姿見の前で自分の服を着た様子を見るために両方の手をわずかに広げながら数歩後ろに下がる。白のシャツと薄いベージュのズボンの両方に汚れが付いていないのを再度確認しながらも、両方の肘を折り曲げながらその手を胸の前くらいの所に置きながら、いつもよりも少しだけ目を開けてる状態で見てた。でも、数回くらい瞬きを繰り返した後に小走りでまたクローゼットの方に戻ると、そこを両手で開ける。
顔を左右に向けてからさっき着てたのとまた違う服を手にして自分の体に当てるみたいにしながら鏡の前に立つ。それで体を左右にひねりながら動かしてみてる。ただ、それでもまたもう一度小走りでそれを引っかけたらまた別の物を探すために服を手にとっては戻してを何度も繰り返すうちに、今もかけっぱなしになってたそれを手に取ることになって。その瞬間、自分の手を止めた状態のまま少しだけ喉を締め付けた状態でいる。
一度瞬きしてから視線を何もないはずの左側、クローゼットの方に光が届いてないせいで暗くなってる方を見てた。でも、それも数秒間だけ。息を吸うや否や、ほんのちょっとの範囲で顔を左右に振りながら羽織りを手に取って、あえてレースが引いてある窓の方を見ながら素早くそれを羽織った。前に着た時よりも少しだけゆったりとした範囲は狭くなったけど、でも私の太もも辺りまで届いてるのは一切変わらない。
自分の体を見るために姿見の方に数歩ゆっくりと歩いてく。両方の手を落っことしたままその場で力なく手を握ってるのかいないのかを自分でもわからないままそれの前に立った。
しばらくの間その様子をじっと見てられたはずなのに、洋服の上に着てるせいかもだけど、なんだかふとした瞬間に駆け足でクローゼットの元あった位置に戻す。それから、流し目で見る感じでハンガーに掛かった羽織りの様子を見つめてからクローゼットを閉める。さらに、背中でも押し込んで猫背気味に下の方を見つめるだけにしてた。
なるの家が見えて来た辺りでそこを見るために顔を横の方へと傾ける。それから一回ため息を吐きながらもトートを持ってる側も含めて脇を閉め、唇も同じように紡ぎながら前に歩き出す。いつもよりも少しだけ大股気味に歩く足音を自分でも聞きながら進んで行く間に、日陰だった所からだんだんと太陽に触れてる場所に入っていくことで、それを肌で直接浴びることに。結果として、だんだんと汗が噴き出て来た。
しばらくの間は顔をほんの少しだけ下に向けるみたいにしながら歩いてたけど、わずかに息を吸いながらそれを上に向けた途端、なるの部屋の所からカーテンが揺れる動きがしてるのが見えて。それを見てるだけで唇に力を入れながら顎を引く感じに。その状態がしばらく続いた数秒後に、家のドアが開いて、なるが体を前のめりにしながらきょろきょろした後にこっちを見て来るのが見える。
「お待たせ」
ちょっとだけ語尾を伸ばすみたいに話しかけてくるその声に私も視線を奪われる。そのまま互いに話さないでいる時間が過ぎそうになったところで、私のほうから今も門を挟んで向こう側にいるなるのほうに話しかけた。
「ううん、今来たところ」
私が片方の手で髪の毛を軽く後頭部側を掻くみたいな動きで視線を空のほうに向けるみたいな動きをしながら、少し早口目に話す。ただそのあとは下唇を横に広げる感じにしながら顔を横に向けたまま目線だけを相手のほうに向けてる。ただ、なるもなるでほんの少しだけ息を吐きながらまた目線を横にそらすみたいにしてて。体に少しだけ汗がにじむみたいな様子が顔だけじゃなくて、ワンピースから出てるうなじの辺りにも見えてる。
それに対して、私は下の唇を潰しながらも顔を横に向けて目線だけで見つめるみたいしながらも、きょろきょろさせて見てるのか見てないのか自分もわからない感じになっちゃってた。でも、周囲の木が揺れる音だったり鳥が鳴いてる音を聞いてる間に、だんだんまたなるの方に視線を戻す。
続けてなるの方から背中をぴんとさせるみたいな動きをしながらドアの中へと戻っていきながら「入って」って言う。その声は、最初の方だけ少し持ち上がってるみたいな話し方で。それを聞いてるだけで私は自分の喉を締め付けるみたいな感覚を味わいながら互いの間を隔ててた門を開ける。その音を聞くよりも早く私の方からどんどんその中に入って、なるの部屋にまで続くと一緒に前と変わらない匂いで一度だけ鼻を動かす。
「アロマ、まだ同じの使ってるんだ」
そんな感じでふと声を出してみると、向こうも自分の胸の辺りで手を小さく重ねるみたいにしながらなるが私の方に振り返ってて。それからまたこっちの方に近づいてきてた。
「そうなんだ。お母さんは自分の好きなのに変えてたみたいなんだけど」
なるが少し早めに話してる間、私も辺りを視線で一周する。ピンク色のパソコンが机の上にあったり、ぬいぐるみやカーテンも同じ色だったり、棚の上に置いてあるなるが育ててた観葉植物も同じように置いてあった。それを見てるだけで、なんだか顔のパーツ同士の距離がさっきまでと少しだけ距離が出来る気がして。それのおかげで肩もゆっくりと落っこちてく気がする。
「その子ね、東京にも連れて行ったんだけど、昨日帰ってくるときに一緒に持って来たんだ」
私がたまたまぬいぐるみに視線を向けてたことになるも気づいたみたいで、そっと近寄るみたいにこっちに来てて。それに気づいて私もそっちに視線を向けるみたいにする。さっきと同じ格好をしてるのもあり、肩同士を並べ合うみたいになったら、その顔と髪の毛と肩くらいで視線が埋まりそう。
喉を一度飲み込むみたいに動かしながら視線をなるがあの頃よりも少し早めに熊の頭を撫でてるのを一緒に見つめる。それから、少し視線を下の方に向けるとしっかりと掃除して埃も見えない本棚の所に小学生の頃にもあった絵本が今も置いてある様子が見えてた。
「なんか、ありがと」
そう言うのと一緒に顔をそっちに向けたら、なるも私の方を見てたみたいで、お互いにお互いの目を見つめ合うみたいになってた。なるの目の中に写ってる様子はそのほとんどが私の目くらいで、それ以外に見えてるのは何もない。こっちが自分の呼吸と一緒に胸だったり肩を小さく動かしてるのを服との擦りで感じるけど、なるも顔の頬だったり肩が動いてるので同じ動きをしてるのが見える。
最初のうちは少しだけ口を開けたままでそこから呼吸が溢れるのを感じ取ってたけど、気づけばそれも閉じて。それのせいでだんだん口の中に熱気が溜まっていくのがわかる。しばらくどこからか時計の針が小さく動いてる音が何度も消えることなく聞こえてた。喉が引っ込む感覚がするけど、その間も、自分の服を強く握りしめてそこに出てる脂汗が染み込みそうになってるのを感じた。
でも、どっちからということもなく、遠くでポットが沸いた高い音がした。同じタイミングでお互いに軽く謝りながら視線を逸らしつつ少し後ろに交代。互いに表情を全く変えない笑い声を出した後に視線を明後日の方に向けるみたいにした。
「おかし取ってくるね」
なるがそれだけ言ってからこっちの返事を聞くよりも早く小走りで部屋の外に出る。さらに、少し大きめな階段を降りる音を立てている後に、私も一度ため息を付きながらマットが敷いてある場所に体育座りしながらため息を吐く。それから猫背で小さなひとりごとを吐く。
その間、しばらくなるが飲み物を用意してるのか、ドアの向こうから何かが聞こえてくることもなくて、私はただ少しの間立ってるだけになってて。その間もさっき聞こえてた時計の針の音が聞こえてるのだけを感じる。
なるの名前を小さく自分でも聞こえるかどうかくらいの大きさで呼んでみる。それから自分の唇を指の先端の辺りだけでくすぐるみたいにしてると、頭とおでこの辺りが熱くなるのを感じて小走りの前のめりでローテーブルの置いてあるマットの上に座り込んで両手をおでこに当てて限界までで背中を反る。
髪の毛が指と擦れてほんのわずかにそこが音を立てるのを自分でも聞く。唇同士が強くぶつかり合ってて喉も締め付ける。目元にもしわを作りながら呼吸を何度も整えるように何度も深呼吸してた。
でも、外の音だけを聞いてたはずだった私の元に、階段をゆっくりと登ってくる音がするや否や、ほんの少しだけ息を吸いながら立ち上がって、姿見を借りて自分の姿を立ちあがる動作と一緒に確認。さっきの動きでずれた髪型を整えてからまた元の位置に戻ろうとしてた。
だけど、そのタイミングでなるが廊下を歩いてる音がいつもより遅く、ゆっくりと進んでる感じで聞こえて来てたから、はっとしながらドアを開けてあげる。それからそっちの方を見たら、向こうがトレーに入った紅茶を持ったままゆっくりと進んで来てるのがわかって、私の方からそれを持ってあげた。
「大丈夫、私にやらせて」
なるの方からそう言ったのに気づくと一緒に少し後ろに下がりながら視線を横に向けつついたけど、でも、それもほんの一瞬だけ。すぐにさっき座ってた側とは逆側、ドアからは離れた場所に座って今もトレーを持ったまま私の方に近づいてくるのを見てるだけにしてた。
「はい、お待たせ」
なるがソーサーに乗ったカップを一つ私の方に渡してくるのにお礼を言ってから一口だけ飲む。向こうも私の様子をじっと見つめてるみたいで、そんなに熱くないバラの香りがする紅茶を飲み終わったころにまた相手の様子を見なおす。
「あのね」
向こうの方から先に声を出してきて。私もそれと一緒にわずか一瞬だけだけど返事をする声を出す。でも、お互いのその声が終わるや否やまた周囲が静かな時間に包み込まれる。最初はなるも私の方を見てたけど、膝の上に乗せたまましばらくしたらせわしなく動かしてる手の方に視線を向けてるみたいで。上の唇に力を入れて下のを押しつぶす感じにしながら目元を細くしてる。
「ヤヤちゃんと久しぶりに会えて、なんか……」
いつも以上に上ずった声で話すなる。それに対して私も少しだけ喉を引っ込めるみたいな動きをしながらただ相手の様子を見つめ続ける。ただ、向こうはずっとさっきまでと同じ動きをしてるだけで。それが解けた時には顔を勢いよく上げてこっちの方を見て来るけど、でも、それに続けて両方の手を持ち上げて私の方へと見せながら声を出そうとしてるのが見えた。
「私も、なんかその気持ち、わかる」
なるの声を遮るみたいに話し始めた私は、最初はいつもより少し早口目だけど、でも、なるとまた視線が合ったところで、だんだんゆっくりにして行く。それからは視線をちょっとだけ下に向けてた。でも、それから数秒後に視線だけで相手の方を見上げると向こうが顔を横に少しだけ傾けながら頬を持ち上げた影響で目を細くしてるのが見えた。
「別に、そんな大したことじゃないから」
少し早口目に話す私に対して、なるはまた笑ってるみたいで、何度もこっちは同じことを繰り返し言ってても、なるも同じことを言うだけで。結果としてそれだけがずっと続いてるみたいだった。
読了ありがとうございました