体長10mの鷲   作:害獣駆除業者F

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この作品に政治的な主張・啓蒙活動は一切含まれていません。Taiwan is a country

 

 

 鯖味噌煮による適合で、私の体長は4mを超えた。それに伴い速度も何故か上昇し、今では本気で飛べば平行移動でも新幹線よりも遥かに速い。

 

 目的地は、利尻島。寄り道、休息、共に一切の不要。最速、徹底的に最速を突き詰める。

 

 所詮は、餌を巡る自然界の争いの結果。ヒグマにも私にも罪は無い。だが、忘れるな。私は人を辞しても獣に堕ちたつもりはない。己が猛き身を知と理で律し、徳と誉を抱くのだ。明確な罪が無いからと、自らが明確な原因たる問題を野放しには出来ん。私という男の、父祖より受け継ぎし矜持にかけて。

 

「ピョォッ!(もっとだ。もっと速く!)」

 

 1機のヘリが、目の前を飛んでいる。日本放送機構、通称NHKの報道ヘリのようだ。おそらくは、私と同じ目的地か。随分と勢い良く飛ばしているな。

 

「ピョ(お先に失礼)」

 

 いやしかし、ヘリコプターというのは実にうるさいな。私からしてみれば、空の暴走族だ。真横を通り過ぎると、本当にそれを実感する。早朝に隣家のご老人が古ぼけた芝刈機のエンジンを起動した時に並ぶくらいうるさい。

 

 

 

 

 

 

 

 出発から一時間程、私は利尻島に到着した。人の気は明らかに少なく、間違いなくヒグマの影響だ。

 

「ピョオォ……(さて、どこに居る?)」

 

 遠目の象徴たる鷲の目で、利尻島を上空から見渡して回る。だが、ヒグマの姿は見えない。

 

「ピョ(警察のリボルバーなんぞ、ヒグマにとってはガスガンのようなものだ。礼文島の駐屯地から自衛隊が緊急出動した可能性も有るが、それにしては動きが早すぎる。独裁か規律違反でもなければ有り得ない)」

 

 特にこれと言った対処はされておらず、屋内や山林に隠れている……と、見るべきか。私は利尻島中心部に聳え立つ、利尻富士の山頂に降りる。一番可能性が高いのは、この中だろう。だが、私は大きすぎる。木々の間を縫って山林を飛行するのは難しい。破壊しながら進むのも気が引ける。詳しく調べるには、時間が掛かるな。

 

「ピョ……(もどかしい。私に部下でも居れば、な。所詮は個、どれだけ力を付けようと理性によって縛られては群には及ばぬ)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 捜索から一時間、中々見付からない。再び高度を大きく上げて利尻島全域を観察していると、複数種の野鳥が大規模な群れを成しているのを見付けた。

 

「ピョ?(なんだ……? 宗谷岬でもそうだったが、最近の宗谷地方では鳥類の異種群でも流行っているのか?)」

 

 そう言えば、アソコはまだ調べていなかったな。少し、様子を見に行ってみるか。

 

 

「ピピピッ!」

「ピューヒョロロロッ!」

「ピョッピョピョ!」

「ピャアーッ!」

「チュッ、チュピッ!」

「ミャアァー!」

「ウォッ……ゥアァッ、キャウッ……」

 

 怯えて縮こまるヒグマと、その上で鳴きながら踊り続ける鳥の群れ。オオワシからシマエナガまで、多種多様な鳥類が喧嘩することなく統制を持って、ただひたすらにヒグマを煽り散らかしていた。

 

「ピョォ…(な、なにこれ…………。え、キモッ……群がりすぎじゃない? なんかもう蚊柱みたいになってるよ。流石にヒグマが可哀想なんだが)」

 

 鳥の群れは、私が近付くと瞬く間に鳴くのを止める。地に降り立ち、心の底から恐怖に染まったヒグマへの道を作る。彼等の動きは、まるで高官や君主を前にした軍隊かのようであった。

 

「ピョ……(えぇ……? こんなシチュエーション、想定していないぞ。参ったな、コイツの死体を警察署に送り届ける予定だったんだが)」

 

 目に光は無く、口からは血と唾液以外に混ざり気の無い胃液を吐き続ける。真新しい外傷は特に無いが毛の多くが抜け落ち、死体と言われた方が納得する程に活力が無い。血の混ざった糞尿を垂れ流しており、実に不衛生。

 

 こんな肉の不味い腑抜け、態々殺す価値が有るのか? 私は肉食野生動物、しかし殺生を好む訳ではない。だが、放置は以ての他。

 

 

「ピョ……(まぁ……そうだな。ここまで酷いと、もはや立ち直ることは出来まい。野生でも飼育下でも、この先は短いだろう)」

 

 

 ならば……一思いに、この世の全ての苦しみから速やかに救済してやるのが、一番人道的なのだろうか。単なる狩猟以外での命の取り扱いというのは、何が正しいのか分かりかねるな。

 

 

 

 

 ヒグマの首に、鉤爪を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ピョーッ(おはようございます。一つ、ご報告に参りました)」

「うぉあっ! ば、化け物!?」

「馬鹿者! 滅多な事をほざくでない! このお方を何方と心得るか! 掛けまくも畏き、まこと尊い……!」

 

 なんで喧嘩しているんだ、この警察官……。というか、『掛けまくも畏き、まこと尊い……』って私のことを言っているのか? 確かに神秘的な巨体だとは思っているが、そんな神仏と同格に扱われるような存在ではないぞ。寧ろ、化け物の方がよっぽど近いだろう。どちらかと言えば、妖怪や魔物の類いだ。

 

「ピョ(例のヒグマは私が責任を持って処理しました。ご安心を)」

「おぉ! やはり貴方様こそ高天原より舞い降りし御使い! 列島の臣民に仇なす朝敵を滅さんと仰るか! 我が国の未来は、太陽の如く輝いている! 今こそ、北征の機なり! おい東郷、島中の警察を集めろ! 米軍からの横流しも全部出せ! 我等、朝敵の都を焦土とし、下劣なる民族を浄化せん! 構築せよ! 北方生存圏を!」

 

 な、なんか凄い人居るんだが……。北征って……第二次日露戦争を今すぐ仕掛けるってこと? ここまで極端に右に振り切った方は初めて見たぞ。60年代の極左暴力集団レベルの過激思想だ……。普通の右翼とは次元が違いすぎる。イマドキ、極右でもここまで激しくはないんじゃないか?

 

「神の祝福は我等に有り! いざ、樺太ォ!」

「馬鹿言ってないで仕事しましょうよ、署長」

「馬鹿とは何だ馬鹿も……う゛ぅっ」

「あっ、ちょっと鷲さん俺のこと見ないでね……怖いから、普通に。ヒグマとは比べ物にならないから」

 

 チョークスリーパーで初老の警察を絞め落とした若い警察にヒグマの首を押し付け、私は警察署を後にした。

 

 この署怖い。色々な意味で。もう二度と寄らない。

 

 

 

 

 

 

 

「NHKの者ですけどもー」

「お待ちしておりました。わたくし、腹痛の署長の代理として来ました東郷平九郎と申します」

「あぁ、どうも。ヒグマ出没ということで取材に来たのですが……その首は?」

「例の鷲が持ってきたんですよ、この首を。彼のやって来た方向に署員を向かわせましたが、首から下も発見しました」

「なんと!? 詳しく聞かせていただいても?」

 

 

 

 

 

 

「ピョ(実は初めて来たんだよな、利尻島)」

 

 以前から行ってみたいとは思っていたのだが、中々機会に恵まれずな。大学時代は私的に行く程の余裕は無かったし、社会人になってからは東京在住だしで。

 

「ピョッピョー(理由こそ不本意ではあるが、折角来たんだ。少し、見て回ろうか)」

 

 とは言え、利尻島って昆布と利尻富士以外に何か有るのか? いまいち想像が付かないが……まぁ、探せば有るだろう。

 

 

「ピョ(展望台だ。看板辺りに何か情報とか無いか?)」

 

 ……白い伴侶の丘? 変わった名前の展望台だな。正式名称は、沼浦展望台と言うらしいが……説明が記されてあるな。

 

「ピョピョ(ははぁ、なるほど。ここから見える利尻富士の冬景色が、かの有名な北海道銘菓こと白い伴侶のロゴなのか)」

 

 確かに、良い眺めだ。山と湖が、綺麗に映っている。まぁ、所詮は陸からの一般的な自然の風景の域は出んが。

 

「ピョッ(利尻島全域の地図も有るな、ありがたい)」

 

 おや、これは何だ? 北の厳島? そんな場所が有るのか、行ってみよう。西北西に10km程度、私にとっては夏に最寄りのコンビニへアイスを買いに行くよりも気軽な距離だ。

 

 因みに、日本酒とビノの組み合わせはガチである。あまり飲まぬ者には『チョコでコーティングしたバニラアイスと米wwwんんwwwありえませんぞwww』と一蹴されるような組み合わせだが……アルコールは、全てを調和させる。

 

 

「ピョピョッ(おぉ、小さいが良い場所じゃないか。厳島のようには見えんが)」

 

 とは言え、海に囲まれた奇岩と朱の社は中々に美しい。看板曰く、弁天様に由来を持つ場所らしい。なんでも、海の男共が弁天様に助けられたとか何とか。

 

「ピョ(お参りでもしていくか。賽銭……は、私の羽根で代用しよう。これは硬貨、これは硬貨、これは硬貨、これは硬貨…………よし、硬貨の偽造に成功したぞ)」

 

 弁天様は……水や楽器の女神様だったか? 七福神は恵比須様ぐらいしか明るくないが、水関係の願いでも込めておくか。

 

 

 我等が列島に、水産の恵みがあらんことを。

 

 

 

 

 

 

「……それ、私ってよりかは恵比須に祈るべき内容じゃない? まぁ……良いけどさ……別に……」

 

 

 

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