体長10mの鷲 作:害獣駆除業者F
ぐごー、ぐごー
ぐごー、ぐごー
ぐごー、ぐごー
「ピョ(あぁ……よく寝た)」
野犬との戦闘の直後、私は極度の疲労と負傷の影響かそのまま眠っていたらしい。足元には、野犬の死体が転がっている。腐っている臭いもしないし、食ってしまうか。
「ピ……(美味しくない。流石に、時間を置きすぎたか。栄養状況も品種も劣悪だし)」
……コレ、全部食べるのか? うん、結構嫌だな。悪いけど、捨てさせて貰おう。
一匹ずつ鉤爪で掴んで飛び、川から少し離れた所に捨てて行く。すぐに口直しとして水を飲み、嘴ではなく滑空と鉤爪でスマートに魚を捕る。
「ピョオ(アメマスか。良いじゃないか)」
うん、美味しい。流石は食用魚だ。サケ・マス界では相当下の存在だが、サケ・マスには変わらない。ギンブナなんぞよりは、遥かに美味しい。
そう言えば、私って多分……いや、間違いなく相当の異常個体だよな。マトモに飛ぶための羽も揃ってない生後一日目であそこまでの飛行能力を持つし、嘴と鉤爪が完全に成鳥のソレだし、筋力も高い。オマケに元人間で、それに見合った脳をしてい……? アレ、大丈夫だよな? なんか忘れてたりしないか?
えー……えー……魚類学より、キノボリウオ亜目についての解説をします。
主にアジアとアフリカの熱帯に生息しており、溶存酸素の少ない水域での活動を得意とする淡水魚。主に肉食で、昼行性が基本。雄が泡巣を作ることが多いが、口内保育を行う種も居る。
なんと言っても、特徴は上鰓器官。コレによって空気による呼吸が可能な為、酸素の少ない水域に棲む。上鰓器官はとても複雑で、ラビリンス器官とも呼ばれる。また、棘条上目らしく棘条を持つ。
……よし、多分鷲になったのが原因で忘れていることは無いな。いやぁ、良かった。もう数ヵ月もすれば、風切り羽以外の羽もきちんと揃い雛から幼鳥になれるだろう。そうなったら、活動範囲を広げても良いかもな。
◇
【悲報】白髪混じりになった上に大量の巨大黒子が発生。早くも老化か
というのは勿論冗談であり、単純に私が幼鳥になったが故の羽毛の色の変化である。また、私は鳥類について詳しくないので自分が一口に鷲と言ってもどの種なのかは分かっていない。多分……ハクトウなのかなぁ? ハクトウワシ6:オジロワシ:3オオワシ1ぐらいの確率だろうか。
……まぁ、ハッキリ言って私を既存の種に当て嵌めることは出来んが。現在の私の体長は、推定180cm弱。これは翼開長ではない、嘴から尾羽まででの縦の長さである。翼開長なら5mは有る。体重もおそらくは15kg程。
この重量級でありながら、飛行は快適かつ高速。少なくとも、ここ一ヶ月は鳥を補食するのに苦戦した経験は無い。嘴と鉤爪もより頑丈で鋭利になって行き、間違いなくこの地域最強と至った自負が有る。正直、アムールトラぐらい倒せるんじゃないかと思ってる。
さて、そろそろ私も活動範囲を広げようと思う。身体の巨大化につれて必要エネルギーは上がって来てるし、そもそも色んな美味しい物を食べたい。後、ここが何処なのかも知りたい。東北以北極東ロシアオホーツク海側以南の何処かだとは思うが。
まずは……そうだな、北に向かおう。確定的な情報或いは終点にたどり着くまで、かっ飛ぼうじゃあないか。
「ピョォー(おぉ、なんだか大きな湖に辿り着いたぞ。……海と繋がっているな、汽水湖か。いつもの場所もそうだったが、土や植生もより湿地感が強いな)」
む? 看板が有るな。向かってみよう。
「ピョ……(えぇっと……風蓮湖! 風蓮湖か! 風蓮湖と言えば……アレか。ここは根室市の西部か)」
根室市、それは我が国の本土最東端に位置する街。秋刀魚漁の一大拠点であり、世界的に見ても希少な花咲蟹という甘味の強い蟹が大量に水揚げされる花咲港を所有していることで海産物好きには有名。
また、北方領土は根室振興局の管轄。元島民の方々も数多く住む、北方領土問題の最前線である。因みに、根室市と北方領土南端は肉眼で見えるレベルの近さ。
とは言え、ぶっちゃけ田舎。人口も確か5万人以下だった筈。最寄りの市とも、相当離れている。道東の衰退は、何処も同じだが。三県一局時代は、札幌県函館県根室県だったんだが……悲しいなぁ。
……そう言えば、たまに根室市に北米のハクトウワシが越冬しに来るみたいな話無かったか? ハクトウワシの産卵時期的にも、もしかしたら私の親鳥は……。
「ピョ……(うぅむ、根室だったか)」
少し残念だ。いや、別に根室市が嫌いな訳じゃない。だが……
「ピョォ…(秋刀魚、花咲蟹、鮭……根室の海産物の旬、秋なんだよな)」
今は夏、根室の時期じゃない。花咲蟹は今も美味いが、10月の頭までは旬。よし、根室は離れることにしよう。そして、秋になったらまた来よう。
そうだな……北海道で夏が旬のモノと言えば、ウニやホタテ、昆布といった類のモノ。
「ピョオォーッ!(行っちゃおうじゃないか。北海道最東端から、北海道最北端へ)」
北西を向き、前傾姿勢を取る。脱力と力みのバランスを整え、一気に羽ばたく。
「ピョオ!(いざ、宗谷へと!)」
とは言っても、腹は空く。ということで、私は今根室と宗谷の中間程に有るサロマ湖という所にやって来ている。
ここは北海道最大の汽水湖であり、ホタテ養殖の発祥とも言われている。……まぁ、ここではホタテは食わんが。確か、サロマ湖は稚貝の放流場所だからな。水産関係は未だに人間的倫理観が有るのだ。
「ピョ(居た)」
今回の私の狙いは、そう……クロガシラカレイである。
その名の通り、カレイの仲間。元々はクロガレイと呼ばれていたが、同名のカレイと区別を付けるためにクロガシラと呼ばれるようになった。
正直私は一般的なカレイならサメガレイが一番好きだが、クロガシラもクロガシラで美味いことには変わり無い。
煮付けでも唐揚げでも無く、まるごと貪り付くしか選択肢が無いのは残念だが……まぁ、鷲になって馬鹿舌堕ちした私なら美味しく楽しめる。
上空から、一気に急降下。水面を突き破り、湖底に潜り込む。サロマ湖は深くない、基本的には10m以下の浅い湖。この程度の距離、私にとっては無いに等しいようなものだ。
擬態しているつもりのクロガシラに鉤爪を食い込ませ、掴んだまま水面を出る。潜水時間、僅か一秒。この程度、何の問題も無い。
そのまま飛行し、再び上昇。次のクロガシラを探す。クロガシラ一尾では、私の腹は膨れんよ。次々と捕らえて行き、三尾纏めて陸地へ運ぶ。
まだチピチピチャパチャパと暴れるクロガシラを、尻尾から嘴で引き裂き食べていく。味は淡泊ながら確かな旨味が感じられる。本来、煮付けにでもしないと微妙な魚だが……今の私には、悪くないな。
さて、宗谷まで繋ぐための腹拵えも済んだ所で!
「ピョオッ!(再開、いざ宗谷へ!)」
◇
『続いてのニュースです。北海道常呂郡佐呂間町サロマ湖にて、新種と思われる鷲が確認されました』
「へぇ、新種の鷲! しかも近所じゃないか」
『こちらが、撮影された映像です。サロマ湖にて、クロガシラカレイを狩っている様子が確認できます。専門家はこの種を現存する新顎類最大の可能性が高いと評しています』
「新顎類……というのが何かは分からんが、取り敢えず凄い鷲なのだろう」
『大きさや能力にこそ大きな差が有りますが、その外見的特徴はハクトウワシの幼鳥と同一であり、近しい種か突然変異の可能性が高いとのことです。また、複数の目撃情報と動画及びその内容からフェイク動画の可能性は極めて低く……』