習作の墓場   作:怪人カニ味噌男

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文字数制限のため二話まとめて投稿。


波しぶき&規則表

ざぁ、ざぁ、と、波が砂を打つ。

灰色の砂浜が続く海岸線に、私はいた。

空もまた、一面の灰色で、濁った海さえなければ鏡合わせになっているかのように錯覚してしまうだろう。

 

周囲には人の姿はひとつもない。

空気は冷え切っていて、やさしい温もりというものが一切存在しない。

この奇妙な空間は夢なのだという不明な確信があった。

 

私はざくざくと砂浜に足跡を作りながら、あてもなく、ただ続くだけの海岸線を歩き出した。

ずいぶんと歩いて、そろそろ疲れを感じ始めた頃に、波打ち際でちゃぷちゃぷと海水と戯れている人影を見つけた。

まさしく、人を極度に抽象化したような、人影があった。

 

輪郭は判然とせず、人の形としか認識できない。

空の灰色とは相容れない、抜けるように白い人影だった。

 

その人影はこちらに背を向けてしゃがみ込み、寄せては返す波と遊んでいた。

じゃぶ、じゃぶ、と音を立てて、足元に寄せる波を蹴散らし、引いていく波を追って海の中へと歩いていく。

水を吸った砂の上を足跡が穿つ。

なんとなくそれを観察していると、人影がこちらを見ていた。

 

まだ幼い、無邪気な少女なのだろうと、不思議に直感した。

その人影は、私を見て、くすりと笑ったようだった。

『────』

人影が何事かを呟いた。

正確には、呟いたように思えた。

 

人影はまた水を蹴って遊び始める。

私はしばらく、それを眺めていた。

 

ざぁ、ざぁ、と波しぶきだけが音を立てていた。

 

 

 

 

 

 

以下の文書は、某所から回収された文章を有志の手によって翻訳、希釈したものである。翻訳者は現在、一切の言語能力を失っている。

 

 

××高速道路交通量調査就業規則

 

以下の規則に違反した場合、私たちは一切の責任を負いません。

 

1:走行する自動車に運転手のシルエットが見えるか必ず確認してください。シルエットが見えないならばその車両はカウントしないでください。

 

2:以下のナンバー、カラー、車種の車両が通過した場合は2つあるカウンターの内、赤い方のカウンターを使用してください。

(中略)

 

3:霊柩車が見えた場合。異臭が止むまで即座に両手の親指を隠し、目を閉じてください。

 

4:サイレンが聞こえた場合、配布した耳栓を差してください。耳栓をしていてもサイレンが聞こえた場合。お手元の器具を耳に挿入し、鼓膜を破ってください。

 

5:赤いカウンターが正しく動作しなかった場合。直ちにそれを黒い袋に詰め込み、ゴミ箱の蓋を閉めてください。

 

6:美しい賛美歌を鳴らす救急車があなたの前に停車した場合。あなたは救急車に乗り込む必要があります。なぜなら救急車はあなたを救い出すでしょうから。

 

6:上記のような特徴を持つ車両は決して存在しません。

 

7:あなたに手を振る歩行者が見えても反応してはいけません。ここは高速道路です。

 

8:カウント回数がありえない値になったとしてもそれを疑ってはいけません。ただし、赤いカウンターに異常が発生した場合は5番目の項目に従ってください。

 

9:耳元からカウントする音が聞こえた場合カウンターをその回数と同じように押してください。ただし、赤いカウンターを使わないでください

 

10:もしも遠くからの祭囃子が聴こえた場合。事前にお渡しした錠剤を飲み干し、あなたの信じる神に祈ってください。

 

 

××高速道路という道路は存在していない。

追記:先日、翻訳者の歯に以下の文言が発生した。なお、文言の発生によって翻訳者は異常に増殖した歯により窒息死している。

 

11:この規則を翻訳しないでください。




オチはない。
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