体長10mの鷲 作:害獣駆除業者F
「はー! クソ! マジクソ! なによアンタ! キモすぎ!」
「ぺゃっwww負け犬の遠吠えが気持ちいいですなwww」
「がー! イラつく! なによ、ヤーティ偽装受けループって! 宿り木ブルルとかふざけんじゃないわよ! 大人しく鉢巻きウドハンしときなさいよ馬鹿ムック!」
「誉は浜で死にましたぞwww今日限りは、勝利の為にムックという言葉を受け入れるしかありえないwwwアリエールwww」
「そんな卑劣漢だから、新王朝説なんか唱えられるのよ!」
「……んだと、テメェ。良いぜ、ゲーム機なんか捨てて掛かってこいよ。そのビーナで殴り掛かってきても良いんだぜ、アバズレ天部が。大菩薩たる朕の天焦がす滅亡の光で蒸発させてやんよ」
「上等よ、旧世代に取り残された老廃仏がッ……! 」
「……あ、祈り来た。令和ちゃん即位の一斉祈願以来か、地味に久し振り」
「誰から?」
「よう分からん謎の鷲」
「あー……金ちゃんのお気に入りの子ね。私は適当に親潮爆裂強化と海水温弄くっといたけど、アンタは何すんの?」
「そうだなぁ……全体的にEEZ内の産卵数増やして太らせとくか。そんで海上保安庁ちゃんの船にも軽く加護与えといて…………久し振りに力使ったら腹減ってきたな。疲れんだよなぁ、コレ。そういや、最近アレあんまり店に並んでないよな。アレ食いたいわ」
「アレ? あーアレね。わかる、私も食べたい。ねー、仮にも天皇なんだから導いてよ。得意でしょ、アンタ」
「作るのはお前もちゃんと手伝えよ。働かざる者はなんとやら、だぜ」
「はいはい」
「ついでにイエっちゃん辺りみたいなこともしようぜ。朕の国、極東なのに西側諸国扱いされてるし」
◇
「ピョ(美味い)」
適合する程ではないが、中々に美味い。流石は函館産スルメイカの踊り食い。身は程よい柔らかさで、風味と甘味が有る。
「ピョー(後、五匹ぐらい欲しいな)」
私は港から再び飛行、夜の海を睨み付ける。
「ピョ(見つけ……なんだ?)」
何かが、居る。南東から、何かが来ている。ふと、私の脳裏にかつての記憶が過る。それは、雛だった私に死を感じさせた存在。あの三匹の痩せた野犬を。
力強く羽ばたき、富士山よりも上にまで高度を稼ぐ。創世以来最も遠目に優れる生物であろう私の眼は、欲していた情報を的確に脳へ伝達する。
「ピョォ……(ここはファンタジーやメルヘンじゃあないんだぞ。存在してたまるか、貴様のような怪物が。生物学を知らんのか)」
100m。勿論これはcmとの間違いではなく、陸上競技のトラックでもない。だが、そうであった方が遥かに納得が行った。
これは、私が今観測している1頭の海獣の推定体長である。
「ピョッ(分かっている。私だろう、貴様の狙いは。食欲を少しは隠せ、丸見えだ)」
巨大な、巨大な、どこまでも巨大な、真っ白のマッコウクジラ。シャチが小学生にでも思える速度で、奴は私へと急接近していた。
「ピョピョッ(せめてアメリカに居ろ、どうせならハーマン・メルヴィーにも見せてやりたかった。掛かってこい、モービィ・ディック。私はエイハブにもイシュメールにもなってやらんぞ。勝者はこの私、ただ一羽だけだ)」
危険、あまりにも危険だ。これほどの巨体の鯨が、日本の接続水域近辺に居るのは。間違いなく、海の人間達に人的被害をもたらす。奴の目は、飽くなき貪欲さで形作られている。この世の全てを呑み込んでやる、我こそが第六天魔王なるぞ、そう雄弁に語りかけて来る。
討つ。討たねばならぬ。人の世に、あんな化物が居てはならない。
白鯨との距離が縮むに連れ、奴の強大さもよく分かる。頭上の瘤の込み入った皺の隅々まで見える程の大きさ、開いた口は二列に並んだ歪んだ牙の列、大きな額はさながら城塞、波を蹴立てて泳ぐ様は木星をも凌ぐ威厳を感じさせる。
「ピョオ!」
急降下。今の私に出来る、最高速度でぶち抜いてやる。狙いは、マッコウクジラの急所。尾鰭の付け根に有る動脈。
「ピョッ……(化物が……っ!)」
私は、的確に奴の急所を攻撃した。遥か上空より、超高速で鉄よりも鋭利で頑丈な鉤爪で蹴り付けた。だが、奴は軽症で済ませたのだ。適当にやるだけで大岩を砕ける私の本気を。鉤爪は食い込んだ、30cmは確実に越える深さだ。だが、奴の分厚すぎる皮膚を貫通する程ではなかった。
「ピョピョォ!(平然とマッコウクジラの大きさの限界を越えるんじゃない! 通常の6倍だぞ、おかしいと思わないのか。頂点捕食者で通常の6倍の大きさが許される訳が無いだろ。そんな動物、見たことが無いね。過ぎたるは猶及ばざるが如し、大は小を兼ねない。デカけりゃ良いって訳じゃあないんだよ)」
流石は鯨の皮膚。大量の脂によって鉤爪はするりと抜け、再び高度を上げて急降下を目論む。
「……ピョ?」
想起したのは、かつて訪れたナイアガラであった。奴の潮吹きが、私に直撃したのである。轟音と共に高く高く飛び上がった水滴は、私に激痛を与えた。この私が、水滴で激痛を感じたのだ。
「ピョ(鬼のような破壊力に、潮吹きで雨すら起こすか。どこかの国で''海の化身''みたいなあだ名を付けられていても違和感は無い)」
白鯨は、再び潮吹き。まったく、随分と元気な奴だ。羨ましいよ。機関銃……いや、機関砲のような潮吹きは着々と私の身体に外出血とは行かないまでも確実にダメージを蓄積させていく。
私の翼開長は相当だ、いくら速く動いても下からの連射に対しては的が大きすぎる。痛む身体を抑え込み、潮吹きの嵐を掻い潜りながらの急降下。的は小さくなるが、その分被弾は頭部に集中する。
「ピョォ!」
白鯨が機関砲なら、私は攻城砲だ。貴様のその城の如き頭を破壊してやる。沸き上がる闘志を胸に、一切減速することなく鉤爪を先程と同じ箇所へ正確に突き刺す。
「ピョ(決まった)」
鉤爪は、皮膚を突き抜け筋肉を破る。大量の血が勢い良く吹き出し、白鯨は巨大な叫び声を上げる。すぐさま鉤爪を抜き、再度上昇……できなかった。奴は瞬時に身体を回転させ、未だ体内に挿入したままの私を海中へ放り込む。
不味い。浮上せねば。
吐血。白鯨は私の腹に尾鰭を叩き付ける。幾つかの内臓が破裂し、この巨体を支えて動くのに必要不可欠である胸骨にヒビが入ったのがすぐに分かった。
負傷しているのは白鯨も同じだが、あの巨体の前には小さすぎる傷口。負傷の度合いはあまりにも釣り合っておらず、海中は奴のホームグラウンド。今の私が10m泳ぐ間に、白鯨は300mを泳ぐであろう。
「ピョ……(待て。何故、私は奴の討伐にあそこまで固執していた? いつもの私なら、何かしらの策を練ってから仕掛けた筈だ。おかしい、何かが。奴の存在も、私へ向けられていた明確で異常な食欲も)」
意識が朦朧とし、視界が暗く霞む。身体は痛みと寒さでロクに言うことを聞かず、ただ奴の口が近付くのを感じる。
「ピ、ョ……(なんだ……あたたかい……?)」
「心も身体も寒い……と思っている貴方。すぐ熱くできる方法が有るんだよ」
ッ!? ……貴方は。そうか、そうだな。私には、貴方が居た。私が挫けそうになった時、いつも貴方が私の側に居てくれた。そして、必ず励ましてくれた。
「ピョ!(シジミ漁師殿!)」
「言葉さ! 寒いって言えば寒いでしょ……暑いって言うんだよ!」
「ピョ……(暑い……)」
言霊、か。言葉一つで、心持ちは変わる。心持ち一つで、行動は変わる。行動一つで、結果は変わる。
「暑くなってきたね、あれ? あっつあっつあっつあっつ」
「ピョォ(暑い、暑い、暑い……)」
「あれ? なんか気持ちも身体も暑くなってきた! あっついあっついあっついあっついあっつい! 身体が暖かくなって来たよ!」
暑い、いや……熱い。身体が、熱い。
「そうだ! 猛禽ホッカイロ! もう気持ちも身体も暖かい! 俺は何やっても大丈夫だ! この熱さで頑張ろう!」
……ってなる訳無いだろ、常識的に考えて。
暗い。白鯨が、私を完全に口の中に収めきった。おぞましい牙が私の羽毛を掻き分け、肉を突き破る。万力のような力で骨がひしゃげ、右脚は切断された。
シジミ漁師殿にはお世話になった。貴方が居なければ、私は最初の夜を迎えることすら出来なかったであろう。貴方の応援は、何よりも心強い味方であった。だからこそ……申し訳ない。
自分が情けない。
こんな弱い自分が、認められない。
だが、諦めざるを…………
「もっと熱くなれよ……」
「熱い血燃やしてけよ……」
「猛禽熱くなった時が本当の自分に出会えるんだ!」
「だからこそ!!」
「もっと!!!」
「熱くなれよおおおぉぉぉ!!!」
闘志が燃え上がる。身体が熱い、全てが熱い。熱が、興奮が私を支配する。あぁ、そうか。これが、私か。
白鯨は私を喰らわんと噛み砕き続ける。既に両翼も胴から別れ、顔の半分が消えた。胴の六割以上も単なる肉片と化し、失血量は数え切れない。
全ての力を振り絞り、白鯨の口内を嘴で削り取る。
「ピョ、オォ……(美味い。なんて、美味さだ。不味いで有名なマッコウクジラが、こうも美味いと思えるだなんて)」
そして…………適合が始まった。
「ピョォッ!(もっと、もっとだ! より食らい、より早く!)」
興奮し切った脳は、されど冷静に情報を拾い適切な判断を迅速かつ無意識に算出。最も成長できる完全なる適合ではなく、欠損の再生と速度だけに特化した不完全な適合を選択。
脚が生え、翼が生え、失われた肉体が急速に再生していく。
そして、この白鯨は……私にとって、最大の適合食材であった。
私の体長は1.5倍以上……10mにまで成長。突然の獲物の肥大化と強度の大幅上昇。私を好き勝手噛み砕いていた白鯨の牙が止まり、口が開く。
熱く迸る力の奔流のままに、それでいて美しく、私は奴の口内を抜け天を舞う。
「ピョ(悪いが、私は一羽じゃないんだ)」
私には、シジミ漁師殿が居る。どんな時でも力強く最後まで必死にエールを送ってくれる、最強の味方が付いているんだ。それが、貴様と私の決定的な差だ。
「ピョオォォォーーーッッッ!!!」
今、恐れたな? この私に萎縮したな? 寂しいじゃあないか、先程までの深淵のような食欲はどうした。食いたいんじゃあないのか、私の肉を。
高度を伸ばす。具体的な目的地はない。ただ、行ける所まで。私は、己の限界へ挑み続ける。
気付けば私は、成層圏にまで到達していた。急降下、狙いは白鯨。無茶な適合で軋む身体を承知で、最高速度で突っ切る。ソニックブームによる轟音と衝撃波が私を襲う。
「ピョォッ(鯨へ挑むは、海の戦士の誉れよな)」
読める、白鯨の思考が。力量の差が逆転したことを悟り、恐れ、逃げようとしている。だが、未だ食欲が燻り動きに迷っている。
対して、私は何処までも熱く燃え上がり、何処までも冷静に落ち着いている。今の私に、何かに取り憑かれたような白鯨討伐への固執は無い。白鯨という一度敗れかけた障害を完全に乗り越えたい。高潔なテニスアスリートのような純粋で透き通った闘志を胸に、奴の背を全身全霊で蹴り付ける。
皮膚、脂肪、肉、骨、内臓。私の鉤爪は白鯨の身体をするりと突き破り、海中まで貫通した。
「ピョ(終わりだ、白鯨。私の糧となれ)」
持病の男の娘好きが爆発したので、非公開ですが短編を四つ書き上げて落ち着かせました。需要が有れば完結後にでも手直しして同じ名前で投稿します。また、本作は全国+現在予定している十四の国を周るまで不定期投稿ながら終わることはありません。
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