体長10mの鷲 作:害獣駆除業者F
「ピョピョッ」
おや、アレは自衛隊の戦闘機かな? 機体は……あの青いカラー、ブルーインパルスだな。下にはカメラやスマホを構える民間人も居る、公開訓練か。
「ピョー(お疲れ様でーす。平素より大変お世話になっております)」
向こうも私に気付いたようだ。ちょっと追い掛けてみようか。飛行中のブルーインパルスをこの距離、中々見れるものではない。
「ピョオ(おお、凄い凄い。横に一回転に二回転、縦にも……しかも、コブラも! これぞ曲技飛行。12Gくらいかかってるんじゃないか?)」
一機、明らかに動きの良い機体が居る。アレが隊長機だな。流石はブルーインパルスの隊長機、曲技飛行なんてお手の物のスーパーエリートって訳か。
「ピョ(どれ、私も一つ披露してみせようか。確かにエンジンなんか搭載しちゃいないがね、私にはこの化物の肉体があるんだ)」
マッハ3.5に急加速、ベイパーコーンを纏いブルーインパルスを追い越す。
思い切り翼を羽ばたかせ、風を作る。空を蹴り飛ばすように脚を上げ、風切り羽を広げ横殴りの暴風を受ける。尾羽で慎重に舵を取り、縦方向へ三回転。さらに、毎秒五回の錐揉み回転平行飛行に直角上昇。
「ピョッ(G? 私にとって、20Gまでは快適ラインさ。人間よ、この機動のマッハ3.5に弾やミサイルを当てる自信は有るかい?)」
隊長機が乗ってきたな、さっきよりも激しい曲技飛行。編隊の他の機体は、一歩引いて後ろを飛んでいるな。
「ピョ(さぁ、踊ろうか。地上の彼等に、空の美しさを見せてあげよう)」
◇
「ピョォ……(流石の私も少し疲れてきたな。雛以来、体力の限界まで飛ぶという事は無かった。白鯨戦でもスタミナについては余裕が有った。近い内に、体力増強トレーニングでもしてみるか)」
あの隊長機、どれだけ体力が有るんだ。三十分間、私の渾身の曲技飛行に食らい付き真似し続けたのだ。機体が空中分解するようなGが掛かっている筈なのに、あれだけの機動力……まったく、恐れ入る。
だが、安心したよ。アレだけ凄腕のパイロットが居るんだ、有事の際には30機ぐらい敵戦闘機を撃墜してくれるだろう。日本の空は安泰だな。……mig25事件みたいな事はもう無いと信じよう。
「ピョ!(さて、到着したぞ)」
私が求める、次の旬の品。ソレが眠る街、厚岸町へと。
「ピョ(厚岸と言えば、それだけで何か分かる人も一定数居るだろうな)」
なんと言っても、厚岸は牡蠣だ。そりゃあ生産量で言えば広島の養殖モノが断トツ。だが……味についてとなれば、広島には悪いが話は変わってくる。ハッキリ言うが、牡蠣を食いたくて旅行に行く場所は''絶対に''厚岸町だ。これは対立煽りではない、事実である。秋刀魚、牡蠣、ウニ、ホタテ、昆布、世界広しと言えどこの五つに関しては北海道産が一番美味い。日本全国でじゃない、この天の川銀河全てでだ。
「ピョッピョー(厚岸は好きだ。最近はウイスキー業も始めてな、歴史は浅いが中々美味い。生食に向いた厚岸の生牡蠣を、その土地の酒でヤる。……たまらない)」
厚岸は、釧路振興局の管轄だ。位置で言えば、根室と釧路の間。根室振興局と釧路振興局は、根釧台地という地形の上にある。
根釧台地は火山灰と泥炭が積み重なった土地であり、栄養が少ない。北海道の中でも一際寒いことも重なり、農業には向かない土壌である。その分、酪農への適正が高く牛乳生産量一位の別海町なんかも有るのだが。
この泥炭というのが、ウイスキー作りには大事なんだ。簡単に言えば、寒さと水はけの悪さで堆肥になれなかった植物の残骸である。ピート、という風にもよく呼ばれるな。
燃料であると同時に実は食用可能で北朝鮮だと飢饉の時にはパンに混ぜたりしている泥炭だが、ウイスキーの原材料であるモルト──大麦の麦芽を乾燥させる時に泥炭を焚くと、スモーキーで大変素晴らしい香りを纏うようになるのだ。
ウイスキーの発祥であるブリテン諸島でも泥炭はよく採ることが可能で、スコットランドと言えばスモーキーな香りのウイスキー、みたいに思っても良い。
「ピョピョ(さて、とっとと狩りにでも行こうか)」
厚岸湖という汽水湖へ飛び込む。岩場に眠る牡蠣も殻を水中で粉砕しこじ開ける。身に付着した微細な殻の破片は、しっかりと落とす。水面へ顔を出し、生牡蠣を口へ運ぶ。
「ピョッピョッピョーッ!」
特濃。凄まじい、特濃ミルク。別海牛乳すら彷彿とさせる、圧倒的濃度。濃厚な甘味と旨味に、磯の香りが丁度良いスパイスになっている。
海のミルクとは良く言うが、あくまでソレは味ではなく栄養の話。だが……こと厚岸産においては、超特濃クリーム並みの味わい。
「ピョォ……(なんだ、この美味さ。コレでエクレアでも作ってやろうか?)」
……もう眠気が出てきた。それも、かなり強い。コイツは一日ぐらい眠ってしまいそうだ。
私は兎に角厚岸湖から離れようとするも、誤って厚岸町市街地の方へと来てしまっていた。
「ピョッ(クッ……せめて、緑の多い場所で眠……しまった、人だ)」
着地しようとした瞬間、予定地がBBQ場であることにようやく気付いた。だが、これ以上の移動はできない。変な場所に降りて被害を出すよりはマシだ。
「んーっ、この焼き牡蠣とっても美味しいですね!」
「えぇ、そうね。まるで別海の乳牛や明日菜さんのミルクみたい」
「ちょっ、さっ、桜子さん!? こんな人の居る場所で、そんなっ……」
「あら、でも貴女こそ……こんなに大きくしちゃっているじゃな……っ!? こ、これは……例の!?」
「あわわ……」
あー、眠い。おやすみなさい。
◇
「ピョ(まぁ……そうだよね。知ってたよ、うん)」
またしても、私を取り囲むメディアの方々。これだから人里で寝るのは嫌なんだ、身動きができない。
「ピョォ……(適合後の寝起きはお腹が空くんだよなぁ。そりゃあ私が金になるネタっていうのは分かるが、コレじゃ動けないな)」
おっ、蔡栄文総統閣下みたいな顔の人居る。すごーい、艦コレのコスプレ似合いそう。うわっ、こっちには習金平主席みたいな人が。コッチは熊のぷーさんのコスプレが似合いそう。魔人ブゥのコスプレが似合いそうな人も居るなぁ。
他人の顔を勝手に評価するのはあまり趣味の良いことではないが、向こうから事実上の拘束を行いながら視界に入り込んでくるものだから仕方がない。
「ピョオオオォォォーーーッッッ!!!(失せろ)」
……はぁ。
離れていくメディアを尻目に、私は太平洋へ食事に向かった。
「ピョ?」
おや、アレは……ハッカクか。珍しいな。
ハッカクと言っても、勿論スターアニスのことではない。魚の方である。正式名称はトクビレ、漢字で書くと特鰭だ。その名の通り特徴的な鰭を持っており、雄の場合は自分の胴より遥かに大きい。八角形の鎧を纏っていることも特徴的であり、一般的にはハッカクと呼ばれることが多い。
漁獲量の少なさから中々食卓に上がる魚ではないが、非常に食味に優れる白身魚だ。肝は比べ物にならないが、純粋な身の味で言えばヒラメにも匹敵……いや、僅かに上回るだろう。
「ピョ(うーん、脂がよく乗っていて美味しい)」
白身魚と言うと、一般的には繊維質で淡白な味わい。だが、ハッカクは濃厚な旨味と脂身を持ち、弾力が有る。焼いて食べることが殆どで生は初めてだったが、結構美味しいじゃないか。