「ねむい……」
目を擦りながら廊下を歩く。
入試から一月と少し、本来ならば雄英高校ヒーロー科としての輝かしい高校生活が始まる日ではあるのだけど、如何せん眠くてそれどころではない。入試が終わってからはずっとぐっすり昼まで寝ていたのもあって、今日の目覚ましには殺意すら抱いた。
というか廊下長くない?校舎広すぎない?早く教室の席で寝たいのに……。
「1-A、1-A…、ここね」
大きい扉を開ける。異形用ではあるのだろうけど、ここまで大きくする必要はあるの?
教室には既に結構座っているわね。私の席は……、1番後ろに1つだけある席か。私の影響でクラスが21人になったのは聞いていたけれど、もう少し配置どうにかならなかったのかな。まあ、特等席とも言えるかもしれないけどね。
「ケロケロ。久しぶりね。入試の時はありがとう。改めてこうしてお礼を言いたかったの」
「きみは……あの時の子か。あの時も言ったけど気にしなくていいよ。当たり前のことをしただけだからね」
「それでもよ。私は蛙吹梅雨、よろしくね」
「私は竜胆鏡花。よろしくね。……ふう、私、変温動物だからこの時期の寒さはまだ辛いのよね。眠いから今はこのくらいでいいかな?」
「変温動物……ええ、わかるわ鏡花ちゃん。まだまだ寒いものね」
そんな会話をしつつ、入口近くに座っていたからか話しかけてきた子…蛙吹梅雨から離れて自分の席に向かう。もしかしたら彼女も変温動物なのかもしれない。見た感じでも明らかに異形型の個性だったからね、それに私と同じく寒いのが苦手なようだったし。
まあそのあたりの事は後で聞こう。今は、少しでも、寝たい……。
「
「鏡花ちゃん、起きて。グラウンドに出なきゃ」
「……うーん…。なんで……グラウンド……」
起こされたと思ったら何故かグラウンドに出ろと言われていた。
入学式って体育館とかでやるものでしょう?むしろ雄英なんだからそういうホールがあってもおかしくない。
正直体操服に着替える時点で嫌な予感しかしない。何故か前の連絡では新入生代表の挨拶とかを考える必要はないって話だったのは、まさかこういう事だったとはね。
担任の…確か相澤消太先生だったね。中々クセが強そう。というよりさっきから話を聞いている限りではとんでもなく強い。寝袋蓑虫、ウォーターONゼリー、髪の毛や髭も長いって…。
プロヒーローで社会人なんだから外見くらいちゃんとした方がよくない?
「「「「個性把握…テストォ!?」」」」
やっぱり嫌な予感って当たるものだね。まあ今回のは予感というよりほとんど確信に近いものだったけど。茶髪の子が入学式やガイダンスの事を聞いているけれど、今の状況でやるわけがないよね。
外の寒さのせいでぶり返してきた眠気はさっきの皆の大声である程度目が覚めたからとりあえず話を聞こうか。
…ふむ。やる事は体力テストそのまま、個性ありで何をしてもいい。異形型だと純粋な力なんかの測定は変わらないけど、やり方を工夫して出来ることを知る感じかな。
私がやることは魔力放出を使うことくらいだね。
「竜胆、中学の時ソフトボール投げ何mだった」
「あー、測定不可です。見本にするなら発動型の個性の方がわかりやすいと思いますけど……」
「…一理あるな。入試の次席は、爆豪か。お前は何mだった」
「アァ!?次席!?……67m」
薄い金髪の子…聞く限り次席の爆豪に何故か睨まれた。相澤先生が睨んだのに気づいたのかすぐに態度は戻したけど、凄く敵意を向けられている気がする。まあ、気にならない程度の可愛いものだね。
いや、ソフトボール投げで「死ねぇ!!!」の掛け声はおかしくない?誰に向けて言ったの?さっき敵意向けられてたの私なんだけど……まあ今程度の爆発だと傷一つつかないだろうから気にはならないけど……。
周りの表情を見る限りはみんな似たような顔してるね、正常でよかった。けど、その後の反応は面倒くさい事になりそうな気がするよ。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し除籍処分としよう」
「「「「はあああ!?」」」」
うん、綺麗に声も揃ってるしいいクラスだね。もしいつも朝からこのくらい騒がしいなら勘弁して欲しいけど、今は運動する前だから丁度いい。
しかし、最下位は除籍処分か。私には関係ない話だけど……、あの感じは本気だね。私の目は嘘を見抜いてしまうものではないけど、そんな物がなくてもあの目を見れば本当かどうかはわかる。
「生徒の如何は
前から色々と飛び抜けてる学校だとは思ってたけど、これが雄英か。
「雄英高校ヒーロー科だ」
面白いね。
第1種目:50m走
速度において私に死角はないわ。けど、流石に短すぎるね。最初に走っていたエンジン?の彼も最後まで加速し続けていたから最高速で走ればもっと早いでしょうし、本命は持久走ね。
それでも手を抜く意味はない。心臓…炉心を燃やし、魔力を満たす。準備OK、いつでもいける。
「位置について、よーい」
パァン!
ロボットが鳴らした合図と共に全力で加速する。今回は1人で走ることもあって遠慮はいらない、スタートと同時に魔力放出を開始、空気の壁を超えんと速度を上げる……前に50mは終わってしまった。
「0秒23!」
「いや速すぎんだろ!」
「アタシ、何も見えなかったんだけど!」
「まさかこれほど速い人物がいるとは……俺もまだまだということか」
「クソが!」
第2種目:握力
これは特にやることが無い。精々が魔力を全開にして全力で握るくらいしかない。
750kgwか、まあこんなものかな。
「ゴリラよりやべぇのがいる……」
「あの小さい体でどうやってあの力を出してるんだ?」
「体より溢れし力の波動……きっとアレの力だろう」
「すげぇ美人なのに……オイラ潰されたくない」
第3種目:立ち幅跳び
「相澤先生、これはいつどこまで飛べばいい?」
「どのくらい飛べるか自分で把握してるか」
「空は私の庭よ。丸一日中だって飛んでいられる」
「そうか……とりあえず斜め上に100mほど飛んでから戻ってこい」
記録:∞
「∞キター!すげぇ!」
「空飛べるんならそういう表記になんのか」
「アホか。空を飛ぶのにも相応に体力は使うだろ。∞を出したってことはあのセンコーがそれが可能だと判断したってことだろ……チッ」
第4種目:反復横跳び
左右に魔力をジェット噴射させる感じでいいかな。ああ、けどその前に…。
「すまない、少しいいかい?」
「あら、あなたは確か竜胆さんでしたわよね?ええ、なにか御用ですか?」
「少し頼みがあってね。テストの最中に無駄に消耗させてしまうとは思うんだけど、ヘアゴムを1つ作れないかな?この髪で左右に跳ぶのは少し……ね?」
「ああ、なるほど。綺麗な長髪ですものね。わかりました、ヘアゴムくらいならほとんど消耗もありませんし、どうぞ」
「ありがとう。恩に着るよ」
記録:157回
「残像が見える」
「あの速度で俺のように前方しか進めない訳じゃなく横にもいけるのか……」
「よしっ!オイラの勝ち!」
「いや、張り合わなくても……でもお前もすげぇよ」
「ヘアゴムを作ってよかったですわ」
第5種目:ソフトボール投げ
へぇ、緑髪の子、指1本であそこまで投げる…いや、押し出したのね。
指が腫れているのは出力に肉体強度が追いついていないのか。確かにあれだけのパワーであれば使う肉体にも相当な負荷がかかるでしょう。
私のアレにも似ている。
相澤先生も笑ってるし、認められたかな。じゃあ除籍は順位そのものというよりも認める認めないの話……先生の言い方をすれば見込みがあるかないか、ということね。
記録に関しては緑髪の子と同じくらいの透明な子がいるけどそちらには先生は特に何も言ってないことを考えるとおそらく合ってるでしょう。
私の番。これも魔力放出を全開にして投げるくらいしかないか。
いや、金髪の、爆豪が爆風でボールを飛ばしていたように手から放出してその勢いで飛ばすのもありかな…?
記録:953m
「これなら自分で持って運んだ方が速度も距離もいいわね」
第6種目:上体起こし
反復横跳びと同じように魔力放出…はやめておいた方がいいかな。私はともかく足を抑えるペアの子に問題が出そう。せめて背中側から起きる時に多少放出するくらいにしておこうか。
記録:83回
「ケロ、たぶん私に配慮してくれてたわね?少し悪いわ」
「あはは、まあ、こういう問題点を示すのもテストの目的の1つだから気にしなくていいと思うよ」
「よしっ!またオイラの勝ち!」
「また張り合ってるよ。まあ、彼女に勝ちたいってのはわからなくもないけど」
「私もわかるよー!どれも凄い記録出してるもんね!」
第7種目:長座体前屈
記録:64cm
「うん、普通ね」
「普通だわ」
「普通だね☆」
「流石に普通だったか」
「まあこれに関しては異形型の人以外はこうなるよね」
「俺のテープみたいに体から伸ばすような個性でもないしなー」
「普通っていってもかなり柔らかくはあるけどね」
第8種目:持久走
「竜胆、お前は先に1人だけで測れ」
持久走に向けて改めて炉心を燃やしていたら、相澤先生から1人でやるように指示が出た。つまり、周りを気にせずに飛んでいいということね。
距離は男女共に1500m、これでも最高速まで加速するには短いからもう少し長く飛びたいけどね。
翼を広げる…のは今回はいいか。他の種目もこのままだからね。
記録:2秒78
「やっぱり少し遅い…。加速がまだ最適じゃないか。本来ならもっといけるはずだから慣らさないと」
「1桁秒はそれもう持久走じゃなくね?」
「ぼ、俺の50mよりも速い…!これが雄英か、俺も精進しなければ…!」
「いや、明らかにあいつがおかしいだけだろ。雄英関係ねーよ」
「ほんとうに種目合ってる?今の一瞬で1500行ったの?」
「3秒かからずに……余裕で音速を超えていますわね。加速の時間も考えると今どのくらい速度出ていたのでしょう」
「相澤先生」
私が終わり、他のみんなが走っている間に話しかける。
返事はないが顔はこちらを向いたから聞いてくれるのだろう。暇だからね。
「このクラスは見込み、あった?」
「…今は、だ。現状に満足して前に進まないような奴がいたらその時点で見込みは無しだ。常に上を目指して足掻けなければヒーローなどなれん」
「つまり『Plus ultra』ってことね」
見てる限り彼らなら大丈夫でしょう。私?私は最強だもの。
相澤先生の答えに満足して走っている皆に視線を戻したけれど、そこで逆に先生から声をかけられた。
「竜胆。お前は明日の初回の戦闘訓練には参加してもらうが、それ以降の戦闘訓練は救助訓練などに振り替えになる。戦闘能力とはあまり関係の無い分野だ、気張れよ」
「ええ、もちろん」
ふふ、少し不器用ではあるけれど、今のは相澤先生なりの激励かな。案外面倒見はいいのかもしれないね。
「んじゃ、パパっと結果発表」
全体としては緑髪の子が指を怪我したくらいで問題なくおわり、結果発表。まあ私としてはどうなるかは分かっているけど、緑髪の子を初めとして緊張しているのが何人かいる。
「ちなみに除籍はウソな」
「「「「はーーーー!!!???」」」」
あはは、ここまで予想通りの反応をされると笑っちゃう。
それにしても合理的虚偽か、確かにそうではあるのか。除籍が虚偽じゃなく除籍はウソ、ということが虚偽っていうややこしい状況だね。
ああ、ちなみに私はもちろん1位だよ。
「私の個性は『蛙』なの。舌を伸ばすのをはじめとして、壁にひっついたり出来るのだけど寒さには弱くて。冬はすぐ冬眠しちゃいそうになるわ」
「なるほど。私は、まあ性質としては竜といえばいいのかな?」
「竜って、ファンタジーとか神話に出てくる竜?」
「そう、個性は厳密には違うけどね、性質は竜さ。だからまあ冬眠とまではいかないけど寒いと眠くてね」
やっぱり共通の話題があると話しやすいね。特に変温動物に寒さというのは結構切実な問題だからね、日常生活……人間社会の生活において苦労することや愚痴、対策の防寒具や良い家具など、話題は尽きることがない。
私は寒くなければある程度涼しかったり湿度は低いほうがいいけど、彼女は蛙らしく多湿を好むらしくそっちも大変らしい。まあ湿度が高いとカビが生えたりするからねぇ。それに寒さの冬眠のような影響はないけど、極端な暑さも変温動物には毒だ。そんな夏でも湿度が必要なのは辛そうだね。
まあ元々日本は多湿ではあるからそういう意味では過ごしやすいのかな。私は湿度というより水そのものが好みだから少し違うね。
「そこにいるのは竜胆くんに蛙女子!」
そう呼ばれて振り返ってみれば、そこにいたのは3人。足が速い子、緑髪の子、あとは確かボール投げで∞を出していた子ね。えっと、名前は……飯田天哉、緑谷出久、麗日お茶子。みんな礼儀正しいね。
「ちゃんと自己紹介しておこうか。私は竜胆鏡花だよ。よろしくね」
「ケロ、蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
見たところ指の怪我も治っているし、単に一緒に話していたのでしょう。
「それにしても……」
「え、ええ、えとりりり竜胆さん。な、何か用でも…?」
「大したことじゃない。ただ、見込みがあって良かったねと言っておくよ」
首を傾げる4人に持久走の時に話していたことを多少話す。
「見込みがあったから今回は除籍はなし…?」
「今後見込みが無くなったら除籍されるかもしれないってこと!?」
「まさか、そんな。いやしかし……」
「ありえない、とは言えないのかしら。何より鏡花ちゃんが直接聞いた話だもの」
「Plus ultraということでしょう。今見込みがあるのだから努力していけば問題ないよ。緑谷は少し大変かもしれないけれど」
険しい顔になった4人にそう声をかける。心持ちを新たにするのはいいけれど、今は入学日の放課後よ?自分からこの話を振っておいてなんだけれど、折角なら明るい話をしましょう。
本番は明日からなんだから。
福袋でもディスティニー召喚でも水着メリュが来なかったから悲しい。
テストの記録はある程度考えて残りの細かい数値は適当です。なのでこのくらいじゃない?という意見があれば是非(露骨な感想稼ぎ)
Simejiだと空白が半角のせいか今まで反映されなかったインデントを手間かけて付けてみました。1話も修正しようかな。
ただアリスのほうは全てやるのは面倒…。