運命者達の軌跡   作:藤崎葵

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前回からだいぶ間が空いた投稿である。忙しかったですねん。

性懲りも無くアキナ×ミコトで付き合ってる設定。妄想と空想と幻想が次元歪曲を引き起こしているので解釈違い起こしそうと予感された方は回れ右推奨です。

それでも構わねぇ! って方はスタンドアップしてどうぞ〜


すれ違いのち向き合う2人

 

 

シヴィルトが自身の復活の為に目論んだ宿命決戦。

運命者と宿命者を戦わせ、集めた膨大な運命力(デザインフォース)を奪い世界を欲望で満たさんとした禍々しい計画を阻止し、穏やかな日常が戻ってきて早1週間。

学校の屋上で1人の少女が空を見上げている。

果てしなく広がる青空を流れている雲を翡翠の瞳に捉えながら少女はあの日の───最後の決戦の一幕を思い出す。

 

『何故そこまでこの女に拘る? 所詮は赤の他人だろう?』

 

『他人じゃない。大切な人だ!』

 

無双の運命者カードの所持者である員弁ナオの身体を乗っ取ったシヴィルトと相対した青髪の少年───明導アキナが挑発してきた(シヴィルト)に対して放った言葉。

そこで思考を止めて少女───西塔ミコトは空を仰いでいた顔を俯かせながら

 

「大切な人……か……」

 

ため息を吐いて呟いた。

 

「西塔さん?」

 

不意に自分を呼ぶ声が聞こえて顔を上げると、視界に映ったのはアキナの姿。

 

「アキナ先輩……」

 

「もしかして、西塔さんもこれから昼食? 俺も一緒していいかな? スオウ、今日はクオンと学食に行っちゃったからさ」

 

アキナはいつもと変わらぬ笑顔を向けながら問うてくる。

しかしミコトは目を逸らし

 

「さっき食べ終わっちゃって。これから教室に戻るところなんです」

 

傍らに置いてある弁当箱を手に持ち、立ち上がりながらそう返した。

それを聞いたアキナは少し残念そうな表情になるも

 

「そっか……。そうだ。もし時間が取れそうな時があれば教えてほしい。俺も時間空けるようにするから───」

 

「ごめんなさい。しばらくはレッスンとかで時間取れなさそうなんです」

 

次いで問うてみたが、遮るようにしてミコトは言葉を返す。

尚も彼女はアキナと目を合わせようとはしない。

なんとも言えない気不味い空気が2人を包んでいる。

 

「……それじゃぁ私、行きますね」

 

そう言うとミコトは足早にアキナの横を通り過ぎ、彼が止める間もなく屋上から去っていった。

残されたアキナは彼女が出て行った屋上の扉を見つめながら

 

「……やっぱり避けられてるよな……」

 

呟いてため息を吐いた。

彼、明導アキナと西塔ミコトは恋仲の関係にある。

運命対戦終結からしばらく後にミコトから想いを告げ、アキナがそれに応える形で2人は交際を始め、多少すれ違いを起こしながらも順調にその仲を深めていっていた。

しかし宿命決戦が終わってからミコトはアキナの事を避けるようになったのである。

廊下で鉢合わせても目を逸らされてはそそくさと逃げられ、以前までは当たり前のように取っていた2人だけの時間も、アイドルとしての仕事やレッスン等で都合が合わないと言われ取れなくなっている状態である。

アキナはフェンスの側まで歩いて行き、苦い表情を浮かべたまま

 

「……どうすればいいんだ……?」

 

空を仰ぎながら呟いた。

その後も彼はミコトとなんとか話をしようと試みてみたのだが、アキナの姿を見るたびに彼女は目を逸らして去っていく。

メッセージも曖昧な返事しか返ってこず、完全に打つ手無しの状態。

そうして彼女と何も話せないままさらに数日が経過した土曜日の午後。

学校が終わったアキナは一度帰宅して私服に着替え、バイト先の『コックミリオン』へと赴いていた。

今日も今日とて彼はミコトと接触しようと試みるも見事に避けられてしまい、その表情は曇天の空のように曇っている。

着替えを終えて溜息を吐きながら更衣室を出ると

 

「アキくん、お疲れ様」

 

声をかけられて振り向いてみると、ナオの姿が目に入った。

 

「ナオ先輩、お疲れ様です。今日はもう上がりですか?」

 

「そだよー、今日は開店から昼過ぎまでのシフトなんだよね。アキくんはコレからだよね? っていうか表情暗いよ? 接客もあるんだから笑顔笑顔!」

 

言いながらナオは笑いかける。

しかし、とてもではないが今のアキナに普通に笑える余裕はない。

なんとか絞り出した笑顔も若干引き攣っているのが自身でもわかるくらいだ。

するとナオは軽く溜め息を吐いて

 

「……アキくん、なんかあったんでしょ?」

 

「え? いや、なにもない……ですよ……」

 

問うてくる彼女にアキナは苦笑いを零ながら目を逸らした。

 

「隠しても無駄だよ。ここ数日溜め息が凄いし上の空だし。もしかして────ミコトちゃんと何かあった?」

 

ジト目で見てくるナオにアキナはさらに苦い表情を零し

 

「……やっぱりわかりますか?」

 

呟くとナオはやれやれと肩をすくめて

 

「そりゃね。アキくんわかりやすいし。シフト入るまでもう少し時間あるでしょ? ここは頼れるナオ先輩に話してみなさいな、アキレウス後輩!」

 

言いながら彼に事情の説明を求めてきた。

 

「だから何処の大英雄ですかソレ……実は────」

 

どうあっても聞き出そうとしてくるナオに、アキナはついに観念してここ最近ミコトに避けられている事を正直に話す。

するとナオは溜め息を吐きながら複雑そうな表情になった。

 

「……アキくん。避けられ始めたのってシヴィルトと決着が着いた後からなんだよね?」

 

「そうです……」

 

彼女の問いかけにアキナが頷くとナオはさらに複雑そうな表情をして

 

「ねぇ、私がシヴィルトに乗っ取られてた時、微かに意識はあったって言ったよね」

 

「はい」

 

「だからさ、君がシヴィルトとどんなやりとりをしたかもある程度は把握してるんだけど……アキくん、シヴィルトに私の事でアレコレ言われた時なんて返してたか覚えてる?」

 

「もちろんです。『赤の他人』なんて言われたので『大切な人』だって言い返しました」

 

するとナオはアキナに向かって右手の人差し指を突き出して

 

「それ、君はどういう意味で言ったの?」

 

そう問うと、アキナは疑問符を浮かべつつも

 

「『大事な事を沢山教えてくれた尊敬する師匠で、憧れの先輩』って意味ですけど」

 

そう答えた。

これは彼にとっての本心だ。

出会ってからこれまで、アキナはナオから様々なことを教えてもらっている。

戦う心構え、最後まで諦めない事、そして大事な言葉。

それらがあったからこそ自分はここまで成長出来たし、運命大戦や宿命決戦を乗り切る事が出来たと彼は心の底から思っている。

誰よりも尊敬する師匠であり、目標とする憧れの先輩。

それがアキナにとっての員弁ナオという存在なのである。

 

「まぁ、そうだろうね。言ったアキくん本人や、君への気持ちにケジメをつけてる私はその意味で捉える事が出来るけど……聞く人によっては違う意味で捉える場合もあると思うんだよねぇ。例えば────ミコトちゃんとかさ」

 

「あ……」

 

「気付いた? アキくんさ、ミコトちゃんへのフォロー、すぐにしてなかったんでしょ?」

 

ナオからの指摘にアキナは言葉を詰まらせる。

その様子を見て

 

「まったく。アキくん普段は察しがいいのにこういう事は無頓着なんだから。まーた詰めヴァンガードの刑に処されたいの? 二度目だから今度は千問いってみようか?」

 

「……返す言葉も無いです……」

 

ジト目で投げかけてきたナオの言葉にアキナはそう返すしかなかった。

彼、明導アキナは困っている人がいれば率先してお節介を焼きに行く程のお人好しだ。

それ故か普段は察しが良く気配りも上手いのだが、一度決意して前へ進み始めると周りが見えくなる傾向がある。

例として挙げるなら妹のヒカリに対しての行動がそうであった。

『こうすればヒカリは喜んでくれる』と心の中で思い込んで行動してしまっていたアキナ。

それが結果として妹に罪悪感を抱かせていた事に宿命決戦を通して気付いてちゃんと相手と話をする事を学びはしたが、そういった人の性質は簡単に変わるものではない。

今回の事に関しても、『彼女(ミコト)はわかってくれている』とアキナは心のどこかで思い込んでいたのだろう。

どのような事も言葉にしなければ伝わるはずもない。

それを先の宿命決戦で痛感していたはずなのに、同じことをまた繰り返した自分自身にただ情けなさが込み上げてくる。

そんなアキナの様子を見ながらナオは溜息を吐きつつ

 

「まぁ、全部アキくんが悪いとは言わないけどね。私も原因の一つみたいなもんだし。それに──────」

 

そこで一度区切り考える素振りを見せた。

その様子にアキナは疑問符を浮かべ

 

「ナオ先輩?」

 

「……んーん、こっちの話」

 

(今回のはミコトちゃんの行動にも問題があるからねぇ……)

 

呼びかけに応えつつ思考を巡らせるナオ。

 

「……俺、また彼女を無自覚に傷付けてた……こんなの避けられて当然だ……もう遅いかもしれないけど西塔さんと話しをしないと───」

 

「待った待った! アキくんはこれから勤務時間でしょ? 焦る気持ちはわかるけど、まずは目の前の事を終わらせてからにしなさい」

 

すぐにでもミコトに連絡を入れそうな勢いのアキナを嗜めるナオ。

彼女の言う通り彼はこれから仕事に入らないといけない。

ただでさえここ数日仕事に身が入っていなかった状態だったというのに、今日はもうナオはシフトから外れるため彼をフォローしてあげる事は出来ない。

ならばせめて頭を冷やさなければと思い、ナオは逸るアキナを嗜めたのである。

 

「そう……ですよね。すみません、また目の前の事しか見えてませんでした」

 

「わかればよろしい。……大丈夫だよアキくん。いつものように真っ直ぐ向き合って気持ちを伝えれば、きっとミコトちゃんに届くはずだから、ね?」

 

言いながらナオは彼に微笑みかけた。

すると彼は釣られたように小さく笑い

 

「ありがとうございます、ナオ先輩」

 

そう言いながら頭を下げ、勤務に入る為に厨房の方へと向かって行った。

その姿を見送ったナオは小さく息を吐いて

 

「さて……もう一つの問題を片付けに行きますか」

 

言いながら更衣室へと入っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は進んで場所は変わり、喫茶店の一角。

窓際の席で少女──────西塔ミコトは頬杖をつきながら外の景色を眺めていた。

ガラスの向こう側で行き交う人々を浮かない顔で眺めながら小さくため息を吐く。

するとそこに

 

「ミコトちゃん、お待たせ!」

 

声をかけられたので目を向けてみると、視線の先にはナオの姿。

 

「ごめんねぇ、会う約束持ちかけたの私なのに遅刻しちゃって」

 

ミコトに向かい合う形で席につきながら言うナオ。

そんな彼女にミコトは小さくかぶりを振りながら

 

「大丈夫ですよ。そんなに待ってないので」

 

そう返した。

ミコトは二日ほど前にナオから『二人で話したい事がある』とメッセージを貰っていた。

突然のメッセージに戸惑いはしたものの、きっと大事なことなのだろうと察した彼女はちょうどオフになっていた今日を指定。

ミコトが一度帰宅した後、ナオのバイトが終わり次第落ち合う約束をしていたのである。

オーダーを取りに来た店員の男性にナオがブレンドを一つと注文し、店員が奥へと戻っていったのを確認すると

 

「それで、話したい事って何ですか?」

 

ミコトは要件について訊ねる。

 

「そうだね。遠回しなのはアレだからストレートに訊くけど──────最近アキくんの事、避けてるでしょ?」

 

問いかけられたミコトは微かに目を見開いた。

 

「どうして……そう思うんですか?」

 

失礼とはわかっているがミコトは問いかけに対して問いかけで返す。

 

「ここ最近アキくんの様子が変だったからね。溜息凄いし表情暗いし。それで今日、彼がバイトに入る前に聞き出したんだよ」

 

問いかけにナオはやれやれと肩を竦めながら言い、今しがた運ばれてきた珈琲の入ったカップを手に取り一口啜った。

嚥下してチラリとミコトの方に視線を向けると彼女は数秒視線を泳がせた後、諦めたように苦笑いを零す。

 

「あはは……やっぱりバレちゃいますよね……」

 

「そりゃね。そんでもって、アキくんを避けてる原因はシヴィルトに対してアキくんが言った言葉だよね?」

 

次いで来るナオの問いかけにミコトは小さく頷いた。

 

「あの時は世界の命運を賭けてましたし、気になってなかったんです。でも、全部終わった後ふと思い返してみて──────考えちゃったんです。『ナオさんが大切な人なら私の事はどうなんだろう?』って」

 

まるで自嘲するかのような笑みを浮かべながら言う。

 

「先輩にとっての特別はナオさんだけで……私の事は……お付き合いしてるけど、実はそうじゃないのかもって……そう考えたら……先輩の顔、ちゃんと見れなくなっちゃって……」

 

「それでアキくんの事避けるようになっちゃったって訳か。でも、それは流石に考えすぎだと思うよ? ちゃんとアキくんに訊いてみればいいんじゃない?」

 

「わかってます……わかってるけど……もし、自分が望んでる答えが返ってこなかったらって考えると……どうしても訊けないんです……」

 

ナオの言葉にミコトは言いながら俯いてしまう。

その様子を見てナオは表情こそ崩してはいないものの、内心で苦い表情を零しながら思考を巡らせている。

 

(うーん……これは思ってたより重症だねぇ……まぁ、原因の一因である私が言うのもなんだけど、想い人が自分以外の人間を『大切な人』なんて言えば心中穏やかにはならないよねぇ……でも、ミコトちゃんは一つ勘違いしてるし、何よりアキくんと向き合う事を怖がってる。それじゃなんの解決にもならないんだよ────こうなったら、ちょいと荒療治させてもらおうかな)

 

そこで思考を止めると、ナオは小さく息を吐いて

 

「ねぇ、ミコトちゃん。ミコトちゃんにとって、アキくんは『大切な人』だよね?」

 

問いかけた。

ミコトは質問の意図が理解出来ず疑問符を浮かべつつも

 

「はい、もちろんです……」

 

そう返した。

するとナオは意味深な笑みを浮かべ頬杖をつきながら

 

「そうだよね。けど、それならアキくん以外の人はどうでもいいって事なのかなぁ?」

 

そう口にした。

次いで出てきたナオの言葉に、ミコトは困惑した表情を浮かべている。

いったい彼女は何を言いたいのか?

意図が全くつかめず疑問符を大量に浮かべているミコトに構うことなくナオは続けて言う。

 

「だってそうでしょ? ミコトちゃんにとって『大切な人』って1枠しかないみたいだし、それなら他の人はどうでもいいのかなってさ。そうだねぇ。例えば──────ヒカリちゃんとか」

 

ほんの少し冷えた声でナオはそう口にする。

その言葉が耳に届いた瞬間、ミコトは弾かれた様に口を開いた。

 

「そんなわけない! ヒカリちゃんだって私の大切な人です!」

 

出てきた言葉にナオは少し驚くも口角が僅かに上へと動く。

そんなナオの様子に気付くことなくミコトは言葉を続けていく。

 

「ヒカリちゃんは私の親友(マブダチ)で、本当の妹のように思ってて──────」

 

そこまで口にしたところでナオが右手の人差し指を彼女の口元に突き出して言葉を止めた。

そして先程とは打って変わって穏やかな声色で

 

「そうだよね。大切な人って、決して一人とは限らないよね。そして、相手によってその意味も変わってくる」

 

諭すように言葉を紡ぐと、そこでようやくミコトは彼女の意図に気付いて目を見開く。

そしてナオの言葉で自分が大きな思い違いをしていた事にも気が付いた。

彼女の言うように『大切な人』とは決して一人だけに当てはまるとは限らないのだ。

 

「アキくんだってきっとそう。私だけじゃなくて君の事だって大切に想ってるはず。出会って、関わった人達の全てがアキくんにとっては大切なんだよ」

 

優しい眼差しでミコトを見ながら言葉を紡ぐナオ。

 

「だからさ、ミコトちゃんは怖がらずに訊けばいいんだよ。『私の事はどうなんだ!』ってさ。アキくんはいつだって、真正面から向かい合ってくれる。そうでしょ?」

 

言いながらナオはニッと笑いかけた。

 

「……そう、ですよね。アキナ先輩はそういう人ですもんね。……私、ちゃんと先輩と話をします」

 

「うんうん。アキくん、今日のシフト短めのはずだからもう少しでバイト終わるし、連絡とってしっかり話すんだよ」

 

アキナと向き合う事をきちんと決めたミコトにナオは満足そうに頷きながら再度珈琲の注がれているカップを手に取った。

すでに温度は下がっており温くなったソレを少量口に含んで嚥下する。

するとミコトが彼女を見ながら

 

「あの……なんでナオさんは私とアキナ先輩の事に、こんなにも真剣になってくれるんですか?」

 

そう問いかける。

彼女の問いを聞いたナオは数度瞬きをした後カップをソーサーに置いて

 

「そんなの決まってるよ。私はアキくんの事もミコトちゃんの事も大好きで、大切だからだよ」

 

これまでにないほどの優しい笑みを浮かべながらそう言った。

彼女からの言葉と笑みにミコトも釣られたように笑みを零す。

徐に立ち上がり、テーブルに自身が注文した珈琲の代金を置くと

 

「ありがとうございますナオさん。私、行きます!」

 

そう言って頭を下げた後、足早に喫茶店から出ていった。

その姿を見送りながらナオは軽くため息を吐いて

 

「やれやれ、ホントに世話の焼ける子達だね。……がんばれ、ミコトちゃん」

 

呟き再度冷めた珈琲を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は17時を過ぎ、陽は傾いて空を紅で染めていっている。

バイトを終えたアキナは考え事があるとよく訪れる砂浜をゆっくりと歩いていた。

歩きながら見ているスマートフォンの画面に映る一通のメッセージ。

 

『砂浜で待ってます』

 

この短い文章の送り主はミコト。

バイトが終わったアキナは彼女に連絡を入れようと更衣室で自身のスマートフォンを取り出して画面を見たらすでにこのメッセージが届いていた。

メッセージを確認するや否や彼は早々に着替えて急ぎこの場所へと足を運び、先に訪れているだろう彼女の姿を探している最中だ。

寄せて返す波の音を耳にしながらしばらく歩いていると、長い黒髪を靡かせた少女を視界に捉えた。

紅に染まっていく水平線を眺めている少女──────西塔ミコト。

その横顔は思わず見惚れてしまうほど綺麗に映り、アキナの心臓の鼓動を速めていった。

一度軽く息を吐き、アキナは彼女の方へと歩いていく。

足音が聞こえたミコトは水平線に向けていた視線を足音の方へと向けると、その視界にアキナの姿を捉えた。

約二メートルほど離れた位置でアキナは立ち止まり、自分を見てくる彼女を視界に映す。

二人はしばらく無言で向かい合っていたが

 

「ミコト、俺──────」

 

「ごめんなさい!」

 

先に口を開いたアキナの言葉を遮る形でミコトが謝罪の言葉を口にする。

突然の謝罪にアキナは面食らった形になり呆気に取られているが、ミコトはそのまま彼に対して言葉を続けていく。

 

「私……不自然に先輩の事避けてたから……それは最初に謝っておきたくて……」

 

ミコトはそう言いながら下げていた頭を上げるも視線は若干アキナから逸らされている。

キチンを話をすると心に決めつつも、しばらくの間避けていた事に罪悪感があるのだろう。

それを察したアキナは小さく首を左右に振り

 

「……いいんだ。君にそうさせたのは俺自身が原因なんだから、ミコトが謝る事はないよ」

 

安心させるような優しい声でそう言った。

ミコトは逸らしていた視線を彼に向けると小さく深呼吸をし、意を決して口を開く。

 

「私、先輩に訊きたい事があるんです。……ナオさんがシヴィルトに身体を乗っ取られてファイトした時……先輩はナオさんの事を『大切な人』って言いましたよね?」

 

問いかけは今回二人がすれ違う事になった原因。

アキナは彼女を視界に捉えたまま頷いて

 

「……うん。あの時言った通り、ナオ先輩は大切な人だ」

 

そう返す。

返答を聞いた瞬間、ミコトの翡翠の瞳が揺れた。

だが、彼の言葉はまだ終わってはおらず

 

「ナオ先輩は俺に、大事な事を沢山教えてくれた誰よりも尊敬する師匠で、憧れの先輩だから」

 

真剣な眼差しで言葉を続けるアキナ。

 

「……だったら……ナオさんが大切なら……私は……」

 

そこで彼女の言葉が止まる。

言葉は喉まで出かかっているが、そこからどうしても発する事が出来ない。

彼から返ってくる言葉がもし拒絶だったら?

ネガティブな思考が脳裏を過り彼女の言葉を詰まらせる。

だが、ミコトは恐怖心を振り払うように首を振って

 

「私の事は……どう思ってるんですか?」

 

ありったけの勇気を振り絞って問いかけた。

その問いかけに

 

「君だって俺の大切な人だよ」

 

アキナは一切の間を作る事無く返す。

 

「けど、ナオ先輩とは違う。君は、俺の好きな女の子で──────傍にいたい人なんだ」

 

優しい笑みと声で

 

「君のころころ変わる表情が好きだ。自分の願いのために頑張ってる君はキラキラしてて応援したくなる。そんな君の傍にいたいし、俺の傍にいてほしい──────また不安にさせといて今更何言ってるんだって君は思ってるかもしれないけど……それでも、俺は君の事を想い続けていたいんだ」

 

赤い瞳に彼女の姿を映しながら、アキナは言葉を紡いでいく。

彼からの言葉をミコトは何も言わずただ聞いている。

訪れる数秒の沈黙。

それを破るように

 

「……私、先輩が思ってるような子じゃないですよ?」

 

ミコトが口を開く。

 

「先輩は私が自分の願いのために頑張ってるって言ってくれるけど……私は先輩と向き合う事から逃げました。変われたって、勇気を出せる自分になれたって思ってたけど、結局何も変われてない……肝心な所で逃げ出す臆病者なんです……」

 

言葉を紡ぐ声は震えている。

翡翠の瞳は揺れて今にも涙が零れそうだ。

 

「アキナ先輩は……こんな私で……本当にいいんですか?」

 

泣き出しそうな表情で、彼女はアキナに問いかける。

その言葉を聞いた彼は一度目を伏せるも、すぐに彼女を視界に映して口を開いた。

 

「あの時と逆だ」

 

「……え?」

 

彼から出た言葉の意味が理解出来ず、ミコトは疑問符を浮かべている。

当のアキナは先程同様に優しい笑みを浮かべたまま言う。

 

「君が俺に気持ちを伝えてくれた時、俺も同じ事を君に訊いたよね? 『本当に俺でいいの?』って」

 

それを聞いて思い出すのは自身が彼に気持ちを伝えた時の事。

運命大戦が終わってしばらく経ち、二人で『ストレイキャット』へ向かう道中。

ミコトからの好意を告げられた彼は今の彼女と同じ事を訊ねたのだ。

 

「そしたら君は『先輩じゃないと嫌です』って、そう言ってくれた」

 

言いながらアキナはミコトへ向かって歩き出し、その距離を縮めていく。

後1、2歩ほどの位置で立ち止まると

 

「だから、今度は俺の番だ」

 

彼女を引き寄せて両腕の中に包み込み

 

(ミコト)じゃないと嫌だ」

 

優しい声で、彼女への想いを伝えるアキナ。

それが耳に届いたミコトは

 

「……私……先輩に想われていていいんですか?」

 

「うん」

 

「私……先輩の事……想い続けてもいいんですか?」

 

「そうじゃないと、俺は嫌だ」

 

震える声で問うと、アキナは一切の迷いを見せずに返していった。

アキナの両腕に抱かれながらその言葉を聞いたミコトは彼の背に自身の腕を回し

 

「……私……怖かった……先輩の特別はナオさんだけで……私の事は……そう思ってくれてないんじゃないかって……」

 

ついに堪えきれなくなった涙を両の目から零しながら言葉を紡いでいく。

 

「先輩がそんな風に考えてるわけないって……わかってたはずなのに……私、疑って……でも……訊くのも怖くて……先輩の事……避けて……ごめんなさい……ごめ、な、さい……」

 

嗚咽を堪えながら彼の背に回している腕に力を込めて言うミコトに、同様に彼女を包む両腕にほんの少し力を込め

 

「俺の方こそ……もう不安にさせないって言っておいて、また君を不安にさせて傷つけた……すぐに君に伝えるべきだったのに、君ならわかってくれてるって勝手に思い込んでたんだ……ミコト、ごめん……本当にごめん……」

 

言いながら彼女を抱きしめるアキナ。

嗚咽を漏らしながら応えるようにミコトも彼を強く抱き返す。

しばらく抱き合っていた二人だったが、徐にアキナは彼女を自身から少し離して

 

「ミコト。これからは不安に思ったりしたらすぐに言って? 俺はいつだって真正面から受け止める。俺も、もっと君に言葉を伝えるから」

 

言いながらミコトに微笑んだ。

その微笑みを涙で揺れる翡翠の瞳に映しながら

 

「──────はい……はいっ……!」

 

頷くミコトをアキナは再び強く抱きしめる。

聞こえるのは互いの心臓の鼓動。

そして緩やかに寄せて返す波の音だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽も沈み切り、辺りはすでに暗くなっていた。

街灯が照らす道をアキナとミコトは言葉を交わすことなく、けれどしっかりと手を繋ぎ合わせたまま歩いている。

耳に届くのはアスファルトを踏みしめる音のみ。

会話なく歩いている二人だが互いの表情は穏やかだ。

蟠りが溶けた二人にとってこの沈黙も何処か心地よく感じているようである。

しばらく歩いていくと、分かれ道に辿り着いた二人はそこで立ち止まった。

 

「本当に送っていかなくても大丈夫?」

 

「はい。バス停はすぐそこですし。それに……流石に人通りが多いところだとバレちゃいますし……」

 

アキナの言葉にミコトはそう言って返す。

彼らは自分達の関係を親しい身内以外には隠している。

ミコトのアイドルとしての立場を考えれば異性と二人でいる所など大スキャンダルもいいところだ。

もっとも人通りが少ないこの場所でもリスクはあるのだが、それは言わないのがお約束だろう。

 

「本当はもう少し一緒にいたいんですけど……明日はお仕事が入ってて、帰って準備しないといけませんから。あ……本当ですからね?」

 

少々不安げな表情でミコトは言う。

つい最近まで仕事やレッスン等を口実にしてアキナを避けていた故だろう。

申し訳なさげな様子の彼女に、アキナは優しく笑いかけながら

 

「疑ってないから大丈夫だよ。二人だけの時間も、またタイミングを合わせて作ればいいんだからさ」

 

そこで一度言葉を止め

 

「仕事、頑張って。俺、応援してる」

 

彼女の頭に右手を置いて優しく撫でると、ミコトは頬をほんのり赤く染めながら頷いた。

 

「じゃぁ、気を付けて帰ってね」

 

撫でるのを止め、そう言って帰路に着こうとするアキナ。

 

「あ、先輩!」

 

ミコトはそんな彼の服を伸ばした右手で掴みながら引き止める。

引き止められたアキナは不思議そうな表情をしながら彼女を見るが、当のミコトはこれでもかというほど周囲の様子を伺っていた。

キョロキョロと周りを見回したのち、「よし」と呟いて小さく深呼吸。

 

「アキナ先輩。少しだけ……頭を下げてくれませんか?」

 

「うん、いいけど……こう?」

 

彼女からの要求にアキナは疑問符を浮かべつつも素直に応える事にした。

頭一つ分下げたところでミコトが一歩前に出る。

彼の服を掴んでつま先立ちになった。

次の瞬間、アキナの唇に柔らかな感触。

見開いた赤い瞳には目を閉じた彼女の顔が至近距離で映り、そこでようやく彼女の唇が自身のソレと重なっていることをアキナは自覚する。

 

「ん……」

 

重ね合わせる事十数秒。

ようやく唇が離れ、掴んでいた服を離してミコトは一歩後退した。

彼女は少々俯き気味で自身の唇を右手の人差し指でゆっくりなぞる。

対するアキナは突然の口付けに思考が停止しているようだ。

 

「ミ、コト?」

 

ようやく思考が回り始めたアキナが彼女に声をかけると、ミコトは徐に顔を上げて

 

「アキナ──────大好き」

 

これまでに無い程のはにかんだ笑顔と甘い声でそう告げてきた。

その声と笑顔はアキナの心臓の鼓動を速めていき、顔に熱を集中させていく。

それはミコトも同様だったようで、ブンブンと首を振った後

 

「そ、それじゃあ先輩、また学校で!」

 

そう言うとバス停に向かって脱兎の如く駆け出していく。

走り去っていくミコトの後姿を見ながらアキナはしばらく呆然としていたが、彼女の姿が見えなくなると同時に顔を真っ赤にし

 

「──────今のは反則だろぉ……」

 

左手で口元を押さえながら呟いてその場にしゃがみ込んだ。

唇にはまだ彼女の唇の熱と柔らかな感触が残っている感じがしており、アキナの顔には未だ熱が集中している。

しかしその表情は気恥ずかしさを滲ませているがとても嬉しそうだ。

暫くしゃがみ込んでいたが、彼は徐に立ち上がると

 

「帰るまでに顔の熱……(おさま)るかなぁ」

 

呟き、彼女との蟠りを解いて絆を深めた事に喜びを感じながら自宅へ向かい歩き出した。

 

 

 

だが、彼らは知らなかった。

否、気付かなかった。

この場所でのやり取りを 街灯の陰から怪しい人影が見つめていた事を────。

 

 

to be continued





if物語でしか得られない栄養素がある(確信) そしてまさかの続きモノ。
怪しい人影────いったい何者なんだ……?

どんな話を書いてほしい?

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