体長10mの鷲   作:害獣駆除業者F

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社会主義……社会主義? 君、本当に社会主義国なの? いくら何でも資本主義的すぎない?

 

 

「ピョーピョー、ピョー、ピョピョピョー、ピョピョーピョピョーピョーピョー」

 

 網走湖を飛び出した私は、うろ覚えの曲を口ずさみながらオホーツク海へ向かう。白昼堂々、野外で歌えるというのは猛禽類の特権である。

 

 白鯨の再来みたいな事はあるかもしれんが、今の私は当時の数倍の強さ。人間とも、今の所敵対はしていない。ドクターイーグルもやったからな、SNSに恐らく居るであろう私の駆除を訴える勢力も衰えたことだろう。

 

「ピョーピョーピョー、ピョピョピョピョピョーピョー。ピョピョピョ! ピョピョーピョ。ピョーピョーピョーピョーピョーピョ、ピョーオピョピョーピョッ、ピョピョピョピョーピョ(時のーすぎゆくままに、この身を任せー。片手に、ピストル! 心に、花束。このアイアイアイアイアイ・ラブ・ユーを、親愛愛愛なる人へ。)」

 

 恐れ、おののけ。名曲達のサビだけを切り取り、野外で好き放題叫ぶこの私の特権の程を。これが、旅客機の更に上空を飛ぶということだ。

 

「ピョ(……そう言えば、放射線とか大丈夫なのか? ……まぁ、大丈夫だろう! このぐらいの高度なら!)」

 

 うおー、私の滅茶苦茶ソロライブは続くぞ。次は抜刀隊、その次は社会主义好、Come Out Ye Black and Tans、タチャンカ、滅共の松明、ポケットにファンタジー、星条旗。日本の成人男性が公衆の面前で歌うには厳しい名曲達を、ツギハギに歌ってやる。

 

 

「ピョォッ!?(うわっ、いつの間にかUAVが後ろに居たんだけど! ど、どうしよう……社会主义好とか聞かれてないよな……)」

 

 私と同じぐらいのサイズ、消音性も抜群だ。場所は後方に1800m。自衛隊はこんなの持ってたか? いやまぁ、自衛隊の装備には無知だが。

 

「ピョ(ふるさと歌ったら、帰巣本能が働いて帰ってくれないかな)」

 

 ……まぁ、危害を加えてくる様子も能力も無さそうだし無視するか。いやぁ、それにしても静かだなぁ。ステルス性もかなり良さそうだし、流体力学にも逆らっていない。かなりお高いんじゃないか? このUAV。

 

 

「ピョピョー(流石にここまでは追ってこないか)」

 

 水深800m、漸深層の手前。上空から発見した微かな魚影を頼りに、一気に潜る。原子力潜水艦の航行可能深度の2倍弱ともなると、流石の私でも動きにくくはある。だがそれでも、時速65kmは出せる。

 

 こんな深さ、そう何度も空と行き来する訳にはいかない。取る分は一度で全部取ってしまおう。多少魚体が傷付くかもしれんが……まぁ、許容範囲だ。

 

 あぁ、居た居た。場所が場所なもので見辛いが、コイツが目的の魚だ。

 

 キンキ、これが私が狙っていた魚だ。近畿地方とは一切関係無い。大きな目と胸鰭、赤い身体が特徴的。キチジやメンメ、キンキン等々、名称の多い魚でもある。地産地消の傾向が強く、北海道では本州におけるマダイの立場をメバルと共に担っている。

 

 

 七匹纏めて掴み、浮上。うぅむ、やはり何匹かは身が切れてしまったな。

 

「ピョッ(UAVは私の潜水地点上空で旋回し待機していた。間違いなく、私の監視だな。いやぁ、操縦お疲れ様です。すみませんね、貴重なお時間を取らせてしまって)」

 

 どれ、手土産でもUAV君に持たせねば。迷惑な気もするが、手ぶらで帰すのもな。無人航空機にとって、自分と同程度の体格の鷲に喧嘩を売られて壊されるなんてよくあることだ。この程度は覚悟の上で私の監視に出していることだろう。

 

 キンキのエラを外し、腹を割る。内臓を掻き出し、海水で洗う。羽根を抜き、噛んで柔らかくする。空力とカメラ位置を考えながら、比較的影響の少なそうな位置にキンキを羽根で括り付ける。む……速度を合わせての細かい作業は難しいな。

 

「ピョ(連続でハイG機動をすれば振り落とせるぐらいの強度で……よしできた。アレだな、無人航空機でも魚を背負っているとなんだか可愛いな)」

 

 足からキンキを一匹放り投げ、落ちるキンキを嘴でキャッチし補食。

 

「ピョォーッ!(美味い!)」

 

 特筆した旨味は無い、しかし良質な脂がドーンと一気にやって来るのだ。身は柔らかく、骨も少ない。高級魚ではあるが、癖も無いので子供に焼き魚を慣れさせるにも悪くはないだろう。

 

 祝い事以外では煮付けか強めの味付けの鍋で食べられることが多いが、生も結構イケる魚だったりする。やはり、網走に来たらキンキを食べないとな。

 

 朝にシラウオ、昼に網走監獄と流氷館とアイヌ民族衣装館、夜は遅めの時間にキンキの味噌鍋をビールや焼酎で楽しみ、シメに米を入れて酔いを感じながら床につく。これが網走観光の鉄板コースだ。

 

 

「……ピョォ(眠い)」

 

 キンキは美味しいからなぁ。そこまで長時間の眠りにはならないと思うが、私の身体も適合したようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピョオッ!(おい、そこのエテ公! 人様の米蔵荒らしてんじゃあねぇぜ! テメェの臓物引き摺り出して、そこに番の腹ン中の胎児でも詰め込んでやろうか? えぇ!?)」

 

 カス共が……。私は農家の方々に被害をもたらす害獣と野菜泥棒が大嫌いなんだ。電気柵を石で破壊してやって来ているとなると尚更だ。

 

 スコット・レイノルズ・ネル先生は、自著にてこう語った。

 

『穀物が世界史を動かしてきたのではない、穀物の通る道こそが歴史の心臓部だ』

 

 米を荒らす害獣は、断じて許さん。

 

 

 

 

 

「ピョッ(っと……もう着いたか)」

 

 今回やって来たのは、石狩市。札幌の北部に位置し、漁業も盛んだがベッドタウンとして都市開発が進められた。

 

「ピョ(ここは札幌と近すぎる。さっさと食事をして、さっさと出よう)」

 

 ヒラメ、言わずと知れた平べったい魚。『左ヒラメに右カレイとはよく言いますが、実は左を向くカレイが居るのを知っていますか? 正解はヌマガレイ! 目の向きが奇形になっている個体の方が多くて、極めて左に偏ったカレイなんですよねー』という問題はあまりにも有名。北海道難読地名クイズにおける長万部枠である。

 

 ヌマガレイと言えば左、兎に角左、凄まじく左、ヌマガレイは本当に左という話しか言われない。どうしてこんなにも左なのに、赤色じゃないのだろうか。

 

 

「ピョッピョ(擬態が上手だね。尤も、私の視力の前には何の意味も無いが)」

 

 ヒラメのエラに鉤爪を差し込み、二匹纏めて石狩港新港へ上がる。海中や空中で食べるのも悪くはないが、流石に陸上の方が良い。チピチピチャパチャパと跳ねるヒラメを抑え付け、その肉をチビチビと啄む。

 

「ピョピョオッ(これだよこれ! この上質な白身! 脂乗りも程よい。大衆魚も好きだが、こうも高級魚が連続となるとご機嫌になってくるな)」

 

 まだ息のあるヒラメの身体から、内臓が露出する。カレイ目が平べったく薄い身体をしているのはご存じの通り。では、浮き袋は何処に有るのか。浮き袋も平べったいのか、小さいのが大量に有るのか。

 

 正解は、''無い''。だからこそ強靭な筋肉が求められ……

 

「ピョ(こんな歯応えのエンガワが生まれる)」

 

 そしてヒラメに欠かせないのが、肝。ヒラメのエンガワを、肝醤油で。たまんないよなぁ、酒が進む。ここには酒も醤油も無い、だが……肝と共に食うエンガワは、実に美味。適合のラインなんぞ、容易く達していた。

 

「ピョオ(む……今回は眠気が来るのが早いな)」

 

 山林か港からkm単位で離れた海上で寝ようと思っていたんだが……参った。港の方々に姿を完全に晒したまま寝ることになりそうだ。

 

 

 

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