体長10mの鷲 作:害獣駆除業者F
「ピョッピョピョッ、ピョー!!!」
いやはや、実に素晴らしい目覚め。流石の私もこれには時を告げざるを得ない。
エゾバフンウニ、実に美味であった。間違いなく、今までの食事で最高の逸品であった。しかし、私の食への探求は終わらない。アレに並ぶモノ、あるいは超えてくるモノだって有るだろう。想像するだけで、腹が空いてくる。
「……ピョ?(いや待て、本当に空腹だぞ。凄まじく空腹だ。早く魚を獲らねば)」
む、やはり身体が大きくなってい……
「ピョォ(大きくなりすぎじゃない?)」
なんだコレ、化物すぎないか? 鳥類の飛行原理から考えて有り得ないと思うのだが。私は硬骨魚類専門で鳥には疎いが、流石に非現実的の極みであるとは分かるぞ。物理学ってなんだっけ?
「ピョピョッ(翼開長8m以上は確実に有るのだが。翼骨太っ。ここまで来ると流石に笑ってしまうな。全力で威嚇したら、ヒグマもビビって帰宅しそう)」
私は前傾姿勢を取り、飛行を開始する。違和感こそ大きいが、飛行できない程ではない。そして、違和感の修正が終わる頃には隼の急降下とも同等以上の速度で平行飛行をしていた。
「ピョ(なにこれ)」
まぁ、あのー……アレだ。現代科学では説明できない超効率的スーパー器官が私の中には有るんだろう。転生してることもホタテ成長も、どちらも異常だ。なら、今回の成長と馬鹿げた身体能力だって有り得…………る、のか?
「ピョピョ(よし、一旦無視しよう。決めた、私は自分の特異性については無視する。全て、『私とはこういう生き物だ!』で飲み込むことにする)」
さて、そうと決まればさっさと動こう。ずっと追従してくるドローンも鬱陶しいしな。私は数kgの魚を跡形も無く消失させ、とある場所への移動を開始した。折角、稚内に来たんだ。食事だけでなく、軽い観光もしたいだろう?
目的地に到着した私は、周囲を傷付けないようにゆっくりと着地する。今回私がやって来たのは、稚内の一大名所''白い道''。
凛と草花が咲き誇る緑豊かな宗谷丘陵に敷かれた、無数のホタテの貝殻によって出来た道。奥に広がる青い海と合わさり、正に絶景。例えこの場に居なくても、写真を眺めるだけで爽やかな風が吹くのを感じるだろう。
「ピョ(こんな美しい道をただ飛ぶのでは、風情が無い)」
冷涼な潮風が頬を撫で、雲一つ無く晴れた澄みきった空に輝く太陽の日差しの温かみが心地よい。……今の私に頬は無かったな。アレだ、イーグルジョークってことにしておこう。というか、紫外線とか本当に大丈夫なんだよね? 前世の私は結構お肌とか気にしちゃう系お兄さんだったのだが……。
「……ピョ(待て。私の性別ってどっちだ)」
気にしたことが無かった。完全に男のままだと思い込んだままであった。鷲の男性器は極端な寝取られ漫画の彼氏よりも小さい為、自分で確認は出来ない。
「…………ピョ(……そう言えば、猛禽類って雄より雌の方が大柄だったな)」
…………。
「ピョ!(私は雄! ただの雄鳥! 例え違っても、私の性自認は雄だ! よって、私の性別は雄!)」
あー、景色が綺麗だなぁ。
白い道を概ね堪能した私は、空を飛び次なる観光スポットへやって来ていた。観光スポットと言っても、たいした所では…………ンン、ちょっと失礼か。
野寒布という岬が有る。根室市の納沙布岬と似た名前なので、聞き間違えを頻発するのはあまりにも有名。
そんな野寒布岬のすぐ近くにある、野寒布寒冷流水族館に今回はお邪魔している。お邪魔していると言っても、迷惑になるので屋内には入っていない。当然だが入館料も払っていない。屋外のプールを少し遠くから眺めるだけである。海獣の宝庫たる野寒布岬らしく、ゴマフアザラシを見ることが出来る。人間時代にも、ここには一度来たことが有る。
因みに、ここで見れるモノは全て小樽水族館で見れる。
「ピョォー(可愛いねぇ。狩猟採集ソロライフに、久し振りの癒し要素だ)」
アザラシ好きなんだよなぁ、アザラシ。可愛いよね。食べてしまいたいぐらいだが、今の私が言うと本当に冗談にならない。
丸っこいフォルム、ボケーッとした顔付き、地味に大きな身体、大変愛らしい動物だ。それに、脂質が高くて美味し……思ったより鷲の感性に毒されているな。
「……ピョッ」
参った、アザラシと目が合ってしまった。恐怖やストレスを与えてしまわないように、遠くから見ていたんだが……。やはり、私は生粋の頂点捕食者だな。隠密能力が無い。
「ピョォ……(あっ、ごめん……。嘔吐するほど怖がらなくても良いじゃあないか。安心しろとか、友達になろうとまでは言わないが……)」
申し訳ない、本当に。自分の威圧感を、見誤っていたのだろうか。なんだか、人間の生存圏から完全にツマミ出されつつあるようで……少しばかり、寂しさも感じる。
稚内の、最後のスポットに行こう。
「ピョ(懐かしい)」
宗谷岬、稚内の象徴。石碑の前に立ち、ジッと海を見つめる。以前も、ここには来たことがある。こういった場所に訪れると、なんだか感慨深くなるものだ。
「ピョッ(随分と、見られているな。不思議ではないが)」
宗谷岬は有名な場所だ。観光客も多い。今は二組の観光客が居るが、全員私をガン見している。
……な、なんか恥ずかしいな。私は結構シャイなお兄さんなのだ。
よし、折角だし何かしてあげるか。怖がらせない範囲で適当なアクションでもしてやれば、良い土産話になるだろう。
「……ピョ(歌います)」
宗谷岬で歌う謎の怪鳥。うむ、良いじゃないか。言葉は出せないが、鳴き声をそれっぽい感じで出せば国歌判定にはなるだろう。
歌い終えた私は翼を一気に広げ、翼開長も誇示。私のサービス精神は旺盛なのだ。
「ピョッ……?(なんだ!? 雉と鶴が大量に群がって来たぞ。襲撃か? 負けはせんが、この数は面倒だぞ)」
あぁいや、敵意は無さそうか。というか、何故雉と鶴がいきなり宗谷岬に大集合しているんだ。なんか一匹金色のペンキ被った鳶も混ざってるし。
うわぁ……鳥は嫌いじゃないが、こうも大量に群がってると少しキモいな。ほら、そこに居られると飛ぶのに邪魔だからどこかに行ってなさい。食われたいのか?
◇
『続いてのニュースです。2日前、サロマ湖にて発見された新種の鷲が変態的な成長を行いました』
「鷲が……変態? いやいや、虫じゃないんだから」
『こちらの映像は、本局のスタッフがドローン撮影したものです。肉体が急激に巨大化している様子が確認できます』
「……今日ってエイプリルフールだっけ?」
『水深30m以上の潜水、特異な飛行能力、そして今回の変態的成長、現代科学の認識ではこのような存在は実現不可能とのことです。専門家は、未知の特殊な器官を有していると推測しており…………続報が届きました。新種の鷲が、北海道宗谷振興局稚内市宗谷岬にて確認されました』
「捕まえて調べるか、見守るか、世論は割れるんだろうなぁ」
『こちらの映像をご覧下さい』
「…………どうして君が代を歌ってるんだい? 君は」
本当は歌詞を乗せたかったが、君が代の歌詞コードの取り扱いがいまいち分からず断念