち、暗くなっているので電池式の携帯ランプと外灯を使って辺りを照らした後、彼らは再び自由行動に入った。

ヒカリとユナとエリカはテントの方で談笑をしており、しっかりとデッキを持ってきていたスオウは今日一日ファイトしてないからか禁断症状が出たかのようにアキナ達にファイトを申し込んでいる。

そんな中、ミコトは1人少し離れた河原近くで空を見上げていた。

陽が落ちて暗くなった空を憂のある表情で眺めていると

 

「ミコト」

 

自身を呼ぶ声が聞こえ、振り向いて目を向けると、右手に携帯ランプを持ったアキナの姿を視界に捉えた。

 

「アキナ先輩……どうしたんですか? 呼続先輩にファイト挑まれてたんじゃ?」

 

「ファイトはクオンに任せてきたよ。片付けが終わった後、君がこっちに歩いてくのが見えたから気になって。ミコトこそ1人で何してるの?」

 

「私は……ちょっと星を眺めたくて」

 

「なら、一緒に見ようか。レジャーシート持ってきたから、これを敷いて座ろう?」

 

言いながらアキナは左手に持っていた折り畳んであるレジャーシートを見せるとミコトはおずおずと頷いた。

彼女の側まで歩み寄り、畳んでいたシートを広げて比較的石の少ない所に敷いてアキナが腰を下ろすと、習うようにミコトも彼の左隣に腰を下ろす。

空を見上げればいくつもの星が輝きを放ち、宙に浮かぶ月が暗闇を淡く照らしている。

 

「凄いな。いつもより星が沢山見える」

 

「街の灯りが無いからじゃないですか? ホント、綺麗ですね……」

 

アキナの言葉にミコトはそう応える。

暫くの間、互いに無言で星空を眺めていたが

 

「ねぇ、ミコト。何かあった?」

 

不意にアキナが問いかけてくる。

夜空を見上げるのを止めて視線を彼に向けると、赤い瞳が真っ直ぐに彼女を捉えていた。

晒される事なく向けられる視線に対し、ミコトは僅かに目を逸らして

 

「……急に、どうしたんですか?」

 

「夕食の準備辺りから考え込むような仕草取ってたり、表情が曇ってる場面もあったから。どれもみんなが見てない時だったから、ヒカリ達は気付いてなかったみたいだけど」

 

問い返しに対してアキナはそう答える。

皆から『お人好しバカ』とまで言われるだけあって、周囲の様子をしっかりと見ていたようだ。

 

「……何にもないですよ? 大した事は────」

 

「ミコト」

 

そんな彼に対してミコトは笑顔を作って話を晒そうとするも、アキナは彼女を見据えたまま

 

「前に言ったよね? 不安になったらすぐに教えてって。どんな事でも、俺は真正面から受け止める。だから、1人で悩まないで話してほしい」

 

力強く、それでいて優しい声でそう告げた。

その言葉にミコトは僅かにたじろぐも、観念したように小さく息を吐く。

数秒の沈黙の後、彼女はゆっくりと話し出した。

 

「実は……ここに来て、あのキャンプの事で思い出した事があるんです。あの日、ヒカリちゃんがあの遺跡に行ってしまうまでの間……いなくなるその直前まで────私、一緒に居たんです」

 

語り出したのはあの時の記憶。

アキナは何を言うでもなく彼女の話に耳を傾けている。

 

「この先の川で、一緒に泳いでる魚を眺めてて、フタッフの人に集合だって呼ばれたからヒカリちゃんに『行こう』って促して、私はそのまま集合場所に戻りました。けど、振り返ったら着いて来てると思っていたヒカリちゃんは何処にもいなかった……」

 

両膝を抱えるようにして、顔を僅かに俯かせながら彼女は続けていく。

 

「私がもっと早く気付いてたら……ううん、それ以前に、手を引いて一緒に戻っていたら……ヒカリちゃんはあの遺跡に行くことはなかった……シヴィルトに憑依されて、長い間生命力を奪われて苦しむ事もなかったんじゃないか……って考えたんです……」

 

俯きながら呟く彼女の顔は見えない。

しかしきっと泣きそうな顔になっているのだろうという事は、発せられる声色で理解出来る。

 

「それだけじゃない、先輩がヒカリちゃんの事で、ずっと自分の所為だって責任を感じるようにさせたのだって、あの時私が────」

 

「ミコト、それは違うよ」

 

さらに自身を責め立てるように捲し立ててるミコトの言葉をアキナは遮った。

顔を上げて目を向けると、彼は優しげな表情を浮かべ

 

「あれは君の所為じゃない。俺がちゃんとヒカリを見ていなかったのがいけなかったんだ。だから君が気に病むことはないよ」

 

そう言いながらミコトの目尻から零れそうになっていた涙を指で優しく拭う。

 

「で、でも……でも────」

 

「俺もさ、思い出した事があるんだ」

 

彼の言葉に納得出来ず、なおも自分が悪いと主張しようとする彼女の言葉アキナは遮り

 

「あの時、ヒカリがいなくなった事を教えてくれたのは君だったよね?」

 

そう告げる。

 

「君が教えてくれたから、俺はすぐにヒカリを探しに行く事が出来たんだ。結局俺1人じゃ何も出来なくて、ナオ先輩に助けられて、色んな大人に迷惑をかける事になった。でも、君が声をかけてくれなかったら、俺はヒカリがいなくなってる事に気付かなかったと思う」

 

夜空を見上げながら彼は言葉を続けていく。

 

「あの時、君が教えてくれてなかったら、少しでもヒカリを探しに行くのが遅れていたら、きっとヒカリはシヴィルトに完全な形で乗っ取られて、もっと酷い事になっていたかもしれない。そう考えると、最悪の事態だけは防げてたんだよ。それに、あの出来事はいつかどこかで俺やヒカリじゃない誰かでも起こり得たかもしれないんだ。全部終わった今だからこそ、そう思えるようになったんだけどね」

 

そこまで言って彼は苦笑いをした後、夜空に向けていた視線をミコトへと移す。

翡翠の瞳を揺らし、自身を見つめてくる彼女を赤の瞳に写しながら

 

「だから、ミコトが責任を感じて自分を責める事なんてないんだ。それにその事で、俺とヒカリが君を恨んだり、嫌いになったりするような事は絶対にないよ」

 

彼女の心の中に産まれた不安の芽を摘み取るように、優しい笑みと声でアキナはそう告げた。

彼の言葉が耳に届いた瞬間ミコトは小さく目を見開く。

アキナは気付いていたのだろう。

かつての事でヒカリ、そしてアキナが自身の事を疎んでしまうのでは? と、ミコトが心の中で無意識に不安を抱いてしまっていた事に。

彼の言葉を聞いて、ミコトは目に滲んでいた涙を拭う。

 

「不安な気持ちは無くなった?」

 

アキナは優しい声でそう聞くと、ミコトは小さく頷き

 

「はい……私、また1人で勝手に悩んで結論を出そうとしてたんですね……ごめんなさい、アキナ先輩……それと、ありがとうございます」

 

微笑みながらそう返す。

彼女の中から不安が消えた事を察した彼も微笑み返し

 

「これからも、ヒカリと仲良くしてあげて? その方がヒカリも喜ぶし、俺も嬉しいからさ」

 

そう言うと、ミコトは僅かに目を逸らした。

かと思えば徐にアキナの左手に自身の右手を添えてくる。

そのまま細い指で彼の左手の指を擦り撫でながら

 

「もちろんそのつもりですけど……仲良くするのはヒカリちゃんとだけで─────いいんですか?」

 

再び彼に視線を向けてそう問いかけてきた。

彼を映す翡翠の瞳は潤んで揺れており、何かを期待するような熱を帯びている。

ミコトの意図を察したアキナは一瞬だけ目を逸らすもすぐに彼女を見つめ直し

 

「その訊き方は─────ちょっとズルくない?」

 

彼がそう言うと、ミコトはゆっくりと目を閉じる。

アキナは彼女の頬に自身の右手を添えると、そのまま顔を近付けていった。

緩やかにその距離は縮まっていき、彼の唇が彼女のソレに重なる─────寸前、僅か数ミリのところでその動きがピタリと止まってしまった。

2人はそのままの体勢で薄らと目を開け、少し離れた茂みの方にその視線を向けてみると、茂みの方でガサガサと何かが蠢く音が響いてくる。

唇が重なるその直前でこの音が聞こえた為、2人はその動きを止めたのだろう。

一方、気取られないように彼らが視線を向けている先の茂みでは

 

「(いい! いいわよ2人とも! そのままいっちゃい

なさい!)」

 

「(ちょっとエリカ! もう少しそっち寄ってくれないと2人のラブラブツーショットが上手く撮れないでしょ!)」

 

「(うっさいわね。そうしたら身体が茂みから出てバレちゃうでしょ? アンタこそもう少し寄りなさいよ)」

 

「(あ、あの、ユナを挟んで喧嘩しないで貰えませんか?)」

 

2人の様子を覗き見る不届な3人組。

アキナとミコトの行動に少々興奮気味になっているエリカに、スマートフォンを片手に2人を写真に収めようとしているヒカリ。

しかし上手く収まらない為かエリカにもう少し位置を動かすように言うが、逆にそっちこそ寄れと返しされてしまう。

そして歪み合う2人の間に挟まれているユナは微妙な表情で抗議の声を上げている。

しかしその抗議も虚しく

 

「(大体なんでエリカまで来てるの? 覗きとか趣味が悪いとか言ってくせに)」

 

「(勘違いしないで。歳下になってもアキナは私のお兄ちゃんである事に変わらない。そして推しであり親友(マブダチ)であるみーたんはお兄ちゃんの恋人、つまりいずれ私のお義姉ちゃんになる人。私には妹として、アキナ()みーたん(義姉)の幸せを見届ける義務があるのよ!)」

 

「(なにそれ。ただのこじ付けじゃん。っていうかまたみーたんの親友を主張するなんて図々しいよ! みーたんの親友は私なんだから!)」

 

「(アンタこそ相変わらず独占欲が酷いわよヒカリ。文句があるならファイトしてあげようか?)」

 

「(上等だよ! 今度こそボッコボコにしてやるんだから!)」

 

2人の諍いは徐々にヒートアップしていく。

 

「(ですから! ユナを挟んで喧嘩するのはやめてもろてぇ!)」

 

互いに威嚇するように睨み合うヒカリとエリカに挟まれているユナからまたも抗議の声を上げた────その時

 

「楽しそうだね?」

 

3人の頭上から聞き覚えのある声が響き、ビクリとその身を震わせる。

壊れたブリキのオモチャのように、彼女達が恐る恐る声の方に目を向けてみると─────

 

「3人とも、なぁにしてるのかなぁ?」

 

『み、みみみみみ、みーたん?!』

 

視界に映ったのは彼女達の推しである西塔ミコトその人。

その少し後ろではアキナが呆れたようにため息を吐いている。

 

「い、いいい、いつの間に?!」

 

「な、なんでバレて?!」

 

「そりゃアレだけガサガサ物音立ててたら流石にわかるって」

 

自分達の居場所がバレた事に驚き慌てふためくヒカリとエリカに対し、アキナは呆れた表情のままそう言った。

 

「ちょっと! エリカが騒ぐからバレちゃったじゃん!」

 

「何言ってんのよ! アンタこそ割と大きい声出してたでょうに!」

 

「ですからユナを挟んで喧嘩するのはぁ!」

 

アキナに指摘された事で、ヒカリとエリカはまたもやユナを挟んだ状態で言い争いを始めてしまう。

しかし

 

「3人とも─────正座ぁ!」

 

『は、はいぃぃぃ!!』

 

ミコトの怒声が上がったことでピシャリと止まり、3人は光の速さで正座。

そのままミコトからのお説教が開始され、ヒカリ達は涙目になりながらそれを受ける事に。

こんこんとお説教されているヒカリ達を見ながらアキナは苦笑いを浮かべた後

 

「で、いつまで隠れてるつもりですか?」

 

ヒカリ達がいる方とは別の茂みに目を向けて言うと

 

「あれ? バレてた?」

 

ガサガサと音を立てて茂みから出てきたのはナオだ。

 

「さっき茂みに隠れるのが見えてましたので。それよりナオ先輩、女性陣の中では年長なんですからヒカリ達をちゃんと止めてくださいよ?」

 

アキナが呆れたような表情をしながらそう言うと、ナオは苦笑いを浮かべ

 

「あはは。ごめんごめん。藍川くんと呼続くんのファイト見るのに夢中になっててさ。気がついたらもういなかったんだよ、流石に暴走しないようにと思って追いかけてきてみたらすでにアキくん達に見つかってたみたいだからさ。で、ミコトちゃんの悩みは解決した?」

 

「気付いてたんですか?」

 

ナオからの問いかけにアキナは少々驚いた様子で問い返す。

 

「まぁね。でも、私が聞くよりもアキくんに任せた方がいいと思ってさ」

 

口ぶりからすると夕食の準備辺りから彼女もミコトの様子がおかしい事に気付いていたのだろう。

しかし自身が出しゃ張るよりも、アキナに任せるのが最適解と判断し、敢えて気付かぬフリをしていたようだ。

問い返しの応えにアキナは苦笑いを溢した後、未だコンコンとお説教を続けているミコトに目を向けて

 

「そうですね。もう大丈夫です」

 

穏やかで優しい笑みを浮かべながらそう言った。

彼のミコトに向ける穏やかな表情を見ながら

 

「そっか」

 

と、ナオは満足したように頷いて、彼と同じように優しげな目をミコトへと向ける。

その直後、1人分の足音がアキナとナオの耳に届いてきた。

 

「アキナ、員弁さん」

 

振り向いてみるとそこにいたのはクオンだ。

 

「お、藍川くん。ファイト終わったんだね」

 

「スオウは納得したのか?」

 

2人に問われたクオンは頷いて

 

「今し方。とは言ってもまだファイトし足りないみたいだけどね。とりあえずそろそろ花火の時間だからアキナ達を呼びに来たんだけど……なんか愉快なことになってるね?」

 

言いながらミコト達の方を見てクスクスと笑っている。

アキナは苦笑いを溢し

 

「いや、愉快なのかな? けど、もうそんな時間なんだ。なら、そろそろ宥めてくるよ。ナオ先輩はクオンと先に戻っててください」

 

「オッケー、先戻ってるねー」

 

そう言うとナオはクオンと共に芝生サイトの方へと戻っていき、それを見送った後、アキナはレジャーシートを折り畳んで説教を続けているミコトの元へと歩いていく。

そろそろ花火の時間だからと伝え、後で自分からもよく言っておくとアキナが言うと、ミコトは「先輩がそう言うなら……」とお説教を切り上げた。

ようやく解放されたヒカリ達は改めてアキナとミコトにしっかりと頭を下げて謝ると、2人は「今回は許す」と言って返した。

テントの設置場に戻ると、すでにタイゾウ達が花火の準備をしており、全員がいる事を確認してメインの花火大会が開始された。

様々な種類の手持ち花火を手に取り、その閃光を楽しむアキナ達。

かなりの量があったのだが、流石に10人もいれば無くなるまでそう時間は掛からなかった。

最後に線香花火の儚い閃光をみんなで楽しみ、花火の残骸の後片付けをして、いい時間となったのでそろそろ就寝しようとタイゾウが皆に促した。

無論スオウはまだファイトし足りない様子だったが、「明日またやろう」とアキナとクオンが宥めたのは言うまでもないだろう。

彼らはそれぞれ割り当てられたテントへと向かい、其々が持参した寝袋に潜り眠りに着く。

こうして、彼らの騒がしくも楽しい1日が幕を閉じたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────よ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────ざめよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────目覚めよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────────目覚めよ、員弁ナオ!

 

 

 

 

 

 

直接頭に響いた声によって、ナオは勢いよく目を開く。

視界に映ったのはテントの天蓋ではなく月明かりに照らされた生い茂る木々。

辺り一面を見渡すが、どこをどう見ても先程までいたキャンプ場ではなく完全な森の中だ。

大量の疑問符を浮かべ、後ろを振り返るとそこには瓦礫によって塞がれた入り口らしきモノが確認出来る。

 

「ここって……」

 

そう、彼女が今いる場所は因縁の地。

かつてアキナとヒカリが崩落事故に巻き込まれた───────かの存在が眠っていたあの遺跡の入り口の目の前だったのだ。

ミコトと同じテントで寝ていたはずの自分が何故こんな所にいるのか?

明らかに常軌を逸している事態に困惑しているナオだったが

 

「やっと目覚めたか」

 

不意に背後から声が響き、ナオは振り返る。

視線の先の闇からは地面を踏み締める足音がゆっくりと近付いて来ていた。

その存在を確認しようとナオは目を凝らして闇の先を見る。

近付いてくる存在は徐々に月明かりによって照らされていき、その姿が完全に確認出来た瞬間、ナオは目を目開いて驚愕する。

漆黒の衣服を纏ったその者はライトパープルの髪を靡かせ、同じくライトパープルの瞳にナオを映して妖婉な笑みを浮かべていた。

 

「この姿で対面するのは初めてだったな、員弁ナオ?」

 

「……わ……たし……?」

 

目の前に現れたのは彼女とよく似た──────否、瓜二つの1人の女性だった。

 

 

 

To Be Continued

 

 




まさかの続きモノ。賑やかで楽しい状況からの急展開です。

キャンプに関してはにわか知識しかなく色々調べたけど表現とか至らん点があるでしょうが突っ込まないでくれると助かりんこなのです。

どんな話を書いてほしい?

  • ほのぼのした話
  • 甘くイチャつく話
  • アキミコ以外の話
  • ファイト話
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